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もう一人の人物は、学校に到着後すぐに駆け寄ってきた。
「おはよう。あれ? 何で一緒に車に乗ってんの?」
「おはよう一真。んー。朔夜くんが道歩いてたから、乗せた」
「えっ? 何で??」
「ふはっ。朝から賑やかだねぇ。おはよう一真。いいじゃん、俺が歩いて登校しても」
「よくねぇって!」
朝から勢いよく質問攻めにしたのは、鷲尾一真。こちらも言わずとしれた、『鷲尾』グループの御曹司。代々続く水無瀬財閥とは違い、『鷲尾』は彼の父が一代で日本の大企業まで押し上げた。そんな父の気質を見事に受け継いだのか、一真はこう、と思ったらすぐに走り出す。思ったことはすぐに口にする、真っ直ぐすぎるほどに素直だ。背丈は朔夜とほぼ同じ、いや、少し高いかもしれない。ヨーロッパ系の血筋が入っているのではないかと思うほどハッキリとした顔立ちに、秀よりも筋肉質。これで彼と同級生というのだから、成長したらどうなるのか、楽しみでもあり怖くもある。秀を紹介してくれたのも一真だった。
数多の才能に秀でているタイプではないが、問題を纏め上げて解決していく能力はかなりのもの。なのに年相応の子供っぽさを持つ一真を、朔夜はいつも可愛いと思っていた。親同士に元々繋がりがあり、一真が赤ん坊の頃から朔夜は知っている、それほどに長いつきあいのせいだったのも、そう思わせる要因の一つ。秀 その後も一真は朔夜を質問攻めにし「いいかげんにしたら」と秀に呆れられる。確かにこれ以上あれこれ問われても、ここで話すのには気が引けるし、まだ気持ちの整理がつかない。いずれは話さなければならないのはわかってはいるが。
一真の問いには適当に答え、それぞれの教室へ。中に入れば「おはよう」といつもどおりに挨拶される。朔夜はすぐに返そうとしたが、言葉に詰まる。
『怖い』。
何故か、そう感じたのだ。クラスメートの視線が、声が。
「入江?」
「あ。……ごめん、ちょっと考え事してた。おはよう」
名を呼ばれ、すぐに取り繕いはしたが相手は不思議顔。ぎごちない態度のまま、朔夜は席に着く。クラスでは、成績とリーダーシップ以外では周りに溶け込む。特別に仲の良い友人はいない。それ以上は特に追求されることなく、朔夜はほっと息を吐いた。
こんな状態で、やっていけるのか。
頭によぎった不安。学校にはすでに結果が両親から報告されているはず。それを、教師が公にすることはないのだが、もし、外で発情の兆候が現れたら、と思うと怖くてたまらない。判定されたからとはいえ、オメガの発情期は個人差が大きく出る。判定前から訪れる者、大人になっても来ない者。ただ、平均すると判定後一年以内に訪れることから、十五歳、と言う年齢が設けられていると聞いたことがある。
答えのない悩みを抱え、朔夜は頭を抱えた。
放課後。
朝と同じように歩いて帰ろうとすると。
「朔夜、乗って!」
と、声がかかる。一真だ。
「えっ? あ、大丈夫。歩いて帰るよ」
「何でっ!? 朝、秀の車には乗ったのに」
「あ、だってあれは、学校に行く途中だったし、断るのも、って思って……」
「だったら別にいいじゃんかっ。乗ってよ!」
「ダメだよっ。だって一真の家、方向違うし……」
「えっ? 何それ??」
言った直後、しまった! と思ったがもう遅い。一真の耳はしっかりと朔夜の声を拾って、投げ返していた。なぜなら、鷲尾家と入江家はほとんど離れていない、いわばご近所。共に高級住宅街に住んでいる。強いて言えば、その中でも特に大豪邸と言われるのが鷲尾家だ。
「……乗って」
もう一度一真が言う。彼のものかと疑うほどの低いトーン。
「……わかった。お邪魔します」
観念し、朔夜は車に乗る。座り込み、ふぅ、と深く息を吐く。これからどう話を組み立て誤魔化そうかと、彼の頭はフル回転。方向が違う、と言った以上、実家に向かって貰うのは一真の怒りを買うだけ、かといって、適当な場所で降ろして貰っても彼の事だ。朔夜がどこに向かうか、車から監視し続ける事だろう。
(……マンションだけは)
