53 / 54
愛を育んで2
しおりを挟む
虎族の一件から早くも四ヶ月が過ぎようとしていた。
後処理も終わりシアンもルースレアもお互いの仕事にもなれ、領地の運営も問題なく平和な時間が過ぎていた。
ただ一つルースレアの体調がよくないことを除いて。
「……ごちそうさま」
「ルースレア様、最近食欲がありませんね」
「せっかく用意してくれたのにごめんね、ミューラ」
食欲はあるのに食べると気持ち悪くなる。そんな日々が続いていた。
だんだんと症状が強くなっている気がする。
「……ファル様をお呼びしますね」
「そうね……。シアン様も心配していたし、見ていただこうかしら……」
「すぐに参ります」
あまりご飯が食べられないせいかめまいもするため、大人しくベッドに横になる。
部屋を後にしたミューラは言葉通りにすぐファルを連れてきてくれた。彼もあの一件からすっかり体調は良くなり、今もあの温室で研究を続けている。
「体調が悪いとお聞きしましたが……」
「はい。食欲はあるのに食べると気持ち悪くて……最近はあまり食べられないからかめまいも。あと沢山寝たのに日中も眠たくなることが多くて……」
「ふむふむ」
ルースレアの話を聞きながらファルが診察をしていく。それから難しい表情をして一緒にきていたミリアと、控えていたミューラに声をかけた。
「ミリアは血液分析をお願い。ミューラさんはシアン様を呼んできてもらっても?」
「かしこまりました」
なにか悪い病気だろうか、と内心ドキドキしながらミリアが針を刺し魔法を使うのを見る。
魔法によって紙に書き出された数値をファルがじっと見ていると慌てた様子でシアンが部屋に入ってきた。
「ファル、ルースレアはどこか悪いの?」
「……シアン様、落ち着いて奥様の側に」
真剣な表情のファルにルースレアはごくりと唾を飲む。すぐに駆け寄ってきたシアンと二人で言葉を待った。
「……おめでとうございます! ご懐妊されてます」
「……へ……?」
「ご懐妊……?」
それまでの真剣な表情とは打って変わってぱっと明るい笑顔を浮かべたファルが告げる。
予想もしていなかった言葉にルースレアとシアンは顔を見合わせた。
「奥様のお腹にお二人の子供がいらっしゃるのですよ。最近の不調は妊娠によるものですね」
「子供……」
「本当にここにシアン様との子供が……?」
「ええ、間違いなく」
思わずお腹をさするが当然まだなんの変化もなく、実感がわかない。
それはシアンも同じなのか呆然としている。
「今はとにかく食べられそうなものを無理せず口にしてください。あと疲れたらすぐ休むこと。体調がよさそうなら日光を浴びるのは健康にいいので日光浴などもおすすめです」
「分かり、ました」
「……もし水分も取れないくらい酷いようならすぐに教えてください。これから朝問診に参りますので気になることなどもそこで聞いてください」
すらすらと説明していくファルになんとか相槌を打つ。それが一通り終わると彼はミリアを連れ立って部屋を出ていった。
ミューラも嬉しそうに祝いの言葉を告げると、ルースレアとシアンが二人きりになれるように部屋を後にする。
「……ねえ、お腹触ってもいい?」
「はい」
「ここに子供がいるんだね」
少しでも力を入れたら壊れてしまうと思っているくらい優しくお腹を撫でられる。
じわじわと実感が湧いてきて、喜びから口元が緩んだ。
「嬉しいです」
「うん、僕も嬉しい。……無理しないでね」
「はい、もう一人の身体じゃないですから」
「……楽しみだね」
男の子か女の子か、どちらに似るのだろう。きっとどっちの性別でも、どちらに似てもかけがえのない大切なものになる。
だけど、種族はどちらになるのだろう。
ふと頭をよぎった考えにルースレアは表情を暗くする。もし犬族だったら。望まれるのは猫族の跡取りなのに。
「ルースレア?」
「もし……犬族だったら……」
「ルースレア……」
一気に不安でたまらない気持ちになる。他種族同士で子供ができた場合、母親の種族になる場合が多い。
そんな当たり前のことを今更思い出したのだ。
「うーん、たぶんその心配はあまり必要ないと思うよ」
