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「……はあ。カイン様、この『ドレス』という名の布の要塞、どうにかなりませんこと? 監察官としての機動力はゼロ、呼吸をするたびにコルセットが私の知性を圧迫しておりますわ」
王家主催、レオン殿下の送別記念晩餐会。
私は「特別招待客」兼「宮廷監察官補佐」として、いつになく華やかな装いで馬車に揺られていました。
とはいえ、ただのドレスではありません。
私はハンスから借りた隠しポケット付きの裏地を自ら縫い付け、裾を三センチ短くして「逃走と追走」に特化した改造を施しております。
隣に座るカイン様は、騎士団の正装。
その凛々しさは、判定。
「歩く彫刻」を通り越して、「国の最終兵器(イケメン枠)」として登録すべきレベルですわ。
「……我慢しろ、エリー。今日は貴殿の功績を陛下が直々に讃える場でもある。……それに、その格好、似合っているぞ」
「あら、カイン様。判定入りますわよ。今の褒め言葉、視線が私の髪飾りに逃げていますわね。照れ隠しの技術、マイナス三十点ですわ。もっと真っ直ぐ私の目を見て『君の毒舌に相応しい美しさだ』と仰いなさいな」
「……それは、要求が高すぎるな」
カイン様がふいっと窓の外を向きました。
耳が赤くなっているのを実況したいところですが、会場に到着してしまいました。
晩餐会の会場は大広間。
かつて私が婚約破棄を言い渡され、スカッと立ち去ったあの場所です。
「……お、おい、あれを見ろ。エリー・オルブライト……いや、今は監察官のエリー殿だぞ」
「なんて堂々とした佇まいだ。以前の大人しかった頃とは、別人のような輝きだ……」
周囲の貴族たちの囁きを、私は「音響効果(BGM)」として聞き流しながら中央へ進みました。
すると、会場の隅でチビチビと酒を飲んでいたウィルフレッド王子が、幽霊のような足取りで近づいてきました。
「……エリー……。お前、今日は一段と……。……いや、その……今日は監察官としてではなく、私の元婚約者として、少し話を……」
「判定、入りますわよ! 殿下、その未練たらしい声のトーン。まるで湿気たマッチのように、一向に火がつく気配がありませんわ。あと、その服。先ほどから右の袖口にソースのシミがついていますわよ。王族としての清潔感、ついに限界突破のマイナス値ですわ!」
「うぐっ……! これほど華やかな席で、なぜシミの話を……!」
「事実を指摘するのが私の公務ですわ。さあ、そこを退いてくださいな。私の隣には、シミ一つない鉄面皮の騎士様がいらっしゃいますの。視界のコントラストが強すぎて、目がチカチカいたしますわよ」
私は王子を扇子で追い払うと、正面からやってきたレオン殿下に優雅に(?)一礼しました。
「レオン殿下、今夜の装いも一段と眩しいですわね。判定、金糸の総量、我が国の国家予算の一割に相当する勢いですわ。ガレット王国の経済力の誇示としては、合格点ですわよ!」
「ハハハ! エリー、最後の日まで毒を絶やさないな! カイン、やはり今夜、彼女を攫って逃げてもいいか?」
レオン殿下の冗談に、カイン様が私の腰をグイと引き寄せ、低く、しかし鋭い声で答えました。
「……お断りします。彼女は、この国の『良心(ツッコミ役)』ですので」
「師匠ー! 大変ですわ、あそこのマダムがケーキを三つも一度にお皿に載せています! あれはマナー違反ではなく、ただの食欲の暴走ですわよね!?」
そこへ、実況の弟子を自称するマリア様が、メモ帳を手に突撃してきました。
彼女もまた、私の教育(?)のおかげで、あざとい聖女から「好奇心旺盛な野次馬」へと進化を遂げていたのです。
「マリア様、判定が甘いですわ! あのマダム、ケーキの下にこっそりサンドイッチを隠していますわよ。あれは『計画的な兵糧確保』ですわ。監察対象として記録なさいな!」
「はい、師匠! 計画的兵糧確保……と。ああ、実況ってなんてエキサイティングなんですの!」
煌びやかなシャンデリアの下、私はかつての「悪役令嬢」としての汚名を、最高の「エンターテインメント」へと塗り替えていくのでした。
(ふふふ。やっぱり、高い場所から状況を実況するのは、どんな贅沢な食事よりも美味ですわね!)
