ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
75 / 228
第4唱 ラピスにメロメロ

新たなウワサ 1

しおりを挟む
 女の子たちは興奮を隠さず、意味不明の甲高い声を上げながらラピスを指差してきた。

「ほら、あの子よあの子! 例の大魔法使い様のお弟子さんのっ」
「やだ可愛いっ、天使じゃん! 抱っこされてるしー!」
「アシュクロフト様、めっちゃ大事にしてる……! やっぱ愛なのね。愛する人の愛弟子だから、よりいっそう大事にしてるのね。どうしよう尊い!」
「ああ、わたしもアシュクロフト様の逞しい腕に抱っこされたい!」
「あんたじゃ絵にならないから却下だ」
「なんだとこのやろう」

 何を騒がれているのかわからず、ジークの腕から降りることも忘れてボーッとしていると、「ラピスくん、久し振り!」と騎士のひとりから声をかけられた。

「オレたちのことおぼえてくれてるかな? シグナス森林から少しのあいだ一緒だった……」
「あ、お久し振りですっ!」

 シグナス森林で古竜と会ったとき、一緒にいた騎士たちだった。
 ギュンターやヘンリックと入れ替わりに王都に戻ったが、ラピスを護衛したかったと別れを惜しんでくれたのが嬉しかったので、よくおぼえている。
 再会を約束していたけれど、こんなに早く叶うとは思わなかった。

「その節はお世話になりました」

 ジークの肩に手をかけたままぺこりと頭を下げると、満面の笑顔が返ってきた。 

「いやあ、相変わらず可愛いなぁ。和むー」
「団長、抱っこ代わりましょう。ていうか代わらせてください」
「……宿に行くぞ……」

 部下の言葉を聞き流して歩き出したジークに、ひとりの騎士が呟く。

「でもそうしていると、噂に信憑性が……」

 別の騎士が「しっ!」とあわてて遮ったが。

「……噂?」

 目をすがめたジークがラピスごと振り返ったので、馬を引き渡していたギュンターやディードたちが走ってくるのがラピスの視界に入った。
 三人はすぐに騎士らに追いつき、耳聡いギュンターが背後から「噂ってなんのこと?」と興味津々で話しかけると、驚いた騎士たちが「うわっ!」と跳び上がった。

「お、驚かさないでくださいよ副団長!」
「なに大げさに驚いてんの。聞かれるとヤバイ噂なの?」
「え……いや、その……」

 視線を泳がせる騎士に、「なになに~?」とギュンターが詰め寄る。
 が、そのときラピスがクシュンとくしゃみをしたので、ジークは話より宿に入ることを優先したらしく、長い脚でぐいぐい歩いて、あっという間に門前に到着した。
 おかげで降ろしてもらう機会を失い、あわてて追いかけてくるディードたちや、こちらを見てキャーキャー言う女性たちを、ジークの肩越しに見下ろしながら移動したのだが……。
 どうやら、さっさと降ろしてもらうべきだったようだ。


 立派な宿ホテルに部屋を用意してもらい、久し振りにゆったりと湯浴みができて、美味しく食事もいただいて、あとは気持ちよく眠るだけという安らぎの時間。
 ラピスら少年三人組が、部屋に運ばれてきたホットミルクを受け取ったとき、隣室からギュンターが爆笑する声が聞こえてきた。

「今の、副団長の声だよな?」

 怪訝な顔のヘンリックにうなずいて、ラピスら三人は隣室へ向かった。
 鍵はかかっておらず、話し声から、先刻の騎士たちも一緒なのだとわかった。
 騎士たちは三人が入ってきたことに気づかず、腹を抱えて笑うギュンターと、いつも以上に表情が読めないジークとを、おろおろしながらなだめていた。

「そんなに笑っちゃ悪いですよ、副団長!」
「そ、そうですよ、そんなに……笑っちゃ……」

 言いながら、自分たちも笑いをこらえられなくなったようで、ブフーッ! と盛大に吹き出すや、一緒になって大笑いし始めた。笑っていないのはジークのみだ。
 そんなジークに、ギュンターが涙を拭いながら声をかけた。

「すみません団長。でも、だから言ったんですよ、早く相手を決めたほうがいいって。そうしていたら、まさかこんな噂には……だ、団長と、グレゴワール様が、こ、ここ、婚約してるなんて噂には……!」

 言うやいなや、部下たちと共に笑い転げている。
 久々に緊張が解けて、酒も少々入っているのだろう。
 だから――

「お師匠様に、また新たな噂が立っちゃったのですか?」

 ラピスは普通に尋ねただけなのに、ジーク以外の全員が跳び上がった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...