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14.交渉
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「もちろん、存じておりますわ――ですが」
マルグリットは敢えてゆっくりと息を吐いた。
「麻に関することは許可されておりますわよね」
「そうですが――なぜそれを?」
司祭の言葉に、入口で立っていたロニは内心首を傾げた。
麻に関しては許可されているとマルグリットから教えられていたからだ。
「わたくしは元ベルンシュタイン公爵の娘ですわ」
マルグリットは微笑むと、司祭は納得したように頷いた。
「そうでした――ですが、そのお話はどうかご内密にお願いします。一般には知られていない話ですので」
「そうですわね。神殿が許可されているのは、飽くまでも麻の栽培――そう信徒は教えられていますもの」
なるほど、とロニはやっと納得した。
奥様はお生まれと領地の運営をなさっていた関係で、そういった裏事情にまで詳しいのだ。
ロニは有能な自分の主人を誇らしく思った。
「それで、事業とは――」
司祭は警戒心を隠そうともしていない。マルグリットを危険だと感じ始めていたのだ。
「そう身構えないでくださいまし。神殿にとっても悪いお話ではありませんわ」
マルグリットの微笑みに邪な陰は見えなかった。だが、同じくらい純粋さも見えない。
「レースの技術を教えていただきたいのです」
「レース……ですか」
拍子抜け、という言葉がしっくり来る司祭の表情を見て、ロニはおかしくて仕方がなかった。
だが、ここで吹き出してしまっては奥様のご迷惑になる。
ロニは肚に力を入れると、表情が変わらないよう気合いを入れた。
「奥様――事業とおっしゃるから驚いてしまいました。確かに、レースを趣味で取得されたいとおっしゃる貴族の女性も増えているようですが、皆様にはお断りをしているのです。なにせ、神殿の大事な収入源ですので」
バレてしまえば隠す気もないのか、司祭はいけしゃあしゃあと笑っている。
「あら、わたくしは『事業』とお伝えいたしましたわ。教えていただきたい相手は、わたくしではなく、技術の取得を希望する領地の者に、ですわ」
マルグリットは笑顔のまま、司祭に伝えた。
「な……そんなことが許可できるわけないでしょう。先程も申し上げましたが、レースは神殿の大事な収入源です」
「もちろん――」
貴婦人らしからぬ作法ではあるが、マルグリットは司祭の言葉を遮った。
「無料でとは申しませんわ。レースの売上に応じて、1割……いいえ、2割を神殿に納めさせていただきます」
「少なすぎます」
マルグリットは司祭の言葉に確証を得た。
「もちろん、領地の特産品となる予定ですので生産量は神殿の10倍以上になりますわ。流通量が増えることで、価格も多少は落ちると思われますが、それでも十分な額の謝礼をお納めできると思いますのよ」
司祭は「しかし――いや――」と呟きながら、そうなった場合の収益を計算しているのだろう。視線がキョロキョロと動いている。
マルグリットは笑顔のまま言った。
「確かに、今の時点ではレースの技術は神殿の専売特許ですわ。ですが――技術は必ず解明されるのですわ」
司祭ははっと顔を上げた。
「我が辺境伯領には、勉強熱心な者が何人もおりますの。その者たちが今もレースの技術を紐解こうと頑張っておりますのよ」
マルグリットの言わんとしていることは、司祭にはよく理解できた。
今技術を秘匿しても、レースそのものが流通している今、レースを解くことさえできれば編み方などすぐに解明されてしまう。
ただ、そのために購入するには、とても割に合わない金額なだけで――いや、ヴァルデン辺境伯夫人ほどの資産家であれば、そのためにレースを買うなど容易いに違いない。
そうなると、2割どころか協会の収入源は自動的に失われてしまう。
「さ――3割でなら」
「2割ですわ」
司祭の言葉を、マルグリットは容赦なく切り捨てた。
「ですが――」
マルグリットは笑顔のまま付け足した。