「え?」
「獣族返りや人族返りの病の根本的な原因が同種族同士の婚姻だったって分かったでしょう?」
シアンの言葉に頷く。二人の結婚はその解決のための政略の一つでもある。
「それを解消するために他種族同士の婚姻を進めれば、当然跡継ぎの種族が問題になる。それはもちろん王族だって分かってる」
「では国王陛下にはなにかお考えが?」
「うん。現在の領主たちに家名を与える話が進んでいるらしい」
「家名、ですか」
これから先他種族同士で交流が進み領地に色んな種族が暮らすようになる。領主もルースレアやシアンのように異種族婚が増え、跡取り問題が出てくるのは分かりきっていた。
そこで新たに領主に家名を与え、その名を継ぐ者を領主と認めるという案が採用されたらしい。種族として継いでいくのではなく家名を受け継いでいく、そうすれば子供がどの種族になろうとも問題はない。
「……今はまだ動き出したばかりで反発も多いだろうけどね」
「そうですか……」
「まだ家名の話も正式には決まってはいないし、僕たちの子は跡取り問題が出るかもしれないけど……」
国の政策はすぐには進まない。奴隷商団や虎族なんかの後始末もあるだろうし、まだまだ他種族同士の交流は先になるだろう。
「……もし犬族だったとしても、猫族から嫁か婿を取ればいいだけだよ。それに僕たちの子供だもの。……どっちでもきっと愛しくてかわいいよ」
「シアン様……」
「ね?」
「はい、そうですね」
優しく笑うシアンにルースレアも笑顔を返す。
彼の言う通りだ。どちらの種族でもかわいい我が子には違いない。今はただ生まれてくるのを楽しみにしよう、そう考えて優しくお腹に触れたのだった。
後処理も終わりシアンもルースレアもお互いの仕事にもなれ、領地の運営も問題なく平和な時間が過ぎていた。
ただ一つルースレアの体調がよくないことを除いて。
「……ごちそうさま」
「ルースレア様、最近食欲がありませんね」
「せっかく用意してくれたのにごめんね、ミューラ」
食欲はあるのに食べると気持ち悪くなる。そんな日々が続いていた。
だんだんと症状が強くなっている気がする。
「……ファル様をお呼びしますね」
「そうね……。シアン様も心配していたし、見ていただこうかしら……」
「すぐに参ります」
あまりご飯が食べられないせいかめまいもするため、大人しくベッドに横になる。
部屋を後にしたミューラは言葉通りにすぐファルを連れてきてくれた。彼もあの一件からすっかり体調は良くなり、今もあの温室で研究を続けている。
「体調が悪いとお聞きしましたが……」
「はい。食欲はあるのに食べると気持ち悪くて……最近はあまり食べられないからかめまいも。あと沢山寝たのに日中も眠たくなることが多くて……」
「ふむふむ」
ルースレアの話を聞きながらファルが診察をしていく。それから難しい表情をして一緒にきていたミリアと、控えていたミューラに声をかけた。
「ミリアは血液分析をお願い。ミューラさんはシアン様を呼んできてもらっても?」
「かしこまりました」
なにか悪い病気だろうか、と内心ドキドキしながらミリアが針を刺し魔法を使うのを見る。
魔法によって紙に書き出された数値をファルがじっと見ていると慌てた様子でシアンが部屋に入ってきた。
「ファル、ルースレアはどこか悪いの?」
「……シアン様、落ち着いて奥様の側に」
真剣な表情のファルにルースレアはごくりと唾を飲む。すぐに駆け寄ってきたシアンと二人で言葉を待った。
「……おめでとうございます! ご懐妊されてます」
「……へ……?」
「ご懐妊……?」
それまでの真剣な表情とは打って変わってぱっと明るい笑顔を浮かべたファルが告げる。
予想もしていなかった言葉にルースレアとシアンは顔を見合わせた。
「奥様のお腹にお二人の子供がいらっしゃるのですよ。最近の不調は妊娠によるものですね」
「子供……」
「本当にここにシアン様との子供が……?」
「ええ、間違いなく」
思わずお腹をさするが当然まだなんの変化もなく、実感がわかない。
それはシアンも同じなのか呆然としている。
