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今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです!
普通への憧れと、怖さ。
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ネックレスを首にかけようとしたら「ちょっと短い」って結局革ひもに代えたオズワルドさん。「ハヅキさんとお揃いが良かったのにな‥」ってちょっと残念そうなオズワルドさん。「あたしのひもも革ひもに変えてください」って言ったら嬉しそうに(控えめだけど)笑ったオズワルドさん。
可愛すぎだった。
笑顔可愛い。
と、これは回想。今まで何度も脳内で再生されている「永久保存版」の映像。
若い女の子が「普通に」恋して、「普通に」思い出してニヤニヤ。
普通の恋愛‥最高。思えば、こんな普通の恋愛って今までしてきたことがない。
親に言われて結婚するか、何となく結婚するかでそこに恋愛のドキドキはなかった。で、恋しなきゃ~で恋したらことごとく惨敗。想いを告げて、相手が承諾してくれて、両想いって初めて。結婚したいってこんなに思ったことない。
きっと、皆こんな風に恋して、結婚してるんだろう。(※ そんなこともない)
普通、最高。(※ 普通でもない)
それにしても‥夕方(勤務時間後)の治療院は静かだ。「ちょっとでも研究をしないと」って研究ノートを開いたのは三十分前だけど、今だ全然進んでいない。すっかり行き詰っているんだ。「このままではだめだ」って顔を振って、気分転換に窓の外に目をやる。
まだ、ランプをつける時間じゃない。‥でも、ちょっと字を読み書きするには暗いかな。
夕焼けが綺麗だ‥。
市街地からちょっと離れた低い丘の上にあるので、教会の窓からは、市街地が見下ろせる。白い石で作られた白い壁の小さな家々は、今では夕焼けに染められ、ほんのりと赤く見える。
夕焼けを見るのは好きだ。だけど、徐々に明るくなる明け方の空と違って、次第に暮れていくのが‥寂しい。だから、目に夕焼けを焼き付けておこうって思ったら、いつの間にか視界がぼんやりして来て‥もこもこもこもこヒツジさんがあたしに覆いかぶさってきた。何匹も何匹も‥ふわふわもこもこ‥「いや、ちょっと‥重‥くない」うん、重くない。ふわふわふわふわもこもこもこもこ。このヒツジさんは柔らかいし、ちっとも重くない‥
‥気持ちいい‥。
ヒツジさん‥最高‥。
「何ニヤニヤしながら居眠りしてんだハヅキ‥」
呆れ顔のロウの顔のドアップで我に返る。いつの間にか部屋にランプがついていた。今、ロウがつけてくれたのだろう。
さっきまでふわふわもこもこヒツジさんの世界に居たのに、一瞬で現実に引き戻された。
「すみません、ちょっと寝てました‥よね」
目を擦って苦笑いで謝ると、
「‥仕方ないよ、最近忙し過ぎるから。ハヅキ、仕事終わってからも何か研究してるだろ? 無理するなってホントは言いたいけど、ハヅキは聞かないだろうし、それはハヅキにとっては重要なことなんだろ? 」
そう言われて、苦笑いだ。重要っていうか、しなきゃならないこと、だ。全然したくない。
ロウはあたしの「規則違反」のこと気付いてるかもしれないけど‥でも、そのことには触れない。「関わってくれるな」オーラを感じてか、ロウもそれ以上触れない。‥有難い。
だって、巻き込みたくない。
「‥ホントゴメン。心配かけて」
って改めて謝ったら、「何が」ってわざとらしく首を傾けて
「でも、ここに来て魔法の使用機会が多いから日々レベルアップしてるのを感じる。‥ここに来てよかった」
イイ笑顔でロウが言った。
話を変えてくれてるんだな。‥有難くそれに乗っかろう。
あたしは研究ノートを閉じて、コーヒーを淹れるために立ち上がった。
「ロウの最終的な目標ってある? 」
湯を沸かしながら聞くと、
「俺? 俺は、故郷に治療院を作りたい」
ロウが答えてくれた。
「治療院? 」
ロウにコーヒーを渡し、自分の分を取りにキッチンに戻る。熱いから二つは持てないんだ。お盆を使えって? そんな気が利いたものここにはない。
