悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 レオンとドロシーの新婚旅行先のプリローダから帰国して数日。
 ヴォルフはザックと一緒に、人通りの少ない場所にいた。今は休憩時間で、ザックに話したい事があった為、詰所から二人だけで出てきたのだ。

 たまに人が通るが、二ヶ月後に控えた王国記念祭の準備で忙しく、二人を気にする者はいない。


「話ってのは何だ?」


 太い腕を組み、首を傾げながらザックが問いかけてくる。
 ヴォルフはそんなザックから自分の足元に視線を移す。そして、一度深呼吸をすると、再び視線をザックに戻して口を開いた。


「俺の……母親の墓を知りたい」


 ヴォルフの言葉が意外だったのか、ザックが驚いたように目を見開いた。
 これまでヴォルフがザックに母親の墓について尋ねた事は一度もない。それは興味がなかったのもあるが、過去を思い出したくないという気持ちもあったからだ。
 だが、レフィーナのおかげで、もうそんな辛い過去から抜け出せている。今なら母親と向き合い、そして…きちんと決別できるだろう。
 その為に、今まで一度も考えたことすらなかった母親の墓参りをしようと、ヴォルフは決めたのだ。
 
 母親は騎士団によって埋葬されたと聞いている。ザックに聞けば、場所は分かるだろう。
 暫く黙ってヴォルフを見つめていたザックが、やがて静かに話し出した。


「お前の母親は街外れの墓地に埋葬した。一番端の大きな木の下だからすぐ分かるだろう」

「街外れの墓地か…」

「一人で行くのか?」

「そのつもりだ。明日の休みに行ってくる」

「そうか」


 その為に明日は休みを取ったのだ。それに、他にも大切な用事がある。
 明日の事を考えていると、不意にザックに頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。


「うわっ…!」

「大きくなったな!ヴォルフ!」


 嬉しそうなザックの声が届く。それからザックの手が頭から離れ、ヴォルフはため息をついた。
 ぐしゃぐしゃになった髪を整えつつ、ザックに視線を移す。にこやかな笑みを浮かべるザックは、ヴォルフと目が合うとさらに笑みを深くした。


「お嬢ちゃんがお前を変えたんだな」

「……ああ。レフィーナのおかげで、俺は変われた」


 目を閉じれば、レフィーナの笑顔が浮かぶ。自然と早くなる鼓動も、悪くない。
 母親との過去から抜け出せたのも、ろくでもない父親に会っても強くいられたのも、レフィーナのおかげだ。


「ザック、俺はレフィーナに結婚を申し込むつもりだ。……祝福してくれるか?」


 ザックの事は憧れると同時に、父親のように慕っている。レフィーナとの結婚を考えている事を打ち明ければ、ザックは感激した様子で涙ぐんだ。


「当たり前だ!祝福するに決まっているだろう!」

「ありがとう、ザック」


 ヴォルフがそう言って柔らかい笑みを浮かべた所で、不意に声がかけられた。


「ザック様、少々よろしいでしょうか?」


 今まさに話していたレフィーナがそこにいて、二人は驚く。ザックはレフィーナに気付かれないように、さっと目尻を拭った。


「む?おぉ!お嬢ちゃんか!何か用か?」

「はい。王国記念祭当日のドロシー様の予定表です」

「…確かに。また警備について決まったら連絡するからな」

「はい。よろしくお願い致します」


 いつものようにニカッと笑ったザックに、レフィーナも微笑んで頭を下げる。
 ふと、ザックがヴォルフの方にちらりと視線を投げてきた。そして、頭を上げたレフィーナにニヤついた笑みを浮かべ、口を開く。


「これは俺はお邪魔だな。後は若い二人でゆっくりしろ!はっはっは」

「え?あの、ザック様…仕事中…」

「なにちょっとくらい大丈夫だろうさ!ヴォルフ、また後でな!」


 ザックが豪快に笑いながら去っていく。どうやらヴォルフに気を使ってくれたようだが、少々強引過ぎる。
 レフィーナと顔を見合わせて、お互いに困ったように苦笑いを浮かべた。


「…ちょうどいいから話しておくけど、家族とは王国記念祭の時に会うことになりそうなの」

「そうか…。少し先だが、会えるようになって良かったな」

「えぇ。公爵家を出るときはもう会うこともないと思っていたから、少し緊張するわ」


 レフィーナはそう言って、小さくため息をついた。それでも、どことなく嬉しそうだ。
 王国記念祭は二ヶ月後。ちょうどいいタイミングかもしれない、とヴォルフは思考を巡らせて、レフィーナに問いかける。


「…その会うのはいつになりそうなんだ?」

「多分、舞踏会の前になると思うけど…」

「そうか。じゃあ、家族に会う前に少し会えないか?…その方が緊張も解れるだろ?」

「えぇ。そうしてくれると嬉しい」


 レフィーナが頷く。ヴォルフは表情を変えずに、頭の中で当日の予定を組み立てる。
 レフィーナが家族に会う前に、ヴォルフは結婚を申し込もうと考えたのだ。レフィーナが受け入れてくれたのなら、そのまま挨拶も出来る。指輪も二ヶ月後なら間に合うだろう。


「じゃあ、詳しい時間がわかったら教えてくれ。その時間は空けておくから」

「分かったわ。…あまり長いこと抜けると大変だから、そろそろ戻るわね」

「あぁ、またな」


 王国記念祭の舞踏会の時に会う約束を交わし、ヴォルフはレフィーナと別れて詰所へ戻っていったのだった。
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