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第四章 遠い二人
第六十四話 希望(アルム視点)
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シェイラが、行ってしまった。もしかしたら、もう帰ってこないかもしれない。そんな予感に、ボクは低く唸る。
「陛下、唸ってないで仕事をなさってください。ここ最近、書類が溜まっているのですから」
「そうはいうが……いや、分かった。分かったから、その振り上げた斧はおさめてくれ」
ボクの前で、新たな書類を持ってきた男は、このドラグニル竜国の宰相である、ディーク・ロスタだ。伊達眼鏡をかけた神経質そうな見た目の男なのだが……実際は、ことあるごとに斧で脅迫してくる脳筋じみた部分が目立つやつだ。
幼馴染みで、頭のキレるディークは、次期竜王ではないかともてはやされていたのだが、『そんな面倒な職に就きたくはありません』と言って、竜王を決める戦いで手を抜いたという過去の持ち主でもある。ボクとディークは互角の実力で、どちらが勝つか分からないと思える状態なのだが、ディークが手を抜いたことにより、ボクがすんなり王になったのだ。
「そんなにかのお方が恋しいのであれば、求婚なされば良かったものを」
「いや、だが、そうなるとシェイラ自身に負担がかかるだろう」
「その程度、己が守ってやるくらいの言葉を吐けなくてなんとします。端から見ていれば、かのお方が陛下に想いを寄せていることなんてバレバレでしたでしょうに」
「……そう、なのか?」
ディークのその言葉に、ボクは首をかしげる。すると、ディークは深い、深いため息を吐く。
「少しは、人間のことを勉強なさるとよろしいかと。お勧めの本をいくらかお貸ししましょう」
「あ、あぁ、頼む」
ものすごく残念なものを見る目で見られて、ボクはたじろぎながらもうなずく。
と、いうより……。
(そうだ。シェイラは、ボクのことを想ってくれていたんだった)
シェイラを助けるために開けた小箱。そして、その中に入っていた極秘書類には、シェイラの思いの丈が綴られていた。
『うぅ、アルムのことを調べたい。好きな食べ物とか、好きな花とか……あぁっ、でも、アルムはお姉様が好きなわけで……私は、お姉様みたいにはなれない。それに、後ろ楯もなにもなければ迷惑しかかけないし……』
そんな可愛らしいことが書かれていて、興奮しない男が居るだろうか? いや、居ない。
どうやら、それはシェイラの日記だったらしく、たまたま開いたページがそれで、ボクは思わず人化を解いてしまう羽目になった。
「ニヤニヤして、気持ち悪い。さっさと国を安全な場所にして、かのお方を迎え入れる準備を整えてください」
絶対零度の視線を受けたボクだったが、そこに、聞き捨てならない内容を見つける。
「っ、ディークは、シェイラが戻ってくると思うのか?」
「えぇ、そうでなければ、あの執事を残しては行かないでしょう?」
言われて初めて、ボクは、セルグという名の執事がまだこの国に残っていることを思い出す。
「察するに、これは『絶対者』様からの課題かと。国内が落ち着けば、シェイラ様の帰還は十分にあり得ます」
そして、最後に『彼を忘れたのでなければ』と付け足されたが、ボクにその言葉は届いていなかった。
「シェイラが、戻ってくる……っ」
希望が見えたところで、ボクは猛スピードで書類を片付けていくのだった。
「陛下、唸ってないで仕事をなさってください。ここ最近、書類が溜まっているのですから」
「そうはいうが……いや、分かった。分かったから、その振り上げた斧はおさめてくれ」
ボクの前で、新たな書類を持ってきた男は、このドラグニル竜国の宰相である、ディーク・ロスタだ。伊達眼鏡をかけた神経質そうな見た目の男なのだが……実際は、ことあるごとに斧で脅迫してくる脳筋じみた部分が目立つやつだ。
幼馴染みで、頭のキレるディークは、次期竜王ではないかともてはやされていたのだが、『そんな面倒な職に就きたくはありません』と言って、竜王を決める戦いで手を抜いたという過去の持ち主でもある。ボクとディークは互角の実力で、どちらが勝つか分からないと思える状態なのだが、ディークが手を抜いたことにより、ボクがすんなり王になったのだ。
「そんなにかのお方が恋しいのであれば、求婚なされば良かったものを」
「いや、だが、そうなるとシェイラ自身に負担がかかるだろう」
「その程度、己が守ってやるくらいの言葉を吐けなくてなんとします。端から見ていれば、かのお方が陛下に想いを寄せていることなんてバレバレでしたでしょうに」
「……そう、なのか?」
ディークのその言葉に、ボクは首をかしげる。すると、ディークは深い、深いため息を吐く。
「少しは、人間のことを勉強なさるとよろしいかと。お勧めの本をいくらかお貸ししましょう」
「あ、あぁ、頼む」
ものすごく残念なものを見る目で見られて、ボクはたじろぎながらもうなずく。
と、いうより……。
(そうだ。シェイラは、ボクのことを想ってくれていたんだった)
シェイラを助けるために開けた小箱。そして、その中に入っていた極秘書類には、シェイラの思いの丈が綴られていた。
『うぅ、アルムのことを調べたい。好きな食べ物とか、好きな花とか……あぁっ、でも、アルムはお姉様が好きなわけで……私は、お姉様みたいにはなれない。それに、後ろ楯もなにもなければ迷惑しかかけないし……』
そんな可愛らしいことが書かれていて、興奮しない男が居るだろうか? いや、居ない。
どうやら、それはシェイラの日記だったらしく、たまたま開いたページがそれで、ボクは思わず人化を解いてしまう羽目になった。
「ニヤニヤして、気持ち悪い。さっさと国を安全な場所にして、かのお方を迎え入れる準備を整えてください」
絶対零度の視線を受けたボクだったが、そこに、聞き捨てならない内容を見つける。
「っ、ディークは、シェイラが戻ってくると思うのか?」
「えぇ、そうでなければ、あの執事を残しては行かないでしょう?」
言われて初めて、ボクは、セルグという名の執事がまだこの国に残っていることを思い出す。
「察するに、これは『絶対者』様からの課題かと。国内が落ち着けば、シェイラ様の帰還は十分にあり得ます」
そして、最後に『彼を忘れたのでなければ』と付け足されたが、ボクにその言葉は届いていなかった。
「シェイラが、戻ってくる……っ」
希望が見えたところで、ボクは猛スピードで書類を片付けていくのだった。
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