「うん。教会の一角で治療するんじゃなくて、ベッドをたくさん置いて俺以外にも治療師を雇って‥治療専門の施設を作りたい」
コーヒーをお礼を言ってあたしから受け取ったロウが、キラキラした目で言った。
治療専門の治療院。その発想はなかった。
ハヅキは目を見開く。
治療と言えば「神様のお陰で‥」ってイメージが強いから、今まで教会から切り離したことなかった。
でも‥聖女と違って治療師は「神様のお陰で」ってイメージは‥それ程、ない。人の力で治してますって感じが強い。魔法がない世界の治療院とはやっぱり違うけど。
でも‥
「でも、教会で治療するのとは違って国から補助金が出ないから‥経営していくとなったら難しいと思うよ」
現実はそこが問題だ。
教会は国に保護されているけど、きっとその新しい試み「治療院」は国に認められないだろう。
何なら、教会を否定する存在って感じで、邪険にされかねない。(なにより教会がそんなもの認めないだろう)
でも‥
教会から切り離すことで、いいことはいっぱいある。
教会の治療院 →教徒のみ治療を受けることが出来る。
治療院 →誰でも治療を受けることが出来る。
この国には他の宗教があるわけじゃない。教会が唯一の宗教機関なんだ。だから、子供が産まれたら、① 名前をつけて届け出する(→国に)② 洗礼を受けて「神の加護」を与えてもらう(→教会から)んだけど、その際教会に寄付金を払わなければいけないんだ。それに決まった額は無くて、平民ならこのくらいの相場‥みたいなものがあるんだけど(勿論貴族はこぞって高額の寄付をする)それすら払えない、払いたくないって人もいる。そうして教会で「神の加護」を貰わなくて、教会に教徒だと認めてもらっていない子供は怪我やら病気になっても教会で治療を受けられない。自分が悪いわけじゃないのに、だ。因みにそういう子供(※ 肉体労働の労働力として期待されていない女の子が多い)は大概大人になってから自分で、もしくは婚家に寄付金を支払ってもらい教徒になって教会で治療をうけることが出来るようになっている。女の子は出産とかあるから余計に治療できないと困るからね。
治療のために結婚する。妻に治療を受けさせられないような男は結婚出来ない。(お金があっても、教会に寄付するのは嫌って家もあるよね? )
皆が教会に寄付するのが当たり前。そこに、信仰の自由やら本人の意思は関係ない。(治療には来るけどお祈りには一度も来たことない人なんてのも結構いるんだ)
治療の前提に信仰心がいるか否か。信仰心はなくても、「信仰心の証し」として教会に寄付するのが当たり前という考え方が正しいかどうか。
そういう制度、ちょっとどうかなって思ってたんだよね。あたしも。
真剣な顔で
「流石に教会みたいに安価では提供できないからね、そこは、患者さんにも理解してもらうしかないな。理解っていうか‥「高いけどそれだけの価値がある」って思ってもらえるようにする
それだけの価値がある治療を提供すれば認めてもらえるって思う」
ロウが言った。
あたしは、目の前がぱあって明るくなった気がした。
なんか‥今まで当たり前って思ってたことが実はもっと改良の余地があったんだ! って‥なんかね、「目からうろこ」みたいな感じ。‥違うか。霧が晴れた感じ?? わかんないけど‥
凄い感激した。
「患者さん、来てくれるかなあ」
ウキウキした気分のまま聞くと、ふふってロイが笑って
「俺が上級治療師になったら来てくれるだろうさ」
って言った。
「じゃあロイも上級治療師になるのが目標か! 同じだね」
「そうだな」
ロイの少年みたいな笑顔。(30歳だけど)
夢を語ってるから? いや、ロイはいつもこんな笑顔だ。歳よりずっと若く見える。
凄いポジティブ‥スーパーポジティブさんなんだろう。見習いたい。あたしは結構「おばさん臭い」とこあるから。(まあ、仕方がないとこもあるけどね)
「お互い頑張ろう」
「おう。負けないからな」
キラキラしたロイの笑顔。
眩しいや。
「普通の魂」だから(転生を重ねたあたしと違って)魂がまっさらで何にも染まってないから?
