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オメガと知らされてから、初めての登校。
引っ越したと言っても転校する程の距離ではない、大半が有名大学に進学し、そのまま有名企業や医者や弁護士などに就く、それほどに名の知れた中高一貫の男子校。今までは車で送り迎えをして貰っていたが今日からはそれもない。歩くことは元々好きであったから構わないが、慣れない道であるために、朔夜は早めにマンションを出ることにした。
雲一つない晴天。それでも朔夜の心はどんよりだ。そうさせる気がかりがあったからだ。
すでに誕生日を先に迎え、検査を受けた者が大半。このような学校であるために、アルファが最も多く、続いてベータといった状況だったが、わずかにオメガと判定された者がいる。もちろん学校側が生徒にそれを知らせることはないのだが、発情が始まってしまえば隠す事は相当な困難。そのため、判定後すぐに発情しオメガだとわかり、一部から蔑まれる対象になってしまうことがあった。その執拗さに耐えきれず、転校した同級生も。
「はぁ……っ」
歩きながら、ため息を一つ。バレなければいい、それだけ。普段どおりに過ごせばいい。わかっているのだが、事実は心に大きくのしかかる。
「大丈夫、大丈夫」
トン、トン。と胸元を叩きながら、自分に言い聞かせるように呟く。そうでもしないとこの足は進んでくれないような気がした。
学校までの道のりを半分歩いたところで、追い越した車が突然止まる。何だろう? と思っていると。
「あれ? 珍しいね。歩き??」
ひょこ、と。見覚えのある顔が窓から出てきた。
「おはよう、秀くん。うん、そう。歩き」
「そうなんだ。乗っていく?」
「大丈夫。これくらいだったら歩くよ」
「ええーっ。俺が朔夜くんを乗っけていきたいんだけどなぁ。……ダメ?」
「ふはっ、なにそれ。……わかった。じゃあ、お言葉に甘えます」
厚意を受け車に乗る。朔夜に声をかけたのは、水無瀬秀。誰もが知る『水無瀬財閥』の御曹司。朔夜より二歳年下。まだあどけなさは残るが整った顔立ち、背も高くなく細身であるが、ほどよく筋肉がついた身体でで無駄のない動き。どんなスポーツでも他を圧倒する、歌を歌わせれば澄んだ声で魅了し、絵を描かせれば誰にもない個性で観たものすべてを惹きつける。本人は意識を全くしていないだろうがとにかく目立つ存在だ。幼い頃、ある友人を介して知り合い、そこからのつきあいだ。
(秀くんは、間違いなくアルファだよね……)
膝に置いた手に視線をやりながら思う。自らのことがあるので確実には言えない、それでも秀がアルファであることは間違いないだろうと、変な確信があった。対して、自らの今までを思い出し、情けなさで苦笑がもれる、すると。
ツン、と。頬をつつかれる感触が。
「ん? 何」
こんな事をする人物は、現在一人しかいない。秀に尋ねてみると。
「うりゃ」
もう一度、頬をつつかれる。
「ふはっ。何だよくすぐったい」
「あ。笑った」
「えっ?」
「朔夜くん、辛そうにしてたからさ。なんかあったの?」
唐突に聞かれる。いつもなら軽く流せる態度も、
「やっ。うんっ、なんでも、ない……っ」
途切れ途切れの返答になってしまう。
「ほんとぉ?」
「ホントホント。ちょっと考え事してただけ」
秀は納得のいかない様子で聞いてきたが、朔夜の答えを追求することなく「ならいいんだけど」と言って、正面を向いた。
こういう所が助かる。必要以上に詮索をしない。秀のらしさだ。これが、もう一人が相手だとなかなかこうもいかない。納得するまで、何度でも問いただしてくる。
(それもかわいいんだけどね……)
今はない姿を思い浮かべながら、今度こそ朔夜は朗らかな笑みを浮かべた。
引っ越したと言っても転校する程の距離ではない、大半が有名大学に進学し、そのまま有名企業や医者や弁護士などに就く、それほどに名の知れた中高一貫の男子校。今までは車で送り迎えをして貰っていたが今日からはそれもない。歩くことは元々好きであったから構わないが、慣れない道であるために、朔夜は早めにマンションを出ることにした。
雲一つない晴天。それでも朔夜の心はどんよりだ。そうさせる気がかりがあったからだ。
すでに誕生日を先に迎え、検査を受けた者が大半。このような学校であるために、アルファが最も多く、続いてベータといった状況だったが、わずかにオメガと判定された者がいる。もちろん学校側が生徒にそれを知らせることはないのだが、発情が始まってしまえば隠す事は相当な困難。そのため、判定後すぐに発情しオメガだとわかり、一部から蔑まれる対象になってしまうことがあった。その執拗さに耐えきれず、転校した同級生も。
「はぁ……っ」
歩きながら、ため息を一つ。バレなければいい、それだけ。普段どおりに過ごせばいい。わかっているのだが、事実は心に大きくのしかかる。
「大丈夫、大丈夫」
トン、トン。と胸元を叩きながら、自分に言い聞かせるように呟く。そうでもしないとこの足は進んでくれないような気がした。
学校までの道のりを半分歩いたところで、追い越した車が突然止まる。何だろう? と思っていると。
「あれ? 珍しいね。歩き??」
ひょこ、と。見覚えのある顔が窓から出てきた。
「おはよう、秀くん。うん、そう。歩き」
「そうなんだ。乗っていく?」
「大丈夫。これくらいだったら歩くよ」
「ええーっ。俺が朔夜くんを乗っけていきたいんだけどなぁ。……ダメ?」
「ふはっ、なにそれ。……わかった。じゃあ、お言葉に甘えます」
厚意を受け車に乗る。朔夜に声をかけたのは、水無瀬秀。誰もが知る『水無瀬財閥』の御曹司。朔夜より二歳年下。まだあどけなさは残るが整った顔立ち、背も高くなく細身であるが、ほどよく筋肉がついた身体でで無駄のない動き。どんなスポーツでも他を圧倒する、歌を歌わせれば澄んだ声で魅了し、絵を描かせれば誰にもない個性で観たものすべてを惹きつける。本人は意識を全くしていないだろうがとにかく目立つ存在だ。幼い頃、ある友人を介して知り合い、そこからのつきあいだ。
(秀くんは、間違いなくアルファだよね……)
膝に置いた手に視線をやりながら思う。自らのことがあるので確実には言えない、それでも秀がアルファであることは間違いないだろうと、変な確信があった。対して、自らの今までを思い出し、情けなさで苦笑がもれる、すると。
ツン、と。頬をつつかれる感触が。
「ん? 何」
こんな事をする人物は、現在一人しかいない。秀に尋ねてみると。
「うりゃ」
もう一度、頬をつつかれる。
「ふはっ。何だよくすぐったい」
「あ。笑った」
「えっ?」
「朔夜くん、辛そうにしてたからさ。なんかあったの?」
唐突に聞かれる。いつもなら軽く流せる態度も、
「やっ。うんっ、なんでも、ない……っ」
途切れ途切れの返答になってしまう。
「ほんとぉ?」
「ホントホント。ちょっと考え事してただけ」
秀は納得のいかない様子で聞いてきたが、朔夜の答えを追求することなく「ならいいんだけど」と言って、正面を向いた。
こういう所が助かる。必要以上に詮索をしない。秀のらしさだ。これが、もう一人が相手だとなかなかこうもいかない。納得するまで、何度でも問いただしてくる。
(それもかわいいんだけどね……)
今はない姿を思い浮かべながら、今度こそ朔夜は朗らかな笑みを浮かべた。
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