私はカイン様の差し出したワイングラスを手に、今夜一番の「大やらかし」が誰から飛び出すか、目を皿のようにして待ち構えるのでした。
王家主催、レオン殿下の送別記念晩餐会。
私は「特別招待客」兼「宮廷監察官補佐」として、いつになく華やかな装いで馬車に揺られていました。
とはいえ、ただのドレスではありません。
私はハンスから借りた隠しポケット付きの裏地を自ら縫い付け、裾を三センチ短くして「逃走と追走」に特化した改造を施しております。
隣に座るカイン様は、騎士団の正装。
その凛々しさは、判定。
「歩く彫刻」を通り越して、「国の最終兵器(イケメン枠)」として登録すべきレベルですわ。
「……我慢しろ、エリー。今日は貴殿の功績を陛下が直々に讃える場でもある。……それに、その格好、似合っているぞ」
「あら、カイン様。判定入りますわよ。今の褒め言葉、視線が私の髪飾りに逃げていますわね。照れ隠しの技術、マイナス三十点ですわ。もっと真っ直ぐ私の目を見て『君の毒舌に相応しい美しさだ』と仰いなさいな」
「……それは、要求が高すぎるな」
カイン様がふいっと窓の外を向きました。
耳が赤くなっているのを実況したいところですが、会場に到着してしまいました。
晩餐会の会場は大広間。
かつて私が婚約破棄を言い渡され、スカッと立ち去ったあの場所です。
「……お、おい、あれを見ろ。エリー・オルブライト……いや、今は監察官のエリー殿だぞ」
「なんて堂々とした佇まいだ。以前の大人しかった頃とは、別人のような輝きだ……」
周囲の貴族たちの囁きを、私は「音響効果(BGM)」として聞き流しながら中央へ進みました。
すると、会場の隅でチビチビと酒を飲んでいたウィルフレッド王子が、幽霊のような足取りで近づいてきました。
「……エリー……。お前、今日は一段と……。……いや、その……今日は監察官としてではなく、私の元婚約者として、少し話を……」
「判定、入りますわよ! 殿下、その未練たらしい声のトーン。まるで湿気たマッチのように、一向に火がつく気配がありませんわ。あと、その服。先ほどから右の袖口にソースのシミがついていますわよ。王族としての清潔感、ついに限界突破のマイナス値ですわ!」
「うぐっ……! これほど華やかな席で、なぜシミの話を……!」
「事実を指摘するのが私の公務ですわ。さあ、そこを退いてくださいな。私の隣には、シミ一つない鉄面皮の騎士様がいらっしゃいますの。視界のコントラストが強すぎて、目がチカチカいたしますわよ」
私は王子を扇子で追い払うと、正面からやってきたレオン殿下に優雅に(?)一礼しました。
「レオン殿下、今夜の装いも一段と眩しいですわね。判定、金糸の総量、我が国の国家予算の一割に相当する勢いですわ。ガレット王国の経済力の誇示としては、合格点ですわよ!」
「ハハハ! エリー、最後の日まで毒を絶やさないな! カイン、やはり今夜、彼女を攫って逃げてもいいか?」
レオン殿下の冗談に、カイン様が私の腰をグイと引き寄せ、低く、しかし鋭い声で答えました。
「……お断りします。彼女は、この国の『良心(ツッコミ役)』ですので」
「師匠ー! 大変ですわ、あそこのマダムがケーキを三つも一度にお皿に載せています! あれはマナー違反ではなく、ただの食欲の暴走ですわよね!?」
そこへ、実況の弟子を自称するマリア様が、メモ帳を手に突撃してきました。
彼女もまた、私の教育(?)のおかげで、あざとい聖女から「好奇心旺盛な野次馬」へと進化を遂げていたのです。
「マリア様、判定が甘いですわ! あのマダム、ケーキの下にこっそりサンドイッチを隠していますわよ。あれは『計画的な兵糧確保』ですわ。監察対象として記録なさいな!」
「はい、師匠! 計画的兵糧確保……と。ああ、実況ってなんてエキサイティングなんですの!」
煌びやかなシャンデリアの下、私はかつての「悪役令嬢」としての汚名を、最高の「エンターテインメント」へと塗り替えていくのでした。
(ふふふ。やっぱり、高い場所から状況を実況するのは、どんな贅沢な食事よりも美味ですわね!)
私はカイン様の差し出したワイングラスを手に、今夜一番の「大やらかし」が誰から飛び出すか、目を皿のようにして待ち構えるのでした。
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