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第9唱 クロヴィスとコンラート
贈りもの 1
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コンラート・オルデンブルクは、オルデンブルク伯爵家の次男として、この世に生を享けた。
爵位は長男が継ぐものと決まっているが、世間的には名門で裕福で、美しいと形容される両親の容姿をも受け継いだ、まったくもって申し分のない生まれだ。
広大な屋敷と、四季折々の花が咲く美しい庭。たくさんの使用人。
両親から溺愛され、父は「オルデンブルクの名に恥じぬ、立派な人間になれ」と繰り返した。そして呪文のように付け加えることも忘れなかった。
「兄のようには絶対になるな」
コンラートは兄に同情していた。
兄といっても実は双子。
なのに二人に対する父の態度は、まるで違う。
「誇り高きオルデンブルク伯爵家の後継者なのだから」
兄にはそう言って、勉学や鍛練の授業をコンラートの倍ほども強いていたし、ほんの少しでも手を抜いたり反抗したりしようものなら、気が違ったように体罰を与えていた。
教師たちも父に倣っていた。
兄と同じことをコンラートがしても、両親も教師たちも、「仕方のない子だ」と笑って許してくれるのに。
「兄上が可哀想だ」
そう思い、しょっちゅう仕置き部屋に閉じ込められ食事を抜かれる兄のために、厨房でこっそり差し入れを用意してもらったことも二度三度ではない。
そのたび料理人たちは気遣わしげに言った。
「コンラート様は本当にお優しい」
「でも兄上様は気性の激しい方です。関わらないほうがよろしいですよ」
何を言われようと、コンラートは気にしなかった。
執事に頼み込んで――コンラートが一生懸命お願いすれば、ときには「秘密ですよ」と仕置き部屋の鍵を開けてくれることもあったから――どうにか軽食を差し入れていた。だが……
「食べてください、兄上」
そう声をかけても、ロウソクひとつない暗い部屋の中で、血のにおいを立ち昇らせ虚空を睨む兄から、答えが返ったことはない。そして差し入れに口をつけてくれたこともなかった。
「お気遣いするだけ損ですよ」
乳母たちが顔をしかめて小言を言うのも、いつものこと。
父にもすぐに知られてしまったが、それでもコンラートは怒られない。
「お前の優しさや思いやりなど通じぬ相手なのだ。関わるな」
憎々しげに吐き出す言葉は、周囲の者たちと同じ『関わるな』そればかり。
関わろうにも、兄のほうがこちらを見向きもしてくれぬのに。
だがコンラートは知っている。
兄はちゃんと、自分を気にかけてくれている。無視するのはきっと、父との確執に巻き込みたくないからだ。
だってコンラートが兄の真似をして庭伝いに森へと抜け出し、そのまま迷って帰れなくなったとき、迎えに来てくれたのは兄だけだった。
季節は秋。日は急ぎ足で傾き、雨まで降り出して、泣いても叫んでも誰も来てくれず、狼と思われる遠吠えまで聞こえてきて、心細くて恐ろしくて、うずくまって泣くことしかできなかった、あのとき。
「おい」
いきなり声をかけられて、心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
雨音にまぎれて足音もわからぬうちに、奇跡のように目の前に、ずぶ濡れの兄が立っていた。
自分よりずっと薄着で、白い息をたくさん吐いて。
きっと弟の危機を知り、取るものも取り敢えず、必死で探し回ってくれたのだ。
そのとき初めて、兄の顔を正面から、よくよく見つめることができた。
双子といっても似ていないと皆は言う。コンラート自身もそう思っている。
(似ていればよかったのに)
そう思わずにはいられない。
遠目でも、こうして近くで見ても、兄のほうがずっと格好いい。「ご両親に似て愛らしい」とよく評される自分より、ずっと。
コンラートは金髪で、兄は銀髪。
コンラートの瞳は青灰色、兄は赤。
コンラートは父似で、兄は曾祖父似らしい。
