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第二章 君は宰相になっていた
35.聖男、異世界の食事に驚く
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「俺は――」
「あっ……仕事の続きだったよね」
僕はルシアンから必死に目を逸らす。
だって、ルシアンの口から別の人の名前が出てくるなんて聞きたくもない。
「湊! こっちを見ろよ!」
初めてルシアンがちゃんと僕の名前を呼んだ。
いつもとは違う真剣な顔に僕は胸が締め付けられる。
――ガチャ!
視線を扉に向けると、入ってきたのはアシュレイだ。
僕と目が合うとすぐにルシアンへ視線を戻す。
「ルシアン様、国王様がお呼びです」
「チッ!」
ルシアンは舌打ちすると僕の頬に置いていた手を放す。
「みにゃと、ちょっと行ってくる!」
そう言って、ルシアンはどこかへ行ってしまった。
突然解放されたことに、僕は全身の力が抜けて地面にそっと座り込む。
今まで感じたことのないルシアンの強引な圧に、少しだけ怖いとも思ってしまう自分がいた。
大人になっても可愛いと思っていたが、それは誤解のようだ。
「邪魔をしましたか?」
「いえ……助かりました」
僕はアシュレイに手を借りると、ゆっくりと引き上げられる。
「うぉ!?」
「おっととと!」
勢いよく引っ張るから、そのまま僕は倒れそうになってしまった。
「ミナト様、ちゃんと食事を召し上がってますか? 軽過ぎますよ」
「あまりお腹が空かなくてね……」
あまりの軽さにアシュレイは驚いたのだろう。
城に来るまで抱きかかえていたのに、ここで気づくなんてよほど運ぶ時に緊張していたんだね。
「せっかくなので城の食堂に行ってみますか?」
「あっ、いいですね! ルシアンも戻ってこないだろうしね」
正直、今はルシアンの顔を見たくないから、別のところにいた方が良いだろう。
それにアシュレイには聞きたいこともあるからね。
「では、移動する前にこれを履いてもらっても良いですか?」
「あっ……靴の準備までしてくれたんですね! ありがとうございます」
アシュレイが取り出したのは革の靴だった。
靴と言っても革の袋に足を入れている感覚に近い。
「見習い騎士の靴ですが、これで我慢してください」
「僕にはちょうど良いので大丈夫ですよ」
「子ども用だぞ……」
僕はお礼を伝えるが、アシュレイはその場で驚いたまま何かを呟いていた。
アシュレイに付いていき、城の中を進んでいく。
特に何か聞かれることもなく、静かな時間が今の僕にとって心地良かった。
色々と頭の中を整理しないといけないからね。
まずはルシアンのことだけど……婚約者か結婚しているのは仕方ない。
きっと年齢的に僕とそこまで変わらないし、宰相っていう地位がある人なら尚更だ。
少しだけ期待していたけど、そこは受け止めないといけない部分になるだろう。
ルシアンが幸せなら、僕はそれで良い。
せめて彼の幸せを喜べる人でありたいからね。
次に問題になるのは一年間帰れないってことだ。
さすがに結婚しているルシアンにずっとお世話になるわけにいかない。
そうなると、一年はここで働いて生活しないといけないだろう。
ただ、僕が知らない土地で働けるのだろうか。
せっかく頼りになる看護知識も、この世界では使えない可能性が出てきたからね。
「ミナト様、到着しました」
どうやら城の食堂に到着していたようだ。
見た目はどこか華やかさがあり、洋食店のレストランに近い。
ただ、接客してくれる人はおらず、自分で食事を取りに行くスタイルのようだ。
僕は言われるがまま席に案内されると、しばらくしてアシュレイが何かを持ってきた。
「ルシアン様からは食べ物が発展している国だと聞きましたが、お口に合いますかね?」
皿の上には焼かれたステーキと簡単なサラダ、それとじゃがいもが丸ごと1つ添えられていた。
どことなくステーキプレートに見えた。
「ありがとうございます」
僕はそのまま受け取って一口食べてみる。
「うっ……」
「やはりお口に合いませんか?」
「うーん、お肉はちゃんと下処理されているんですかね……」
見た目は特に疑問に思わなかったが、味は何とも言えなかった。
お肉の臭みがそのまま残っており、切った肉をただ焼いているような感じだ。
サラダも生野菜でどこか味気なく、じゃがいもには塩すらかかってない。
日本の味に慣れている僕が、この世界でもやっていけるのかと少し心配になってきた。
「やはりミナト様の世界とはだいぶ違うんですね」
「アシュレイさんも一回来てみたら……いや、一年も離れるんですもんね」
「老後の楽しみに取っておきます。いつまでも行けるわけではないですけどね」
優しく微笑むアシュレイに僕も笑いかけるが、最後の言葉が引っかかった。
「ひょっとして帰れないこともあるんですか?」
「ええ、実はルシアン様も学園から帰ってきたその足でミナト様に会いに行こうとしていたんです」
「その時に僕の世界にいけないことに気づいたと……」
僕の言葉にアシュレイは頷いていた。
ルシアンはすぐに宰相候補になって帰ることができなかったと言っていた。
ただ、アシュレイの話だと一度だけ僕に会いに来ようとしていたらしい。
それを聞いたら、尚更、ルシアンが結婚したのは仕方ないような気がした。
もう僕に会えないと思ったんだろうね。
いや、それは僕の都合の良いように解釈しているだけだ。
そもそもルシアンは僕のことを家族っていう認識なのが正解だろう。
その後もアシュレイにこの世界の生活水準やどうやって生きていけば良いのか相談に乗ってもらった。
ただ、ずっと首を傾げていたが、何かおかしなことでも聞いていたのだろうか。
「あっ……仕事の続きだったよね」
僕はルシアンから必死に目を逸らす。
だって、ルシアンの口から別の人の名前が出てくるなんて聞きたくもない。
「湊! こっちを見ろよ!」
初めてルシアンがちゃんと僕の名前を呼んだ。
いつもとは違う真剣な顔に僕は胸が締め付けられる。
――ガチャ!
