悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌

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第二章 少女期 瘴気編

第百八十五話 とある女王の転機

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 妾、ミルラス・リリューは、もしかしたら、ずっと、ずっと、退屈していたのかもしれない。


「ミル、これに魔力を注いで?」

「分かったのじゃっ」

「ミル、今日のご飯になるもの、調達よろしく」

「わ、分かったのじゃ」

「ミル、そっちの木を支えておいて」

「わ、分かっぬぉぉおっ、あ、危なかったのじゃ……」


 魔力を注ぐくらい、大したことではない。そう思えば、動けなくなるくらいに根こそぎ魔力を吸収され、夢魔の森を離れたどこか分からない場所では、獲物を狩るどころか、餌にされかけ、主様が軽々と持っていた木を支えようとすれば、そのあまりの重さに押し潰されそうになり……なんというか、全体的に苦労の連続で、死にそうだった。


「あ、主様。これは、妾に?」

「みゅ? そうだよ? 夢魔も、普通の食事なら食べられるでしょう?」


 ボロッボロになりながら、どうにか主様の要求をこなしていき、迎えた晩餐の時。正直、妾は自分に食事が用意されるとは思っていなかった。何せ、妾は夢魔。人間の食事を食べられないわけではないものの、主食は人間の悪夢を見る時の感情エネルギー。獲物の夢の中に入り込んで、悪夢を見せて、衰弱死させるのが、妾達のあり方だ。そして今は、主様から送られる魔力のみで生きていける状態。つまりは、食事の必要など欠片もないのだ。
 差し出された椀を受け取って、妾は主様が『みそしる』と呼ぶ泥のような色のスープを眺める。


(むぅ? 人間は、こんな色のものでも食べるのかえ? ……不味くとも、食べぬという選択肢はないのであろうな)


 初めて会った瞬間から、何やら尋常ならざる敵意をみせてきた主様。もしかしたら、この先、妾は奴隷として、虐げられながら生きることしかできぬのやもしれない。そう考えると憂鬱ではあったが、それでも、主様からいただいたものを口にしないわけにはいかない。


(覚悟を決めるのじゃっ)


 隷属することを決めた時から、妾に権利という権利はなくなった。女王としてかしずかれていたとしても……いや、むしろ、女王であるからこそ、隷属した者の末路はよく分かっている。


「さぁ、どうぞ?」


 『みそしる』の他に、何やら酸っぱい匂いがする『すのもの』、生の魚を切った『さしみ』などが危険そうだと思いながらも、妾は、思いきって『みそしる』を一口飲んでみる。


「…………旨い、のじゃ?」

「みゅ、美味しくできたの。そっちのお刺身は、その黒いソース、醤油って言うんだけど、それをつけて食べてね? あ、あと、お好みでわさびも用意してるけど、まずは醤油で食べてみて」


 言われるがままに、それにも口をつければ、生の魚がこんなにも美味しいものだったのかと衝撃を受ける。他にも、『すのもの』や『ちくぜんに』などの『わしょく』と呼ばれるカテゴリーの食事をいただいたが、どれもこれも素晴らしいものだった。


「これからもよろしくね? ミル」


 その日から、妾に食事という楽しみが増え、主様との充実した……いや、わりと、かなり、危険な毎日を送ることになる。それは、退屈とは無縁の、楽しい楽しい日々だった。
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