53 / 58
53.じいじ、腰が抜ける
しおりを挟む
「じいじ、何か付いてきてるってポンが言ってるよ?」
『にゃー!』
隠しの家に戻ると、突然ハルキが誰かが付いてきていると言い出した。
「ラブショターンか?」
彼女ならハルキの存在を知っているから問題ない。
だが、他のプレイヤーなら、ハルキの存在がバレるわけにはいかない。
「みんなは家の中に入っていなさい」
返事がないってことは、ラブショターンではないのだろう。
「じいじ、弱いのに大丈夫?」
「そうだよ? この中で一番おじいさんがお年寄りで体弱いし……」
優しいハルキとカナタはわしを心配しているようだ。
わしが頷くと、渋々ハルキとカナタは家の中に入っていく。
「おい、そこにいるやつは誰だ! 出てこないならわしからいくぞ!」
わしは装具を脱いで投げつけようとするが、その手を止めた。
「梅……」
わしは持っていた装具を投げ捨てる。
隠しの家のセーフティーエリアから飛び出て駆け寄る。
装具を外したことで、うまく歩けない。
それでも必死に足を前に出して走っていく。
――ドシャン!
顔面から勢いよく倒れたが、痛みなんて全く感じない。
その場で立ち止まることなく走る。
やっと会えたんだ……。
「じいじ!」
「おじいさん!」
ハルキとカナタが呼んでいるがそれどころではない。
なぜ彼女がいるのだろうか。
頭の中はその言葉でいっぱいだ。
考えることもできず、遅れて自動装着された装具のおかげか、少しは走りやすくなった。
「キッチ……あなた……」
ずっと会いたくて、会いたくて、死ぬことすら考えた。
でも、大事な娘を残してわしは死ぬことができなかった。
やっとわしは愛する彼女を抱きしめることができる。
その気持ちだけで、視界がボヤけて見えない。
これが白内障……こういう時でも出てしまうわしのボケにも彼女はいつも笑っていたな。
「うめこおおおおおおお!」
わしはその場で泣き崩れた。
事故で亡くなった妻の梅子がそこにはいた。
きっとわしは天国にでも来たのだろうか。
愛する妻に会いたいと何度も願っていたからな。
「じいじ、その人はだれ?」
振り返ると、ゆっくりとハルキが近づいてきた。
「ああ、ハルキは知らないよな。えーっと、おばあちゃんになるのか?」
「おばあ……ちゃん?」
ハルキはその場で首を傾げている。
理解するまでに時間がかかるのだろう。
「おばあちゃんって……あのおばあちゃん!?」
「ああ、そうだ」
ハルキもわしらのところまで駆け寄ろうとするが、なぜかポンとゴマが必死に止めている。
何か問題があるのか?
「じいじ、その人おばあちゃんじゃないって、ポンとゴマが言ってるよ?」
「そんなことないぞ?」
わしが知っているのは綺麗な黒髪にクリッとした真っ黒な瞳。
肌艶もわしと結婚した時の――。
「ほんとだ!? わしがじいじだから、梅子もばあばになってるはずじゃな!」
ハルキに言われなければ気づかなかった。
いくら先に亡くなったからって、そのままの姿ってわけではないしな。
それに視界の端にボヤけている知恵袋が気になる。
【魔物情報】
名前 ク■ばあば
詳細 暗所に――古びた納屋を好む。
肥大―― 温かい手からは煮物のにおいがし、短時間で群れを■■……ご飯を作って待っていてくれる。
枯専
属性 闇属性/精神支配属性
どうやらわしの妻は魔物のようだ。
どこかで見たステータスにも似ているような気がするが気のせいだろう。
「魔物だから隠しの家に気づかなかったのか……」
魔物でも妻として目の前に現れてくれただけでも嬉しい。
梅子の手を握り、ゆっくりと隠しの家に連れて行く。
『にゃー!』
『キィー!』
見慣れない人にポンとゴマも警戒をしているようだ。
セーフティーゾーンに入った瞬間、ポンとゴマが梅子に飛びかかる。
「キッ……あらあら、可愛いウサギとネコね」
寄ってきたポンとゴマを梅子は優しく抱きかかえる。
ポンもゴマもセーフティーゾーンの中では、普通のネコとウサギだもんな。
「そういえば、梅子は動物が好きだったな」
「キ……そうよ」
「ハルキも梅子に似たんだな」
ポンとゴマは逃げようとするが、梅子にしっかり掴まれて、逃げられないようだ。
「おばあちゃんも動物好きなの?」
「そうよ! もちろん、あなたのことも好きよ」
「おばあちゃん……」
ハルキは目をうるうるとさせていた。
生まれた時には祖母はいないし、残っている写真も少ない。
ハルキもおばあちゃんに会えて嬉しそうだ。
『にゃー!』
隠しの家に戻ると、突然ハルキが誰かが付いてきていると言い出した。
「ラブショターンか?」
彼女ならハルキの存在を知っているから問題ない。
だが、他のプレイヤーなら、ハルキの存在がバレるわけにはいかない。
「みんなは家の中に入っていなさい」
返事がないってことは、ラブショターンではないのだろう。
「じいじ、弱いのに大丈夫?」
「そうだよ? この中で一番おじいさんがお年寄りで体弱いし……」
優しいハルキとカナタはわしを心配しているようだ。
わしが頷くと、渋々ハルキとカナタは家の中に入っていく。
「おい、そこにいるやつは誰だ! 出てこないならわしからいくぞ!」
わしは装具を脱いで投げつけようとするが、その手を止めた。
「梅……」
わしは持っていた装具を投げ捨てる。
隠しの家のセーフティーエリアから飛び出て駆け寄る。
装具を外したことで、うまく歩けない。
それでも必死に足を前に出して走っていく。
――ドシャン!
