獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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地下室での決着2

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「どうして……こんなに酷いことをするんですか……」

 絞り出した声は恐怖や悲しみで震えていた。
 ルースレアはザヴァンに視線を移し問いかける。

「奴隷商人に向かって酷いと言われましてもね」
「違う……」
「はい?」
「あなたは最初から奴隷商人ではなかったでしょう……! 獣人・歴史研究家のザヴァン様」

 初めて驚いたようにザヴァンが表情を崩した。
 ルースレアは彼のことを知っている。

「あなたが書いた本を読んだことがあります。……あなたは、私たち病持ちに寄り添ったことを書いてくれていました!」

 病気について書かれた本はそう多くない。だから読んだ内容をルースレアはほとんど覚えている。彼女が最後に読んだ病についての本はちょうどシアンとのお見合いの直前だった。そしてその本の著者は目の前の男だ。

「まさか、私の本を覚えているとは……少々驚きました」
「私たちが生きやすくなる未来を願ってくれていたあなたがどうして……」
「……その本を書いたときの私が愚かだっただけですよ」

 なにかを思い出したのか、ザヴァンが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「あなたの言う通り昔の私は本気で病持ちを助けようとしていた。ですが、貴方がたが先に裏切ったのです」
「それはどういう……」
「助けた病持ちたちは金欲しさに私の翼をもぎ取ったのですよ」
「え?」
「親に殺されそうになっているのを助けた恩を忘れただけではなく、お前が悪いお前のせいだ俺たちは悪くないと喚きながら、ね」

 仄暗い感情を宿した瞳がルースレアを射抜く。
 あの本を書いた頃のザヴァンは間違いなく善人だったのだ。そして裏切られ傷つき、今は傷つける側へと変わった。

「久しぶりに昔を思い出しました。まあ、もうどうでもいい過去ですがね。私の読者に会えたのは光栄でしたよ。……ですが、お話はおしまい」
「……っ」
「メレシー。奴隷たちは?」
「薬を追加したので問題ありません」

 屋敷ではいつも自信がなさそうに大人しくしていた侍女は別人のように冷たい表情で、奴隷たちの鎖を握っている。
 このままでは皆商品として運び出され売り飛ばされてしまう。

「ファル、でしたか。研究成果について話す気は?」
「……そうですねぇ……」

 ファルがゴソゴソと服のポケットから小瓶を取り出した。中には丸薬が四粒入っている。

「これは人族返り用のお薬です。一般的な方の用量は二粒ですね」
「おや、意外と素直に話してくださるのですね」
「研究成果を発表できる機会なんてそうないですからね。……あなたも研究家だったなら分かるのでは?」
「ふふっ、まあそうですね」

 ニコニコと笑って話すファルは無害そのもので、ザヴァンも毒気を抜かれたかのように普通に会話をしている。

「さてそれでは質問です。この薬を我々獣人が飲むとどうなると思います?」
「なに……?」
「こちらは人族返り用ですので、獣族のホルモンが強くなります。二粒飲めば獣族返りと同じ症状が。……そして、倍の四粒飲めば――」

 手のひらにすべての丸薬を取り出したファルが一気にそれらを飲み込んだ。

「限りなく獣族に近くなる」

 苦しそうに胸を押さえながら言葉を吐き出したファルの姿がメキメキと変わり始める。手足は太くなり、大きくなる体に服が耐えられなくなりビリビリと破れた。
 丈夫な檻すらも成長し続ける彼の体を抑えることはできずに壊れていく。
 やがて筋肉の盛り上がった身体には長い毛が生え揃い、その場に二足で立っていたのは大きな猫の獣族だった。

「ファル……!」

 シアンの声が聞こえたのか、牙からよだれを垂らしていた猫の獣族が手を振り上げる。
 とっさに檻の中で体を低くするとスパン、と屋根が切り裂かれ飛んでいった。
 同じように猫の獣族となったファルがルースレアとミリアの檻も壊す。

「これは、厄介なことになった……」
「グルルルルッ」

 ファルから距離を取りながらザヴァンが呟く。
 檻から解放されたルースレアのもとにすぐにシアンが駆け寄ってくる。ミリアも合流したところで、ファルが片翼の梟に突進していった。
 大きな手は地面をえぐり、長い尻尾が檻を吹き飛ばす。

「このままだと地下が崩れる。外に出るべきだけど……」
「出入口が檻で塞がれてる……」
「ファル様……」

 奴隷の獣人たちが次々と吹き飛ばされ壁に激突する。大きく地下が揺れ、天井からはパラパラと土が降ってきた。
 崩れるのも時間の問題だろう。

「ファルを止めるしかない」
「で、でもどうやって……」

 暴れ回る大きな猫の獣族を止めることなんてできるはずもない。
 それにおそらくもうファルに理性は残っていない。フランを爪で切り裂き、メレシーを尻尾で叩き潰している様はとてもいつもの優しい医者とは思えなかった。
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