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13.神殿
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「この調子で行けば、冬を超えることができそうですね」
体調を取り戻したオスカーは、ルイスからの報告を読み上げると、安心したように笑った。
狐と狼の毛皮は順調に利益を産んでいた。この2週間で金貨7枚もの利益を産んでいる。
同時に、周辺の村では家畜が襲われる被害も減ったと報告を受け、マルグリットもそこには満足していた。
だが、まだ足りない。
領地にはまだまだ補修が必要な箇所が山のようにある。その資金を作らなければならないと考えると、全然足りないのだ。
オスカーを下がらせると、マルグリットはロニを呼んだ。
「着ないドレスを仕立て直したいの」
「奥様。せっかく王室からいい布地を沢山もらったんですよ?新しく仕立てたらいいじゃないですか」
ロニが言うと、マルグリットは首を振った。
「そんな贅沢必要ないわ。レオン様もわたくしに社交なんてのも求めていらっしゃらないのだから、ドレスなんてあってもしかたないでしょう」
それも一理あるのかとロニは納得したが、こんなに美しい奥様が綺麗に着飾った姿を見ると、きっと旦那様はもっと奥様に夢中になるのではないかと思った。
「では奥様、この春用のドレスに、このレースを付けられてはいかがです?」
ロニが出してきたのは、衣装箱の奥にあったレースだ。たしか、母のドレスを処分するときに、あまりの素晴らしい出来に取っておいたものだった。
「ああ、ロニ。これだわ――なぜ今まで気が付かなかったのかしら。あなたのおかげよ」
マルグリットはロニに感謝したが、ロニは一体なぜ礼を言われているのか、当然わからなかった。
「これはこれは、奥様」
マルグリットが神殿に行くと、司祭が笑顔で迎えてくれた。
マルグリットはロニに目配せをすると、ロニは承知したように小さい袋を司祭に手渡した。
「奥様に神々の守護が与えられますよう」
司祭は懐に袋をしまうと、マルグリットを神殿の奥の客間に案内した。
事前に「相談したいことがある」と報せを入れていたのだ。
客間には、座り心地のいい木の椅子が置かれていた。
長年使い込まれてきたのだろう。表面は黒く艷やかに磨かれている。
「祭壇の木工品も素晴らしいですが、こちらの椅子もとても素晴らしいですわね」
「ありがとう存じます。こちらは、亡くなった神官長の息子さんが20年前に作られたものを寄贈してくださったのですよ」
「まぁ――その方は今もこういったお仕事を?」
マルグリットが尋ねると、司祭は小さく首を振った。
「この椅子を寄贈いただきた直後に戦争が酷くなりましてね……隣国の攻撃に巻き込まれて足を失ってからはもう」
「そうですか……」
マルグリットは視線を落とした。
「で、本日はご相談があるとお伺いましたが」
司祭はどこか不安げな顔をしている。
既婚の女性が神殿に来る理由は一つだけだ。
夫との婚姻の解消。
神殿だけが唯一承認することができる権利だった。
「ご安心くださいませ。夫との結婚は順調ですの」
マルグリットが微笑むと、司祭はほっと溜息をついた。
なにせ、夫人が嫁いで来てこのひと月ほどで、領地は大きく変化した。
水路や橋は修復され、失業者はわずかずつだが数を減らしている。
毛皮が産業の一環となりつつあるのも、この夫人の手腕だと神殿にまで噂が聞こえてきているほどだ。
「ようございました。……では、本日はどのような?」
「ええ。事業のお話をさせていただきたく、参りましたの」
マルグリットの言葉に、司祭は思わず息を飲み込んだ。
女性が事業の話をすること自体もそうだが、神殿にそのような話を持ってくるとは思ってもいなかった司祭は、マルグリットをまじまじと見つめた。
「奥様……ご存知かどうかは存じませんが、神殿は経済活動を禁じられております」
