獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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愛を育んで2

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 虎族の一件から早くも四ヶ月が過ぎようとしていた。
 後処理も終わりシアンもルースレアもお互いの仕事にもなれ、領地の運営も問題なく平和な時間が過ぎていた。
 ただ一つルースレアの体調がよくないことを除いて。

「……ごちそうさま」
「ルースレア様、最近食欲がありませんね」
「せっかく用意してくれたのにごめんね、ミューラ」

 食欲はあるのに食べると気持ち悪くなる。そんな日々が続いていた。
 だんだんと症状が強くなっている気がする。

「……ファル様をお呼びしますね」
「そうね……。シアン様も心配していたし、見ていただこうかしら……」
「すぐに参ります」

 あまりご飯が食べられないせいかめまいもするため、大人しくベッドに横になる。
 部屋を後にしたミューラは言葉通りにすぐファルを連れてきてくれた。彼もあの一件からすっかり体調は良くなり、今もあの温室で研究を続けている。

「体調が悪いとお聞きしましたが……」
「はい。食欲はあるのに食べると気持ち悪くて……最近はあまり食べられないからかめまいも。あと沢山寝たのに日中も眠たくなることが多くて……」
「ふむふむ」

 ルースレアの話を聞きながらファルが診察をしていく。それから難しい表情をして一緒にきていたミリアと、控えていたミューラに声をかけた。

「ミリアは血液分析をお願い。ミューラさんはシアン様を呼んできてもらっても?」
「かしこまりました」

 なにか悪い病気だろうか、と内心ドキドキしながらミリアが針を刺し魔法を使うのを見る。
 魔法によって紙に書き出された数値をファルがじっと見ていると慌てた様子でシアンが部屋に入ってきた。

「ファル、ルースレアはどこか悪いの?」
「……シアン様、落ち着いて奥様の側に」

 真剣な表情のファルにルースレアはごくりと唾を飲む。すぐに駆け寄ってきたシアンと二人で言葉を待った。

「……おめでとうございます! ご懐妊されてます」
「……へ……?」
「ご懐妊……?」

 それまでの真剣な表情とは打って変わってぱっと明るい笑顔を浮かべたファルが告げる。
 予想もしていなかった言葉にルースレアとシアンは顔を見合わせた。

「奥様のお腹にお二人の子供がいらっしゃるのですよ。最近の不調は妊娠によるものですね」
「子供……」
「本当にここにシアン様との子供が……?」
「ええ、間違いなく」

 思わずお腹をさするが当然まだなんの変化もなく、実感がわかない。
 それはシアンも同じなのか呆然としている。

「今はとにかく食べられそうなものを無理せず口にしてください。あと疲れたらすぐ休むこと。体調がよさそうなら日光を浴びるのは健康にいいので日光浴などもおすすめです」
「分かり、ました」
「……もし水分も取れないくらい酷いようならすぐに教えてください。これから朝問診に参りますので気になることなどもそこで聞いてください」

 すらすらと説明していくファルになんとか相槌を打つ。それが一通り終わると彼はミリアを連れ立って部屋を出ていった。
 ミューラも嬉しそうに祝いの言葉を告げると、ルースレアとシアンが二人きりになれるように部屋を後にする。

「……ねえ、お腹触ってもいい?」
「はい」
「ここに子供がいるんだね」

 少しでも力を入れたら壊れてしまうと思っているくらい優しくお腹を撫でられる。
 じわじわと実感が湧いてきて、喜びから口元が緩んだ。

「嬉しいです」
「うん、僕も嬉しい。……無理しないでね」
「はい、もう一人の身体じゃないですから」
「……楽しみだね」

 男の子か女の子か、どちらに似るのだろう。きっとどっちの性別でも、どちらに似てもかけがえのない大切なものになる。
 だけど、種族はどちらになるのだろう。
 ふと頭をよぎった考えにルースレアは表情を暗くする。もし犬族だったら。望まれるのは猫族の跡取りなのに。

「ルースレア?」
「もし……犬族だったら……」
「ルースレア……」

 一気に不安でたまらない気持ちになる。他種族同士で子供ができた場合、母親の種族になる場合が多い。
 そんな当たり前のことを今更思い出したのだ。

「うーん、たぶんその心配はあまり必要ないと思うよ」
「え?」
「獣族返りや人族返りの病の根本的な原因が同種族同士の婚姻だったって分かったでしょう?」

 シアンの言葉に頷く。二人の結婚はその解決のための政略の一つでもある。

「それを解消するために他種族同士の婚姻を進めれば、当然跡継ぎの種族が問題になる。それはもちろん王族だって分かってる」
「では国王陛下にはなにかお考えが?」
「うん。現在の領主たちに家名を与える話が進んでいるらしい」
「家名、ですか」

 これから先他種族同士で交流が進み領地に色んな種族が暮らすようになる。領主もルースレアやシアンのように異種族婚が増え、跡取り問題が出てくるのは分かりきっていた。
 そこで新たに領主に家名を与え、その名を継ぐ者を領主と認めるという案が採用されたらしい。種族として継いでいくのではなく家名を受け継いでいく、そうすれば子供がどの種族になろうとも問題はない。

「……今はまだ動き出したばかりで反発も多いだろうけどね」
「そうですか……」
「まだ家名の話も正式には決まってはいないし、僕たちの子は跡取り問題が出るかもしれないけど……」

 国の政策はすぐには進まない。奴隷商団や虎族なんかの後始末もあるだろうし、まだまだ他種族同士の交流は先になるだろう。

「……もし犬族だったとしても、猫族から嫁か婿を取ればいいだけだよ。それに僕たちの子供だもの。……どっちでもきっと愛しくてかわいいよ」
「シアン様……」
「ね?」
「はい、そうですね」

 優しく笑うシアンにルースレアも笑顔を返す。
 彼の言う通りだ。どちらの種族でもかわいい我が子には違いない。今はただ生まれてくるのを楽しみにしよう、そう考えて優しくお腹に触れたのだった。
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