自分も曾祖父に似たかった。甘ったるい印象を与えやすい自分の容姿より、鋭利な刃物のように凛々しい兄のほうが、何倍も美しい。
爵位は長男が継ぐものと決まっているが、世間的には名門で裕福で、美しいと形容される両親の容姿をも受け継いだ、まったくもって申し分のない生まれだ。
広大な屋敷と、四季折々の花が咲く美しい庭。たくさんの使用人。
両親から溺愛され、父は「オルデンブルクの名に恥じぬ、立派な人間になれ」と繰り返した。そして呪文のように付け加えることも忘れなかった。
「兄のようには絶対になるな」
コンラートは兄に同情していた。
兄といっても実は双子。
なのに二人に対する父の態度は、まるで違う。
「誇り高きオルデンブルク伯爵家の後継者なのだから」
兄にはそう言って、勉学や鍛練の授業をコンラートの倍ほども強いていたし、ほんの少しでも手を抜いたり反抗したりしようものなら、気が違ったように体罰を与えていた。
教師たちも父に倣っていた。
兄と同じことをコンラートがしても、両親も教師たちも、「仕方のない子だ」と笑って許してくれるのに。
「兄上が可哀想だ」
そう思い、しょっちゅう仕置き部屋に閉じ込められ食事を抜かれる兄のために、厨房でこっそり差し入れを用意してもらったことも二度三度ではない。
そのたび料理人たちは気遣わしげに言った。
「コンラート様は本当にお優しい」
「でも兄上様は気性の激しい方です。関わらないほうがよろしいですよ」
何を言われようと、コンラートは気にしなかった。
執事に頼み込んで――コンラートが一生懸命お願いすれば、ときには「秘密ですよ」と仕置き部屋の鍵を開けてくれることもあったから――どうにか軽食を差し入れていた。だが……
「食べてください、兄上」
そう声をかけても、ロウソクひとつない暗い部屋の中で、血のにおいを立ち昇らせ虚空を睨む兄から、答えが返ったことはない。そして差し入れに口をつけてくれたこともなかった。
「お気遣いするだけ損ですよ」
乳母たちが顔をしかめて小言を言うのも、いつものこと。
父にもすぐに知られてしまったが、それでもコンラートは怒られない。
「お前の優しさや思いやりなど通じぬ相手なのだ。関わるな」
憎々しげに吐き出す言葉は、周囲の者たちと同じ『関わるな』そればかり。
関わろうにも、兄のほうがこちらを見向きもしてくれぬのに。
だがコンラートは知っている。
兄はちゃんと、自分を気にかけてくれている。無視するのはきっと、父との確執に巻き込みたくないからだ。
だってコンラートが兄の真似をして庭伝いに森へと抜け出し、そのまま迷って帰れなくなったとき、迎えに来てくれたのは兄だけだった。
季節は秋。日は急ぎ足で傾き、雨まで降り出して、泣いても叫んでも誰も来てくれず、狼と思われる遠吠えまで聞こえてきて、心細くて恐ろしくて、うずくまって泣くことしかできなかった、あのとき。
「おい」
いきなり声をかけられて、心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
雨音にまぎれて足音もわからぬうちに、奇跡のように目の前に、ずぶ濡れの兄が立っていた。
自分よりずっと薄着で、白い息をたくさん吐いて。
きっと弟の危機を知り、取るものも取り敢えず、必死で探し回ってくれたのだ。
そのとき初めて、兄の顔を正面から、よくよく見つめることができた。
双子といっても似ていないと皆は言う。コンラート自身もそう思っている。
(似ていればよかったのに)
そう思わずにはいられない。
遠目でも、こうして近くで見ても、兄のほうがずっと格好いい。「ご両親に似て愛らしい」とよく評される自分より、ずっと。
コンラートは金髪で、兄は銀髪。
コンラートの瞳は青灰色、兄は赤。
コンラートは父似で、兄は曾祖父似らしい。
自分も曾祖父に似たかった。甘ったるい印象を与えやすい自分の容姿より、鋭利な刃物のように凛々しい兄のほうが、何倍も美しい。
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