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第8唱 竜の書
ラピスの『竜の書』のひみつ
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「でもミロちゃん。僕、竜の書が焼けたあとも、普通に魔法を使えたのだけど」
「グガウゥ」
「僕だから? どゆこと?」
「ギャウ、グゴオォ」
「ほへっ? 『それにまだ持ってるでしょ』って? ううん、持ってないよ。僕、きみにもらったのが初めての竜の書だよ」
「グルルルゥ、ギィギギギ」
「ええぇ……『持ってるはず』だなんて、そんなこと言われても……しかも『二冊』も! そもそも竜の書は、ひとり一冊なのでしょ?」
「ギャギャ。グゴオォォガウ」
ミロちゃん曰く。
普通は一冊あれば充分というだけで、複数所持できないわけではない。
ミロちゃんがラピスと出会ったときは、なぜかラピスの竜の書が使えない状態になっていたので、助けてくれたお礼に新しいのを贈ったという。
「使えない状態に……?」
それはもしや、母がラピスを魔法から遠ざけていたことと関係があるのだろうか。
思えばクロヴィスも最初から、ラピスが聴き手であるにもかかわらず、竜の書を持っていないことを不思議がっていた。
「ギィウ、ギュイイイゥ」
「個人の竜の書は、持ち主が亡くなると自然消滅する。でも、極めて能力の高い魔法使いであれば、譲渡も可能……。えええ、そんなこと初めて知ったよ! お師匠様は知ってるのかなあ、もし知らなかったら教えてあげたいなぁ……」
師と竜談義をするときの楽しさと、紅玉のような綺麗な瞳をいっそう輝かせて聴いてくれる表情を思うだけで、胸が弾むと同時に、焦燥感が舞い戻ってきた。
早く会って、クロヴィスの無事を確かめたい。
竜は『大丈夫』と太鼓判を押してくれているけれど……。
またも思考に暗雲が立ち込め始めたとき、ミロちゃんが続けた『譲渡するには』という話の内容にハッとした。
『私の竜の書は自分の死後、誰々に譲渡します。だから消滅させずにお守りください』
竜の書に向かってそのように歌い、譲渡先を指名しておけば、持ち主の死後は相手の手に渡る魔法がかかるのだという。
「歌う……」
竜言語の歌い手で。
ラピスを指名して、自分の竜の書を遺した人。
そんなの、ひとりしか思い浮かばない。
「母様」
ぽろりとこぼれ出た声と共に、ぶわっと瞳に涙が浮かんだ。
けれどグッと歯を食いしばって顔を振り、残る疑問に取り組む。
「つまり『二冊』と言ったのは、母様からもらった竜の書と、その……僕がもう持ってるはずの竜の書、ということ?」
「ギャウ」
「でも僕、ほんとに知らないんだ。母様の遺品は殆ど……あっ! もしかして、売られちゃったかも」
母の遺品はあらかた継母たちが処分してしまった。
宝石類なら残っているかもしれないが、サイズの合わない衣類や母好みの家具、調度品、本などは、すべて売り払われてしまった。
その中に竜の書があったかもしれない。
「あう~。どうしよう」
途方に暮れていると、ミロちゃんはじれったそうに唸った。
「ギャギャウ、ギャウウ!」
「ほへっ? 『今、持ち歩いてるでしょ!』って?」
ラピスは目を丸くして、外套のポケットを覗いた。ハンカチと硬貨一枚だけだ。
次いで、斜め掛けして常に持ち歩いている鞄をあける。
中にはクロヴィスからもらった雑記帳と筆記具、薬草、古竜の鱗の残りやドングリなど、この旅で入手したもの。それから飴玉。ディードが描いてくれた、森に立つラピスの絵。ヘンリックが描いてくれた、トリプト村の村長の絵。そして……
「――母様の小箱……!」
母の耳飾りが入っていた、形見のちっちゃな木箱。
クロヴィスが「これも持って行け」と勧めてくれたあの箱。「そのほうが良い気がする、大魔法使いの勘」だと。
だが何度見ても、なんの仕掛けもない空っぽの、普通の小箱だったはず。
『元の姿に戻れ、と歌ってごらん』
ミロちゃんが楽しそうに歌う。
ラピスは震える両手で小箱をつつんで、言われた通りに竜言語で歌った。
と、小箱から、優しい光の粒が視界いっぱいに溢れ出す。
「わあ……!」
蛍の群舞みたいに舞い踊る、穏やかな光の明滅に見惚れているあいだに、いつのまにか箱が消えて――代わりにラピスの膝の上に、二冊の書が出現していた。
一冊は、大輪の芍薬を思わせる、白と淡いピンクの表紙。
