異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

21.聖男、ホットケーキはいつもの味?

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「あのー、ルシアンくん?」
「なに?」
「……さすがに、これはちょっと違うと思うんだけど?」

 思わず語尾が弱くなる。
 目の前の光景に頭が追いつかない。
 いつものようにホットケーキを作って、食べるつもりでいた。
 だが、なぜか思っていたことと違う形になり、僕は戸惑いを隠せない。

「別に俺がみにゃとに食べさせてもおかしくないよね?」
「いや、さすがにおかしいし、これもおかしくない?」

 僕はルシアンの足元に指をさす。
 だが、ルシアンはいつものように首を傾げていた。

「おかしくないよ?」
「うっ……」

 そう言われると、不思議と反論できなくなる。
 まっすぐな瞳に見つめられて、言葉が喉の奥で止まった。
 だって――。

 ルシアンの膝の上に僕が座るって、普通に考えておかしいでしょ!

 しかも、肩越しに伝わる体温がやけに熱い。
 鼓動のリズムが僕に重なって響いてくる。
 ホットケーキを作るところまではいつも通りでよかった。
 だが、その後からおかしくなった。
 普段ならルシアンが嬉しそうにホットケーキを運ぶでしょ。
 でも今回はホットケーキとが抱えられて運ばれることになった。
 そして、そのまま膝の上に抱きかかえられる形で座らされ、口元にはフォークに刺したホットケーキが押さえつけられた。

「ほら、みにゃとあーんする」
「恥ずかしいって……」
「ほらほら!」

 さすがに27歳の男にこれはない。
 何かの羞恥プレイかと思ってしまうほどだ。

「ほら、もうやめよ? ホットケーキも冷めちゃうよ?」
「また温めればいいよ。もう、電子レンジの使い方もわかるし」
「くっ……」

 このままだとずっと言い合いが繰り返されるのだろう。
 僕が仕方なく口を開けると、ホットケーキが放り込まれる。
 少し食べさせ方が雑だが、それもどこかルシアンぽかった。

 けれど、彼の手が僕の頬に触れた瞬間、心臓が跳ねた。
 大きくて、あたたかくて、どこか頼もしい手をしていた。
 ああ、この子はもう僕の知っていた〝少年〟じゃない。
 そう現実を突きつけられた気がした。

「うん、ホットケーキはいつ食べても美味しいね」

 それでもホットケーキはいつもと変わらない味がする。

「俺が食べさせてあげるからじゃなくて?」

 さっきからこのムズムズするのはなんだろうと思っていた。
 だが、今になってはっきりと気づいた。

「やっぱりルシアンが可愛くない!」

 いつものルシアンは自分のことを〝僕〟と呼んでいた。
 ただ、今は〝俺〟と呼び、低くなった声がゾクッとする。

「何言ってるの? 俺はいつでも可愛いよ?」
「うっ……」

 目をキラキラさせて僕を見つめてくる。
 こういうところは変わらないよ。
 だけど、なんというのか……。
 計算高くなっている!

 僕はルシアンの手からフォークを奪うと、そのまま向きを変える。
 傍から見たら、座っているルシアンに馬乗りになっている状態だ。

「可愛いなら食べさせられるのはルシアンだよね?」
「ふふふ、あーん!」

 そう言って、ルシアンは口を開けて待っていた。
 俺はホットケーキをルシアンの口の中に入れると、嬉しそうに微笑んでいた。
 この笑顔を見ていると、何も言えなくなる。
 僕はため息混じりに笑いながら、もう一切れをフォークに刺した。
 確かに昔のルシアンとはやっていることは変わらない。
 だけど、ルシアンであって、ルシアンじゃないってのが正解だろう。
 その後もルシアンが口を開けて待っているから、僕はホットケーキを全て食べさせ続けた。

「次は、一緒に作ろっか……」

 作り方を教えれば、一人で準備して一人で食べるだろう。
 僕はなんとなくそう思った。

「うん! みにゃとが教えてくれるなら、頑張って覚えないとね!」

 ルシアンの言葉に胸の奥が少しだけ熱くなる。
 大きくなっても、どこか頼ってくれるルシアンがそこにはいた。
 ただ、急な成長には僕の心は追いつけないでいた。
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