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4.現状
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翌日にはマルグリットは起き上がることができるようになっていた。
ゆっくりと体を休めることができたし、夜にレオニダスが来なかったからだった。
ロニの手によって部屋着に着替えると、オスカーを呼ぶように頼んだ。
「お呼びでしょうか。奥様」
「この屋敷について、いくつか教えてほしいの」
意外な質問だったのか、オスカーは一瞬目を丸くしたが、すぐに頷いた。
「なんなりと」
マルグリットはその態度に、この男を信用してもいいと思えた。
「この屋敷の使用人は何人いるのかしら」
見た目は要塞のような建物だが、広さだけでいえば王都の公爵邸程もある。
「10人――で、ございます」
オスカーが答えた数字は、マルグリットの想像の10分の1だった。
オスカーを筆頭に、昨日の女中――女中頭だったらしい――と、もう一人。台所に2人。洗濯下女、下男が2人に馬小屋の世話係が2人だと、オスカーは説明した。
おそらく、マルグリットのためにこの部屋を整えていたせいで、屋敷の他の部屋が疎かになってしまったのだろう。
「使用人を増やすことは?」
「先日減らしたばかりです」
言いにくそうに、しかしはっきりと答えたオスカーの表情を見て、マルグリットは察した。
領地の荒廃ぷりもそうだ。やはり貧しいのだ。この領地は。
「借金は?」
「ありがたいことに今はまだ――」
「時間の問題ということね」
オスカーが頷くのを、マルグリットは苦々しい顔で見ていた。
「終戦の報奨金は?」
「はい。金貨850枚をいただき、現在は200枚ほどが残っております」
「そう――では、私の身の回りは、当面ロニがしてくれるので問題はないわ。女中頭には玄関から客間までと、客間の掃除を徹底するよう伝えて」
「承知いたしました」
オスカーが下がると、マルグリットはゆっくりと息を吐いた。
昨夜は旦那様が来なくてよかった――マルグリットは心底そう思った。
昼食を食べ終えると、マルグリットはロニとともに屋敷を見て回った。
掃除のやり直しを命じたものだから、女中頭に案内を頼めないのは失敗したと思ったが、昨日マルグリットが一日寝台で過ごしている間に、ロニが案内を受けていてくれたおかげである程度見て回ることができた。
屋敷は思った以上に手入れが行き届いておらず、特に客人を迎える3階などは、廃墟のような状態だった。
「戦争をしていた期間が長かったですものね」
ロニが独り言のように呟いたが、否定はできなかった。
隣国と戦争をしていたのだ。3年前まで。
そんな所に客人など呼べるはずもない。当然、主が不在がちな屋敷に使用人も不要だったのだろう。
前辺境伯は15年前に戦死し、夫人も後を追うように亡くなったと聞いている。
レオニダスのことはよくわからないが、おそらく家内に気を遣う人では無いだろう。
「今は良くても、2年後には侯爵を叙爵する予定よ。そうなればお客様を迎えることも増えるでしょうし……困ったわね」
マルグリットはロニを促すと、階下へと足を進めた。
「薪は――これだけなの?」
「はい――今年は……」
屋敷の裏手にある薪用の小屋に行くと、本来であれば小屋いっぱいにあるであろう薪が、隅っこに積み上げられているだけだった。
小屋の掃除をしていた下男を捕まえて確認すると、マルグリットの目の前が暗くなったのがわかる。
急いでオスカーの元に行くと、薪を買うよう指示した。
「ですが奥様――申し訳ありません」
オスカーは頭を下げた。
「領地内では十分な量の薪を確保することができず、周辺の領地から仕入れなければなりません。今年はそれも厳しいようで……」
「ヴァルデンは森林が豊富な土地だと聞いていたのだけど」
「木はありましても、切る人間がいなければ薪にはならないのです」
オスカーの言うことは尤もだった。
ゆっくりと体を休めることができたし、夜にレオニダスが来なかったからだった。
ロニの手によって部屋着に着替えると、オスカーを呼ぶように頼んだ。
「お呼びでしょうか。奥様」
「この屋敷について、いくつか教えてほしいの」
意外な質問だったのか、オスカーは一瞬目を丸くしたが、すぐに頷いた。
「なんなりと」
マルグリットはその態度に、この男を信用してもいいと思えた。
「この屋敷の使用人は何人いるのかしら」
見た目は要塞のような建物だが、広さだけでいえば王都の公爵邸程もある。
「10人――で、ございます」
オスカーが答えた数字は、マルグリットの想像の10分の1だった。
オスカーを筆頭に、昨日の女中――女中頭だったらしい――と、もう一人。台所に2人。洗濯下女、下男が2人に馬小屋の世話係が2人だと、オスカーは説明した。
おそらく、マルグリットのためにこの部屋を整えていたせいで、屋敷の他の部屋が疎かになってしまったのだろう。
「使用人を増やすことは?」
「先日減らしたばかりです」
言いにくそうに、しかしはっきりと答えたオスカーの表情を見て、マルグリットは察した。
領地の荒廃ぷりもそうだ。やはり貧しいのだ。この領地は。
「借金は?」
「ありがたいことに今はまだ――」
「時間の問題ということね」
オスカーが頷くのを、マルグリットは苦々しい顔で見ていた。
「終戦の報奨金は?」
「はい。金貨850枚をいただき、現在は200枚ほどが残っております」
「そう――では、私の身の回りは、当面ロニがしてくれるので問題はないわ。女中頭には玄関から客間までと、客間の掃除を徹底するよう伝えて」
「承知いたしました」
オスカーが下がると、マルグリットはゆっくりと息を吐いた。
昨夜は旦那様が来なくてよかった――マルグリットは心底そう思った。
昼食を食べ終えると、マルグリットはロニとともに屋敷を見て回った。
掃除のやり直しを命じたものだから、女中頭に案内を頼めないのは失敗したと思ったが、昨日マルグリットが一日寝台で過ごしている間に、ロニが案内を受けていてくれたおかげである程度見て回ることができた。
屋敷は思った以上に手入れが行き届いておらず、特に客人を迎える3階などは、廃墟のような状態だった。
「戦争をしていた期間が長かったですものね」
ロニが独り言のように呟いたが、否定はできなかった。
隣国と戦争をしていたのだ。3年前まで。
そんな所に客人など呼べるはずもない。当然、主が不在がちな屋敷に使用人も不要だったのだろう。
前辺境伯は15年前に戦死し、夫人も後を追うように亡くなったと聞いている。
レオニダスのことはよくわからないが、おそらく家内に気を遣う人では無いだろう。
「今は良くても、2年後には侯爵を叙爵する予定よ。そうなればお客様を迎えることも増えるでしょうし……困ったわね」
マルグリットはロニを促すと、階下へと足を進めた。
「薪は――これだけなの?」
「はい――今年は……」
屋敷の裏手にある薪用の小屋に行くと、本来であれば小屋いっぱいにあるであろう薪が、隅っこに積み上げられているだけだった。
小屋の掃除をしていた下男を捕まえて確認すると、マルグリットの目の前が暗くなったのがわかる。
急いでオスカーの元に行くと、薪を買うよう指示した。
「ですが奥様――申し訳ありません」
オスカーは頭を下げた。
「領地内では十分な量の薪を確保することができず、周辺の領地から仕入れなければなりません。今年はそれも厳しいようで……」
「ヴァルデンは森林が豊富な土地だと聞いていたのだけど」
「木はありましても、切る人間がいなければ薪にはならないのです」
オスカーの言うことは尤もだった。
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