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治療薬の効果と悪意の夜会1
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「――うん、数値も安定してますね」
夜会も無事に終え領地に帰ってきてから一週間と少し。薬も三粒に増え診察をしてくれていたファルが、ミリアの魔法によって書き記された紙を片手ににっこりと笑った。
「本日より発声の練習を行いましょう」
いよいよ声が出せるようになると思うと期待と不安が入り混じり、心臓がドキドキした。
忙しなく動くルースレアの尻尾をミリアが目で追っている。
シアンはいつものように妻の後ろに立って静かに話を聞いていた。
「もう十分に薬の効果は出ていますので、声は出せる状態です。試してみましょう」
コクコクと頷いて口を開く。緊張で唇が震えるのを感じながら、目を閉じて声を出す――が。
「うーん……出ませんね」
口から出てくるのは息ばかりで、一音だって声らしきものは出てこなかった。
そのことにショックを受けたルースレアの耳の尻尾が力なく垂れる。じわりと目尻に涙がたまったところで、ファルが慌てたように言葉をつけ足した。
「大丈夫です……! 心配なさらないでください! ちゃんと考えてありますから!」
ファルの言葉に涙をためたまま見返せば、彼はこほんと一つ咳払いをした。
「生まれてからずっと声を出すことがなかったので、もしかしたら出し方がうまく分かっていないのではないかと。それに声帯の筋肉だって発達してないのでいきなり沢山は話せないと思いますので、ゆっくり進めましょう」
説明にこくんと頷いて目尻を拭う。それから自分の喉に触れてみる。
何度か声を出せないか試してみるがいまいち効果は無かった。
「……ファル様、少々よろしいですか?」
「ん? なんだい?」
「私の魔法で奥さまに感覚を伝えるのはどうでしょう?」
じっと見守っていたミリアがふとそんな提案をした。ファルはぱあっと顔を明るくさせ何度も頷く。
「それはいいかもしれない! できそうなんだね?」
「はい、おそらく」
「奥様、試してみてもいいでしょうか?」
このまま進展がないよりずっといい。すぐに了承を伝えれば、ファルと席を交代したミリアがそっと手を伸ばしてくる。
自分とルースレアの喉に触れたミリアが小さく呟く。
「〝肉体共鳴〟」
不思議な感覚が喉のあたりを包む。どうすればいいのか分からないので、じっとミリアの動向を見守った。
「あ」
「……ぁ……」
すっとミリアの口が動くのと同時にルースレアの口も動いた。
そして、声を出したミリアに続いて、小さく消え入りそうな声が一つこぼれ落ちる。
「!!」
「わあ! 出ました! 出ましたよ! 奥様!!」
ミリアの手の上から自分の喉に触れる。たしかに聞こえた自分の声。
どこか現実じゃないみたいでぼんやりとしていると、後ろから力強く抱きしめられた。
「……僕にも聞こえた。……聞こえたよ、ルースレア」
「……っ」
抱き締めるシアンの腕や声が震えている。ファルは手を叩いて喜んでいるし、ミリアは何度も頷いてくれていた。
じわり、と実感が胸に湧いて、勝手に涙が溢れてくる。
ずっと……ずっと長い間、苦しかった。何度今日はもしかしたら声が出るかもしれない、と希望を抱いては打ち砕かれてきたか。
「ルースレア、よかったね。本当に……よかった」
泣きながらもう一度やってほしいとミリアに伝える。
「あ」
「……ぁ」
やっぱり弱々しい声だ。でも、たしかに出た。
ミリアの手が離れ不思議な感覚が途切れる。何度も喉を撫でて、それからシアンに抱きついた。心地よいリズムで背中を叩かれながら、ルースレアは必死に涙を拭う。
「奥様。これで間違いなく声が出ることが証明されました。……これからゆっくり進めて行きましょう」
「感覚がつかめるまで私も魔法でお手伝いしますので安心してください」
「僕も側で支えるから……」
三人の優しさにまた涙が溢れて止まらなくなる。なんとか唇を動かして礼を伝えれば、誰もがしっかりと頷き返してくれた。
「奥様もしばらくは落ち着かないでしょうし、今日はここまでにしましょう」
「そうだね。ルースレア、部屋に戻って少し休もう」
本当はもっと沢山練習したかったが、泣き続けているせいでとても再度挑戦できる状態ではない。
気持ちも色んな思いが入り混じってぐちゃぐちゃになっているので、大人しく落ち着くまで待ったほうがいいだろう。
なんとか返事の代わりに頷くと、すっとシアンに抱き上げられて驚く。
「……泣いてても大丈夫。僕が部屋まで運ぶよ」
「旦那様、後で追加の薬を屋敷に届けますね」
「ああ、頼む。行こうかルースレア」
