獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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治療薬の効果と悪意の夜会2

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「おは、よう」
「おはよう、ルースレア」

 初めて声が出せるようになってから三週間ほど経ち、ルースレアは会話ができるほどに話せるようになっていた。

「本当によかったです。ルースレア様」
「ありが、とう。ミュー、ラ」

 嬉しそうにミューラが笑いながら紅茶を淹れてくれる。声が出るようになったルースレアを見て、長い付き合いの侍女は泣いて喜んでくれた。
 両親にも手紙を出し、もっとしっかり話せるようになってから会いたいと伝えてある。

「そうだ、ミューラ」
「はい」
「今日は久しぶりに僕も一日仕事を休めるから、ルースレアと一緒にいるよ」
「かしこまりました。このあとのご予定はございますか?」
「んー……」

 悩やむ素振りをみせたシアンがふとルースレアを見る。どうしたのだろうかとコテンと首を傾げると、彼はふっと笑った。

「のんびり寝て過ごしたいところだけど、たまには出かけるのもいいかな」
「おで、かけ……?」
「そう。まだ直接街に行ったことはないでしょう?」

 たしかに街は馬車で通ったくらいでお店の中などを見たことはない。結婚前も屋敷に引きこもっていたので、特に出かけたいと思うようなこともなかった。
 正直、猫族の街に行くのは少し怖くもあるが、話せるようになってきたルースレアは外に出てみたい、と前向きな気持ちになる。

「行って、みたい、です」
「じゃあ、決まり。ミューラ、準備をお願い」
「かしこまりました」

 それからミューラたち三人の侍女にドレスや髪を整えてもらい、シアンと共に馬車に乗り込んだ。

「いきなり色々行くのは疲れるだろうから、とりあえず一つのお店に行ってみようか。それで大丈夫かな……?」
「は、い」

 コクコクと頷く。初めての外出ならそれくらい簡単な予定のほうが気持ちが楽だ。
 隣に座るシアンに甘えるように、ルースレアはそっと身を寄せた。

「最近、甘えてくれるね」
「……シアン、さまと、いられる、のが嬉し、くて」

 頬にかかっていた髪をさらりと払われる。そのまま指先が顎に移動して、触れるだけの口づけが一つ落とされた。

「嬉しいよ」

 ふんわりと笑うシアンに頬が熱を持つ。結婚して触れ合いにもずいぶん慣れたが、ふとした瞬間に恥ずかしさを思い出す。
 それでもシアンとこうしていられるのが嬉しくて、そんな気持ちを表すかのようにルースレアの尻尾が揺れた。

「ん……。着いたみたいだね」

 小さな揺れを残して馬車が止まる。あっという間に過ぎてしまった時間を惜しみながらも、ルースレアはシアンと共に外に出た。

「こ、こは?」
「宝石店だよ。領地で取れる鉱石を加工して売っているんだ。これから夜会やお茶会なんかに参加する機会も増えるだろうから……」

 もともと持っている宝石類は最低限しかなかった。領主の妻としてこれから社交に出る機会も増えることを考えると、たしかにもう少しあったほうがいいのかもしれない。
 シアンの腕に手を添えて少し緊張しながら店に入ると、すぐに店員がやって来た。

「シアン様、奥様、ようこそお越しくださいました」
「妻の宝飾品をいくつか見繕ってくれる……?」
「かしこまりました。すぐにご用意いたしますので、奥へどうぞ」

 シアンが選んだ店なだけあって店員は特にルースレアに対して態度を変えることはなかった。
 店の奥には小さな部屋があり、店員に勧められるがまま椅子に座る。それから少しして店員がいくつかの宝飾品を持ってきた。

「こちらがおすすめになります。ごゆっくりご覧ください」

 光を受けて眩しいくらいに色とりどりの宝飾品たちが綺麗に並べられている。
 どれを選べばいいかさっぱり分からず悩んでいると、隣に座るシアンに声をかけられた。

「気に入るものがない?」
「い、え。決め、られなく、て」
「そう……。僕が選んでも?」

 自分ではどれだけ時間がかかっても決められなさそうだ。それにシアンが選んでくれたものならなんでも嬉しいので、素直にその提案に頷いた。

「じゃあ、これとこれ。それからそっちの二つと、これも」

 一つ二つ買う程度だと思っていたルースレアはさっさと決めていくシアンに驚く。まだ追加しそうな彼の袖を引っ張って首を横に振った。

「もういいの? じゃあ、今言ったのをあとで屋敷に届けて」
「かしこまりました」
「思ったより早く終わったから少し店内も見ようか」

 想定よりは多いがなんとかシアンを止められてほっと胸を撫で下ろした。
 そして見るだけなら、と提案を了承して先ほどの店内へと戻る。

「……あ……」

 並べられた宝石や宝飾品を眺めていると、一つの宝石に目を奪われる。美しい青色に金色が散りばめられた宝石は、シアンの瞳を連想させた。
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