「レースに使う麻糸は、全て神殿から購入する事をお約束いたしますわ」
マルグリットは敢えてゆっくりと息を吐いた。
「麻に関することは許可されておりますわよね」
「そうですが――なぜそれを?」
司祭の言葉に、入口で立っていたロニは内心首を傾げた。
麻に関しては許可されているとマルグリットから教えられていたからだ。
「わたくしは元ベルンシュタイン公爵の娘ですわ」
マルグリットは微笑むと、司祭は納得したように頷いた。
「そうでした――ですが、そのお話はどうかご内密にお願いします。一般には知られていない話ですので」
「そうですわね。神殿が許可されているのは、飽くまでも麻の栽培――そう信徒は教えられていますもの」
なるほど、とロニはやっと納得した。
奥様はお生まれと領地の運営をなさっていた関係で、そういった裏事情にまで詳しいのだ。
ロニは有能な自分の主人を誇らしく思った。
「それで、事業とは――」
司祭は警戒心を隠そうともしていない。マルグリットを危険だと感じ始めていたのだ。
「そう身構えないでくださいまし。神殿にとっても悪いお話ではありませんわ」
マルグリットの微笑みに邪な陰は見えなかった。だが、同じくらい純粋さも見えない。
「レースの技術を教えていただきたいのです」
「レース……ですか」
拍子抜け、という言葉がしっくり来る司祭の表情を見て、ロニはおかしくて仕方がなかった。
だが、ここで吹き出してしまっては奥様のご迷惑になる。
ロニは肚に力を入れると、表情が変わらないよう気合いを入れた。
「奥様――事業とおっしゃるから驚いてしまいました。確かに、レースを趣味で取得されたいとおっしゃる貴族の女性も増えているようですが、皆様にはお断りをしているのです。なにせ、神殿の大事な収入源ですので」
バレてしまえば隠す気もないのか、司祭はいけしゃあしゃあと笑っている。
「あら、わたくしは『事業』とお伝えいたしましたわ。教えていただきたい相手は、わたくしではなく、技術の取得を希望する領地の者に、ですわ」
マルグリットは笑顔のまま、司祭に伝えた。
「な……そんなことが許可できるわけないでしょう。先程も申し上げましたが、レースは神殿の大事な収入源です」
「もちろん――」
貴婦人らしからぬ作法ではあるが、マルグリットは司祭の言葉を遮った。
「無料でとは申しませんわ。レースの売上に応じて、1割……いいえ、2割を神殿に納めさせていただきます」
「少なすぎます」
マルグリットは司祭の言葉に確証を得た。
「もちろん、領地の特産品となる予定ですので生産量は神殿の10倍以上になりますわ。流通量が増えることで、価格も多少は落ちると思われますが、それでも十分な額の謝礼をお納めできると思いますのよ」
司祭は「しかし――いや――」と呟きながら、そうなった場合の収益を計算しているのだろう。視線がキョロキョロと動いている。
マルグリットは笑顔のまま言った。
「確かに、今の時点ではレースの技術は神殿の専売特許ですわ。ですが――技術は必ず解明されるのですわ」
司祭ははっと顔を上げた。
「我が辺境伯領には、勉強熱心な者が何人もおりますの。その者たちが今もレースの技術を紐解こうと頑張っておりますのよ」
マルグリットの言わんとしていることは、司祭にはよく理解できた。
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ただ、そのために購入するには、とても割に合わない金額なだけで――いや、ヴァルデン辺境伯夫人ほどの資産家であれば、そのためにレースを買うなど容易いに違いない。
そうなると、2割どころか協会の収入源は自動的に失われてしまう。
「さ――3割でなら」
「2割ですわ」
司祭の言葉を、マルグリットは容赦なく切り捨てた。
「ですが――」
マルグリットは笑顔のまま付け足した。
「レースに使う麻糸は、全て神殿から購入する事をお約束いたしますわ」
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