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第二章 君は宰相になっていた
34.聖男、知らない間の変化
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「ここがルシアンの職場なんですね……」
「ふふーん、そうだよ」
ルシアンに運ばれた僕は周囲を見ることしかできなかった。
なぜかルシアンは鼻歌交じりで喜んでいるし、チラッと見上げると毎回目が合っていた。
勘違いかもしれないが、ずっと僕を見ている気がする。
「そういえば、なぜ来てくれなかったの?」
僕の言葉にゆっくりとルシアンは足を止めた。
何とも言えない表情に僕はゆっくりと息を呑む。
「実は色々と種を蒔いていたことがうまくいって、学園を卒業したと同時に宰相候補になっていたんだ」
「それって芋が関係する?」
ルシアンは頷くと、再び足を動かしだした。
「みにゃとと会っていた時はちょうど食料問題で国全体で食べるものがなくなっていた時期なんだ。そこで働き先もなく、ただ死ぬのを待っていた孤児を集めて畑を作ることにした」
ルシアンはさつまいもの苗や種芋を持ち帰って次の年には小ぶりでも実ったと言っていた。
その次には色んな野菜の種を持たせたけど……。
「最後にこっちへ来た時の種はどうなったの?」
ルシアンは窓際に僕を座らせると、そのまま窓を開けた。
外から入ってくる風に僕は急いでルシアンを掴む。
普通に考えて窓から落ちたらどうするつもりなんだ。
「全て実になって……あそこだ!」
「すごい緑が溢れてるね」
「あれ全部が畑だ」
城を中心に遠くの方まで緑に囲まれていた。
ルシアンの話ではほとんどが荒地になっていたため、あの当時と比べたら全く環境が異なるらしい。
その結果、餓死して死ぬ人はいなくなり、どうにか人口も維持できている。
「でもそれだけだと宰相になれるもんなの? ルシアンの功績なら子爵とかぐらいじゃ……」
チラッとルシアンの顔をみると、キラキラした目で僕の顔を見ていた。
こういうところは大人になっても変わらないな。
「みにゃと、貴族のことを調べたんだね!」
「あー、わかる範囲でね?」
ルシアンが貴族という話は聞いていたため、一度調べることにした。
何となく公爵家の末っ子と聞いていたから、ルシアンが公爵家を継ぐことはほぼない。
そうなると、自身で活躍をして爵位をもらわない限り宰相にはなれないだろう。
ただ、宰相になるにはそれ相当の爵位が必要だし……。
いくら畑で食料問題を解決したからと言って、宰相にはなれないだろう。
「実は日本の技術をたくさん取り入れたんだ。今度町に連れて行ってあげる」
「楽しみにしておくね」
どうやら町に行ったらルシアンの功績がわかるようだ。
きっとライフラインに関わることなんだろう。
衣食住が整うだけで、生活は一気に変わるからね。
貧困の国が潤った国へと変われば、さすがに宰相として認めるしかなかったってことだね。
ルシアンは再び僕を抱えると、どこかへ歩き出す。
そういえば、どこに向かっているのだろうか。
周囲を歩く人たちが、みんな僕たちを見て驚きながらも頭を下げている。
それだけルシアンがすごい地位になったってことだね。
言われるがまま運ばれていると、ルシアンは立ち止まった。
「ここが俺の仕事場だ」
そう言って扉を開けると、大きな部屋に机が一つだけ置かれていた。
ただ、周囲の本の数と紙の枚数が異常なほど多かった。
一瞬、図書室かと思うぐらい本が置いてある。
しかも、棚だけではなく、床にも積み上がっている。
僕はルシアンに下ろしてもらうと、部屋の中をゆっくりと歩く。
「あっ……これ僕が買った本だね」
「一番初めに買ってもらったドリルも大事にしているぞ」
僕が初めてルシアンと出会った時に買ったひらがなドリル。
これがきっかけでルシアンに日本語を教えたんだっけな。
