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地下室での決着4
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ルースレアの心配など必要なかったくらいにシアンはファルを圧倒していた。
繰り出される攻撃はするりするりと最小限の動きで避け、的確に反撃を入れている。それも致命傷にならないように加減して。
「すごい……」
戦うというよりも戯れているだけに見える。とても命がかかっているとは思えない。
沢山の細かな傷と暴れ回ったせいでファルの動きが鈍くなり始めとき、シアンがひときわ高く跳躍した。
一気に巨大な顔の前まで躍り出た彼が懐から薬を取り出す。
「危ないっ、シアン様!!」
最後の抵抗と言わんばかりにファルが大きく口を開け、目の前にいたシアンを食いちぎろうとする。その瞬間、彼が薬を口の中へ放り込むのが見えた。
そして空中で体を捻って攻撃を躱すと、ガチンっと歯が打つかる音が響く。シアンはそのままファルの閉じた口を蹴って距離を取った。
「シアン様っ!」
ルースレアの声が届いたのか、シアンがひらひらと手を振る。どこも怪我をしていなさそうでほっと胸を撫で下ろした。
一方で薬を飲んだらしいファルは苦しげにもがいている。
「フニャァアア……!」
のたうち回る姿に思わず嫌な予感がして、ぎゅっと手を握りしめる。
しかし、その予感は当たることなくゆっくりとファルは小さくなりやがて獣人の姿へと戻る。
それを見たルースレアはシアンに駆け寄って、勢いよく抱きついた。
「シアン様……無事でよかったです……」
「ルースレア、心配させてごめんね」
なんなく妻を受け止めたシアンが優しく背中を叩いて慰めてくれる。
「うまく、いったのでしょうか?」
「みたいだね」
すっかり元の姿に戻ったファルに二人で慎重に近づく。ところどころ血が流れているが、ちゃんと呼吸で胸が動いているのが見て取れた。
どうやら気を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。
「よかった……」
無事に地下の崩落も起きず、ファルも助けられた。魔法を解いたミリアも駆けつけてきて、なんだか一気に気が抜けてヘナヘナとその場に座り込む。
奴隷商団はすべてファルが蹴散らしてしまい、意識があるものはいないようだ。
「大丈夫? ルースレア」
「はい。なんだか……いろいろあって疲れてしまいました」
「お疲れ様。だけど、もう少しだけ頑張れる? 怪我人の応急処置だけしたいんだ」
怪我人とは奴隷商団の者たちのことだろう。このまま放っておけば死んでしまうほど酷い傷の者もいる。
「まだ話を聞けてないし、ルナシーク殿下に引き渡すためにも死なれたら困るから。ミリアも手伝って」
「分かりました」
「承知いたしました」
幸いにも手当ての道具は地下室に置いてあったので、それを使い三人は応急処置を施していく。
一通り終わったあと、ルースレアがシアンを探すと彼はドルズのところにいた。
「……シアン様」
「ああ……ルースレア。手当てありがとう」
「いえ……。あの、この方はどうするのですか……?」
辛うじてまだ息があるがシアンが手当てをする気配はない。それどころかファルとの戦いで使っていた剣を握っていた。
「……猫族に害をなした彼を処刑する」
厳しく冷たい声だ。
領主やその妻を害する奴隷商団と手を組んだドルズは重罪だ。
そんな彼を裁くのは領主たるシアンの務めだった。
「……結局、母さんの予想通りになってしまったね」
「シ……アン、様」
言葉とともに血が口をふさいでドルズは苦しげだ。
ルースレアから見てももう先が長くないほど致命傷なのが見て取れた。そんな彼をわざわざ処刑するのはシアンの優しさなのかもしれない。
苦しむ時間が短くなるように、と。
「ドルズ、お前は猫族に害となる存在と手を組み僕とルースレアを危険にさらした。その罪は重い。よって、今ここで死をもって償ってもらう」
「あぁ……シ、アン……さ……ダリ、アさ……ま」
ドルズの虚ろな目に最後に映っていたのはシアンなのか、それとも…………
ルースレアの視界がシアンの背で埋まる。それと同時に彼は剣を振り下ろした。
「……シアン様……」
「見ないほうがいい。目を閉じて振り返るんだ」
言われた通りに目を閉じて体の向きを変えた。すぐ隣に立ったシアンの手を握る。
彼の手は冷たく、少し震えていた。
「ありがとう、ルースレア」
「……いえ」
「……早く、屋敷に帰りたいね」
「はい、そうですね……」
それからしばらくしてルナシークにより派遣された王国騎士団が到着し、無事に地下から出ることができた。
地下で手当を施された奴隷商団は侍女であったフランやメレシーを含む全員が捕縛。また彼らと取引をしていた虎族と関与の疑われる豹族のものたちも同様に捕縛されていった。
ドルズの遺体はシアンの指示で猫族の領地へ運ばれ、埋葬されることになっている。裏切り者ではあったがこれまで猫族に尽くしてきたことには変わりなく、また母ダリアとは古い付き合いのためそのように指示を出したようだ。
