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第二章 君は宰相になっていた
30.聖男、心と体の異変
「湊、相変わらず目の下が真っ黒だよ?」
「ははは、中々寝付けなくてね……」
僕はいつものように仕事に行き、いつものように看護をする。
今の僕にしたら、これが一番気持ちが落ち着いて、楽になれているような気がした。
「またルシアンくんのこと考えてたの?」
「ははは、もう何も考えてないよ。さぁ、仕事に戻ろ!」
口では元気に強がっていても、心と体は正直だ。
あの日、ルシアンが帰ってから、すでに一年以上が過ぎた。
学園に通うと言っていたから、しばらく来れないのはわかっている。
でも、半年が経ち……一年が経っても、ルシアンが姿を現すことはなかった。
僕の片想いは、伝えることもなく終わってしまった。
別にそれはそれで構わない。
ルシアンが元気に生きているのがわかればね。
毎日ケガばかりしていた姿を見ていたから、心配になってしまう。
「橘さん、ちょっといいかし――」
誰かが僕を呼んでいる気がする。
ゆっくり振り向いたはずだが、体が言うことを聞かずにその場に倒れていく。
「橘さん!」
僕はそのまま動けずに倒れてしまった。
手足を動かそうとしてもうまく動かない。
まるで電池が切れたおもちゃのようだ。
すぐに担架が来て、僕は運ばれていく。
意識はあるのに頭がボーッとする。
次第に病棟の看護師が集まり、医師がかけつけた。
「ただの過労だから点滴を処方しておくよ。橘くんを働かせすぎじゃない?」
「いや、しっかり休みはとってもらってますし……」
ベテランの看護師は医師に問い詰められているようだ。
「橘くんはしばらく休んでから帰りなよ。しばらく体調が戻らないなら、心の問題もあるから気をつけてね」
そう言って、優しい言葉をかけてくれた医師は仕事に戻った。
僕の腕には点滴が繋がれて、ゆっくりと体を潤していく。
そういえば、しばらくご飯を食べていなかったし、水分すらも摂っていなかった。
それで寝ていなかったら、倒れるのも仕方ない。
医師は心の問題もあると言っていたが、心の問題しかないのは僕もわかっている。
「湊、大丈夫……?」
寝ている僕を心配して、由香が顔を出した。
僕が笑いながら手を振ると、なぜか由香の顔は辛そうにしていた。
「ねぇ、しばらく仕事を休んだらどう? リフレッシュしたら気持ちも変わるよ?」
「そうだね……」
由香は僕がルシアンをどう思っているのか、きっと気づいているだろう。
ただ、自分から何か言うわけでもなく、話をずっと聞いてくれている。
さすが看護師だね。傾聴のプロだ。
僕はそのまま由香の提案を受け入れて、しばらく休職することにした。
♢
「いただきます」
僕はホットケーキを作って、一人でゆっくりと食べていく。
あれから少しずつ元気になってきた。
だけど、ぽっかり空いた気持ちは塞がらないままだ。
「今日……帰る日だったのか……」
パソコンのカレンダーにはルシアンの予定が書いてあった。
映画でも見ようかとつけたパソコンにも、ルシアンとの思い出が詰まっていた。
「はぁー、今日で考えるのは終わりにしよう」
僕はそう思い、ふとルシアンが唱えていた呪文を口ずさむ。
「セレノア・ヴェルン・ラグナ・フィオーレ……だったかな?」
なぜか最後に帰っていくときだけ、はっきり言葉が聞こえたんだよね。
まぁ、こんなことを言っても、何かが起こるわけでも――。
周囲にふわりと風が舞い上がり、僕の周りに集まっている。
「まさかこれって……」
その瞬間、眩い光が僕を襲う。
思わずグッと目をつぶって、しばらくその場で待ってみる。
ルシアンの世界に行く。
それはどこかで夢見ていたことでもある。
ただ、絶対に叶うことのない夢。
今だけでもそんな気分を味わいたかった。
「ルシアンは元気なのかな……」
「ルシアン様のお知り合いですか?」
「へっ……!?」
突然、声をかけられて僕は驚いた。
だって自分の部屋には誰一人もいないはず。
ゆっくり目を開けると、黒い髪に糸目の男性が立っていた。
「誰ですか……?」