一緒に勉強したのが一年以上前だから、ルシアンにとったらだいぶ前なんだよな。
紙もボロボロだし、色もハゲている。
僕はその後も部屋の中を歩いていると、ある本に目が止まった。
「ねぇ……これって何の本?」
――〝君の初恋は僕の初恋〟
パッケージには男子高校生二人が描かれていた。
漫画なんて買った覚えはないんだけどな……。
「うわあああああ! それは見るな!」
勢いよくルシアンは僕に詰め寄ってきた。
本棚と挟まれながら、僕の腕からルシアンは本を取り上げる。
「そんなに焦るような本なの?」
「これはえーっと……あいつ……誰だっけ? みにゃとの友達……」
「由香のこと?」
ルシアンにとったら由香に会ったのもだいぶ前だもんね。
僕の友達という認識で由香を覚えていたようだ。
ただ、名前も忘れているって……由香には可哀想だけど少しだけ嬉しくなった。
あの当時、ルシアンと楽しく話している由香を見て嫉妬していたのが懐かしい。
「そうそう! 恋愛を学びなさいって渡された」
「確かに由香から本を渡されたことがあったね」
あの当時もルシアンは急いで本を隠していたっけ。
男性同士の漫画を渡して由香は何を学ばせたかったのか……。
「みにゃとどうした?」
「いや、何でもない」
由香はきっと僕たちのことを応援してくれていたのだろう。
だから、男同士が載っている漫画を渡して、恋愛を学べって……。
恥ずかしい思いとともに、由香の応援が少し嬉しくなった。
今度こそルシアンに会えたら、僕も気持ちを伝えたいと思っていた。
今なら――。
「ねぇ、ルシアン」
「なに?」
「ルシアンは……誰か好きな人がいるの?」
僕は勇気を振り絞ってルシアンに聞いてみた。
ルシアンにとったらこの10年間何かあったのかもしれない。
それでも僕は聞いてみたかった。
ルシアンの緑色の瞳が僕の瞳をジーッと見つめる。
あまりの恥ずかしさに視線を逸らそうとするが、ルシアンの大きな手で僕の頬を包む。
大きくなった手は僕の顔を簡単に動かせてはくれない。
だけど、僕の視線にはあるものが見えていた。
左手の薬指には、指輪が光っていた。
「ふふーん、そうだよ」
ルシアンに運ばれた僕は周囲を見ることしかできなかった。
なぜかルシアンは鼻歌交じりで喜んでいるし、チラッと見上げると毎回目が合っていた。
勘違いかもしれないが、ずっと僕を見ている気がする。
「そういえば、なぜ来てくれなかったの?」
僕の言葉にゆっくりとルシアンは足を止めた。
何とも言えない表情に僕はゆっくりと息を呑む。
「実は色々と種を蒔いていたことがうまくいって、学園を卒業したと同時に宰相候補になっていたんだ」
「それって芋が関係する?」
ルシアンは頷くと、再び足を動かしだした。
「みにゃとと会っていた時はちょうど食料問題で国全体で食べるものがなくなっていた時期なんだ。そこで働き先もなく、ただ死ぬのを待っていた孤児を集めて畑を作ることにした」
ルシアンはさつまいもの苗や種芋を持ち帰って次の年には小ぶりでも実ったと言っていた。
その次には色んな野菜の種を持たせたけど……。
「最後にこっちへ来た時の種はどうなったの?」
ルシアンは窓際に僕を座らせると、そのまま窓を開けた。
外から入ってくる風に僕は急いでルシアンを掴む。
普通に考えて窓から落ちたらどうするつもりなんだ。
「全て実になって……あそこだ!」
「すごい緑が溢れてるね」
「あれ全部が畑だ」
城を中心に遠くの方まで緑に囲まれていた。
ルシアンの話ではほとんどが荒地になっていたため、あの当時と比べたら全く環境が異なるらしい。
その結果、餓死して死ぬ人はいなくなり、どうにか人口も維持できている。
「でもそれだけだと宰相になれるもんなの? ルシアンの功績なら子爵とかぐらいじゃ……」
チラッとルシアンの顔をみると、キラキラした目で僕の顔を見ていた。
こういうところは大人になっても変わらないな。
「みにゃと、貴族のことを調べたんだね!」
「あー、わかる範囲でね?」