もう一冊は、深い青に金色がちりばめられた、星が瞬くような表紙。
それが本当の、ラピスの最初の『竜の書』だった。
「グガウゥ」
「僕だから? どゆこと?」
「ギャウ、グゴオォ」
「ほへっ? 『それにまだ持ってるでしょ』って? ううん、持ってないよ。僕、きみにもらったのが初めての竜の書だよ」
「グルルルゥ、ギィギギギ」
「ええぇ……『持ってるはず』だなんて、そんなこと言われても……しかも『二冊』も! そもそも竜の書は、ひとり一冊なのでしょ?」
「ギャギャ。グゴオォォガウ」
ミロちゃん曰く。
普通は一冊あれば充分というだけで、複数所持できないわけではない。
ミロちゃんがラピスと出会ったときは、なぜかラピスの竜の書が使えない状態になっていたので、助けてくれたお礼に新しいのを贈ったという。
「使えない状態に……?」
それはもしや、母がラピスを魔法から遠ざけていたことと関係があるのだろうか。
思えばクロヴィスも最初から、ラピスが聴き手であるにもかかわらず、竜の書を持っていないことを不思議がっていた。
「ギィウ、ギュイイイゥ」
「個人の竜の書は、持ち主が亡くなると自然消滅する。でも、極めて能力の高い魔法使いであれば、譲渡も可能……。えええ、そんなこと初めて知ったよ! お師匠様は知ってるのかなあ、もし知らなかったら教えてあげたいなぁ……」
師と竜談義をするときの楽しさと、紅玉のような綺麗な瞳をいっそう輝かせて聴いてくれる表情を思うだけで、胸が弾むと同時に、焦燥感が舞い戻ってきた。
早く会って、クロヴィスの無事を確かめたい。
竜は『大丈夫』と太鼓判を押してくれているけれど……。
またも思考に暗雲が立ち込め始めたとき、ミロちゃんが続けた『譲渡するには』という話の内容にハッとした。
『私の竜の書は自分の死後、誰々に譲渡します。だから消滅させずにお守りください』
竜の書に向かってそのように歌い、譲渡先を指名しておけば、持ち主の死後は相手の手に渡る魔法がかかるのだという。
「歌う……」
竜言語の歌い手で。
ラピスを指名して、自分の竜の書を遺した人。
そんなの、ひとりしか思い浮かばない。
「母様」
ぽろりとこぼれ出た声と共に、ぶわっと瞳に涙が浮かんだ。
けれどグッと歯を食いしばって顔を振り、残る疑問に取り組む。
「つまり『二冊』と言ったのは、母様からもらった竜の書と、その……僕がもう持ってるはずの竜の書、ということ?」
「ギャウ」
「でも僕、ほんとに知らないんだ。母様の遺品は殆ど……あっ! もしかして、売られちゃったかも」
母の遺品はあらかた継母たちが処分してしまった。
宝石類なら残っているかもしれないが、サイズの合わない衣類や母好みの家具、調度品、本などは、すべて売り払われてしまった。
その中に竜の書があったかもしれない。
「あう~。どうしよう」
途方に暮れていると、ミロちゃんはじれったそうに唸った。
「ギャギャウ、ギャウウ!」
「ほへっ? 『今、持ち歩いてるでしょ!』って?」
ラピスは目を丸くして、外套のポケットを覗いた。ハンカチと硬貨一枚だけだ。
次いで、斜め掛けして常に持ち歩いている鞄をあける。
中にはクロヴィスからもらった雑記帳と筆記具、薬草、古竜の鱗の残りやドングリなど、この旅で入手したもの。それから飴玉。ディードが描いてくれた、森に立つラピスの絵。ヘンリックが描いてくれた、トリプト村の村長の絵。そして……
「――母様の小箱……!」
母の耳飾りが入っていた、形見のちっちゃな木箱。
クロヴィスが「これも持って行け」と勧めてくれたあの箱。「そのほうが良い気がする、大魔法使いの勘」だと。
だが何度見ても、なんの仕掛けもない空っぽの、普通の小箱だったはず。
『元の姿に戻れ、と歌ってごらん』
ミロちゃんが楽しそうに歌う。
ラピスは震える両手で小箱をつつんで、言われた通りに竜言語で歌った。
と、小箱から、優しい光の粒が視界いっぱいに溢れ出す。
「わあ……!」
蛍の群舞みたいに舞い踊る、穏やかな光の明滅に見惚れているあいだに、いつのまにか箱が消えて――代わりにラピスの膝の上に、二冊の書が出現していた。
一冊は、大輪の芍薬を思わせる、白と淡いピンクの表紙。
もう一冊は、深い青に金色がちりばめられた、星が瞬くような表紙。
それが本当の、ラピスの最初の『竜の書』だった。
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