司祭が困ったように言うと、マルグリットはにっこりと微笑んだ。
体調を取り戻したオスカーは、ルイスからの報告を読み上げると、安心したように笑った。
狐と狼の毛皮は順調に利益を産んでいた。この2週間で金貨7枚もの利益を産んでいる。
同時に、周辺の村では家畜が襲われる被害も減ったと報告を受け、マルグリットもそこには満足していた。
だが、まだ足りない。
領地にはまだまだ補修が必要な箇所が山のようにある。その資金を作らなければならないと考えると、全然足りないのだ。
オスカーを下がらせると、マルグリットはロニを呼んだ。
「着ないドレスを仕立て直したいの」
「奥様。せっかく王室からいい布地を沢山もらったんですよ?新しく仕立てたらいいじゃないですか」
ロニが言うと、マルグリットは首を振った。
「そんな贅沢必要ないわ。レオン様もわたくしに社交なんてのも求めていらっしゃらないのだから、ドレスなんてあってもしかたないでしょう」
それも一理あるのかとロニは納得したが、こんなに美しい奥様が綺麗に着飾った姿を見ると、きっと旦那様はもっと奥様に夢中になるのではないかと思った。
「では奥様、この春用のドレスに、このレースを付けられてはいかがです?」
ロニが出してきたのは、衣装箱の奥にあったレースだ。たしか、母のドレスを処分するときに、あまりの素晴らしい出来に取っておいたものだった。
「ああ、ロニ。これだわ――なぜ今まで気が付かなかったのかしら。あなたのおかげよ」
マルグリットはロニに感謝したが、ロニは一体なぜ礼を言われているのか、当然わからなかった。
「これはこれは、奥様」
マルグリットが神殿に行くと、司祭が笑顔で迎えてくれた。
マルグリットはロニに目配せをすると、ロニは承知したように小さい袋を司祭に手渡した。
「奥様に神々の守護が与えられますよう」
司祭は懐に袋をしまうと、マルグリットを神殿の奥の客間に案内した。
事前に「相談したいことがある」と報せを入れていたのだ。
客間には、座り心地のいい木の椅子が置かれていた。
長年使い込まれてきたのだろう。表面は黒く艷やかに磨かれている。
「祭壇の木工品も素晴らしいですが、こちらの椅子もとても素晴らしいですわね」
「ありがとう存じます。こちらは、亡くなった神官長の息子さんが20年前に作られたものを寄贈してくださったのですよ」
「まぁ――その方は今もこういったお仕事を?」
マルグリットが尋ねると、司祭は小さく首を振った。
「この椅子を寄贈いただきた直後に戦争が酷くなりましてね……隣国の攻撃に巻き込まれて足を失ってからはもう」
「そうですか……」
マルグリットは視線を落とした。
「で、本日はご相談があるとお伺いましたが」
司祭はどこか不安げな顔をしている。
既婚の女性が神殿に来る理由は一つだけだ。
夫との婚姻の解消。
神殿だけが唯一承認することができる権利だった。
「ご安心くださいませ。夫との結婚は順調ですの」
マルグリットが微笑むと、司祭はほっと溜息をついた。
なにせ、夫人が嫁いで来てこのひと月ほどで、領地は大きく変化した。
水路や橋は修復され、失業者はわずかずつだが数を減らしている。
毛皮が産業の一環となりつつあるのも、この夫人の手腕だと神殿にまで噂が聞こえてきているほどだ。
「ようございました。……では、本日はどのような?」
「ええ。事業のお話をさせていただきたく、参りましたの」
マルグリットの言葉に、司祭は思わず息を飲み込んだ。
女性が事業の話をすること自体もそうだが、神殿にそのような話を持ってくるとは思ってもいなかった司祭は、マルグリットをまじまじと見つめた。
「奥様……ご存知かどうかは存じませんが、神殿は経済活動を禁じられております」
司祭が困ったように言うと、マルグリットはにっこりと微笑んだ。
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