‥いや、人間30年生きてきて、まっさらってことはないだろう。きっと、苦しいことや嫌なこともいっぱいあっただろう。
でも、ロイはこんなに前向きで、キラキラしている。
素敵な家庭環境で育ったから? だって「氏より育ち」って言うじゃない。結局は「どう育ったか」なんだ。でも、オズワルドさんの兄弟三人はそれぞれ性格が違っていた。きっとナガツキさんなら同じ様に育てただろうに‥だ。
生まれ持った性格ってのがあるのだろうか。そして、それはどの地点で「出て来る」んだろう。
魂に刻まれてるのかな。
能力は器(肉体)にある程度不随してると思う。遺伝子に書き込まれた遺伝情報によって、生まれつき器(肉体)に付随する。いうならば、機械(器であり、肉体)そのものの性能だ。運動神経なんかがそうじゃないかな。その後の努力もあるだろが、アレは元からの能力が大きい‥気がする。
だけど、その能力を引き出し、更に訓練やら練習により使いこなし、さらに発展させるのはその器の持ち主の努力次第ってことになる。
折角スペックとして機能(能力)が備わっていても、使いこなせないと全然意味を持たない。
その能力に必要性を感じ、その能力を発展させるために努力が出来るか、それ以前にまずその能力に気付けるか。
それが出来るのは、周りや本人次第ってわけだ。
これは能力ではなく、本人の性格だ。(勿論、周りの環境要素も強いと思うが)
努力は誰にでも出来る物ではない。
元々本人が持っている能力と周りの環境、本人の性格それら全てが今のロイを作っている。
‥素晴らしいな。
思わずふっと笑みがこぼれたあたしにロイは
「‥ハヅキはなんでその年でそんなにしっかりしてるのかねえ」
ってしみじみ言った。
「ん? しっかり‥してるかな」
あたしは苦笑いで首を傾げる。
「してるさ。俺がその位の年の頃は「どうにかしてモテたい」「彼女が欲しい」ってこと位しか考えてなかったぞ」
「あはは、何それ。ロイが? 想像つかないな」
「なんだそりゃ、今の俺は枯れてるってか」
「そんなことは言ってないでしょ」
こころから笑った。
でも、ま、ちょっと(今回の)人生走り過ぎてる気もする。
ちょっとズルしてるって自覚もある。
ズルだよね? 普通3歳やそこらで人生設計建てないよね? 分かってる。‥あたしは、「普通」じゃないから。
あたしと普通の人の違う点。
(今まで)転生を繰り返していたから、「人生は一度きり」という概念が希薄。
生まれ持った性能が器(肉体)ではなく、魂に初めから書き込まれている。否、書き込んでいった。
性格は、「元からの設定(基本設定)」に加えて、転生によって積み重ねられた人生経験が作ったもの。
そんなの、「普通」ではありえない。
普通はどうだろう。
性格はどの地点で出来るのか。
だけど、性格ってのも生まれ育った環境に影響を受けてる。親が愛情を与得るか、与えないか。十分な愛情を与え得る環境かそうじゃないか。(貧しくて忙し過ぎたりしてそれが可能じゃない場合もあるだろう。もしくは、戦時下という特別な状況下という可能性もある)親が努力している姿を見せていれば子供も「それが当たり前」って風に育つかもしれない。反対に、「俺はそんな貧乏くさい生活しない」って反抗するかもしれない。
生まれた子供を取り巻く環境や育つ環境。親の性格‥色んな要素が絡み合って子供のその後の性格を作っていく。だから、似た子供はいても「全く同じ子供」はいない。
そんな風に‥
魂に刻まれてるんじゃなくて、後から作られていくものなのか? でも、(育った環境や、育てた親に)同じ様に従うのも反抗するのも本人次第だ。つまり‥それも性格‥。
それってつまり、魂の個性ってこと?