どことなく危なそうな、でもどこか優しさを感じるような笑みを男性は浮かべていた。
「ははは、中々寝付けなくてね……」
僕はいつものように仕事に行き、いつものように看護をする。
今の僕にしたら、これが一番気持ちが落ち着いて、楽になれているような気がした。
「またルシアンくんのこと考えてたの?」
「ははは、もう何も考えてないよ。さぁ、仕事に戻ろ!」
口では元気に強がっていても、心と体は正直だ。
あの日、ルシアンが帰ってから、すでに一年以上が過ぎた。
学園に通うと言っていたから、しばらく来れないのはわかっている。
でも、半年が経ち……一年が経っても、ルシアンが姿を現すことはなかった。
僕の片想いは、伝えることもなく終わってしまった。
別にそれはそれで構わない。
ルシアンが元気に生きているのがわかればね。
毎日ケガばかりしていた姿を見ていたから、心配になってしまう。
「橘さん、ちょっといいかし――」
誰かが僕を呼んでいる気がする。
ゆっくり振り向いたはずだが、体が言うことを聞かずにその場に倒れていく。
「橘さん!」
僕はそのまま動けずに倒れてしまった。
手足を動かそうとしてもうまく動かない。
まるで電池が切れたおもちゃのようだ。
すぐに担架が来て、僕は運ばれていく。
意識はあるのに頭がボーッとする。
次第に病棟の看護師が集まり、医師がかけつけた。
「ただの過労だから点滴を処方しておくよ。橘くんを働かせすぎじゃない?」
「いや、しっかり休みはとってもらってますし……」
ベテランの看護師は医師に問い詰められているようだ。
「橘くんはしばらく休んでから帰りなよ。しばらく体調が戻らないなら、心の問題もあるから気をつけてね」
そう言って、優しい言葉をかけてくれた医師は仕事に戻った。
僕の腕には点滴が繋がれて、ゆっくりと体を潤していく。
そういえば、しばらくご飯を食べていなかったし、水分すらも摂っていなかった。
それで寝ていなかったら、倒れるのも仕方ない。
医師は心の問題もあると言っていたが、心の問題しかないのは僕もわかっている。
「湊、大丈夫……?」
寝ている僕を心配して、由香が顔を出した。
僕が笑いながら手を振ると、なぜか由香の顔は辛そうにしていた。
「ねぇ、しばらく仕事を休んだらどう? リフレッシュしたら気持ちも変わるよ?」
「そうだね……」
由香は僕がルシアンをどう思っているのか、きっと気づいているだろう。
ただ、自分から何か言うわけでもなく、話をずっと聞いてくれている。
さすが看護師だね。傾聴のプロだ。
僕はそのまま由香の提案を受け入れて、しばらく休職することにした。
♢
「いただきます」
僕はホットケーキを作って、一人でゆっくりと食べていく。
あれから少しずつ元気になってきた。
だけど、ぽっかり空いた気持ちは塞がらないままだ。
「今日……帰る日だったのか……」
パソコンのカレンダーにはルシアンの予定が書いてあった。
映画でも見ようかとつけたパソコンにも、ルシアンとの思い出が詰まっていた。
「はぁー、今日で考えるのは終わりにしよう」
僕はそう思い、ふとルシアンが唱えていた呪文を口ずさむ。
「セレノア・ヴェルン・ラグナ・フィオーレ……だったかな?」
なぜか最後に帰っていくときだけ、はっきり言葉が聞こえたんだよね。
まぁ、こんなことを言っても、何かが起こるわけでも――。
周囲にふわりと風が舞い上がり、僕の周りに集まっている。
「まさかこれって……」
その瞬間、眩い光が僕を襲う。
思わずグッと目をつぶって、しばらくその場で待ってみる。
ルシアンの世界に行く。
それはどこかで夢見ていたことでもある。
ただ、絶対に叶うことのない夢。
今だけでもそんな気分を味わいたかった。
「ルシアンは元気なのかな……」
「ルシアン様のお知り合いですか?」
「へっ……!?」
突然、声をかけられて僕は驚いた。
だって自分の部屋には誰一人もいないはず。
ゆっくり目を開けると、黒い髪に糸目の男性が立っていた。
「誰ですか……?」
どことなく危なそうな、でもどこか優しさを感じるような笑みを男性は浮かべていた。
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