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終わりのための旅
この世界の日常
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部屋の隅に、ロープが吊るされている。
俺が天井に結びつけたものだ。
何度もこのロープを首にかけようとした。
椅子に足をかけ、呼吸を落ち着かせ目を閉じる。
けれど、最後の一歩はいつも踏み出せずにいた。
恐れているのか。
そうではない。
この暑さのなか孤独に生きるくらいなら終わりを迎えるほうが楽だろう。
それでも最後は踏み出せない。
理由もわからない。
今日の俺もそうだった。
最後の一歩を踏み出せずに椅子から降りる。
そのロープを横目で見ながら準備を始める。
護身用のナイフと懐中電灯。
荷物は少ないほうがよい。帰りに収穫があることを信じて。
いつも通り、そのロープは使わない。
また今日も生きる選択をしてしまった。
扉を開けると、夏の熱気とセミの鳴き声に頭が痛くなる。
人影はなく、死んだ街で俺だけが生きている。
孤独ということにすら慣れてしまった。
いつも通り生活に必要なものを探す。
だが何回も歩いたルートだ。多分、収穫は無いだろう。
見慣れたルートでも足音を殺し、耳を澄ませることは忘れない。
一歩ごとに砂利や砕けたガラスの破片が靴底で小さく鳴る。
夏の暑さのせいではない汗が背中を伝う。
「やつら」に見つかれば、終わりだ。
俺はナイフを手に、半壊したコンビニへ入る。
棚は倒れ、荒れつくされている。
やつらに見つからないように、静かに物資を探す。
だが今日はいつもと違う。
おかしい。やつらの気配がなさすぎる。
臭いもしない。
あのうめき声も聞こえない。
やつらの気配がどこにもない。
セミの声だけが、やけに大きく響いている。
気味が悪い。
汗が顎をつたい、地面に落ちる。
妙だ。おかしい。
こんなに静かなはずがない。
いつもならこちらが息を殺せば殺すほど、やつらの気配を感じるのに。
不意に背筋が冷たくなる。
夏の暑さと合わさり、急に軽い震えを覚える。
俺はリュックをそっと置き、コンビニの外へ。
物資の探索どころではなかった。
この違和感の正体を確かめなければならない。
視線を左右に走らせ、耳を澄ませながら進む。
真夏の日差しに背中が焼かれ、眉間にシワを寄せる。
汗のせいで服が張り付き気持ちが悪い。
沈黙した街路を進む。
――ガサリ。
心臓が跳ね上がる。
全身の神経が一斉に目を覚まし、ナイフを強く握った。
やつらだと反射的に思った。
ここまで静かだったのは俺を誘い出す罠だったのか。
息を殺し、音のした方へ視線を向ける。
汗が顎を伝い、落ちる。
体が固まる。
――出てきたのは、一匹の猫だった。
その瞬間、胸を締めつけていた縄がほどけるように力が抜けた。
たかが猫一匹。
それでも、ジェットコースターを駆け下りるほどの感覚だ。
できれば味わいたくない。
猫の尻尾がゴミ袋の陰に消えると、わずかな安堵も消えていった。
気を緩めれば、命を落とす。
呼吸を整え、また耳を澄ませる。
この街では、油断が死に直結する。
俺が天井に結びつけたものだ。
何度もこのロープを首にかけようとした。
椅子に足をかけ、呼吸を落ち着かせ目を閉じる。
けれど、最後の一歩はいつも踏み出せずにいた。
恐れているのか。
そうではない。
この暑さのなか孤独に生きるくらいなら終わりを迎えるほうが楽だろう。
それでも最後は踏み出せない。
理由もわからない。
今日の俺もそうだった。
最後の一歩を踏み出せずに椅子から降りる。
そのロープを横目で見ながら準備を始める。
護身用のナイフと懐中電灯。
荷物は少ないほうがよい。帰りに収穫があることを信じて。
いつも通り、そのロープは使わない。
また今日も生きる選択をしてしまった。
扉を開けると、夏の熱気とセミの鳴き声に頭が痛くなる。
人影はなく、死んだ街で俺だけが生きている。
孤独ということにすら慣れてしまった。
いつも通り生活に必要なものを探す。
だが何回も歩いたルートだ。多分、収穫は無いだろう。
見慣れたルートでも足音を殺し、耳を澄ませることは忘れない。
一歩ごとに砂利や砕けたガラスの破片が靴底で小さく鳴る。
夏の暑さのせいではない汗が背中を伝う。
「やつら」に見つかれば、終わりだ。
俺はナイフを手に、半壊したコンビニへ入る。
棚は倒れ、荒れつくされている。
やつらに見つからないように、静かに物資を探す。
だが今日はいつもと違う。
おかしい。やつらの気配がなさすぎる。
臭いもしない。
あのうめき声も聞こえない。
やつらの気配がどこにもない。
セミの声だけが、やけに大きく響いている。
気味が悪い。
汗が顎をつたい、地面に落ちる。
妙だ。おかしい。
こんなに静かなはずがない。
いつもならこちらが息を殺せば殺すほど、やつらの気配を感じるのに。
不意に背筋が冷たくなる。
夏の暑さと合わさり、急に軽い震えを覚える。
俺はリュックをそっと置き、コンビニの外へ。
物資の探索どころではなかった。
この違和感の正体を確かめなければならない。
視線を左右に走らせ、耳を澄ませながら進む。
真夏の日差しに背中が焼かれ、眉間にシワを寄せる。
汗のせいで服が張り付き気持ちが悪い。
沈黙した街路を進む。
――ガサリ。
心臓が跳ね上がる。
全身の神経が一斉に目を覚まし、ナイフを強く握った。
やつらだと反射的に思った。
ここまで静かだったのは俺を誘い出す罠だったのか。
息を殺し、音のした方へ視線を向ける。
汗が顎を伝い、落ちる。
体が固まる。
――出てきたのは、一匹の猫だった。
その瞬間、胸を締めつけていた縄がほどけるように力が抜けた。
たかが猫一匹。
それでも、ジェットコースターを駆け下りるほどの感覚だ。
できれば味わいたくない。
猫の尻尾がゴミ袋の陰に消えると、わずかな安堵も消えていった。
気を緩めれば、命を落とす。
呼吸を整え、また耳を澄ませる。
この街では、油断が死に直結する。
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