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地下室での決着3
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「このままでは私たちもファル様も死んでしまいます……!」
泣きそうな表情でミリアが言う。
ルースレアはなにか無いかと必死に考えながらポケットに手を入れた。
取り出したのはファルが持っていたものによく似た小瓶。
「シアン様、これ!」
「それはルースレアの薬……?」
「これを飲ませたらどうでしょうか……!」
獣族返りを治す薬。ファルが飲んだものは反対の効果があるものだ。
「ミリア、どう思う?」
「……効果は期待できるかもしれません。獣族と人族のバランスが取れれば、少なくとも獣人の姿には戻るかと。ただ……」
「ただ?」
「……この薬はホルモンを充填するもので抑えるもではありません。すでに過剰に摂取しているファル様にさらに飲ませるとなると……体が持つか分かりません」
暗い表情のミリアの説明にルースレアは俯く。ファルを止められれば自分たちは助かるかもしれない。だが、いつも優しくしてくれて、話せるまで回復させてくれた彼を犠牲にしたいとはまったく思えなかった。
「……やろう」
「え?」
「ファルはしぶといやつだからきっと大丈夫」
「で、でも、シアン様……もし……」
「……それでも僕はやる。ルースレアをこのまま死なせるなんてできない。それに死ぬとは決まっていないし、ファルってああ見えて実験大好きだからね」
「……たしかにファル様はご自分で実験をしていて、薬に対して体が慣れています。……やりましょう。どのみち助けるためにもとれる択はそれしかありません」
シアンに続いてミリアが覚悟を決めたように頷いた。そんな二人にルースレアは深呼吸をする。助けるためにも助かるためにもできることがそれしかないのなら、覚悟を決めるべきだ。
「分かりました、やりましょう」
「うん。……薬は三粒か。ファルが飲んだのは四粒だったけど……。ミリア、足りる?」
「そうですね……ファル様に飲ませるのは二粒にしましょう。効果的には獣族返り程度まで症状が落ち着くはずですし、少ないほうが負担も減りますから」
「残り一粒はどうするの?」
「私が飲みます」
人族返りの彼女が飲むということは人族に近くなるということ。なにか意図があるのだろうかと見つめると説明してくれた。
「人族に近くなればより強い魔法が使えますから、私が地下の崩落を阻止します」
「……分かった、お願いするよ」
「では、あとはどうやって薬を飲ませるかですね」
「それは僕に任せて」
ルースレアが握りしめていた小瓶をシアンがするりと奪う。中から一粒取り出してミリアに渡すと残りを懐にしまった。
そしてそのままファルに向かって駆け出していく。
「シアン様!!」
引き止める間すら作ってはくれなかった。追いかけようとするルースレアをミリアが抱きついて止める。
「危ないです、奥さま!」
「でもシアン様が……!」
「旦那さまは奥さまを守りたいんです! 旦那さまの気持ちを尊重してください!」
なんて残酷な言葉だろう。自分だってシアンのことが大切で守りたいと思っているのに。
だが、今ここでミリアと揉めて彼女の魔法の邪魔をしては計画が台無しになる。ぐっと血が出るほど唇を噛み締めて、ゆっくりと身体から力を抜いた。
「旦那様はお強いです。大丈夫です。皆で……生きて帰りましょう」
「……ええ。取り乱してごめんなさい」
「では、やります」
丸薬を飲み込んで、ミリアが魔法を使う。地面についた彼女の両手から青く光る線がいくつも伸びて地下全体の壁や床、天井を覆っていく。
「これで大丈夫です。……維持に集中します」
ミリアの方はうまくいったようだ。ルースレアは彼女から視線を外して、駆けていったシアンを探す。
どうやらまっすぐ向かったわけではなく、先に武器を調達したようだ。
細い剣が手に握られている。微かに剣先に血が付いているのが見え、それがドルズを刺したものだと気づく。
「シアン様……どうかご無事で……」
ルースレアが両手を組み合わせて見守る中、剣を片手にシアンが駆けていく。
猫の獣族となったファルはザヴァンを踏み潰している。
「……死んではいないみたい」
微かに羽が動いているのが見えシアンは呟く。その声が聞こえたのかファルがこちらを向いた。
「ギャオォオオオ!!」
「やっぱり理性もないか……」
ものすごい速さで爪が伸びた大きな手が迫ってくる。それを金と青の瞳で捉えたシアンは危なげもなくするりとかわし、ついでに剣で爪を切り落とした。