その個性は、また誰かに転生しても残る? (※ 「普通の魂」だって転生する)答えは否、だ。魂の転生というのは、初期化されて前の記憶が残らない状態になることをいうから。
そして、その魂に前世(別の誰かの)記憶が残ることは‥まあ、ない。(ホントに稀にある)
今度
あたしが死んだらこの魂はきっと初期化されるだろう。そして、今までの「特別な魂」から「普通の魂(養殖)」に変わり転生する。
それは初めての経験で、「そのあたし」は「今までのあたし」と違う。あたしには‥
それが怖くて仕方がない気がした。
「ハヅキ? どうした? なんか俺‥悪いこと言った? 」
きっとあたしは今暗い顔をしていたのだろう。
目の前には心配そうなロイ。
「いや、大丈夫だよ? 」
慌てて笑う。ロイは苦笑いして
「でも、ハヅキも悩んだり不安に思ったりするんだな、って何か‥安心した。いつもハヅキは迷いなく全て自分で決めて‥器用になってるから」
って、大袈裟に肩を竦めた。
「なんだそりゃ。あたしだって普通に悩むし、いつも不安ばっかりだし、何より‥自分の決断に自信なんかないよ?
そもそも、そんなに考えて決断してない。結構行き当たりばったり。
言うならば‥若さゆえの怖いもの知らずの決断ってのばっかり。結局ね、根底には「親がいてくれるから大丈夫」みたいな甘えがあるんだよ。全然「ちゃんと」なんてしてない。
行き当たりばったりの、無謀な行動の繰り返しだよ」
あたしが苦笑いして言うと、
「‥10代の若者の台詞じゃないな」
って呆れられた。
そりゃ、普通じゃないから。
でも、普通になりたくない。今は。
それがたまらなく怖いんだ。
思わず眉を寄せると、ロウが
「で、今まで走ってきたのに、ふと不安になって止まっちゃったってとこか。立ち止まって我に返って、「ここどこだろ」「この道で合ってるのかな」‥分かる。そういうこと、あったなあ。
俺の経験上、そういう時は人に聞けばいいよ。周りの‥ハヅキの信用の出来る人にさ。
その人にも分からないかもしれないし、答えは出ないかもしれないけど、きっとその人は一緒に考えてくれる。その間はゆっくり周りを見ながら歩けばいいさ」
って言った。ロウは
「オッサンがなんか言ってるとか思ってちゃダメだぞ。年長者のアドバイスは聞いとくもんだ。その時は「そうは思わん」って思っても、一応聞いておいて損はない。アドバイスと一緒にその人の愛情が込められてる。‥そういう想いは無下にしちゃいけない」
と付け加えて、「なんか説教じみてきたな。もうすっかりオッサンだな」って笑った。
台無しだよ。‥あたしは感動したってのにさ。茶化したり、胡麻化したりしないで。それに、ロウぐらいの年はまだあたしにとってはほんのワカモンだよ。
そんなワカモンにワカモン扱いされちゃうとはなあ~。
そして、ふと「普通になる」のは、ワカモンが「普通に」ワカモンになるだけのことなのかもしれない。って思えた。
只がむしゃらに、(前世の記憶とかいうズルがないから)何にも分からんくせに、自分を信じて走る。それは怖いことじゃない。今まで分からんなりにやってきた実績がある。大丈夫。
あたしは‥
普通の魂になったとしても、きっと、大丈夫だ。
可愛すぎだった。
笑顔可愛い。
と、これは回想。今まで何度も脳内で再生されている「永久保存版」の映像。
若い女の子が「普通に」恋して、「普通に」思い出してニヤニヤ。
普通の恋愛‥最高。思えば、こんな普通の恋愛って今までしてきたことがない。
