異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

文字の大きさ
13 / 53
第一章 少年との出会い

13.聖男、日常が戻ってくる

しおりを挟む
 僕は前回と同じようにルシアンに持たせるリュックサックを用意していた。
 この間は本ばかり詰めていたけど、今回は少し違う。
 絆創膏や軟膏、ガーゼや包帯、解熱剤や風邪薬など市販で買えるものを揃えた。
 ルシアンに聞いたら、どれもが異世界では中々見かけないものらしく、使用方法を紙に書いて詰めていく。

「みにゃと、これはなに?」
「それは痛み止めと解熱効果がある薬だよ」

 ルシアンの世界で使えるかはわからない。
 ただ、また傷を負った時に痛みを和らげることができる。
 帰るルシアンに僕ができるのはこれぐらいだからね。
 正直、返したくはないけどルシアンの気持ちは尊重したい。
 彼なりに頑張ろうとしているから、それをサポートすることにした。

「またケガしたら、みにゃとがなおしてくれるの?」
「治すけど、もうケガしないようにね?」

 ルシアンは少しだけうつむいた。
 きっと、あの傷の痛みを思い出したのだろう。
 それでもすぐに顔を上げて、いつもの笑顔を見せてくれた。

「じゃあ、つぎは……いっしょにおふろにはいろうね!」

 突然の一言に、思わず手が止まった。

「またその話?」
「うん、やくそくだもん!」
「でも、ケガをしていたらダメだからね?」
「だいじょうぶ、もうしないもん!」 

 そう言いながら、ルシアンは胸を張った。
 どうしてそんなにお風呂にこだわるのかは、正直よくわからない。
 きっと同じ時間を過ごしたいだけなんだろう。
 だが、その姿を見てどこか安心した。
 ルシアンは寝ている時にいつも震えていた。
 僕も帰るのが怖いのは気づいていたからね。

 クローゼットの前に立つと、ルシアンはいつものように小さく呪文を唱える。
 風がどこからか吹き込み、淡い光が周囲を取り囲む。
 ルシアンは振り変えると、僕の手をギュッと握る。

「みにゃと、ありがと。またくるね!」
「次に来るときは、もっと元気な顔を見せてね」
「やくそく!」

 僕はルシアンとゆびきりをする。
 彼の笑顔が光に包まれて、ゆっくりと消えていく。
 その手の温もりが離れた瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられた。
 静かになった部屋で、僕はしばらく座り込む。

「来月もまた会えるよね……」

 呟いた声が部屋の中で小さく響いた。
 今度も確実に来るかどうかはわからない。
 そんな確証はどこにもないからね。
 ただ、僕はまたここでルシアンが来るのを待っていた。


 ♢


 ルシアンとの時間は一瞬だったが、再び日常に戻ると長く感じる。
 昼休みを早めに終えた僕がナースステーションでカルテの記載をしていると、どこか空気が重くなった。

「橘さん、また有給? ちょっと取りすぎじゃない? 他の人のことも考えてもらわないと困るのよね」

 主任看護師の言葉に、周囲が一瞬だけ静まり返る。
 来月の希望休を見て言っているのだろう。

「すみません」

 僕はすぐに頭を下げて謝った。

「有給を取ったらダメとは言わないわ。でも、家庭を持っている人もたくさんいるから、配慮はしてもらわないと困るわよ。ねぇ?」
「そっ……そうね……」

 雰囲気からして近くの看護師も頷くしかなさそうだった。
 僕は独身だから、尚更言われることもある。
 本当は言い返したい気持ちもあったが、波風を立てるのはもっと疲れる。
 仕事を再開すると、同期の由香が小声で近づいてきた。

「気にしないでいいよ。あの人最近ずっとピリピリしてるから」
「ありがとう」

 僕が小さく笑うと、由香はジーッと僕の顔を覗き込む。

「ねぇ、最近何かあったでしょ? 」

 さすが同期。ずっと一緒に働いているから、小さな変化も見逃さない。

「……親戚の子をしばらく預かってたんだ」

 言葉を選びながら、僕は少しだけ事情を伝える。

「ちょっと事情があって、ケガもしているから心配で……」

 説明すればするほど、言い訳に聞こえそうだし、現実味を帯びていない。
 ただ、由香は頷きながら、何も言い返すことなく聞いてくれた。

「そっか……。湊って本当に面倒見がいいよね」
「まあ、看護師だからね」
「確かに!」

 僕と由香は顔を見合わせて笑う。

――ドンッ!

「怖っ! まだ休憩なのに睨んでるよ」

 後ろから音が聞こえて振り返ると、睨んでいる主任看護師と目が合う。

「だから裏でお局って呼ばれているのわからないのかな?」
「由香、声が大きいよ!」

 僕は口元に指を当てて、静かにジェスチャーするように伝える。
 本当に僕の同期は強いな。
 そこは僕も見習わないとね。

 昼休みが終わり、再びナースコールが鳴り響く。

「行ってくるね」
「頑張ってー」

 僕は病室へ向かう途中でふと立ち止まった。
 正直、主任看護師の声が頭に残っていた。

(来月からはあまり休めないだろうな……)

 ルシアンのことを思い出す。
 あの小さな手、笑顔、そして甘えたような声。
 現実の仕事とルシアンの声が心の中で交錯する。

 「今は患者のために働かないとね!」

 小さく息を吐き、それでも笑顔を作る。
 看護師としての顔を作り直して、いつもの日常へ戻っていく。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...