辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた

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46.生死

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 アーサーはにこやかな表情を変えずにマルグリットを見つめている。どういった感情かは読み取れない。
「カティアの客を調べていたら出てきましたわ。ノーマンに接触した人物と同じ人間でした」
 マルグリットは静かに言うと、ソフィーに視線を投げた。
「連絡役には少々お粗末な人材でしたわね」
「少ない素材から使える手駒を選び出すしかなかったのは、君にも理解していただけるはずだ」
 アーサーは表情を変えずに茶に手を伸ばした。
 ソフィーは理解ができずにアーサーとマルグリットを交互に見ている。
「故郷に手紙を送りたい、とでも言われたのかしら?」
 マルグリットが問いかけると、ソフィーは驚いた表情で固まっている。
「私――私は――」
「利用されていたのよ。お前が悪いわけではないわ」
 マルグリットは慰めたつもりだった。
 だが、ソフィーはアーサーを心から愛していた。マルグリットはそれを見落としていた。
 
 アーサー・ルセンディアは、始めからソフィーに熱のこもった視線と優しい言葉を投げかけてくれた。
 辺境伯夫妻の前では尊大で傲慢な態度を崩さないのに、自分にだけは弱さを見せてくれていた。
 何度も愛してると――いや、愛してると言ったことは一度もない。
 ただ、「可愛い人」とだけだった。
 ソフィーはアーサーを見ると、いつも通り尊大で傲慢な笑顔を浮かべている。
 そうではない。アーサーの本当の姿は――自分が知っているアーサーは……
 ソフィーはマルグリットを睨んだ。
 そうだ、この女がいつもアーサーを追い詰める。違う――ソフィーは知っていた。
 アーサーが本当に求めていたのはこの女なのだと。

 ソフィーは無意識に足を踏み出していた。
 ソフィーすぐそばにある配膳台には、果物を切り分けるためのナイフが置かれている。
 手を伸ばしてナイフを取ると、マルグリットを見据えた。
 あの胸にこれを突き立てれば――
 だが、次の瞬間、ソフィーの手からナイフがこぼれ落ちた。
 背中が熱い。溶けた鉄をかけられたのかと思ったが、すぐに赤く温かい血液がソフィーの下半身を染めていく。
 ソフィーはマルグリットの向かいに座ったままのアーサーを見た。
 きっと悲しんでくれる――自分がいなくなることで、不安に震えているのかもしれない。
 だが、ソフィーの目に映ったアーサーの表情は、尊大で傲慢なままだった。

「マリー!大丈夫か」
 開け放したままの扉から飛び込んできたのはレオニダスだった。
 手に剣を持ったまま、左手でマルグリットを庇うように抱きしめると、アーサーを射殺さんばかりの目で睨みつけた。
「貴様――」
「なりません。レオン様、なりません」
 マルグリットは殺気立つレオンの体を抱きしめるようにしがみついた。
「だが、もう少しで君は」
「レオン様が救ってくださいました。問題ありません――だから」
 マルグリットはそう言ったが、部屋に充満する血の匂いに耐えきれず、意識を失ってしまった。
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