異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

31.聖男、ルシアンに部下ができていた

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 糸目の男性はジーッと僕を見つめる。
 怪しむ様子はなく、僕が誰かを確かめているようだ。

「ほんとに聖男……」
「聖男……?」
「あっ、ミナト様で合っていますか?」

 僕はこくりと頷く。
 男性は驚きながらも、僕の手を取ると手の甲に軽くキスを落とした。

「ルシアン様の部下をしております。アシュレイと申します」
「アシュレイさんですか……ってルシアンの部下だって!?」

 僕はその言葉を聞いて驚いた。
 それとともに少しだけホッとした。
 ルシアンにも部下がいるってことは、しっかり働いているってことだ。

「えぇ、ルシアン様は我が国の宰相をしております」
「宰相……」
「国王の次にえらい人になりますね」

 日本で言う国王は天皇みたいなものだろう。
 そうなると――。

「総理大臣ってこと!?」
「総理大臣がどなたか存じ上げませんが、地位で言ったら高い方になりますね」
「ふふふ、ルシアンが総理大臣か……。でも元気で良かったです」

 僕の知らないうちにルシアンはかなり高いところまで、社会的地位を上り詰めていた。
 あんなに小さかったルシアンが本当に遠くに行ってしまった。
 成長した嬉しさと、どことなく寂しさを感じる。
 きっと僕とは不釣り合いの人になっているのだろう。

「それが知れたので良かったです。じゃあ、僕は帰り――」
「帰れませんよ? きっと一年以上は……」
「あっ……」

 僕は大事なことを忘れていた。
 ルシアンの世界で一年以上経たないと、現実の世界には戻れないということを。
 しばらくはこの世界で生活することが決まってしまった。

「私はミナト様がもし来たら迎えに行ってくれと言われていたんです」
「ルシアンは僕が来ることを事前にわかっていたんですか?」
「いえ、ルシアン様が離れられないので、ミナト様が来るかもしれないと」

 アシュレイの言葉に僕はついつい笑ってしまう。
 大人になったルシアンに僕の行動は見透かされていたんだね。
 確かに総理大臣……いや、宰相になった人が長いこと離れることはできない。
 可能性は低くても、僕がこっちに来るかもしれないって思ったのだろう。
 今度は僕が時折ここに通うことになるのかもしれないね。

「では、ミナト様失礼しますね」

 そう言って、アシュレイは迷わず腕を回し、僕をお姫様抱っこした。
 しっかり支えられ、宙に浮いた感覚に少しドキッとする。

「あの……さすがに恥ずかしいんです……。それに重たいですし――」

 僕もアラサーの男性だ。
 いくら彼が大きいからって、男性を抱きかかえるのは重たいはず。

「いえ、とても軽いですよ。それに素足で歩かれたら、私が怒られてしまいます」

 そういえば、部屋の中から直接来たから靴を履いていない。
 この世界に来れることがわかっていたなら、たくさんのお土産を持ってきたのに残念だ。

「わかりました。よろしくお願いします」

 僕は頭を下げると、落ちないようにアシュレイに抱きついた。

「くっ、可愛い……」
「どうかしましたか?」

 何か聞こえたと思い、僕はアシュレイを見上げる。
 糸目の彼が少しだけ目を見開いて、ジーッと僕を見つめていた。

「綺麗な瞳をしているんですね」

 澄んだグレーの瞳をしていた。
 ルシアンもだけど、綺麗な瞳をした人が多いのだろう。

「はぁー、行きますね……」

 僕はアシュレイに運ばれる形でルシアンの元へ向かうことになった。


「ははは、速いですね!」

 アシュレイは身軽なのか、素早く僕を抱きかかえながら走っていく。
 アトラクションに乗っているみたいで、僕は少し楽しくなっていた。

 僕がいたのはどこかの小さな建物だった。
 隣には大きな屋敷があり、アシュレイが通るとメイド服を着た女性や執事っぽい人が頭を下げている。

「今からどこに向かうんですか?」
「ルシアン様は城で働かれています」
「……城ッ!?」

 日常ではあまり聞かない言葉に、思わず声が裏返る。
 確かに国王がいる場所が城で、宰相であるルシアンがそこで働いていてもおかしくはない。
 アシュレイによると、王族は城の奥にある王宮に住んでおり、城はあくまで仕事場のようなものらしい。
 貴族も多く、ルシアン以外の人々には注意するように言われた。
 きっと官僚や議員のような人たちがいるのだろう。

 しばらく運ばれていると、大きな城が見えてきた。
 本当にあの甘えん坊なルシアンがここで働いているのかと心配になってきた。
 子どもがちゃんと働いているのか心配になって、職場を見にきた親の気持ちがわかる気がする。

「おい、今すぐに人を騎士訓練場に回せ!」
「回復薬を用意しろ!」

 城に入るとどこか慌ただしいような空気感が漂っていた。
 まるで救急病棟のように、走る足音と叫び声があちこちから聞こえてくる。

「何かあったんですかね?」
「聞いてみますね」

 僕が隠れるように背中のマントをふわりとかけた。
 アシュレイは走っている人に声をかけると、彼は驚きながらもすぐに姿勢を正した。

「騎士団の半数以上が謎の体調不良で倒れています!」
「そうか……助かった」

 アシュレイがお礼を伝えると、男性は急いで走って行った。
 どうやら城の中で大変なことになっているようだ。

「僕もお手伝いしましょうか?」
「いえ、ミナト様に手伝わせるわけには……」
「これでも看護師なので、少しは役に立つかもしれないですよ!」

 きっと現場は慌ただしいことになっているだろう。
 それにルシアンの世界の医療がどこまで発展しているのか少し気になった。
 どうせすぐに行っても、仕事をしているルシアンに会えるかどうかわからないしね。

「はぁー、わかりました。騎士団の訓練場に向かいますね」

 アシュレイはため息をつくと、僕を抱えて再び走り出した。
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