薬によって一時獣族にまでなったファルはしばらく意識が戻らなかったものの、命に別状はなく、今回の一件は幕を下ろしたのだった。
繰り出される攻撃はするりするりと最小限の動きで避け、的確に反撃を入れている。それも致命傷にならないように加減して。
「すごい……」
戦うというよりも戯れているだけに見える。とても命がかかっているとは思えない。
沢山の細かな傷と暴れ回ったせいでファルの動きが鈍くなり始めとき、シアンがひときわ高く跳躍した。
一気に巨大な顔の前まで躍り出た彼が懐から薬を取り出す。
「危ないっ、シアン様!!」
最後の抵抗と言わんばかりにファルが大きく口を開け、目の前にいたシアンを食いちぎろうとする。その瞬間、彼が薬を口の中へ放り込むのが見えた。
そして空中で体を捻って攻撃を躱すと、ガチンっと歯が打つかる音が響く。シアンはそのままファルの閉じた口を蹴って距離を取った。
「シアン様っ!」
ルースレアの声が届いたのか、シアンがひらひらと手を振る。どこも怪我をしていなさそうでほっと胸を撫で下ろした。
一方で薬を飲んだらしいファルは苦しげにもがいている。
「フニャァアア……!」
のたうち回る姿に思わず嫌な予感がして、ぎゅっと手を握りしめる。
しかし、その予感は当たることなくゆっくりとファルは小さくなりやがて獣人の姿へと戻る。
それを見たルースレアはシアンに駆け寄って、勢いよく抱きついた。
「シアン様……無事でよかったです……」
「ルースレア、心配させてごめんね」
なんなく妻を受け止めたシアンが優しく背中を叩いて慰めてくれる。
「うまく、いったのでしょうか?」
「みたいだね」
すっかり元の姿に戻ったファルに二人で慎重に近づく。ところどころ血が流れているが、ちゃんと呼吸で胸が動いているのが見て取れた。
どうやら気を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。
「よかった……」
無事に地下の崩落も起きず、ファルも助けられた。魔法を解いたミリアも駆けつけてきて、なんだか一気に気が抜けてヘナヘナとその場に座り込む。
奴隷商団はすべてファルが蹴散らしてしまい、意識があるものはいないようだ。
「大丈夫? ルースレア」
「はい。なんだか……いろいろあって疲れてしまいました」
「お疲れ様。だけど、もう少しだけ頑張れる? 怪我人の応急処置だけしたいんだ」
怪我人とは奴隷商団の者たちのことだろう。このまま放っておけば死んでしまうほど酷い傷の者もいる。
「まだ話を聞けてないし、ルナシーク殿下に引き渡すためにも死なれたら困るから。ミリアも手伝って」
「分かりました」
「承知いたしました」
幸いにも手当ての道具は地下室に置いてあったので、それを使い三人は応急処置を施していく。
一通り終わったあと、ルースレアがシアンを探すと彼はドルズのところにいた。
「……シアン様」
「ああ……ルースレア。手当てありがとう」
「いえ……。あの、この方はどうするのですか……?」
辛うじてまだ息があるがシアンが手当てをする気配はない。それどころかファルとの戦いで使っていた剣を握っていた。
「……猫族に害をなした彼を処刑する」
厳しく冷たい声だ。
領主やその妻を害する奴隷商団と手を組んだドルズは重罪だ。
そんな彼を裁くのは領主たるシアンの務めだった。
「……結局、母さんの予想通りになってしまったね」
「シ……アン、様」
言葉とともに血が口をふさいでドルズは苦しげだ。
ルースレアから見てももう先が長くないほど致命傷なのが見て取れた。そんな彼をわざわざ処刑するのはシアンの優しさなのかもしれない。
苦しむ時間が短くなるように、と。
「ドルズ、お前は猫族に害となる存在と手を組み僕とルースレアを危険にさらした。その罪は重い。よって、今ここで死をもって償ってもらう」
「あぁ……シ、アン……さ……ダリ、アさ……ま」
ドルズの虚ろな目に最後に映っていたのはシアンなのか、それとも…………
ルースレアの視界がシアンの背で埋まる。それと同時に彼は剣を振り下ろした。
「……シアン様……」
「見ないほうがいい。目を閉じて振り返るんだ」
言われた通りに目を閉じて体の向きを変えた。すぐ隣に立ったシアンの手を握る。
彼の手は冷たく、少し震えていた。
「ありがとう、ルースレア」
「……いえ」
「……早く、屋敷に帰りたいね」
「はい、そうですね……」
それからしばらくしてルナシークにより派遣された王国騎士団が到着し、無事に地下から出ることができた。
地下で手当を施された奴隷商団は侍女であったフランやメレシーを含む全員が捕縛。また彼らと取引をしていた虎族と関与の疑われる豹族のものたちも同様に捕縛されていった。
ドルズの遺体はシアンの指示で猫族の領地へ運ばれ、埋葬されることになっている。裏切り者ではあったがこれまで猫族に尽くしてきたことには変わりなく、また母ダリアとは古い付き合いのためそのように指示を出したようだ。
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