異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

文字の大きさ
34 / 50
第二章 君は宰相になっていた

34.聖男、知らない間の変化

しおりを挟む
「ここがルシアンの職場なんですね……」
「ふふーん、そうだよ」

 ルシアンに運ばれた僕は周囲を見ることしかできなかった。
 なぜかルシアンは鼻歌交じりで喜んでいるし、チラッと見上げると毎回目が合っていた。
 勘違いかもしれないが、ずっと僕を見ている気がする。

「そういえば、なぜ来てくれなかったの?」

 僕の言葉にゆっくりとルシアンは足を止めた。
 何とも言えない表情に僕はゆっくりと息を呑む。

「実は色々と種を蒔いていたことがうまくいって、学園を卒業したと同時に宰相候補になっていたんだ」
「それって芋が関係する?」

 ルシアンは頷くと、再び足を動かしだした。

「みにゃとと会っていた時はちょうど食料問題で国全体で食べるものがなくなっていた時期なんだ。そこで働き先もなく、ただ死ぬのを待っていた孤児を集めて畑を作ることにした」

 ルシアンはさつまいもの苗や種芋を持ち帰って次の年には小ぶりでも実ったと言っていた。
 その次には色んな野菜の種を持たせたけど……。

「最後にこっちへ来た時の種はどうなったの?」

 ルシアンは窓際に僕を座らせると、そのまま窓を開けた。
 外から入ってくる風に僕は急いでルシアンを掴む。
 普通に考えて窓から落ちたらどうするつもりなんだ。

「全て実になって……あそこだ!」
「すごい緑が溢れてるね」
「あれ全部が畑だ」

 城を中心に遠くの方まで緑に囲まれていた。
 ルシアンの話ではほとんどが荒地になっていたため、あの当時と比べたら全く環境が異なるらしい。
 その結果、餓死して死ぬ人はいなくなり、どうにか人口も維持できている。

「でもそれだけだと宰相になれるもんなの? ルシアンの功績なら子爵とかぐらいじゃ……」

 チラッとルシアンの顔をみると、キラキラした目で僕の顔を見ていた。
 こういうところは大人になっても変わらないな。

「みにゃと、貴族のことを調べたんだね!」
「あー、わかる範囲でね?」

 ルシアンが貴族という話は聞いていたため、一度調べることにした。
 何となく公爵家の末っ子と聞いていたから、ルシアンが公爵家を継ぐことはほぼない。
 そうなると、自身で活躍をして爵位をもらわない限り宰相にはなれないだろう。
 ただ、宰相になるにはそれ相当の爵位が必要だし……。
 いくら畑で食料問題を解決したからと言って、宰相にはなれないだろう。

「実は日本の技術をたくさん取り入れたんだ。今度町に連れて行ってあげる」
「楽しみにしておくね」

 どうやら町に行ったらルシアンの功績がわかるようだ。
 きっとライフラインに関わることなんだろう。
 衣食住が整うだけで、生活は一気に変わるからね。
 貧困の国が潤った国へと変われば、さすがに宰相として認めるしかなかったってことだね。
 ルシアンは再び僕を抱えると、どこかへ歩き出す。
 そういえば、どこに向かっているのだろうか。
 周囲を歩く人たちが、みんな僕たちを見て驚きながらも頭を下げている。
 それだけルシアンがすごい地位になったってことだね。
 言われるがまま運ばれていると、ルシアンは立ち止まった。

「ここが俺の仕事場だ」

 そう言って扉を開けると、大きな部屋に机が一つだけ置かれていた。
 ただ、周囲の本の数と紙の枚数が異常なほど多かった。
 一瞬、図書室かと思うぐらい本が置いてある。
 しかも、棚だけではなく、床にも積み上がっている。

