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3.結婚
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夜になっても辺境伯は戻ってこなかった。
それでも、マルグリットは女中に促されるままに風呂で体を横たえていた。
湯が使えるのはありがたい。
昼間も足を湯につけさせてもらったが、こうやって全身を湯につけると、旅の疲れが一気に溶けていくようだ。
このまま寝てしまいたいと思った時。
「旦那様がお戻りになられました」
扉の向こうで女中が告げた。
「お初にお目にかかります。旦那様。マルグリットにございます」
寝室にやってきた男は、熊のように大きな男だった。
マルグリットよりも頭一つどころではない。
亡き父も背の高い人だったが、それでも目線を少し上げる程度で良かったのに、この男は首を上げなければならない。
体だけではなく、手も足も大きい。マルグリットの倍はあるのかもしれない。
世間では、妻を殴る野蛮な夫もいると聞いたことがある。
マルグリットは、なぜかそれを思い出して、少しだけ恐怖を感じた。
「レオニダスだ」
マルグリットが立ち上がって礼をするのを見て、レオニダスは小さく言った。
「王命での結婚だ。あなたに不満はあるかもしれないが、取り消すことはできない」
「問題ないことでございます」
「俺は戦後の処理の関係で忙しい。不便をかけることもあるが許してほしい」
「もったいないお言葉にございます」
マルグリットはいつまで頭を下げていなければならないのかと思ったが、黙っていた。
「俺は礼法や作法には疎い。あなたもそう畏まらなくていい」
「ありがとう存じます。では、失礼いたします」
どうも、この男はそこまで野蛮ではないようだ。マルグリットは、ほっと小さく息を吐くと、ゆっくりと頭を上げた。
マルグリットの顔が正面を向くと、レオニダスは驚いたように目を見開いた。
暗い中でも彼女の緑色の瞳が自分を見つめているのがわかる。風呂で温まったのか、頬が上気していて、栗色の髪がまだ水気を含み艶めいている。
マルグリットもまた、レオニダスを見つめた。
背が高く、体には筋肉しかないように見える。
黒に近いこげ茶色の髪は短く刈り上げられて、鳶色の瞳はどこか戸惑っているようにも見える。
「いいか?」
「はい?」
肯定と受け取ったのか、次の瞬間にはマルグリットの体は抱き上げられていた。
レオニダスのたくましい腕は、マルグリットの体を軽々と持ち上げると、驚いたり声を上げる暇もないほど素早く、しかし丁寧に寝台へと降ろした。
――ああ、そうね。わたくしはこの男の妻になるのだわ。
漸く、マルグリットは自分が結婚したのだと自覚した。
翌朝、マルグリットが目覚めるとレオニダスの姿はなかった。
身体中が痛いのは、旅の疲れなのか昨夜の行為のせいなのかはわからない。
だが、マルグリットはマルグリット・エルミナ・ベルンシュタインから、マルグリット・エルミナ・グレイフォード=ヴァルデンになったのだ。
その日は、結局一日中寝台で過ごす羽目となってしまった。
女中からレオニダスはまた交渉のために早朝に出かけたのだと知らされて、マルグリットは安心したようながっかりしたような不思議な気分だった。
夫婦になったら、少なくとも3日は離れたくないものだ、とガヴァネスは言っていた。
もちろん、隣国との交渉は重要な仕事だから仕方ない。
それでも、マルグリットはレオニダスが自分に満足しなかったから、顔を見る間もなく出ていったのではないかと思ってしまう。
昨夜のレオニダスは、まるで壊れ物を扱うかのように慎重にマルグリットに触れていた。
痛いと泣くマルグリットに、おろおろとしながら丁寧に事を成した。
それが良くなかったのだろうか。
でも、体の中央が引き裂かれるようなあの痛みは、我慢したくてもできなかった。
マルグリットは小さく息を吐いた。
それでも、マルグリットは女中に促されるままに風呂で体を横たえていた。
湯が使えるのはありがたい。
昼間も足を湯につけさせてもらったが、こうやって全身を湯につけると、旅の疲れが一気に溶けていくようだ。
このまま寝てしまいたいと思った時。
「旦那様がお戻りになられました」
扉の向こうで女中が告げた。
「お初にお目にかかります。旦那様。マルグリットにございます」
寝室にやってきた男は、熊のように大きな男だった。
マルグリットよりも頭一つどころではない。
亡き父も背の高い人だったが、それでも目線を少し上げる程度で良かったのに、この男は首を上げなければならない。
体だけではなく、手も足も大きい。マルグリットの倍はあるのかもしれない。
世間では、妻を殴る野蛮な夫もいると聞いたことがある。
マルグリットは、なぜかそれを思い出して、少しだけ恐怖を感じた。
「レオニダスだ」
マルグリットが立ち上がって礼をするのを見て、レオニダスは小さく言った。
「王命での結婚だ。あなたに不満はあるかもしれないが、取り消すことはできない」
「問題ないことでございます」
「俺は戦後の処理の関係で忙しい。不便をかけることもあるが許してほしい」
「もったいないお言葉にございます」
マルグリットはいつまで頭を下げていなければならないのかと思ったが、黙っていた。
「俺は礼法や作法には疎い。あなたもそう畏まらなくていい」
「ありがとう存じます。では、失礼いたします」
どうも、この男はそこまで野蛮ではないようだ。マルグリットは、ほっと小さく息を吐くと、ゆっくりと頭を上げた。
マルグリットの顔が正面を向くと、レオニダスは驚いたように目を見開いた。
暗い中でも彼女の緑色の瞳が自分を見つめているのがわかる。風呂で温まったのか、頬が上気していて、栗色の髪がまだ水気を含み艶めいている。
マルグリットもまた、レオニダスを見つめた。
背が高く、体には筋肉しかないように見える。
黒に近いこげ茶色の髪は短く刈り上げられて、鳶色の瞳はどこか戸惑っているようにも見える。
「いいか?」
「はい?」
肯定と受け取ったのか、次の瞬間にはマルグリットの体は抱き上げられていた。
レオニダスのたくましい腕は、マルグリットの体を軽々と持ち上げると、驚いたり声を上げる暇もないほど素早く、しかし丁寧に寝台へと降ろした。
――ああ、そうね。わたくしはこの男の妻になるのだわ。
漸く、マルグリットは自分が結婚したのだと自覚した。
翌朝、マルグリットが目覚めるとレオニダスの姿はなかった。
身体中が痛いのは、旅の疲れなのか昨夜の行為のせいなのかはわからない。
だが、マルグリットはマルグリット・エルミナ・ベルンシュタインから、マルグリット・エルミナ・グレイフォード=ヴァルデンになったのだ。
その日は、結局一日中寝台で過ごす羽目となってしまった。
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夫婦になったら、少なくとも3日は離れたくないものだ、とガヴァネスは言っていた。
もちろん、隣国との交渉は重要な仕事だから仕方ない。
それでも、マルグリットはレオニダスが自分に満足しなかったから、顔を見る間もなく出ていったのではないかと思ってしまう。
昨夜のレオニダスは、まるで壊れ物を扱うかのように慎重にマルグリットに触れていた。
痛いと泣くマルグリットに、おろおろとしながら丁寧に事を成した。
それが良くなかったのだろうか。
でも、体の中央が引き裂かれるようなあの痛みは、我慢したくてもできなかった。
マルグリットは小さく息を吐いた。
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