ルシアンが貴族という話は聞いていたため、一度調べることにした。
何となく公爵家の末っ子と聞いていたから、ルシアンが公爵家を継ぐことはほぼない。
そうなると、自身で活躍をして爵位をもらわない限り宰相にはなれないだろう。
ただ、宰相になるにはそれ相当の爵位が必要だし……。
いくら畑で食料問題を解決したからと言って、宰相にはなれないだろう。
「実は日本の技術をたくさん取り入れたんだ。今度町に連れて行ってあげる」
「楽しみにしておくね」
どうやら町に行ったらルシアンの功績がわかるようだ。
きっとライフラインに関わることなんだろう。
衣食住が整うだけで、生活は一気に変わるからね。
貧困の国が潤った国へと変われば、さすがに宰相として認めるしかなかったってことだね。
ルシアンは再び僕を抱えると、どこかへ歩き出す。
そういえば、どこに向かっているのだろうか。
周囲を歩く人たちが、みんな僕たちを見て驚きながらも頭を下げている。
それだけルシアンがすごい地位になったってことだね。
言われるがまま運ばれていると、ルシアンは立ち止まった。
「ここが俺の仕事場だ」
そう言って扉を開けると、大きな部屋に机が一つだけ置かれていた。
ただ、周囲の本の数と紙の枚数が異常なほど多かった。
一瞬、図書室かと思うぐらい本が置いてある。
しかも、棚だけではなく、床にも積み上がっている。
僕はルシアンに下ろしてもらうと、部屋の中をゆっくりと歩く。
「あっ……これ僕が買った本だね」
「一番初めに買ってもらったドリルも大事にしているぞ」
僕が初めてルシアンと出会った時に買ったひらがなドリル。
これがきっかけでルシアンに日本語を教えたんだっけな。
一緒に勉強したのが一年以上前だから、ルシアンにとったらだいぶ前なんだよな。
紙もボロボロだし、色もハゲている。
僕はその後も部屋の中を歩いていると、ある本に目が止まった。
「ねぇ……これって何の本?」
――〝君の初恋は僕の初恋〟
パッケージには男子高校生二人が描かれていた。
漫画なんて買った覚えはないんだけどな……。
「うわあああああ! それは見るな!」
勢いよくルシアンは僕に詰め寄ってきた。
本棚と挟まれながら、僕の腕からルシアンは本を取り上げる。
「そんなに焦るような本なの?」
「これはえーっと……あいつ……誰だっけ? みにゃとの友達……」
「由香のこと?」
ルシアンにとったら由香に会ったのもだいぶ前だもんね。
僕の友達という認識で由香を覚えていたようだ。
ただ、名前も忘れているって……由香には可哀想だけど少しだけ嬉しくなった。
あの当時、ルシアンと楽しく話している由香を見て嫉妬していたのが懐かしい。
「そうそう! 恋愛を学びなさいって渡された」
「確かに由香から本を渡されたことがあったね」
あの当時もルシアンは急いで本を隠していたっけ。
男性同士の漫画を渡して由香は何を学ばせたかったのか……。
「みにゃとどうした?」
「いや、何でもない」
由香はきっと僕たちのことを応援してくれていたのだろう。
だから、男同士が載っている漫画を渡して、恋愛を学べって……。
恥ずかしい思いとともに、由香の応援が少し嬉しくなった。
今度こそルシアンに会えたら、僕も気持ちを伝えたいと思っていた。
今なら――。
「ねぇ、ルシアン」
「なに?」
「ルシアンは……誰か好きな人がいるの?」
僕は勇気を振り絞ってルシアンに聞いてみた。
ルシアンにとったらこの10年間何かあったのかもしれない。
それでも僕は聞いてみたかった。
ルシアンの緑色の瞳が僕の瞳をジーッと見つめる。
あまりの恥ずかしさに視線を逸らそうとするが、ルシアンの大きな手で僕の頬を包む。
大きくなった手は僕の顔を簡単に動かせてはくれない。
だけど、僕の視線にはあるものが見えていた。
左手の薬指には、指輪が光っていた。
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