 僕はルシアンに下ろしてもらうと、部屋の中をゆっくりと歩く。

「あっ……これ僕が買った本だね」
「一番初めに買ってもらったドリルも大事にしているぞ」

 僕が初めてルシアンと出会った時に買ったひらがなドリル。
 これがきっかけでルシアンに日本語を教えたんだっけな。
 一緒に勉強したのが一年以上前だから、ルシアンにとったらだいぶ前なんだよな。
 紙もボロボロだし、色もハゲている。

 僕はその後も部屋の中を歩いていると、ある本に目が止まった。

「ねぇ……これって何の本?」

――〝君の初恋は僕の初恋〟

 パッケージには男子高校生二人が描かれていた。
 漫画なんて買った覚えはないんだけどな……。

「うわあああああ! それは見るな!」

 勢いよくルシアンは僕に詰め寄ってきた。
 本棚と挟まれながら、僕の腕からルシアンは本を取り上げる。

「そんなに焦るような本なの?」
「これはえーっと……あいつ……誰だっけ? みにゃとの友達……」
「由香のこと?」

 ルシアンにとったら由香に会ったのもだいぶ前だもんね。
 僕の友達という認識で由香を覚えていたようだ。
 ただ、名前も忘れているって……由香には可哀想だけど少しだけ嬉しくなった。
 あの当時、ルシアンと楽しく話している由香を見て嫉妬していたのが懐かしい。

「そうそう! 恋愛を学びなさいって渡された」 
「確かに由香から本を渡されたことがあったね」

 あの当時もルシアンは急いで本を隠していたっけ。
 男性同士の漫画を渡して由香は何を学ばせたかったのか……。

「みにゃとどうした?」
「いや、何でもない」

 由香はきっと僕たちのことを応援してくれていたのだろう。
 だから、男同士が載っている漫画を渡して、恋愛を学べって……。
 恥ずかしい思いとともに、由香の応援が少し嬉しくなった。
 今度こそルシアンに会えたら、僕も気持ちを伝えたいと思っていた。
 今なら――。

「ねぇ、ルシアン」
「なに?」
「ルシアンは……誰か好きな人がいるの?」

 僕は勇気を振り絞ってルシアンに聞いてみた。
 ルシアンにとったらこの10年間何かあったのかもしれない。
 それでも僕は聞いてみたかった。
 ルシアンの緑色の瞳が僕の瞳をジーッと見つめる。
 あまりの恥ずかしさに視線を逸らそうとするが、ルシアンの大きな手で僕の頬を包む。
 大きくなった手は僕の顔を簡単に動かせてはくれない。
 だけど、僕の視線にはあるものが見えていた。


 左手の薬指には、指輪が光っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん
BL
 人間領に進撃許可を出そうとしていた美しき魔王は、突如、前世の記憶を思い出す。 「ここ、RPGゲームの世界じゃん! しかもぼく、勇者に倒されて死んじゃうんですけど!」  ぼくは前世では病弱で、18歳で死んでしまった。今度こそ長生きしたい!  勇者に討たれないためには「人と魔族が争わない平和な世の中にすればいい」と、魔王になったぼくは考えて、勇者に協力してもらうことにした。本来は天敵だけど、勇者は魔族だからって差別しない人格者だ。  勇者に誠意を試されるものの、信頼を得ることに成功!   世界平和を進めていくうちに、だんだん勇者との距離が近くなり――。 ※注: R15の回には、小見出しに☆、 R18の回には、小見出しに★をつけています。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

その言葉を聞かせて

ユーリ
BL
「好きだよ、都。たとえお前がどんな姿になっても愛してる」 夢の中へ入り化け物退治をする双子の長谷部兄弟は、あるものを探していた。それは弟の都が奪われたものでーー 「どんな状況でもどんな状態でも都だけを愛してる」奪われた弟のとあるものを探す兄×壊れ続ける中で微笑む弟「僕は体の機能を失うことが兄さんへの愛情表現だよ」ーーキミへ向けるたった二文字の言葉。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao
BL
 力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。  無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?  天才、秀才、凡人、そして無能。  強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?  ※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。   のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。

処理中です...