「今はとにかく食べられそうなものを無理せず口にしてください。あと疲れたらすぐ休むこと。体調がよさそうなら日光を浴びるのは健康にいいので日光浴などもおすすめです」
「分かり、ました」
「……もし水分も取れないくらい酷いようならすぐに教えてください。これから朝問診に参りますので気になることなどもそこで聞いてください」
すらすらと説明していくファルになんとか相槌を打つ。それが一通り終わると彼はミリアを連れ立って部屋を出ていった。
ミューラも嬉しそうに祝いの言葉を告げると、ルースレアとシアンが二人きりになれるように部屋を後にする。
「……ねえ、お腹触ってもいい?」
「はい」
「ここに子供がいるんだね」
少しでも力を入れたら壊れてしまうと思っているくらい優しくお腹を撫でられる。
じわじわと実感が湧いてきて、喜びから口元が緩んだ。
「嬉しいです」
「うん、僕も嬉しい。……無理しないでね」
「はい、もう一人の身体じゃないですから」
「……楽しみだね」
男の子か女の子か、どちらに似るのだろう。きっとどっちの性別でも、どちらに似てもかけがえのない大切なものになる。
だけど、種族はどちらになるのだろう。
ふと頭をよぎった考えにルースレアは表情を暗くする。もし犬族だったら。望まれるのは猫族の跡取りなのに。
「ルースレア?」
「もし……犬族だったら……」
「ルースレア……」
一気に不安でたまらない気持ちになる。他種族同士で子供ができた場合、母親の種族になる場合が多い。
そんな当たり前のことを今更思い出したのだ。
「うーん、たぶんその心配はあまり必要ないと思うよ」
「え?」
「獣族返りや人族返りの病の根本的な原因が同種族同士の婚姻だったって分かったでしょう?」
シアンの言葉に頷く。二人の結婚はその解決のための政略の一つでもある。
「それを解消するために他種族同士の婚姻を進めれば、当然跡継ぎの種族が問題になる。それはもちろん王族だって分かってる」
「では国王陛下にはなにかお考えが?」
「うん。現在の領主たちに家名を与える話が進んでいるらしい」
「家名、ですか」
これから先他種族同士で交流が進み領地に色んな種族が暮らすようになる。領主もルースレアやシアンのように異種族婚が増え、跡取り問題が出てくるのは分かりきっていた。
そこで新たに領主に家名を与え、その名を継ぐ者を領主と認めるという案が採用されたらしい。種族として継いでいくのではなく家名を受け継いでいく、そうすれば子供がどの種族になろうとも問題はない。
「……今はまだ動き出したばかりで反発も多いだろうけどね」
「そうですか……」
「まだ家名の話も正式には決まってはいないし、僕たちの子は跡取り問題が出るかもしれないけど……」
国の政策はすぐには進まない。奴隷商団や虎族なんかの後始末もあるだろうし、まだまだ他種族同士の交流は先になるだろう。
「……もし犬族だったとしても、猫族から嫁か婿を取ればいいだけだよ。それに僕たちの子供だもの。……どっちでもきっと愛しくてかわいいよ」
「シアン様……」
「ね?」
「はい、そうですね」
優しく笑うシアンにルースレアも笑顔を返す。
彼の言う通りだ。どちらの種族でもかわいい我が子には違いない。今はただ生まれてくるのを楽しみにしよう、そう考えて優しくお腹に触れたのだった。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?
22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
獣人族の彼にマタタビを渡したところ、キャラが崩壊しました。
piyo
恋愛
人間族のルル・クーガーは文化祭の景品でマタタビを手に入れる。使い所が無いそれを、同じクラスの獣人族グエン・イエルが偶然にも摂取してしまい、その後のイエルの態度が急変する。
ええと、あなたは本当にあのイエル君ですか?
獣人族の彼が、好きな子にニャンニャンする話です。
※他サイトにも投稿
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる