獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

文字の大きさ
50 / 54

地下室での決着3

しおりを挟む
「このままでは私たちもファル様も死んでしまいます……!」

 泣きそうな表情でミリアが言う。
 ルースレアはなにか無いかと必死に考えながらポケットに手を入れた。
 取り出したのはファルが持っていたものによく似た小瓶。

「シアン様、これ!」
「それはルースレアの薬……?」
「これを飲ませたらどうでしょうか……!」

 獣族返りを治す薬。ファルが飲んだものは反対の効果があるものだ。

「ミリア、どう思う?」
「……効果は期待できるかもしれません。獣族と人族のバランスが取れれば、少なくとも獣人の姿には戻るかと。ただ……」
「ただ?」
「……この薬はホルモンを充填するもので抑えるもではありません。すでに過剰に摂取しているファル様にさらに飲ませるとなると……体が持つか分かりません」

 暗い表情のミリアの説明にルースレアは俯く。ファルを止められれば自分たちは助かるかもしれない。だが、いつも優しくしてくれて、話せるまで回復させてくれた彼を犠牲にしたいとはまったく思えなかった。

「……やろう」
「え?」
「ファルはしぶといやつだからきっと大丈夫」
「で、でも、シアン様……もし……」
「……それでも僕はやる。ルースレアをこのまま死なせるなんてできない。それに死ぬとは決まっていないし、ファルってああ見えて実験大好きだからね」
「……たしかにファル様はご自分で実験をしていて、薬に対して体が慣れています。……やりましょう。どのみち助けるためにもとれる択はそれしかありません」

 シアンに続いてミリアが覚悟を決めたように頷いた。そんな二人にルースレアは深呼吸をする。助けるためにも助かるためにもできることがそれしかないのなら、覚悟を決めるべきだ。

「分かりました、やりましょう」
「うん。……薬は三粒か。ファルが飲んだのは四粒だったけど……。ミリア、足りる?」
「そうですね……ファル様に飲ませるのは二粒にしましょう。効果的には獣族返り程度まで症状が落ち着くはずですし、少ないほうが負担も減りますから」
「残り一粒はどうするの?」
「私が飲みます」

 人族返りの彼女が飲むということは人族に近くなるということ。なにか意図があるのだろうかと見つめると説明してくれた。

「人族に近くなればより強い魔法が使えますから、私が地下の崩落を阻止します」
「……分かった、お願いするよ」
「では、あとはどうやって薬を飲ませるかですね」
「それは僕に任せて」

 ルースレアが握りしめていた小瓶をシアンがするりと奪う。中から一粒取り出してミリアに渡すと残りを懐にしまった。
 そしてそのままファルに向かって駆け出していく。

「シアン様!!」

 引き止める間すら作ってはくれなかった。追いかけようとするルースレアをミリアが抱きついて止める。

「危ないです、奥さま!」
「でもシアン様が……!」
「旦那さまは奥さまを守りたいんです! 旦那さまの気持ちを尊重してください!」

 なんて残酷な言葉だろう。自分だってシアンのことが大切で守りたいと思っているのに。
 だが、今ここでミリアと揉めて彼女の魔法の邪魔をしては計画が台無しになる。ぐっと血が出るほど唇を噛み締めて、ゆっくりと身体から力を抜いた。

「旦那様はお強いです。大丈夫です。皆で……生きて帰りましょう」
「……ええ。取り乱してごめんなさい」
「では、やります」

 丸薬を飲み込んで、ミリアが魔法を使う。地面についた彼女の両手から青く光る線がいくつも伸びて地下全体の壁や床、天井を覆っていく。

「これで大丈夫です。……維持に集中します」

 ミリアの方はうまくいったようだ。ルースレアは彼女から視線を外して、駆けていったシアンを探す。
 どうやらまっすぐ向かったわけではなく、先に武器を調達したようだ。
 細い剣が手に握られている。微かに剣先に血が付いているのが見え、それがドルズを刺したものだと気づく。

「シアン様……どうかご無事で……」

 ルースレアが両手を組み合わせて見守る中、剣を片手にシアンが駆けていく。
 猫の獣族となったファルはザヴァンを踏み潰している。

「……死んではいないみたい」

 微かに羽が動いているのが見えシアンは呟く。その声が聞こえたのかファルがこちらを向いた。

「ギャオォオオオ!!」
「やっぱり理性もないか……」

 ものすごい速さで爪が伸びた大きな手が迫ってくる。それを金と青の瞳で捉えたシアンは危なげもなくするりとかわし、ついでに剣で爪を切り落とした。

「……こんなに動くのは久しぶりだけど、腕は訛ってないかな。ねぇ、ファル。僕と少し遊ぼうか?」

 まるで狩りを楽しむかのようにゆらりと尻尾を揺らしながら、シアンは小さく笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?

22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。

獣人族の彼にマタタビを渡したところ、キャラが崩壊しました。

piyo
恋愛
人間族のルル・クーガーは文化祭の景品でマタタビを手に入れる。使い所が無いそれを、同じクラスの獣人族グエン・イエルが偶然にも摂取してしまい、その後のイエルの態度が急変する。 ええと、あなたは本当にあのイエル君ですか? 獣人族の彼が、好きな子にニャンニャンする話です。 ※他サイトにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...