異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

11.聖男、初めてのデートをする

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「準備はできたかな?」
「できたよー!」

 ルシアンの傷が治るまでは家でゆったりとした日々が続いた。
 家の中で一緒に勉強したり、映画を見たりと楽しい時間を過ごしたが、さすがにどこかに行った思い出を作った方が良いと思い、あるところに行くことにした。

「すいぞくかんってなにがいるの?」
「お魚やペンギン、イルカとトドのショーもあるって!」
「ほぉー、おいしいの?」
「んんっ!? 水族館は食べるんじゃなくて見るんだよ!」

 魚がいることを聞いて、きっと飲食店と勘違いしてそうだな。
 回転寿司も行ったことがあるから、尚更そう思うのも仕方ない。

「みにゃと、すいぞくかんはひとがおおいね」

 ルシアンは周囲をキョロキョロと見回す。
 確かにカップルや親子で来ている人が多い。

「デートに水族館は定番だもんね」
「そうなの? じゃあ、きょうはみにゃととデートだね!」

 さらっと一緒にいることをデートと言えるルシアンに将来の恐ろしさを感じた。
 罪深い男に成長しなければいいけどね。

 入場料を支払い入り口を抜けると、水の揺らめきが天井に反射し、静かな青の光に包まれた。

「わぁ……しゅごい……」

 ルシアンは初めての水族館で口を開けて、固まっていた。
 壁一面にある巨大な水槽に圧倒されているようだ。

「みにゃと、さかながとんでるよ!」

 ルシアンがガラスの向こうを指さして、目を輝かせていた。
 水槽の中では、銀色の魚たちが群れをなし、流れる川のように泳いでいる。

「どうしてさかなたちはケンカしないの?」

 確かに魚たちは争うことなく、同じ水槽で過ごしている。
 
「うーん……きっと自分の居場所を探すのが上手なんだと思うよ」

 岩や珊瑚に隠れているものもいれば、群れで行動している魚もいる。
 性格や種類が異なっていても、水族館スタッフがうまく調整しているのだろう。

「さかなのせかいもたいへんだね」

 そう言いながら、僕たちはトンネルの水槽に潜っていく。
 大きなマンタが頭上をゆったりと泳ぎ、その影が僕たちの頭上を通り過ぎた。
 まるで本当に海の中にいるような感覚になる。
 時間の流れがゆっくりになり、嫌なことさえも溶かしてしまうような、穏やかな静けさだ。

「みんなが平和な気持ちになればいいのにね」
「じゃあ、ぼくもさかなみたいにおだやかになる!」

 ルシアンは胸を張って宣言した。
 その無邪気さに思わず笑みがこぼれる。
 水槽の前で僕たちの影が青く重なった。
 まるで水族館には二人しかいないみたいだ。

「ずっと一緒にいられたらいいのにね……」
「みにゃと、ぼくがおおきくなるまでまっててね!」

 きっとルシアンなりに僕に心配かけないように言ってくれたのだろう。
 貴族の子どもなら尚更すぐには移住はできないし、これからずっと一緒にいられるかわからないしね。

「ふふふ、楽しみにしてるね! じゃあ、イルカのショーを見に行こうか!」
「うん!」
 
 ルシアンの手を握り、イルカのショーがある屋上に向かう。

「わぁー! みにゃと、すごいよ!」

 イルカのショーが始まると、観客の歓声と共に水しぶきが舞い上がった。
 僕の手を何度も強く握って、よほど興奮しているのだろう。

「んー、ちょっと遠いね」

 ルシアンは手を伸ばして水の粒を掴もうとするが届かない。
 それを水族館スタッフは見ていたのか、突然、前列の観客席にたくさんの水しぶきが飛んできた。
 イルカが尾鰭で水をかけてきたようだ。

「わっ!? つめたっ!」

 もちろんルシアンも例外ではなく、バシャッと頭から水をかぶっていた。

「ルシアン、大丈夫!?」
「へへへ、つめたいね」

 ルシアンは楽しそうに笑っていた。
 僕は急いでハンカチを取り出し拭いていると、ふと周囲の視線が気になった。
 ルシアンのシャツは布地が肌に張りつき、うっすらと傷跡が浮かび上がるほど濡れていた。
 誰かに見られたら、また変な誤解をされるかもしれない。
 嫌な思いもするのはルシアンだからね。
 僕は咄嗟に自分の上着を脱いで、そっとルシアンの肩にかけた。
 観客の視線を遮るように、彼の体を包み込む。

「みにゃと……?」
「ちょっと寒いでしょ。風邪ひいたら大変だからね」

 ルシアンは一瞬きょとんとした顔をしたあと、嬉しそうに僕の服に顔を埋めた。

「えへへ、みにゃとのにおいがする……」
「もう! 僕が着ていた服だからね」

 僕が苦笑すると、彼はさらにぎゅっと上着を握りしめた。
 まるで本当に包まれて守られているみたいに、安心しきった笑顔を浮かべている。
 その笑顔があまりに無邪気で、胸が少しだけ締めつけられた。

 イルカのショーが終わる頃には、夕方の風が少しだけ冷たくなった。
 濡れた服のままでは体が冷えてしまう。

「ルシアン、そろそろ帰ろうか」
「うん。イルカさん、またね!」

 名残惜しそうに手を振るルシアンの姿を見ながら、僕はルシアンの肩を軽く抱いて出口へ向かった。
 水族館の外に出ると、風が頬を撫でる。
 秋の匂いが混ざった空気の中、ルシアンの小さな手は少しだけ冷たかった。

「風邪ひかないように、帰ったらすぐお風呂に入ろうね」
「うん! みにゃともいっしょにね!」
「えぇっ……一緒に!?」

 思わず変な声が出て、ルシアンはケラケラと笑っていた。
 その笑い声が夕暮れの街に溶けていく。
 こんな時間が、いつまでも続けばいいのにな……。
 濡れた髪の先から滴る雫をそっと拭きながら、僕たちは初めて水族館で思い出を作った。
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