異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

12.聖男、甘えた少年に戸惑う

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「すいぞくかんすごかったね! イルカがザブーンって!」

 水族館を出てからというもの、ルシアンはずっとご機嫌だった。
 よほど楽しかったのか、連れて行ってよかったと思うほどだ。

「また今度行きたい?」
「うん! みにゃととどこでもいきたい!」

 純粋なルシアンの瞳に僕は微笑む。
 水族館の次は動物園とか植物園も楽しいかもしれないね。

「それにいっしょにおふろにはいるもんね」

 水族館でも言っていたが、そんなに一緒にお風呂に入りたいのだろうか。
 いつも僕が洗ってあげているし、ほぼ一緒に入っているようなものだが……。

「んー、一緒に入ってあげたいけど、まだケガしているから入れないかな?」
「えー! いっしょにはいろうよー」

 ルシアンは両手で僕の袖をぎゅっと掴み、まるで置いていかれまいと甘えてきた。

「そんな可愛い顔してもダメだよ。お湯につかるとまだ傷が沁みるでしょ? ちゃんと治ってからね」
「でも……みにゃとといっしょがいい……」

 拗ねた声に思わずため息が漏れる。
 痛みも和らいで、やっと外に遊びに行けるようになったけど、それでもまだ完全に治ったわけじゃない。
 ほんの少し無理をすると、傷口が化膿する可能性もあるからね。

「ルシアン、無理はだめだよ」
「もう痛くないもん!」

 頬を膨らませてルシアンは抗議する。
 その表情が可愛くて、つい笑いそうになるけれどここは譲れない。

「ダメ! お湯につけたら傷が開くかもしれないし、バイ菌が入ったら大変だ」

 言葉を強めると、ルシアンは口を噤んで視線を落とした。

「……しゃわーは?」
「シャワーならいいよ」

 そう言うと、ルシアンはしばらく考えてから、しょんぼりと頷いた。

「……みにゃとがあらってね」

 トボトボと歩く姿は落ち込んでいる子犬みたいだ。
 家に着くとルシアンはすぐにベタベタになった服を洗濯カゴに入れて浴室に向かう。

「ねぇ、なんでみにゃとはふくをきてるの?」
「ん? だって僕はあとから入るもん」
「がーん!」

 そこまでして僕とお風呂に入りたがるのはなぜだろうか。
 今までは全くそんなことを言わなかったのに……。

「みにゃとにあらってもらうからいいもん!」

 ルシアンはバスチェアに座ると、僕に頭を押し付けてくる。
 本当に行動一つ一つが可愛いらしい。
 僕はお湯の温度を確かめてから、そっとシャワーを流した。
 ぬるめのお湯が静かに流れ、湯気が立ち上る。

「冷たくない?」
「ううん。きもちいいよ」

 ルシアンは目を閉じて、気持ちよさそうにしている。
 僕はシャワーの角度を少し変えながら、髪を優しく濡らした。
 ルシアンの髪は指の間を滑るぐらい細くて柔らかい。
 シャンプーを手に取り、泡立てながら洗っていく。
 最初はくすぐったそうに肩をすくめていたが、次第に静かになって、目を閉じたままじっとしていた。
 僕を信頼しているのか、されるがまま洗われている。

「よし、これでいいかな」

 全て洗い終わる頃には、ルシアンの表情は穏やかだった。
 タオルで髪を拭いてあげると、彼はそのまま僕の顔をじっと見上げていた。

「ねぇ、みにゃと!」
「なーに?」

 今日は唐突なことを言うから少し警戒している。

「いっしょにねてもいい?」

 ルシアンが、小さな声でつぶやいた。
 目をそらしながら、必死に言葉を探している。
 その声は確かめたいようで、どこか寂しげだった。
 僕は少しだけ迷ってから、それでも静かに頷いた

「いいよ。ただし、ちゃんと寝るんだぞ」

 ルシアンが少し大きくなったのもあり、ベッドを使ってもらい僕は隣に布団を敷いていた。
 それに寝相が悪くてケガをさせたらいけないからね。

「やったー!」

 弾けるように笑って、そのまま部屋へ駆けていった。

「まだドライヤーしてないぞー」
「あっ!」

 ルシアンはすぐに戻ってくると、僕に頭を向けてきた。
 乾かすのもやってほしいってことだろう。
 髪を乾かすと、寝室の明かりを落としてベッドに入る。
 ルシアンは僕の腕に頭を乗せ、すぐに目を閉じた。

「みにゃと……?」
「どうしたの?」
「いっしょにねるんだからね?」
「わかったよ!」

 僕がお風呂に入っていないため、後でベッドから抜け出すのがバレていたようだ。
 約束するとルシアンは安心したのか、呼吸が少しずつゆっくりになってくる。
 
「ねぇ……」

 半分眠ったような声でルシアンが呟く。

「きょうね……すごくたのしかった。またあそびにいこうね」
「うん、約束する」

 そう答えると、彼は満足そうに微笑んで再び目を閉じた。
 その寝顔を見つめながら、僕はそっと息を吐く。

「おやすみ……ルシアン」

 小さく囁くと部屋は静まり返った。
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