獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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地下室での決着1

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 人の話し声と血の匂いに、ゆっくりとルースレアの意識が浮上する。
 それと同時になにがあったのか思い出して、勢いよく飛び起きた。

「おや、お目覚めですか」

 冷たい声。ぞくりと嫌な感覚が身体を震わせる。
 ゆっくりと声の主を見ると翼を持つ男が微笑んでいた。一つしかない翼が男の不気味さを際立たせている。

「ここは、あなたは一体……」
「私はザヴァンと申します。ここは虎族の屋敷の地下ですよ。そして貴方がたは私の商品」
「……ザヴァン……?」

 聞き覚えのある名前にルースレアは驚くと同時に戸惑う。そんな彼女を無視して、ザヴァンは他の檻をいくつか指さした。

「シアン様! 先生にミリアまで……! それに……その倒れているの、は」
「あなたの旦那様も希少な価値がありますので、商品にするのですよ。フードの女性は人族返りなのでこちらも中級商品に。……医者の男は交渉次第ですね。ああ、そこで倒れている男は我々に協力していたのですが、必要なくなったので死んでもらおうと思いまして」
「……っ!」

 平然と言ってのける男に恐怖を感じる。シアンの檻の前で息絶え絶えに血を流す太った男など心底興味なさそうだ。

「……ドルズ?」

 震える手を握りしめていると、目が覚めたらしいシアンの声が耳に届いた。上半身を起こした彼は目の前に横たわる男の名前を呆然と呟く。
 それと同時にファルやミリアも目を覚ました。

「彼は用済みなので処分しましたのよ。貴方がた領主一族も面倒に思っていらしたので、ちょうどよかったでしょう?」
「……フラン?」
「ふふっ、ごきげんよう、奥様」

 屋敷に残ったはずの侍女がどうしてここに。それにまるで……ザヴァンの味方かのように彼に身体を寄せているのはなぜ。
 混乱する頭でそんなことを鈍く考える。

「その侍女も裏切り者だったようですね」

 頭を押さえたファルが吐き捨てるようにそう言った。

「あら、私だけではないですのよ。そこの男だって貴方がたを裏切りましたし……。そうそうザヴァン様、メイリーは今どこに? せっかく奥様について行くように仕向けましたのに」
「ああ、彼女は先にルートの確認に行ってもらっている」
「メイリーまで……」
「今回は上級商品と中級商品が二つずつ。上出来です」
「……大人しく商品でいるとでも思っているの?」

 ぐっと檻を掴んでシアンが牙を剥く。彼が怒るところを見たのは初めてだ。
 ぞくりとするほど冷たい瞳がザヴァンに向けられている。

「その檻を壊すのは無理ですよ。獣族返りでも壊せないようになっている特別なものですから」
「シアン様……」
「ルースレア、大丈夫。……大丈夫だよ」

 この状況ではできることなんてない事くらい、ルースレアにも分かった。虎族は関所の管理を行っている。つまり隣国まですぐということだ。

「……ルナシーク殿下に今回の夜会に参加することはお伝えしてある。今頃、こちらに向かっているはずだよ。……虎族の不正の証拠を持って」
「まあ、そうでしょう。不正の証拠を流したのは私ですから」
「騎士団が到着しても虎族が時間稼ぎをしてくれるから問題ないのよ。なんせ領地に踏み込ませたらそれこそ一族もろとも粛清になるような証拠ばかりですもの」

 彼らには随分と余裕があるようだ。ルースレアたちが入っている檻は見るからに重量がありそうだし、地下から運び出すには時間がかかりそうなものなのに。
 そんなことを考えていると視界の端でミリアが動くのが見えた。

「牙や爪で壊せなくても魔法ならどう……!?」

 彼女の手のひらが赤く光る。
 魔法なら──そう思った矢先、ミリアの檻にいくつもの文字の羅列が浮かび上がり、彼女は苦しそうに倒れ込んでしまった。

「ミリア!」
「残念。もちろん魔法を妨害する機能付きです」

 クスクスとザヴァンが笑う。もうなにも打つ手はないのかと絶望を感じていると、ぞろぞろと地下に獣人たちが降りてきた。
 先頭を歩いているのはメイリーだ。

「ルート問題ありませんでした」
「よろしい。では檻を運び出しだしましょう」
「お前たち、仕事よ」

 メイリーが後ろにいる獣人たちに声をかける。だが、誰一人動かなかった。
 ルースレアが仲間ではないのだろうか、とじっと獣人たちを見て、それから思わず口を押さえる。
 半開きの口からはよだれが垂れ、目は白く濁り虚ろ。手首や足、首には太い鎖が巻きついている。どう見ても正常ではない様子だった。

「……奴隷か」
「ええ。商品にならない獣族返りなんかはこうして薬漬けにして、使用しているのですよ。力が強く重労働に向いているので」

 力の強い獣族返りがこれだけの人数いれば、檻も簡単に運び出せるのだろう。
 あまりに酷い光景にルースレアは思わず彼らから視線を外した。
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