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病の治療薬2
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「紹介するね。こっちはファル。……獣族返りや人族返りについて研究してる医者だよ。僕の友人でもあるんだ」
「はじめまして、奥様。ファルと申します。どうぞこれからよろしくお願いします」
ファルが差し出した手を握り返す。
病について研究している者がいるのは本を何冊か読んだ事があるので特に驚かなかった。それにたしか婚約式のときも、第二王子のルナシークが猫族のところに医者がいると話していたような気がする。
そういえば詳しい話を聞いたことがなかったな、と思っているとシアンが申し訳なさそうに口を開く。
「……本当は結婚前に詳しく話そうと思っていたんだけど……」
「僕が止めたんですよー。あのときはまだ薬が完成してなかったし、期待させてしまうのは可哀想だって」
なんでもないことのように言ったファルの薬の完成という言葉に、思わず握ったままになっていたファルの手をぎゅっと強く握ってしまった。
痛みに顔を歪めた彼にルースレアは慌てて手を離す。獣族返りである彼女の握力は男性よりも強く、気をつけないと骨すら簡単に折ってしまう。
慌てて謝罪を伝えるとファルは緩く頭を横に振った。
「大丈夫ですよ。……ちょっと散らかってて悪いんですが、こちらに座ってください」
色んな薬草や薬品が並べられたテーブルの隣に椅子が用意され、ルースレアは腰を下ろす。シアンはそんな彼女の後ろに立っている。
向き合うように座っているファルはにっこりと笑みを浮かべた。
「まずは結論から。……病についてですが、おそらく完治は難しいでしょう」
あまりにも淡々と告げられた言葉にルースレアはショックを受ける。
「――ですが、薬によって症状を抑えることはできます」
ぱっと顔を上げる。ファルは目を合わせながらしっかりと頷くと並べられた薬品の中から一つ瓶を取り出した。中には小さな丸薬が入っている。
「これがその薬です。奥様の体調を詳しくお調べしてから適量を決めますので、まだお使いいただけませんが……うまく薬が作用すれば力を抑え声も出るようになります」
「……よかったね、ルースレア」
シアンの言葉にこくこくと何度も頷く。
声が出る。一度だって出なかった声が。
そして、話すことだって夢じゃなくなるのだ。じわじわと視界が滲むのを、そっと指先で拭う。
「病について少しお話してもよろしいですか?」
頷いて返事をすると、ファルはちらりとシアンを見てから話し始める。
「……奥様の患っている獣族返りですが、人族に関する遺伝子の一部が異常をきたしている先天性の病です。うまく人族ホルモンが分泌されず体内で獣族ホルモンとのバランスが崩れ、症状が出るのです」
ファルの言葉を頭の中で繰り返す。完治できないというのは遺伝子の異常を治す術がないということだろう。
「人族返りも同じです。分泌されないホルモンが人族か獣族かの違いで別れるだけです。そして、この病が出やすくなる原因も判明しています。……血の濃さです」
血の濃さとはどういうことだろうかとルースレアが首を傾げると、ファルは丁寧に説明をしてくれた。
古い歴史を持つここベスティア国では長年に渡り同種同士での繁殖を繰り返してきた。そのため血が濃くなりすぎたのだという。いくら大国であっても種族間で長い繁殖を繰り返せば、必然と血が近くなりそういった遺伝子の異常が出やすくなるそうだ。
その話を聞いてルースレアは少し考え込む。思い浮かべるのは自分とシアンの結婚のことだ。
「……この研究結果は父のネイアスを通じて国王陛下にもお伝えしてあるんだ」
そう言ってシアンは今回の結婚について詳しく経緯を教えてくれる。
ファルの研究結果と病が国内で増えている事実を重く受けとめ、国王は対策を講じることにした。そこでこの問題の解決にルナシークを指名し、王子はシアンとルースレアに結婚を命じたというわけだ。
「ルナシーク殿下にとって、僕たちは政策において都合が良かったんだ。父親同士は交流があり、ルースレアは獣族返りで僕のところには研究者のファルもいる」
「異種族でもありますから、病の改善という点でも理にかなっていますね」
ルースレアが考えていた以上にこの結婚には意味があったようだ。
「……僕は殿下には感謝してる。政治的に進められた結婚であっても、僕はルースレアに出会えてよかったと思っているから」
ふわりと優しく頭を撫でられる。
ルースレアだってシアンと出会え、そして夫婦になれたことは嬉しい。だからこの結婚が政略的なものであっても今さらなにも気にしないのだ。
「話が少し逸れてしまいましたね。……病によって必要なホルモンが不足している状態。それが今の奥様です。ここまではよろしいでしょうか?」