顔面から勢いよく倒れたが、痛みなんて全く感じない。
その場で立ち止まることなく走る。
やっと会えたんだ……。
「じいじ!」
「おじいさん!」
ハルキとカナタが呼んでいるがそれどころではない。
なぜ彼女がいるのだろうか。
頭の中はその言葉でいっぱいだ。
考えることもできず、遅れて自動装着された装具のおかげか、少しは走りやすくなった。
「キッチ……あなた……」
ずっと会いたくて、会いたくて、死ぬことすら考えた。
でも、大事な娘を残してわしは死ぬことができなかった。
やっとわしは愛する彼女を抱きしめることができる。
その気持ちだけで、視界がボヤけて見えない。
これが白内障……こういう時でも出てしまうわしのボケにも彼女はいつも笑っていたな。
「うめこおおおおおおお!」
わしはその場で泣き崩れた。
事故で亡くなった妻の梅子がそこにはいた。
きっとわしは天国にでも来たのだろうか。
愛する妻に会いたいと何度も願っていたからな。
「じいじ、その人はだれ?」
振り返ると、ゆっくりとハルキが近づいてきた。
「ああ、ハルキは知らないよな。えーっと、おばあちゃんになるのか?」
「おばあ……ちゃん?」
ハルキはその場で首を傾げている。
理解するまでに時間がかかるのだろう。
「おばあちゃんって……あのおばあちゃん!?」
「ああ、そうだ」
ハルキもわしらのところまで駆け寄ろうとするが、なぜかポンとゴマが必死に止めている。
何か問題があるのか?
「じいじ、その人おばあちゃんじゃないって、ポンとゴマが言ってるよ?」
「そんなことないぞ?」
わしが知っているのは綺麗な黒髪にクリッとした真っ黒な瞳。
肌艶もわしと結婚した時の――。
「ほんとだ!? わしがじいじだから、梅子もばあばになってるはずじゃな!」
ハルキに言われなければ気づかなかった。
いくら先に亡くなったからって、そのままの姿ってわけではないしな。
それに視界の端にボヤけている知恵袋が気になる。
【魔物情報】
名前 ク■ばあば
詳細 暗所に――古びた納屋を好む。
肥大―― 温かい手からは煮物のにおいがし、短時間で群れを■■……ご飯を作って待っていてくれる。
枯専
属性 闇属性/精神支配属性
どうやらわしの妻は魔物のようだ。
どこかで見たステータスにも似ているような気がするが気のせいだろう。
「魔物だから隠しの家に気づかなかったのか……」
魔物でも妻として目の前に現れてくれただけでも嬉しい。
梅子の手を握り、ゆっくりと隠しの家に連れて行く。
『にゃー!』
『キィー!』
見慣れない人にポンとゴマも警戒をしているようだ。
セーフティーゾーンに入った瞬間、ポンとゴマが梅子に飛びかかる。
「キッ……あらあら、可愛いウサギとネコね」
寄ってきたポンとゴマを梅子は優しく抱きかかえる。
ポンもゴマもセーフティーゾーンの中では、普通のネコとウサギだもんな。
「そういえば、梅子は動物が好きだったな」
「キ……そうよ」
「ハルキも梅子に似たんだな」
ポンとゴマは逃げようとするが、梅子にしっかり掴まれて、逃げられないようだ。
「おばあちゃんも動物好きなの?」
「そうよ! もちろん、あなたのことも好きよ」
「おばあちゃん……」
ハルキは目をうるうるとさせていた。
生まれた時には祖母はいないし、残っている写真も少ない。
ハルキもおばあちゃんに会えて嬉しそうだ。
42
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる