元ゲーマーのじいじ、気ままなスローライフを始めました〜じいじはもふもふ達の世話係です〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

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51.じいじ、イベント気分を味わう

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「なるべくゴマとニンゴラが攻撃したタイミングを狙うんだ」

 やつと視線がぶつかる中、ゴマとニンゴラが攻撃したタイミングで一瞬怯むことがわかった。
 まるで今から私の攻撃を見ててと思わせるような時間を感じる。

「今だ!」
『にゃ!』

 ポンはタイミングよく、やつに飛び込んでいく。

「止まれ!」
『にゃにゃ!?』

 急に静止をかけると、ポンは戸惑っている。
 足を止めると、やつは手を広げて待っていた。
 今まで怯んでいたのに、近づくとわかったタイミングで行動を変えるとは……。

「じいじのことが好きなんだね」
「なっ!? それはやめるんじゃ!」

 終いにはハルキにも勘違いされてしまう。
 断じてゴキブリに好かれるようなじいさんじゃないと言いたい。

「これじゃあ、いつになっても倒せないじゃないか」

 ゴマとニンゴラが与えるダメージは、表示されているゲージが1センチメートル減れば良い程度。
 ポンの攻撃でやっと減ったのがわかるぐらい。

「私たちも手伝いに……いやあああああ!」
「俺には無理だ!」

 それにやっとプレイヤーが来たと思ったら、虫嫌いが多いのか距離を開けて見ているだけだ。

「じいじ、どうするの?」

 地道にHPを削って……いや、それだと何時間かかるのかわからない。
 このままだと攻略できる方法は他にないのだろうか。
 考えすぎて、少ない髪の毛が抜け落ちそうだ。

「じいじが近づいたら、攻撃やめるのかな?」
「いや、それだとわしが精神的に死ぬ」
「そっかー」

 わしが囮になることはすでに考えている。
 だが、何時間もやつに抱きつかれている間に、ポンやゴマが倒せる想像ができない。
 その前にわしの精神が破壊されて、ログアウトするだろう。
 やつとの抱擁に接吻……考えただけで嗚咽が止まらない。

「なら、じいじが攻撃するのは?」
「わしの攻撃?」

 ハルキはわしが直接攻撃してはどうかと提案してきた。

「好きな人から振られたら、泣くほど辛いんだよね?」

 それは恋仲か片思いの時だけ――。
 いや、わしらも絶賛やつの片思い中だからいけるのか?

 わしは装具を脱いで、今も両手を広げているやつに投げてみることにした。

「嫌いだ!」
『キチッ!?』

――ダメージ100

 あれ? 投げようと思ったのに、すでにダメージ判定されてるぞ?

「顔も見たくない」
『キチッ……』

――ダメージ300

 わしが傷つける言葉を発することで、想像以上にダメージを与えられている気がする。

「気持ち悪い」
『キッ……』

――ダメージ800

 ゴマの数回分の攻撃がこんな簡単に当たるとは思わなかった。
 ただ、わしは言葉でやつを傷つけただけ……。

「ねぇ、じいじ? なんか可哀想だよ?」

――ダメージ200
――ダメージ600
――ダメージ300
――ダメージ400

 今は何も言ってないのに、勝手にやつはダメージを受けている。
 ひょっとして、わしに言われたことを思い返してはダメージになっているのか?

「一生顔なんて見たくないぞ」
『キイチャアアアアアアア!』

――ダメージ10000

 最後に言葉の一突きをすると、やつはその場で項垂れてしまった。
 相手はゴキブリなのに……なぜかわしの心が痛んでしまう。

「じいじ、やりすぎだよ?」
「そーだそーだ!」
「乙女の恋心をそんなに雑に扱うなんて!」

 ハルキの言葉は受け入れよう。
 ただ、何もしないプレイヤーのお前たちが言える立場じゃないからな!

『キチャ……キチャ……』

 やつは自分の手を高く上げて、首元に狙いを定めた。
 振られたぐらいで自害するつもりか?
 わしはやつの手に向かって、装具を投げつける。

――ダメージ1

 どうやらわしの武器では、そこまでダメージは与えられないようだ。
 だが、手を止めるにはちょうど良い。

「ちょっと待ってよ!」

 昔の俳優のようなセリフがつい出てしまった。
 ただ、止まったやつはキョトンとした目をしていた。
 何度も目を合わせたから、相手の考えていることぐらい少しはわかる。
 いや、少しもゴキブリの気持ちなんてわかりたくはないが……。
 長年生きてると、人生色々あるからな。

「町や人に迷惑をかけるやつは、わしは嫌いじゃ!」
『キチャ……?』
「だから、迷惑をかけなければ――」
『キチャアアアアアアアアアア♡』

 やつはわしの言ってることに気づいたのか、その場で立ち上がり雄叫びを上げていた。
 すると、周囲にいた子どもたちが集まってくる。
 これって……やばいパターンじゃないか?
 そのまま自害させておけばよかったと、今頃後悔してももう遅いだろう。

『キチ……キチキチ! キッチチキ!』

 やつが何かを説明すると、クロカサカサは町から出ていく。
 どうやらやつの言葉を理解したのだろう。
 本当に知能が高い魔物だな。

 町からクロカサカサがいなくなると、ゆっくりとやつが近づいてきた。
 その場から逃げようとしたが、なぜかみんなの視線がわしに向いている。

「じいじ、行ってきなよ?」

 まるでわしが告白されるみたいな雰囲気だぞ?
 学校のイベントの時に、みんなの前で告白される人はこんな気持ちだったのか。
 この歳で経験するとは思いもしなかった。

 わしはポンから降りると、わしの背中を自分の頭で押してくる。
 まるで親友が行ってこいと、背中を押しているみたいだが、別にそんなのは求めてないからな?
 おそるおそるゆっくりと近づく。

 みんなに見守られながら、うさぎの着ぐるみをきたおじいさんとゴキブリが見つめ合う。
 傍から見たら、なんとも言えないシュールな場面なのに、誰も何も言わないのはなぜだ……。

『キチ……キチキチッ?』
「あっ……ああ?」
『キチチィィー♡』

 何かわからないが、やつはその場で喜んでいた。
 あれ? まだわしは何も言ってないぞ?

「おー、おめでとう!」
「がんばってねー!」

 よっぽど絵面が面白かったのか、プレイヤーたちが拍手し始めた。
 たくさんの祝福する声がプレイヤーから聞こえてくる。
 なぜか周囲はお祝いムードに包まれていた。
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