親に言われて結婚するか、何となく結婚するかでそこに恋愛のドキドキはなかった。で、恋しなきゃ~で恋したらことごとく惨敗。想いを告げて、相手が承諾してくれて、両想いって初めて。結婚したいってこんなに思ったことない。
きっと、皆こんな風に恋して、結婚してるんだろう。(※ そんなこともない)
普通、最高。(※ 普通でもない)
それにしても‥夕方(勤務時間後)の治療院は静かだ。「ちょっとでも研究をしないと」って研究ノートを開いたのは三十分前だけど、今だ全然進んでいない。すっかり行き詰っているんだ。「このままではだめだ」って顔を振って、気分転換に窓の外に目をやる。
まだ、ランプをつける時間じゃない。‥でも、ちょっと字を読み書きするには暗いかな。
夕焼けが綺麗だ‥。
市街地からちょっと離れた低い丘の上にあるので、教会の窓からは、市街地が見下ろせる。白い石で作られた白い壁の小さな家々は、今では夕焼けに染められ、ほんのりと赤く見える。
夕焼けを見るのは好きだ。だけど、徐々に明るくなる明け方の空と違って、次第に暮れていくのが‥寂しい。だから、目に夕焼けを焼き付けておこうって思ったら、いつの間にか視界がぼんやりして来て‥もこもこもこもこヒツジさんがあたしに覆いかぶさってきた。何匹も何匹も‥ふわふわもこもこ‥「いや、ちょっと‥重‥くない」うん、重くない。ふわふわふわふわもこもこもこもこ。このヒツジさんは柔らかいし、ちっとも重くない‥
‥気持ちいい‥。
ヒツジさん‥最高‥。
「何ニヤニヤしながら居眠りしてんだハヅキ‥」
呆れ顔のロウの顔のドアップで我に返る。いつの間にか部屋にランプがついていた。今、ロウがつけてくれたのだろう。
さっきまでふわふわもこもこヒツジさんの世界に居たのに、一瞬で現実に引き戻された。
「すみません、ちょっと寝てました‥よね」
目を擦って苦笑いで謝ると、
「‥仕方ないよ、最近忙し過ぎるから。ハヅキ、仕事終わってからも何か研究してるだろ? 無理するなってホントは言いたいけど、ハヅキは聞かないだろうし、それはハヅキにとっては重要なことなんだろ? 」
そう言われて、苦笑いだ。重要っていうか、しなきゃならないこと、だ。全然したくない。
ロウはあたしの「規則違反」のこと気付いてるかもしれないけど‥でも、そのことには触れない。「関わってくれるな」オーラを感じてか、ロウもそれ以上触れない。‥有難い。
だって、巻き込みたくない。
「‥ホントゴメン。心配かけて」
って改めて謝ったら、「何が」ってわざとらしく首を傾けて
「でも、ここに来て魔法の使用機会が多いから日々レベルアップしてるのを感じる。‥ここに来てよかった」
イイ笑顔でロウが言った。
話を変えてくれてるんだな。‥有難くそれに乗っかろう。
あたしは研究ノートを閉じて、コーヒーを淹れるために立ち上がった。
「ロウの最終的な目標ってある? 」
湯を沸かしながら聞くと、
「俺? 俺は、故郷に治療院を作りたい」
ロウが答えてくれた。
「治療院? 」
ロウにコーヒーを渡し、自分の分を取りにキッチンに戻る。熱いから二つは持てないんだ。お盆を使えって? そんな気が利いたものここにはない。
「うん。教会の一角で治療するんじゃなくて、ベッドをたくさん置いて俺以外にも治療師を雇って‥治療専門の施設を作りたい」
コーヒーをお礼を言ってあたしから受け取ったロウが、キラキラした目で言った。
治療専門の治療院。その発想はなかった。
ハヅキは目を見開く。
治療と言えば「神様のお陰で‥」ってイメージが強いから、今まで教会から切り離したことなかった。