視線を扉に向けると、入ってきたのはアシュレイだ。
僕と目が合うとすぐにルシアンへ視線を戻す。
「ルシアン様、国王様がお呼びです」
「チッ!」
ルシアンは舌打ちすると僕の頬に置いていた手を放す。
「みにゃと、ちょっと行ってくる!」
そう言って、ルシアンはどこかへ行ってしまった。
突然解放されたことに、僕は全身の力が抜けて地面にそっと座り込む。
今まで感じたことのないルシアンの強引な圧に、少しだけ怖いとも思ってしまう自分がいた。
大人になっても可愛いと思っていたが、それは誤解のようだ。
「邪魔をしましたか?」
「いえ……助かりました」
僕はアシュレイに手を借りると、ゆっくりと引き上げられる。
「うぉ!?」
「おっととと!」
勢いよく引っ張るから、そのまま僕は倒れそうになってしまった。
「ミナト様、ちゃんと食事を召し上がってますか? 軽過ぎますよ」
「あまりお腹が空かなくてね……」
あまりの軽さにアシュレイは驚いたのだろう。
城に来るまで抱きかかえていたのに、ここで気づくなんてよほど運ぶ時に緊張していたんだね。
「せっかくなので城の食堂に行ってみますか?」
「あっ、いいですね! ルシアンも戻ってこないだろうしね」
正直、今はルシアンの顔を見たくないから、別のところにいた方が良いだろう。
それにアシュレイには聞きたいこともあるからね。
「では、移動する前にこれを履いてもらっても良いですか?」
「あっ……靴の準備までしてくれたんですね! ありがとうございます」
アシュレイが取り出したのは革の靴だった。
靴と言っても革の袋に足を入れている感覚に近い。
「見習い騎士の靴ですが、これで我慢してください」
「僕にはちょうど良いので大丈夫ですよ」
「子ども用だぞ……」
僕はお礼を伝えるが、アシュレイはその場で驚いたまま何かを呟いていた。
アシュレイに付いていき、城の中を進んでいく。
特に何か聞かれることもなく、静かな時間が今の僕にとって心地良かった。
色々と頭の中を整理しないといけないからね。
まずはルシアンのことだけど……婚約者か結婚しているのは仕方ない。
きっと年齢的に僕とそこまで変わらないし、宰相っていう地位がある人なら尚更だ。
少しだけ期待していたけど、そこは受け止めないといけない部分になるだろう。
ルシアンが幸せなら、僕はそれで良い。
せめて彼の幸せを喜べる人でありたいからね。
次に問題になるのは一年間帰れないってことだ。
さすがに結婚しているルシアンにずっとお世話になるわけにいかない。
そうなると、一年はここで働いて生活しないといけないだろう。
ただ、僕が知らない土地で働けるのだろうか。
せっかく頼りになる看護知識も、この世界では使えない可能性が出てきたからね。
「ミナト様、到着しました」
どうやら城の食堂に到着していたようだ。
見た目はどこか華やかさがあり、洋食店のレストランに近い。
ただ、接客してくれる人はおらず、自分で食事を取りに行くスタイルのようだ。
僕は言われるがまま席に案内されると、しばらくしてアシュレイが何かを持ってきた。
「ルシアン様からは食べ物が発展している国だと聞きましたが、お口に合いますかね?」
皿の上には焼かれたステーキと簡単なサラダ、それとじゃがいもが丸ごと1つ添えられていた。
どことなくステーキプレートに見えた。
「ありがとうございます」
僕はそのまま受け取って一口食べてみる。
「うっ……」
「やはりお口に合いませんか?」
「うーん、お肉はちゃんと下処理されているんですかね……」
見た目は特に疑問に思わなかったが、味は何とも言えなかった。
お肉の臭みがそのまま残っており、切った肉をただ焼いているような感じだ。
サラダも生野菜でどこか味気なく、じゃがいもには塩すらかかってない。
日本の味に慣れている僕が、この世界でもやっていけるのかと少し心配になってきた。
「やはりミナト様の世界とはだいぶ違うんですね」
「アシュレイさんも一回来てみたら……いや、一年も離れるんですもんね」
「老後の楽しみに取っておきます。いつまでも行けるわけではないですけどね」
優しく微笑むアシュレイに僕も笑いかけるが、最後の言葉が引っかかった。
「ひょっとして帰れないこともあるんですか?」
「ええ、実はルシアン様も学園から帰ってきたその足でミナト様に会いに行こうとしていたんです」
「その時に僕の世界にいけないことに気づいたと……」
僕の言葉にアシュレイは頷いていた。
ルシアンはすぐに宰相候補になって帰ることができなかったと言っていた。
ただ、アシュレイの話だと一度だけ僕に会いに来ようとしていたらしい。
それを聞いたら、尚更、ルシアンが結婚したのは仕方ないような気がした。
もう僕に会えないと思ったんだろうね。
いや、それは僕の都合の良いように解釈しているだけだ。
そもそもルシアンは僕のことを家族っていう認識なのが正解だろう。
その後もアシュレイにこの世界の生活水準やどうやって生きていけば良いのか相談に乗ってもらった。
ただ、ずっと首を傾げていたが、何かおかしなことでも聞いていたのだろうか。
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