悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「ヴォルフ様」


 レフィーナの声に、ヴォルフは意識を浮上させ、ゆっくりと金色の瞳を開いた。


「……ん…レフィーナ…?」


 瞬きを繰り返して眠気を覚ます。最近はレナシリアの命令の下準備や、副騎士団長としての仕事が忙しかった為、疲れが溜まっていたようだ。いつの間にかレフィーナと一緒に寝てしまったらしい。
 窓から差し込む日の光はオレンジ色で、どうやらもう夕方のようだ。

 意識がはっきりとすると、ヴォルフは視線をレフィーナの方へ向けた。上半身を起こしてこちらを見るレフィーナの顔色は落ち着いており、熱も下がったように見える。


「体調はどうだ…?」

「ヴォルフ様のおかげで、もうすっかり良くなりました」

「そうか、良かった」


 どこかとろんとしていた口調もしっかりしている。いつもの様子に戻ったレフィーナにヴォルフは安心して、笑みを浮かべるとレフィーナの頭を撫でた。
 優しく頭を撫でていればレフィーナと目があって、ふいと目をそらされる。頬が僅かに赤らんでいて、照れているのが分かった。


「レフィーナは可愛いな」

「…はい…!?」


 照れている姿が愛らしくて、ヴォルフが思ったままに気持ちを口にすれば、レフィーナが思いっきり動揺を見せた。そんなレフィーナの頬を、ヴォルフは指先でなぞりながら、言葉を続ける。


「普段は冷静でしっかりしているから、余計にこうして照れている姿が可愛く見えるな」

「ヴォルフ様、ど、どうしたのですか…」


 ヴォルフの率直な物言いに、レフィーナ動揺が大きくなり、頬がどんどん赤く色づいていく。そんな様子が可愛らしいと思うのと同時に、面白いとも思ってしまって、少しからかいたくなってしまった。


「別に恋人の事が可愛く見えるのは普通だろ?」

「こい…」

「恋人。まさか、忘れたのか?」


 からかうような口調で言えば、レフィーナはそれに気づいたのか、むっとした表情を浮かべてぷいっと顔を背けた。それから、仕返しとばかりに口を開く。


「ヴォルフ様じゃあるまいし、忘れていません」

「俺?」

「そうですよ」


 むくれながら話すレフィーナに、ヴォルフは首を傾げた。


「俺が何か忘れたのか?」

「はい。忘れていますね、きれいさっぱり」


 何を忘れているのか、ヴォルフは心当たりを探すが分からない。酔っ払ってレフィーナに告白をしていた事をレフィーナは言っているのだが、当然忘れているヴォルフには分かるはずもなかった。

 何を忘れたのか知りたくて、ヴォルフはレフィーナが手を伸ばしたコップを、レフィーナより早く手に取る。
 水を奪われたレフィーナが、緋色の瞳を瞬かせた。


「ヴォルフ様?」

「俺が何を忘れているんだ?」

「お水が飲みたいので渡してください」

「教えてくれたらな」


 意地悪そうな表情をヴォルフは浮かべる。甘い雰囲気はすっかり霧散むさんしてしまったが、あまり甘い雰囲気になると色んな意味で余裕がなくなるので、ヴォルフとしては助かった。

 レフィーナは意地悪そうなヴォルフの表情を見て、むっと眉を寄せている。この分では忘れた内容は教えてくれないだろう。


「自力で思い出してください」


 思った通り、レフィーナは教えてはくれないようだ。それならそれで、別に構わない。気になるがもしかしたら、ひょんな事から思い出すかも知れないし、他の交渉が出来る。


「…じゃあ、二人きりの時は呼び捨てと、敬語なしで話してくれ」

「はい?」

「それか教えてくれるか。どっちかだな」


 コップに入った水を人質に、ヴォルフはにやりと笑う。
 レフィーナにこの提案をしたのは、敬語や様付けにどうしても距離を感じてしまうからだ。少々意地の悪いことをしている自覚が無いこともないが、普通にお願いしてもレフィーナはなかなか実行してくれない気がしたので、約束を取り付けようとしている。


「意地悪ですね。知ったら恥ずかしさで身悶みもだえするかもしれませんよ」

「…そんなに、恥ずかしい事をしたのか、俺は…」

「さぁ?」


 レフィーナの言葉に、流石に心配になれば、レフィーナがとぼけるように首を傾げた。それから、抗議の視線をヴォルフに向け、口を開く。


「お水、ください」


 これ以上はさすがにやりすぎになるだろう。ヴォルフは素直にレフィーナにコップを手渡した。
 レフィーナは水で口をうるおすと、礼を口にする。


「今日は看病して下さってありがとうございました」

「今度は元気な時に二人で出かけよう。まぁ、その前にレオン殿下達の新婚旅行の付き添いで、暫く一緒だけどな」

「ふふっ。そうですね」

「何事もなく終わるといいんだが」

「…そうですね」


 何事もなく、とはレナシリアの計画の事だ。レナシリアの計画はヴォルフの考えていたものより過激だった。もちろん安全面は一番考慮されているが、何も知らなければ怖いに違いない。
 今もレフィーナにすべてを話してしまいたいと思うが、副騎士団長としてそれは出来ない。恋人と命令の板挟みにヴォルフは深い溜め息をついた。
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