でも‥聖女と違って治療師は「神様のお陰で」ってイメージは‥それ程、ない。人の力で治してますって感じが強い。魔法がない世界の治療院とはやっぱり違うけど。
でも‥
「でも、教会で治療するのとは違って国から補助金が出ないから‥経営していくとなったら難しいと思うよ」
現実はそこが問題だ。
教会は国に保護されているけど、きっとその新しい試み「治療院」は国に認められないだろう。
何なら、教会を否定する存在って感じで、邪険にされかねない。(なにより教会がそんなもの認めないだろう)
でも‥
教会から切り離すことで、いいことはいっぱいある。
教会の治療院 →教徒のみ治療を受けることが出来る。
治療院 →誰でも治療を受けることが出来る。
この国には他の宗教があるわけじゃない。教会が唯一の宗教機関なんだ。だから、子供が産まれたら、① 名前をつけて届け出する(→国に)② 洗礼を受けて「神の加護」を与えてもらう(→教会から)んだけど、その際教会に寄付金を払わなければいけないんだ。それに決まった額は無くて、平民ならこのくらいの相場‥みたいなものがあるんだけど(勿論貴族はこぞって高額の寄付をする)それすら払えない、払いたくないって人もいる。そうして教会で「神の加護」を貰わなくて、教会に教徒だと認めてもらっていない子供は怪我やら病気になっても教会で治療を受けられない。自分が悪いわけじゃないのに、だ。因みにそういう子供(※ 肉体労働の労働力として期待されていない女の子が多い)は大概大人になってから自分で、もしくは婚家に寄付金を支払ってもらい教徒になって教会で治療をうけることが出来るようになっている。女の子は出産とかあるから余計に治療できないと困るからね。
治療のために結婚する。妻に治療を受けさせられないような男は結婚出来ない。(お金があっても、教会に寄付するのは嫌って家もあるよね? )
皆が教会に寄付するのが当たり前。そこに、信仰の自由やら本人の意思は関係ない。(治療には来るけどお祈りには一度も来たことない人なんてのも結構いるんだ)
治療の前提に信仰心がいるか否か。信仰心はなくても、「信仰心の証し」として教会に寄付するのが当たり前という考え方が正しいかどうか。
そういう制度、ちょっとどうかなって思ってたんだよね。あたしも。
真剣な顔で
「流石に教会みたいに安価では提供できないからね、そこは、患者さんにも理解してもらうしかないな。理解っていうか‥「高いけどそれだけの価値がある」って思ってもらえるようにする
それだけの価値がある治療を提供すれば認めてもらえるって思う」
ロウが言った。
あたしは、目の前がぱあって明るくなった気がした。
なんか‥今まで当たり前って思ってたことが実はもっと改良の余地があったんだ! って‥なんかね、「目からうろこ」みたいな感じ。‥違うか。霧が晴れた感じ?? わかんないけど‥
凄い感激した。
「患者さん、来てくれるかなあ」
ウキウキした気分のまま聞くと、ふふってロイが笑って
「俺が上級治療師になったら来てくれるだろうさ」
って言った。
「じゃあロイも上級治療師になるのが目標か! 同じだね」
「そうだな」
ロイの少年みたいな笑顔。(30歳だけど)
夢を語ってるから? いや、ロイはいつもこんな笑顔だ。歳よりずっと若く見える。
凄いポジティブ‥スーパーポジティブさんなんだろう。見習いたい。あたしは結構「おばさん臭い」とこあるから。(まあ、仕方がないとこもあるけどね)
「お互い頑張ろう」
「おう。負けないからな」
キラキラしたロイの笑顔。
眩しいや。
「普通の魂」だから(転生を重ねたあたしと違って)魂がまっさらで何にも染まってないから?
