元ゲーマーのじいじ、気ままなスローライフを始めました〜じいじはもふもふ達の世話係です〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

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52.じいじ、レイドボスに勝利する ※一部運営視点

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 たくさんの拍手に包まれて、わしはクロカサヒメと公認のカップルにでもなってしまったのだろうか。

『キチチ……ありが……トウ……』
「お前、しゃべった!?」
『キッチキチ♡』

 なぜかやつは笑っているような気がした。
 大きな翅を広げると、わしは警戒を強める。
 今さっき連れ去られたばかりだからな。
 だが、そんなこともなく、その場で翅をばたつかせて町の外に飛んでいく。

 どうやらレイドボスであるクロカサヒメは倒さなくても、町を救うことができたようだ。
 気が抜けたのか、わしはその場で座り込む。

「じいじ、大丈夫? 骨折した?」
「そこまで弱くないわ」
「にひひひ」

 ハルキはわかって言ってるのだろう。
 だが、骨折したのかと思うほど、腰が抜けている。

『にゃー!』
『キュ!』
「おじいさん、すごいですね!」
『オレは最強だゴラッ!』

 ポンやゴマ、カナタとニンゴラもすぐに寄ってきた。
 ポンとゴマは珍しく、わしに擦り寄って褒めて……いや、クロカサカサで汚れた爪と角をわしで拭いていた。
 怒る気力もなく、みんなが無事だったことにホッとする。

「そういえば、あのじいさんがハルキじゃないのか?」
「ベヒモスの上に乗っていたし、残虐なアルミラージも懐いているぞ!」
「あの動くにんじんは、新たなワールドボスかしら……?」

 プレイヤーの視線がわしに集まっている。
 魔物がいなくなったこの状況で、わしらはプレイヤーに囲まれていた。
 いまだにわしのことをハルキだと勘違いしているのだろう。

「すぐに野菜を置いて逃げるぞ!」
「「へっ!?」」

 わしらはインベントリから野菜を出して、地面に置いていく。
 置き終わるとすぐに、ハルキとカナタはポンの背中の上に乗せた。
 わしは相変わらず、ポンに咥えられての移動だけどな。

「あとはよろしく頼む!」

 ラブショターンにそれだけ伝えると、勢いよく走っていく。
 ハルキの存在がバレたらめんどくさいことになるからな。

「あっ、もふもふが……」
「俺のベヒモスちゃん……」

 途中までプレイヤーが追いかけてきたが、すぐに諦めていた。
 どうやらポンの速さには付いてこられないようだ。

 ♢ ♢ ♢

「課長、無事にイベントは終了しましたが、これでどうにかなるんですか?」
「あっ……ああ。町が破壊されればいいからな」

 ストーリーでは魔物の大群が町を破壊しているところを、ワールドボスを倒したプレイヤーによって助けるところからストーリーが進む。
 本来はワールドボスを倒したことで勝手に進むストーリーだったが、テイムしたハルキが町に戻ることもなく、強制的に魔物のスタンピードを引き起こした。
 本来はもう少し弱い設定だったが、プレイヤーも長いことストーリーを進めていないため、それに調整した強い魔物を用意した。

「プレイヤーに虫嫌いが多いとは知らなかったですね」
「害虫としてゴキブリを採用したのがいけなかったか……」

 部長からは倒しやすいように虫にしろと指示があった。
 それで今回はゴキブリを採用することになった。
 やつが出たらすぐに殺さないと、夜も寝られないぐらいだからな。
 だが、思ったよりも殺せないプレイヤーが多いことに驚いた。
 考えてみたらワールドボスが好きすぎて倒せないプレイヤーが多いぐらいだ。
 ゴキブリを倒せない可能性も考慮するべきだった。

「おじいさんがいてよかったですね」
「遊びで作った枯専の設定だったが……ん? これはどういうことだ?」

 プレイヤーから逃げるおじいさんたちの後ろに見たことある姿が映っている。

『キッチキチ♡』

 今回レイドボスになったクロカサヒメだ。
 やつは木の影に隠れて、こっそりとおじいさんたちを追いかけている。

「まさか――」
「ストーカーになっちゃいましたね……」

 部下の言葉通り、クロカサヒメは諦めてその場を立ち去ったわけでもなく、おじいさんのストーカーになるために姿を消していた。

「ゲーム運営会社として、せっかくだからプレイヤーには夢を見させないとな」

 俺は独断でクロカサヒメにある能力を授けた。

『キッチ……あれ? 私って……』

 つややかな黒髪を揺らし、真黒な瞳でこちらを見つめる美女が、困惑したように首をかしげていた。
 背中からはかすかに透けた羽がのぞいている。

 人化できれば、プレイヤーから嫌われることはないだろう。
 それにしても美人に作りすぎたが、大丈夫だろうか……。

 ワールドボスをテイムするハルキにレイドボスをストーカーにさせるおじいさん。
 今後もこの二人には監視が必要だな。
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