考えたあげく、出した答えはこれだった。
「おはよう。あれ? 何で一緒に車に乗ってんの?」
「おはよう一真。んー。朔夜くんが道歩いてたから、乗せた」
「えっ? 何で??」
「ふはっ。朝から賑やかだねぇ。おはよう一真。いいじゃん、俺が歩いて登校しても」
「よくねぇって!」
朝から勢いよく質問攻めにしたのは、鷲尾一真。こちらも言わずとしれた、『鷲尾』グループの御曹司。代々続く水無瀬財閥とは違い、『鷲尾』は彼の父が一代で日本の大企業まで押し上げた。そんな父の気質を見事に受け継いだのか、一真はこう、と思ったらすぐに走り出す。思ったことはすぐに口にする、真っ直ぐすぎるほどに素直だ。背丈は朔夜とほぼ同じ、いや、少し高いかもしれない。ヨーロッパ系の血筋が入っているのではないかと思うほどハッキリとした顔立ちに、秀よりも筋肉質。これで彼と同級生というのだから、成長したらどうなるのか、楽しみでもあり怖くもある。秀を紹介してくれたのも一真だった。
数多の才能に秀でているタイプではないが、問題を纏め上げて解決していく能力はかなりのもの。なのに年相応の子供っぽさを持つ一真を、朔夜はいつも可愛いと思っていた。親同士に元々繋がりがあり、一真が赤ん坊の頃から朔夜は知っている、それほどに長いつきあいのせいだったのも、そう思わせる要因の一つ。秀 その後も一真は朔夜を質問攻めにし「いいかげんにしたら」と秀に呆れられる。確かにこれ以上あれこれ問われても、ここで話すのには気が引けるし、まだ気持ちの整理がつかない。いずれは話さなければならないのはわかってはいるが。
一真の問いには適当に答え、それぞれの教室へ。中に入れば「おはよう」といつもどおりに挨拶される。朔夜はすぐに返そうとしたが、言葉に詰まる。
『怖い』。
何故か、そう感じたのだ。クラスメートの視線が、声が。
「入江?」
「あ。……ごめん、ちょっと考え事してた。おはよう」
名を呼ばれ、すぐに取り繕いはしたが相手は不思議顔。ぎごちない態度のまま、朔夜は席に着く。クラスでは、成績とリーダーシップ以外では周りに溶け込む。特別に仲の良い友人はいない。それ以上は特に追求されることなく、朔夜はほっと息を吐いた。
こんな状態で、やっていけるのか。
頭によぎった不安。学校にはすでに結果が両親から報告されているはず。それを、教師が公にすることはないのだが、もし、外で発情の兆候が現れたら、と思うと怖くてたまらない。判定されたからとはいえ、オメガの発情期は個人差が大きく出る。判定前から訪れる者、大人になっても来ない者。ただ、平均すると判定後一年以内に訪れることから、十五歳、と言う年齢が設けられていると聞いたことがある。
答えのない悩みを抱え、朔夜は頭を抱えた。
放課後。
朝と同じように歩いて帰ろうとすると。
「朔夜、乗って!」
と、声がかかる。一真だ。
「えっ? あ、大丈夫。歩いて帰るよ」
「何でっ!? 朝、秀の車には乗ったのに」
「あ、だってあれは、学校に行く途中だったし、断るのも、って思って……」
「だったら別にいいじゃんかっ。乗ってよ!」
「ダメだよっ。だって一真の家、方向違うし……」
「えっ? 何それ??」
言った直後、しまった! と思ったがもう遅い。一真の耳はしっかりと朔夜の声を拾って、投げ返していた。なぜなら、鷲尾家と入江家はほとんど離れていない、いわばご近所。共に高級住宅街に住んでいる。強いて言えば、その中でも特に大豪邸と言われるのが鷲尾家だ。
「……乗って」
もう一度一真が言う。彼のものかと疑うほどの低いトーン。
「……わかった。お邪魔します」
観念し、朔夜は車に乗る。座り込み、ふぅ、と深く息を吐く。これからどう話を組み立て誤魔化そうかと、彼の頭はフル回転。方向が違う、と言った以上、実家に向かって貰うのは一真の怒りを買うだけ、かといって、適当な場所で降ろして貰っても彼の事だ。朔夜がどこに向かうか、車から監視し続ける事だろう。
(……マンションだけは)
考えたあげく、出した答えはこれだった。
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