ファルが病のことに話を戻す。とりあえず病の原因については理解できているので、ルースレアはこくりと一度頷いた。
「はじめまして、奥様。ファルと申します。どうぞこれからよろしくお願いします」
ファルが差し出した手を握り返す。
病について研究している者がいるのは本を何冊か読んだ事があるので特に驚かなかった。それにたしか婚約式のときも、第二王子のルナシークが猫族のところに医者がいると話していたような気がする。
そういえば詳しい話を聞いたことがなかったな、と思っているとシアンが申し訳なさそうに口を開く。
「……本当は結婚前に詳しく話そうと思っていたんだけど……」
「僕が止めたんですよー。あのときはまだ薬が完成してなかったし、期待させてしまうのは可哀想だって」
なんでもないことのように言ったファルの薬の完成という言葉に、思わず握ったままになっていたファルの手をぎゅっと強く握ってしまった。
痛みに顔を歪めた彼にルースレアは慌てて手を離す。獣族返りである彼女の握力は男性よりも強く、気をつけないと骨すら簡単に折ってしまう。
慌てて謝罪を伝えるとファルは緩く頭を横に振った。
「大丈夫ですよ。……ちょっと散らかってて悪いんですが、こちらに座ってください」
色んな薬草や薬品が並べられたテーブルの隣に椅子が用意され、ルースレアは腰を下ろす。シアンはそんな彼女の後ろに立っている。
向き合うように座っているファルはにっこりと笑みを浮かべた。
「まずは結論から。……病についてですが、おそらく完治は難しいでしょう」
あまりにも淡々と告げられた言葉にルースレアはショックを受ける。
「――ですが、薬によって症状を抑えることはできます」
ぱっと顔を上げる。ファルは目を合わせながらしっかりと頷くと並べられた薬品の中から一つ瓶を取り出した。中には小さな丸薬が入っている。
「これがその薬です。奥様の体調を詳しくお調べしてから適量を決めますので、まだお使いいただけませんが……うまく薬が作用すれば力を抑え声も出るようになります」
「……よかったね、ルースレア」
シアンの言葉にこくこくと何度も頷く。
声が出る。一度だって出なかった声が。
そして、話すことだって夢じゃなくなるのだ。じわじわと視界が滲むのを、そっと指先で拭う。
「病について少しお話してもよろしいですか?」
頷いて返事をすると、ファルはちらりとシアンを見てから話し始める。
「……奥様の患っている獣族返りですが、人族に関する遺伝子の一部が異常をきたしている先天性の病です。うまく人族ホルモンが分泌されず体内で獣族ホルモンとのバランスが崩れ、症状が出るのです」
ファルの言葉を頭の中で繰り返す。完治できないというのは遺伝子の異常を治す術がないということだろう。
「人族返りも同じです。分泌されないホルモンが人族か獣族かの違いで別れるだけです。そして、この病が出やすくなる原因も判明しています。……血の濃さです」
血の濃さとはどういうことだろうかとルースレアが首を傾げると、ファルは丁寧に説明をしてくれた。
古い歴史を持つここベスティア国では長年に渡り同種同士での繁殖を繰り返してきた。そのため血が濃くなりすぎたのだという。いくら大国であっても種族間で長い繁殖を繰り返せば、必然と血が近くなりそういった遺伝子の異常が出やすくなるそうだ。
その話を聞いてルースレアは少し考え込む。思い浮かべるのは自分とシアンの結婚のことだ。
「……この研究結果は父のネイアスを通じて国王陛下にもお伝えしてあるんだ」
そう言ってシアンは今回の結婚について詳しく経緯を教えてくれる。
ファルの研究結果と病が国内で増えている事実を重く受けとめ、国王は対策を講じることにした。そこでこの問題の解決にルナシークを指名し、王子はシアンとルースレアに結婚を命じたというわけだ。
「ルナシーク殿下にとって、僕たちは政策において都合が良かったんだ。父親同士は交流があり、ルースレアは獣族返りで僕のところには研究者のファルもいる」
「異種族でもありますから、病の改善という点でも理にかなっていますね」
ルースレアが考えていた以上にこの結婚には意味があったようだ。
「……僕は殿下には感謝してる。政治的に進められた結婚であっても、僕はルースレアに出会えてよかったと思っているから」
ふわりと優しく頭を撫でられる。
ルースレアだってシアンと出会え、そして夫婦になれたことは嬉しい。だからこの結婚が政略的なものであっても今さらなにも気にしないのだ。
「話が少し逸れてしまいましたね。……病によって必要なホルモンが不足している状態。それが今の奥様です。ここまではよろしいでしょうか?」
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