獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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愛を育んで1

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「本当に、本当に大丈夫なんだな? どこも怪我してないんだな?」

 もう何度目の質問だろうか。
 虎族の領地から屋敷に帰ってきて数日が経ち、ルースレアの家族が全員訪ねてきていた。

「話を聞いたときは卒倒するかと思ったぞ」
「本当に……でも、無事でよかったわ」

 頭を押さえる父にいつものように優しい微笑みを浮かべる母。そしてしつこいくらい心配する兄。
 ミューラの入れてくれた紅茶を飲みながら過ごす時間は、まるで結婚前に戻ったかのようだ。

「心配かけてごめんなさい」

 家族の会話にルースレアの可愛らしい声が混じる。結婚前にはなかった光景に、今度はクロウが涙ぐみ始めた。

「声が出るようになった妹と話せるのを楽しみに待っていたのに、こんな……こんな形で会うことになるとは……!」
「まあまあ。いいではありませんか、クロウ。ルースレアは無事だったのし、皆で会いに来れる口実にもなりましたし」
「そうだぞ。こんな形じゃなかったら忙しくていつ会えたのやら、だ。俺とアリアはいつでも来れるがな」
「それは父上が仕事を押しつけてくるからでしょう! まだ領主を継がせてくれないのに、面倒な仕事ばかりこちらに流して……!」

 怒るクロウの言葉など聞き流しているアルフレットである。
 家を出てからも変わらない親子の掛け合いにルースレアはクスクスと笑い声をあげた。

「……皆さん、楽しんでおられますか?」
「あら、シアン様。おかげさまで楽しく過ごしていますわ」

 仕事を終えたらしいシアンが応接室に入ってきた。彼はルースレアの隣に腰を下ろして、ミューラが入れてくれた紅茶を口に運ぶ。

「……忙しいところすまないね。そろそろ帰るとするよ」
「もうですか?」
「帰ってきたばかりで疲れているだろ。顔を見れて安心したし……仕事が山程あるからな」

 せっかくシアンが来てくれたのに。と思いながらも帰るという家族を引き止めはしなかった。
 家族も忙しいだろうし正直帰ってきたばかりでルースレアも少々疲れが残っている。

「また犬族の領地にも遊びにきなさい」
「……ええ、ぜひ」
「気をつけて帰ってくださいね」
「ルースレア、元気でね」

 家族が乗った馬車が見えなくなるまで見送ると少し寂しい気持ちになる。そんな彼女の肩に手をおいたシアンが優しく抱き寄せた。

「……家族に会えて、安心できた?」
「はい。気持ちが落ち着きました」
「よかった。また犬族の領地にも遊びにいこうね」
「ぜひ。そういえば先生の容体は大丈夫なのですか?」

 屋敷に戻りながら問いかける。こちらの領地に帰る途中で意識が戻ったらしい、とだけ聞いている。

「大丈夫だよ。ミリアが看病してるし、特に後遺症なんかもなさそうみたい。……ちょうど時間もあるし少し見に行こうか」
「はい、ぜひ」

 ファルの部屋は屋敷の隅にあるらしい。温室にこもることが多く、あまり使わないからと小さな部屋を希望したそうだ。
 ノックをして部屋に入ると所々、包帯を巻いたファルが笑顔で出迎えてくれた。ミリアはいないようだ。

「見舞いにきてくれたんですか?」
「はい。体調はどうですか?」
「薬の効果も切れて、すっかり元通りです。それ以外の傷は痛いですが」
「……ファルが暴れるから仕方ないだろう。ちゃんと手加減したし」

 どこか拗ねたように言うシアンにルースレアはクスクスと笑う。戦いの際につけた傷のことを責められたのが不服のようだ。

「あはは、すみません。冗談ですよ」
「あの、先生。ありがとうございました」
「ん?」
「あの時、先生が薬を飲んで獣族になってくださらなければ、どうなっていたことか……。でも、もう無茶はなさらないでください。……皆、心配しますから」
「……ええ。次からはもうしません。ミリアに泣いて怒られてしまいましたしね」

 ふんわりと笑うファルに胸を撫で下ろす。あの時助かったのは彼が無茶をしてくれたおかげだ。だが、もうあんな心臓に悪い姿は見たくないし、ファルやシアンが危険になるようなことも嫌だ。

「シアン様や奥様は体調は大丈夫ですか?」
「特に問題ないよ。後処理とかで疲れて寝不足なくらい」
「私も問題ありません」
「そうですか、それはよかったです」

 あまり長居してもゆっくり休めないだろう、と二人は話もそこそこに部屋を後にした。

「……フランとメイリーがいない分、また新しい侍女を探そうか?」

 ふとシアンがそう切り出した。侍女たちに裏切られ傷ついていると思っていたのか、事件の後この話が出るのは初めてだ。実際に辛い気持ちにはなったが、ずっとミューラが慰めてくれて今は落ち着いている。

「いえ……私にはミューラがいてくれれば十分です」
「そう……。あのね、ドルズの家だけど取り壊しになったよ」
「え?」
「これからルナシーク殿下の政策で異種族同士の婚姻が盛んになれば、そのうち必要のないものになるから。今回の事件をきっかけに取り壊すことにしたんだ。もう種族の濃い血を絶やさないようにする必要も少なくなるし」
「そう、ですか」
「その後処理もあるし……まだまだ仕事がたくさんで困っちゃうよ」
「ふふっ、無理せず一緒に頑張りましょう」

 二人で支え合っていけばきっとどんなに大変なことでも乗り越えていける。触れ合った手は自然と継がれ、笑みがこぼれた。
 穏やかな日常がゆっくりと戻ってくる。
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