辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた

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21.告白

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 執務室の暖炉では、乾いた薪の爆ぜる音が静かに響いた。
 受けた報告を紙に纏めると、珍しく書き損じてしまった。
 だが、貴重な紙だ。こんな程度で捨てるはずもなく、マルグリットはそのまま書き進める。
「マリー」
 執務室のドアが勢いよく開くと、マルグリットは驚いて紙にインクをこぼしてしまったが、それよりも飛び込んできたレオニダスに気を取られた。
 久しぶりに正面から向き合うような気がする。
「ああ……オスカーの野郎が言った通りだ――すまない」
 扉を閉めるのも忘れて、レオニダスは大股でマルグリットに歩み寄る。
 彼女の顔色は悪く、目の下には隈ができていた。
 こんなにわかりやすくやつれていたのに、なぜ自分は今まで気が付かなかったんだ。
 自責の思いがレオニダスを押しつぶそうとしているが、それよりも伝えなければならないことがある。
「旦那様――?どうされました?」
 レオニダスの形相に、マルグリットはおろおろと尋ねた。
 その動揺はレオニダスを恐れてではないことはわかっていた。
「旦那様など――レオンと呼んで欲しいと言ってるではないか」
 そうだ。いつからかマルグリットは、また自分のことを「旦那様」と呼ぶようになっていた。
 俺は阿呆か。
 マルグリットに到着すると、レオニダス――レオンは彼女の少し痩せた体を抱きしめた。
「旦――レオン様……?」
 名前を呼び終わる前に、マルグリットは言葉を詰まらせた。涙が溢れて声が出ない。
「マリー……すまない」
 震える声が、マルグリットの耳を震わせる。
 毎夜、寝静まった頃を見計らって寝台に戻るレオンに、マルグリットは気が付いていた。
 起きてる間は来ないとわかったマルグリットは、寝たふりをしている自分を抱きしめるレオンを、心の中で抱きしめていた。
 だが、もう寝たふりはしなくてもいいのだ。
 心の中で抱きしめなくていいのだ。
 マルグリットはレオンの体に、恐る恐る手を回して、その温もりを体中に感じた。
「俺は――俺の不甲斐なさで君に全ての重圧を押し付け、結果君を傷つけたと思って……」
 レオンの声が震えているのは気のせいではない。震えているのは声だけではないのだから。
「わたくしは……取り乱したわたくしに呆れて、レオン様がわたくしへの関心を失われたのかと……」
 涙で声を詰まらせながらマルグリットが言うと、レオンはマルグリットを抱く力を緩めて、彼女の顔を覗き込んだ。
 緑色の美しい瞳が潤んでいる。
「俺の行いが君を不安にさせていたのだな……」
 言いかけて、レオンは気が付いた。
「俺の態度、で――?君は、もしかしたら俺を好いてくれてるのか?」
 レオンの言葉に、マルグリットの顔が見る間に赤くなる。
「教えてくれ。俺は、君は妻の務めとして俺に応じてくれてるのだと思ってた。そうではないのか?――君は俺を愛してくれてるのか?」
 畳み掛けるように言うレオンに、マルグリットは恥ずかしくて逃げ出したくなったが、レオンの逞しい腕にしっかり抱かれて逃げられない。
「マリー、答えてくれ。俺は君を愛してる。君が俺を愛してくれてるなら、こんなに幸せなことはない。俺を幸せにしてくれ」
 必死さを感じさせる言葉は、全てマルグリットの胸を勢いよく打ちつけた。
「愛……わたくしはレオン様に触れられると幸せです。レオン様が名前を呼んでくださると嬉しくなります。レオン様のお姿が見えないと不安で、レオン様の頬を撫でると嬉しそうになさるのを見ると胸が苦しくなります……これが、愛なのですか?」
「俺も同じだ。まるで同じだ」
 レオンは、そう言うとマルグリットの唇に口付けた。
 執務室の扉は、いつの間にか閉じられていた。
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