「……こんなに動くのは久しぶりだけど、腕は訛ってないかな。ねぇ、ファル。僕と少し遊ぼうか?」
まるで狩りを楽しむかのようにゆらりと尻尾を揺らしながら、シアンは小さく笑った。
泣きそうな表情でミリアが言う。
ルースレアはなにか無いかと必死に考えながらポケットに手を入れた。
取り出したのはファルが持っていたものによく似た小瓶。
「シアン様、これ!」
「それはルースレアの薬……?」
「これを飲ませたらどうでしょうか……!」
獣族返りを治す薬。ファルが飲んだものは反対の効果があるものだ。
「ミリア、どう思う?」
「……効果は期待できるかもしれません。獣族と人族のバランスが取れれば、少なくとも獣人の姿には戻るかと。ただ……」
「ただ?」
「……この薬はホルモンを充填するもので抑えるもではありません。すでに過剰に摂取しているファル様にさらに飲ませるとなると……体が持つか分かりません」
暗い表情のミリアの説明にルースレアは俯く。ファルを止められれば自分たちは助かるかもしれない。だが、いつも優しくしてくれて、話せるまで回復させてくれた彼を犠牲にしたいとはまったく思えなかった。
「……やろう」
「え?」
「ファルはしぶといやつだからきっと大丈夫」
「で、でも、シアン様……もし……」
「……それでも僕はやる。ルースレアをこのまま死なせるなんてできない。それに死ぬとは決まっていないし、ファルってああ見えて実験大好きだからね」
「……たしかにファル様はご自分で実験をしていて、薬に対して体が慣れています。……やりましょう。どのみち助けるためにもとれる択はそれしかありません」
シアンに続いてミリアが覚悟を決めたように頷いた。そんな二人にルースレアは深呼吸をする。助けるためにも助かるためにもできることがそれしかないのなら、覚悟を決めるべきだ。
「分かりました、やりましょう」
「うん。……薬は三粒か。ファルが飲んだのは四粒だったけど……。ミリア、足りる?」
「そうですね……ファル様に飲ませるのは二粒にしましょう。効果的には獣族返り程度まで症状が落ち着くはずですし、少ないほうが負担も減りますから」
「残り一粒はどうするの?」
「私が飲みます」
人族返りの彼女が飲むということは人族に近くなるということ。なにか意図があるのだろうかと見つめると説明してくれた。
「人族に近くなればより強い魔法が使えますから、私が地下の崩落を阻止します」
「……分かった、お願いするよ」
「では、あとはどうやって薬を飲ませるかですね」
「それは僕に任せて」
ルースレアが握りしめていた小瓶をシアンがするりと奪う。中から一粒取り出してミリアに渡すと残りを懐にしまった。
そしてそのままファルに向かって駆け出していく。
「シアン様!!」
引き止める間すら作ってはくれなかった。追いかけようとするルースレアをミリアが抱きついて止める。
「危ないです、奥さま!」
「でもシアン様が……!」
「旦那さまは奥さまを守りたいんです! 旦那さまの気持ちを尊重してください!」
なんて残酷な言葉だろう。自分だってシアンのことが大切で守りたいと思っているのに。
だが、今ここでミリアと揉めて彼女の魔法の邪魔をしては計画が台無しになる。ぐっと血が出るほど唇を噛み締めて、ゆっくりと身体から力を抜いた。
「旦那様はお強いです。大丈夫です。皆で……生きて帰りましょう」
「……ええ。取り乱してごめんなさい」
「では、やります」
丸薬を飲み込んで、ミリアが魔法を使う。地面についた彼女の両手から青く光る線がいくつも伸びて地下全体の壁や床、天井を覆っていく。
「これで大丈夫です。……維持に集中します」
ミリアの方はうまくいったようだ。ルースレアは彼女から視線を外して、駆けていったシアンを探す。
どうやらまっすぐ向かったわけではなく、先に武器を調達したようだ。
細い剣が手に握られている。微かに剣先に血が付いているのが見え、それがドルズを刺したものだと気づく。
「シアン様……どうかご無事で……」
ルースレアが両手を組み合わせて見守る中、剣を片手にシアンが駆けていく。
猫の獣族となったファルはザヴァンを踏み潰している。
「……死んではいないみたい」
微かに羽が動いているのが見えシアンは呟く。その声が聞こえたのかファルがこちらを向いた。
「ギャオォオオオ!!」
「やっぱり理性もないか……」
ものすごい速さで爪が伸びた大きな手が迫ってくる。それを金と青の瞳で捉えたシアンは危なげもなくするりとかわし、ついでに剣で爪を切り落とした。
「……こんなに動くのは久しぶりだけど、腕は訛ってないかな。ねぇ、ファル。僕と少し遊ぼうか?」
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