‥いや、人間30年生きてきて、まっさらってことはないだろう。きっと、苦しいことや嫌なこともいっぱいあっただろう。
でも、ロイはこんなに前向きで、キラキラしている。
素敵な家庭環境で育ったから? だって「氏より育ち」って言うじゃない。結局は「どう育ったか」なんだ。でも、オズワルドさんの兄弟三人はそれぞれ性格が違っていた。きっとナガツキさんなら同じ様に育てただろうに‥だ。
生まれ持った性格ってのがあるのだろうか。そして、それはどの地点で「出て来る」んだろう。
魂に刻まれてるのかな。
能力は器(肉体)にある程度不随してると思う。遺伝子に書き込まれた遺伝情報によって、生まれつき器(肉体)に付随する。いうならば、機械(器であり、肉体)そのものの性能だ。運動神経なんかがそうじゃないかな。その後の努力もあるだろが、アレは元からの能力が大きい‥気がする。
だけど、その能力を引き出し、更に訓練やら練習により使いこなし、さらに発展させるのはその器の持ち主の努力次第ってことになる。
折角スペックとして機能(能力)が備わっていても、使いこなせないと全然意味を持たない。
その能力に必要性を感じ、その能力を発展させるために努力が出来るか、それ以前にまずその能力に気付けるか。
それが出来るのは、周りや本人次第ってわけだ。
これは能力ではなく、本人の性格だ。(勿論、周りの環境要素も強いと思うが)
努力は誰にでも出来る物ではない。
元々本人が持っている能力と周りの環境、本人の性格それら全てが今のロイを作っている。
‥素晴らしいな。
思わずふっと笑みがこぼれたあたしにロイは
「‥ハヅキはなんでその年でそんなにしっかりしてるのかねえ」
ってしみじみ言った。
「ん? しっかり‥してるかな」
あたしは苦笑いで首を傾げる。
「してるさ。俺がその位の年の頃は「どうにかしてモテたい」「彼女が欲しい」ってこと位しか考えてなかったぞ」
「あはは、何それ。ロイが? 想像つかないな」
「なんだそりゃ、今の俺は枯れてるってか」
「そんなことは言ってないでしょ」
こころから笑った。
でも、ま、ちょっと(今回の)人生走り過ぎてる気もする。
ちょっとズルしてるって自覚もある。
ズルだよね? 普通3歳やそこらで人生設計建てないよね? 分かってる。‥あたしは、「普通」じゃないから。
あたしと普通の人の違う点。
(今まで)転生を繰り返していたから、「人生は一度きり」という概念が希薄。
生まれ持った性能が器(肉体)ではなく、魂に初めから書き込まれている。否、書き込んでいった。
性格は、「元からの設定(基本設定)」に加えて、転生によって積み重ねられた人生経験が作ったもの。
そんなの、「普通」ではありえない。
普通はどうだろう。
性格はどの地点で出来るのか。
だけど、性格ってのも生まれ育った環境に影響を受けてる。親が愛情を与得るか、与えないか。十分な愛情を与え得る環境かそうじゃないか。(貧しくて忙し過ぎたりしてそれが可能じゃない場合もあるだろう。もしくは、戦時下という特別な状況下という可能性もある)親が努力している姿を見せていれば子供も「それが当たり前」って風に育つかもしれない。反対に、「俺はそんな貧乏くさい生活しない」って反抗するかもしれない。
生まれた子供を取り巻く環境や育つ環境。親の性格‥色んな要素が絡み合って子供のその後の性格を作っていく。だから、似た子供はいても「全く同じ子供」はいない。
そんな風に‥
魂に刻まれてるんじゃなくて、後から作られていくものなのか? でも、(育った環境や、育てた親に)同じ様に従うのも反抗するのも本人次第だ。つまり‥それも性格‥。
それってつまり、魂の個性ってこと?
その個性は、また誰かに転生しても残る? (※ 「普通の魂」だって転生する)答えは否、だ。魂の転生というのは、初期化されて前の記憶が残らない状態になることをいうから。
そして、その魂に前世(別の誰かの)記憶が残ることは‥まあ、ない。(ホントに稀にある)
今度
あたしが死んだらこの魂はきっと初期化されるだろう。そして、今までの「特別な魂」から「普通の魂(養殖)」に変わり転生する。
それは初めての経験で、「そのあたし」は「今までのあたし」と違う。あたしには‥
それが怖くて仕方がない気がした。
「ハヅキ? どうした? なんか俺‥悪いこと言った? 」
きっとあたしは今暗い顔をしていたのだろう。
目の前には心配そうなロイ。
「いや、大丈夫だよ? 」
慌てて笑う。ロイは苦笑いして
「でも、ハヅキも悩んだり不安に思ったりするんだな、って何か‥安心した。いつもハヅキは迷いなく全て自分で決めて‥器用になってるから」
って、大袈裟に肩を竦めた。
「なんだそりゃ。あたしだって普通に悩むし、いつも不安ばっかりだし、何より‥自分の決断に自信なんかないよ?
