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第一章 幼少期編
第九十五話 王家の守り人
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やって参りました。謁見の間。
なぜ、私がこんなところに居るのかといえば、王妃様が口にした『王家の守り人』という存在についての説明のためだ。と、いっても、実のところ、この言葉の意味はお父様からあらかじめ説明を受けている。
「面を上げよ」
お父様とともに顔を上げた私は、陛下へと視線を向ける。
陛下と対面するのは二度目だが、正直、前回はイルト王子のことしか見えていなかった。こうやって、陛下をまともに見るのは、初めてと言っても過言ではない。
(うん、威厳たっぷりの王様だ)
厳めしい顔つきで、威圧感を与えるその様子は、王という座に相応しいと思えた。王妃様に引き続き、表情を読み取らせてはくれそうにない。
「此度は、王妃の危機を救い出してくれたこと、感謝する」
「もったいなきお言葉」
私は、一応五歳児ということで、陛下との会話は、求められでもしない限りお父様の役割となる。私のここでの役割は、ただただ黙って話を聞くことのみ。いわゆる、形式というやつだ。
「王妃が口にした『王家の守り人』というのは、ユミリア嬢で決定した。王家に仕え、王家のためにのみ働く駒。とはいえ、ユミリア嬢は公爵家の令嬢でもある。特例として、代行者の許可を出すこととした。その選抜は、アルテナ公爵へと一任する。良いな?」
「御意」
陛下の言葉通り、『王家の守り人』というのは、王家のために存在する実力者のことだ。戦争が絶えなかった昔に成立した制度であり、彼らは影からずっと王家を守り続けてきた。おかげで、彼らはその地位を表立って宣言する場合、王家の次に権力を持つ者として見られたのだが……ここ百年ほど、戦争から遠ざかっている我が国においては、その制度は風化したものだった。そんな制度を持ち出した王妃様が何を考えていたのかといえば、とにかくその場を収めることと、私を安全圏に引き上げることだった。ただ、風化していたとはいえ、法としてなくなっていたわけではないそれは、私に強力な義務を課すこととなる。すなわち、『全ての力を用いて、王家を守ること』だ。
(うん、まぁ、王妃様もそこまでのことを私に求めてはいなかったよね……)
もちろん、王妃様も、陛下も、私にその役割を本気で押しつけるつもりはない。だからこその、『代行者』などという特例なのだ。要するに『ユミリア嬢を本気で王家の守り人にするつもりはないよ? だから、適当にそこそこの実力がある人物を選んで、そいつがユミリア嬢の代わりに王家を守るように仕向けてね? 実績は、全部ユミリア嬢のものにしておくから』ということだ。
(まぁ、普通、五歳児が『王家の守り人』って何の冗談だと思うよね)
それほどまでに重い立場。幸いにして、あのお茶会ではそれを完全に察せるほどの大人がいなかったため、『王妃様が私を『王家の守り人』という存在と示して場を収めた』くらいにしか受け取られなかったものの、これが親世代に報告されるとなるとその程度では収まらない。
『王妃様から贔屓されて、高い地位を得た』なんて思う者も居るだろうし、そもそも、報告そのものを疑って本気にしない者だって出てくるだろう。何らかの魔法で、そう見せただけなのだと思われても仕方がないのだ。
(でも、王族の発言は重い。王妃様の発言自体は、嘘だと思うことは不可能だろうから、私に対しては、かなり負の感情が集中する。で、それを撤回するために、『代行者』なんてものを持ち出した、と)
『代行者』の存在は、恐らくは極秘事項だろう。私の代わりに『代行者』が実績を出せば、それだけ、私へ手を出そうとする者は居なくなる。お父様とて、それが分かるからこそ、『代行者』の選別に手を抜く、ということはない。
(急ごしらえにしては、上手く考えてる、のかな?)