降ろしてもらえる気配もなく、甘えたい気分でもあったルースレアはそのまま素直にシアンの首に腕を回したのだった。
夜会も無事に終え領地に帰ってきてから一週間と少し。薬も三粒に増え診察をしてくれていたファルが、ミリアの魔法によって書き記された紙を片手ににっこりと笑った。
「本日より発声の練習を行いましょう」
いよいよ声が出せるようになると思うと期待と不安が入り混じり、心臓がドキドキした。
忙しなく動くルースレアの尻尾をミリアが目で追っている。
シアンはいつものように妻の後ろに立って静かに話を聞いていた。
「もう十分に薬の効果は出ていますので、声は出せる状態です。試してみましょう」
コクコクと頷いて口を開く。緊張で唇が震えるのを感じながら、目を閉じて声を出す――が。
「うーん……出ませんね」
口から出てくるのは息ばかりで、一音だって声らしきものは出てこなかった。
そのことにショックを受けたルースレアの耳の尻尾が力なく垂れる。じわりと目尻に涙がたまったところで、ファルが慌てたように言葉をつけ足した。
「大丈夫です……! 心配なさらないでください! ちゃんと考えてありますから!」
ファルの言葉に涙をためたまま見返せば、彼はこほんと一つ咳払いをした。
「生まれてからずっと声を出すことがなかったので、もしかしたら出し方がうまく分かっていないのではないかと。それに声帯の筋肉だって発達してないのでいきなり沢山は話せないと思いますので、ゆっくり進めましょう」
説明にこくんと頷いて目尻を拭う。それから自分の喉に触れてみる。
何度か声を出せないか試してみるがいまいち効果は無かった。
「……ファル様、少々よろしいですか?」
「ん? なんだい?」
「私の魔法で奥さまに感覚を伝えるのはどうでしょう?」
じっと見守っていたミリアがふとそんな提案をした。ファルはぱあっと顔を明るくさせ何度も頷く。
「それはいいかもしれない! できそうなんだね?」
「はい、おそらく」
「奥様、試してみてもいいでしょうか?」
このまま進展がないよりずっといい。すぐに了承を伝えれば、ファルと席を交代したミリアがそっと手を伸ばしてくる。
自分とルースレアの喉に触れたミリアが小さく呟く。
「〝肉体共鳴〟」
不思議な感覚が喉のあたりを包む。どうすればいいのか分からないので、じっとミリアの動向を見守った。
「あ」
「……ぁ……」
すっとミリアの口が動くのと同時にルースレアの口も動いた。
そして、声を出したミリアに続いて、小さく消え入りそうな声が一つこぼれ落ちる。
「!!」
「わあ! 出ました! 出ましたよ! 奥様!!」
ミリアの手の上から自分の喉に触れる。たしかに聞こえた自分の声。
どこか現実じゃないみたいでぼんやりとしていると、後ろから力強く抱きしめられた。
「……僕にも聞こえた。……聞こえたよ、ルースレア」
「……っ」
抱き締めるシアンの腕や声が震えている。ファルは手を叩いて喜んでいるし、ミリアは何度も頷いてくれていた。
じわり、と実感が胸に湧いて、勝手に涙が溢れてくる。
ずっと……ずっと長い間、苦しかった。何度今日はもしかしたら声が出るかもしれない、と希望を抱いては打ち砕かれてきたか。
「ルースレア、よかったね。本当に……よかった」
泣きながらもう一度やってほしいとミリアに伝える。
「あ」
「……ぁ」
やっぱり弱々しい声だ。でも、たしかに出た。
ミリアの手が離れ不思議な感覚が途切れる。何度も喉を撫でて、それからシアンに抱きついた。心地よいリズムで背中を叩かれながら、ルースレアは必死に涙を拭う。
「奥様。これで間違いなく声が出ることが証明されました。……これからゆっくり進めて行きましょう」
「感覚がつかめるまで私も魔法でお手伝いしますので安心してください」
「僕も側で支えるから……」
三人の優しさにまた涙が溢れて止まらなくなる。なんとか唇を動かして礼を伝えれば、誰もがしっかりと頷き返してくれた。
「奥様もしばらくは落ち着かないでしょうし、今日はここまでにしましょう」
「そうだね。ルースレア、部屋に戻って少し休もう」
本当はもっと沢山練習したかったが、泣き続けているせいでとても再度挑戦できる状態ではない。
気持ちも色んな思いが入り混じってぐちゃぐちゃになっているので、大人しく落ち着くまで待ったほうがいいだろう。
なんとか返事の代わりに頷くと、すっとシアンに抱き上げられて驚く。
「……泣いてても大丈夫。僕が部屋まで運ぶよ」
「旦那様、後で追加の薬を屋敷に届けますね」
「ああ、頼む。行こうかルースレア」
降ろしてもらえる気配もなく、甘えたい気分でもあったルースレアはそのまま素直にシアンの首に腕を回したのだった。
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