そもそも、そんなに考えて決断してない。結構行き当たりばったり。
言うならば‥若さゆえの怖いもの知らずの決断ってのばっかり。結局ね、根底には「親がいてくれるから大丈夫」みたいな甘えがあるんだよ。全然「ちゃんと」なんてしてない。
行き当たりばったりの、無謀な行動の繰り返しだよ」
あたしが苦笑いして言うと、
「‥10代の若者の台詞じゃないな」
って呆れられた。
そりゃ、普通じゃないから。
でも、普通になりたくない。今は。
それがたまらなく怖いんだ。
思わず眉を寄せると、ロウが
「で、今まで走ってきたのに、ふと不安になって止まっちゃったってとこか。立ち止まって我に返って、「ここどこだろ」「この道で合ってるのかな」‥分かる。そういうこと、あったなあ。
俺の経験上、そういう時は人に聞けばいいよ。周りの‥ハヅキの信用の出来る人にさ。
その人にも分からないかもしれないし、答えは出ないかもしれないけど、きっとその人は一緒に考えてくれる。その間はゆっくり周りを見ながら歩けばいいさ」
って言った。ロウは
「オッサンがなんか言ってるとか思ってちゃダメだぞ。年長者のアドバイスは聞いとくもんだ。その時は「そうは思わん」って思っても、一応聞いておいて損はない。アドバイスと一緒にその人の愛情が込められてる。‥そういう想いは無下にしちゃいけない」
と付け加えて、「なんか説教じみてきたな。もうすっかりオッサンだな」って笑った。
台無しだよ。‥あたしは感動したってのにさ。茶化したり、胡麻化したりしないで。それに、ロウぐらいの年はまだあたしにとってはほんのワカモンだよ。
そんなワカモンにワカモン扱いされちゃうとはなあ~。
そして、ふと「普通になる」のは、ワカモンが「普通に」ワカモンになるだけのことなのかもしれない。って思えた。
只がむしゃらに、(前世の記憶とかいうズルがないから)何にも分からんくせに、自分を信じて走る。それは怖いことじゃない。今まで分からんなりにやってきた実績がある。大丈夫。
あたしは‥
普通の魂になったとしても、きっと、大丈夫だ。
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森と丘陵が連なる寒冷地帯――シレジア地方へ向かい、ボヘミア系とドイツ系移民が入り混じる貧しい開拓村で、新しい生活をはじめることになった。
ところが、村へ到着したその日。
道ばたに置かれた木箱の中で震えていた、四匹の子犬と出会う。
「……かわいいけど、どうしよう。
私だって、明日をどう生きるかも分からないのに……」
没落令嬢の私には、金も身分もない。
けれど放ってはおけず、子犬たちを抱き上げた。
飢えた体を温め、必死に育てているうちに――
ある朝、彼らは犬耳の生えた少年たちに変わっていた。
どうやら彼らは、この異世界に古くから伝わる
“森の精霊犬”の子どもだったらしい。
無邪気で、人懐っこくて、やたらと私に甘えてくる。
それなのに――。
反抗期がまったく来ない。
命がけで守った“子犬たち”は、すくすく育ち、戦闘能力が高い、耳もふわふわなイケメンに成長した。
そして、ますます慕い方が激しくなるばかり。
……いや、育ての親としてはうれしいけど、そろそろ距離感というものを覚えてください。
(※年代、国、地名、物などは史実どうりですが、登場人物は実在してません。
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