ところどころに穴がないわけではない。しかし、それでも大きな穴は塞げたといったところだろう。そんな状態だからこそ、王妃様が、あの時、必死に考えを巡らせてくれたのだとも理解できる。
(……よしっ、『代行者』はローランってことにしておいてもらおうっ)
ただ、私にとっては上手い隠れ蓑ができた、という状況だったりもする。味方にとっては、ローランが私の実績を作っていると思わせられるし、敵にとっては、私という存在がどんどん脅威となって映るだろう。もちろん、正しい認識は敵側のものだ。私は、ローランに身代わりをしてもらうつもりなどない。せっかく、『王家の守り人』なんていう素敵な立場と権力をもらったのだ。思う存分、イルト王子や王妃様を守るために使う所存である。
謁見の間で、仰々しく『王家の守り人』就任の証であるブローチを受け取った私は、お父様に連れられて早々に退出したのだった。
なぜ、私がこんなところに居るのかといえば、王妃様が口にした『王家の守り人』という存在についての説明のためだ。と、いっても、実のところ、この言葉の意味はお父様からあらかじめ説明を受けている。
「面を上げよ」
お父様とともに顔を上げた私は、陛下へと視線を向ける。
陛下と対面するのは二度目だが、正直、前回はイルト王子のことしか見えていなかった。こうやって、陛下をまともに見るのは、初めてと言っても過言ではない。
(うん、威厳たっぷりの王様だ)
厳めしい顔つきで、威圧感を与えるその様子は、王という座に相応しいと思えた。王妃様に引き続き、表情を読み取らせてはくれそうにない。
「此度は、王妃の危機を救い出してくれたこと、感謝する」
「もったいなきお言葉」
私は、一応五歳児ということで、陛下との会話は、求められでもしない限りお父様の役割となる。私のここでの役割は、ただただ黙って話を聞くことのみ。いわゆる、形式というやつだ。
「王妃が口にした『王家の守り人』というのは、ユミリア嬢で決定した。王家に仕え、王家のためにのみ働く駒。とはいえ、ユミリア嬢は公爵家の令嬢でもある。特例として、代行者の許可を出すこととした。その選抜は、アルテナ公爵へと一任する。良いな?」
「御意」
陛下の言葉通り、『王家の守り人』というのは、王家のために存在する実力者のことだ。戦争が絶えなかった昔に成立した制度であり、彼らは影からずっと王家を守り続けてきた。おかげで、彼らはその地位を表立って宣言する場合、王家の次に権力を持つ者として見られたのだが……ここ百年ほど、戦争から遠ざかっている我が国においては、その制度は風化したものだった。そんな制度を持ち出した王妃様が何を考えていたのかといえば、とにかくその場を収めることと、私を安全圏に引き上げることだった。ただ、風化していたとはいえ、法としてなくなっていたわけではないそれは、私に強力な義務を課すこととなる。すなわち、『全ての力を用いて、王家を守ること』だ。
(うん、まぁ、王妃様もそこまでのことを私に求めてはいなかったよね……)
もちろん、王妃様も、陛下も、私にその役割を本気で押しつけるつもりはない。だからこその、『代行者』などという特例なのだ。要するに『ユミリア嬢を本気で王家の守り人にするつもりはないよ? だから、適当にそこそこの実力がある人物を選んで、そいつがユミリア嬢の代わりに王家を守るように仕向けてね? 実績は、全部ユミリア嬢のものにしておくから』ということだ。
(まぁ、普通、五歳児が『王家の守り人』って何の冗談だと思うよね)
それほどまでに重い立場。幸いにして、あのお茶会ではそれを完全に察せるほどの大人がいなかったため、『王妃様が私を『王家の守り人』という存在と示して場を収めた』くらいにしか受け取られなかったものの、これが親世代に報告されるとなるとその程度では収まらない。
『王妃様から贔屓されて、高い地位を得た』なんて思う者も居るだろうし、そもそも、報告そのものを疑って本気にしない者だって出てくるだろう。何らかの魔法で、そう見せただけなのだと思われても仕方がないのだ。
(でも、王族の発言は重い。王妃様の発言自体は、嘘だと思うことは不可能だろうから、私に対しては、かなり負の感情が集中する。で、それを撤回するために、『代行者』なんてものを持ち出した、と)
『代行者』の存在は、恐らくは極秘事項だろう。私の代わりに『代行者』が実績を出せば、それだけ、私へ手を出そうとする者は居なくなる。お父様とて、それが分かるからこそ、『代行者』の選別に手を抜く、ということはない。
(急ごしらえにしては、上手く考えてる、のかな?)
ところどころに穴がないわけではない。しかし、それでも大きな穴は塞げたといったところだろう。そんな状態だからこそ、王妃様が、あの時、必死に考えを巡らせてくれたのだとも理解できる。
(……よしっ、『代行者』はローランってことにしておいてもらおうっ)
ただ、私にとっては上手い隠れ蓑ができた、という状況だったりもする。味方にとっては、ローランが私の実績を作っていると思わせられるし、敵にとっては、私という存在がどんどん脅威となって映るだろう。もちろん、正しい認識は敵側のものだ。私は、ローランに身代わりをしてもらうつもりなどない。せっかく、『王家の守り人』なんていう素敵な立場と権力をもらったのだ。思う存分、イルト王子や王妃様を守るために使う所存である。
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