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第12話 魔王代理の初スピーチ
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夕食後、魔王ゼノギアスが俺に言った。
「イグニス、明日の朝の訓示は、お前がやれ」
「え……訓示?」
「ああ。毎朝、家臣たちに訓示を与えるのが王族の務めだ。私の退位後は、お前がやることになる。今から慣れておけ」
その一言で、俺の運命が決まった。
その夜、カオスが俺の部屋に来た。
「佐伯くん、明日の訓示について説明する」
「はい、お願いします」
カオスが資料を広げる。
「魔国の訓示は、伝統的に三つの要素で構成される」
彼が指を折りながら説明する。
「一つ、王の威厳を示すこと。二つ、臣下の忠誠を確認すること。三つ、命令を下すこと」
「命令……」
「ああ。『余の命に従え』『我が意志を遂行せよ』といった、強い口調でな」
カオスが過去の訓示の例文を見せてくれる。
そこには、高圧的な言葉が並んでいた。
「これが、魔国の伝統だ」
俺は、その例文を読んで違和感を覚えた。
高圧的。命令的。一方的。
まるで、前の会社の上司みたいだ。
自分の意見を押し付けて、部下の話を聞かない。
あの上司のせいで、俺は会社を辞めた。
そして、異世界ランドで、色々な人と出会って学んだ。
グンナルさんは、厳しいけど部下の意見を聞いてくれた。
フラーラさんは、俺を対等に扱ってくれた。
田中さんは、みんなで協力することの大切さを教えてくれた。
メリーナさんは、失敗を恐れず頑張る姿を見せてくれた。
「あの、カオスさん」
「なんだ?」
「この訓示……もっと違う言い方じゃダメですか?」
「違う言い方?」
カオスが眉をひそめる。
「例えば、もっと……みんなと一緒に頑張ろう、みたいな」
「……それは、魔国の伝統ではない」
カオスが首を横に振る。
「王は、臣下の上に立つ存在だ。対等ではない」
「でも……」
俺は言葉に詰まる。
でも、それって正しいのか?
カオスが続ける。
「佐伯くん、気持ちはわかる。だが、伝統を無視すれば、家臣たちは混乱する」
「混乱……」
「ああ。急に優しい言葉で話せば、『王子は弱くなった』と思われるかもしれない」
カオスが真剣な顔で言う。
「明日は、この例文通りに話してくれ。頼む」
俺は、渋々頷いた。
翌朝。
俺は、フィオナに起こされた。
「佐伯様! 訓示の時間です!」
「ああ、もう時間か……」
フィオナが慌ただしく俺に礼服を着せる。
セバスチャンも現れて、髪を整え、王冠を被せてくれる。
「ああ、神よ! 王子様の初訓示です! 完璧にしなければ!」
「……緊張するな」
俺は、昨夜もらった例文を握りしめる。
これを読めばいい。
伝統通りに。
でも、心のどこかで、違和感が消えない。
十五分後、俺は魔王城の大広間に立っていた。
広間には、百人近い家臣たちが並んでいる。
メイド、執事、騎士、魔法使い、様々な魔族たち。
みんなが、俺を見ている。
前列には、四天王。カオス、アイアン・ガーディアン、ミス・シャドウ、フォン・マネーゼン。
そして、フラーラとメリーナも。
家臣たちが、一斉に頭を下げる。
「イグニス様!」
その声に、俺の緊張が最高潮に達する。
俺は、一歩前に出た。
深呼吸。
手の中の例文を見る。
「余の命に従え。我が意志を遂行せよ。魔国の栄光のために、全力で働け」
この言葉を読めばいい。
伝統通りに。
でも。
俺は、家臣たちの顔を見る。
期待している顔、不安そうな顔、緊張している顔。
みんな、この魔王城で一生懸命働いている人たちだ。
異世界ランドのスタッフと、何も変わらない。
俺は、例文を握りしめたまま、口を開いた。
「……皆さん、おはようございます」
その瞬間、会場がざわついた。
おはようございます?
家臣たちが、困惑した顔をする。
カオスが、目を見開く。
でも、俺は続けた。
「今日も、朝早くからありがとうございます」
会場が、シーンと静まり返った。
ありがとうございます?
王子が、家臣に感謝?
家臣たちが、互いに顔を見合わせる。
四天王も、驚いた顔をしている。
カオスが、小さく首を横に振る。
「やめろ」と言っているようだ。
でも、俺はもう止まれない。
俺は、例文を握りしめたまま、ポケットに入れた。
そして、自分の言葉で話し始めた。
「私は、最近、地球という場所で多くのことを学びました」
俺は、家臣たちを見渡す。
「そこでは、王も臣下もない。みんなが対等で、互いに協力して働いています」
家臣たちが、真剣な顔で聞き始める。
「最初、私はそれが理解できませんでした。魔国では、王が命令し、臣下が従う。それが当たり前だったから」
俺は、自分の過去を思い出す。
「でも、私は気づきました。命令だけでは、人は本当の力を発揮できない」
「地球で出会った人たちは、自分の意志で働き、互いに協力していました」
グンナルさんの顔が浮かぶ。
「ある職人は、若者に技術を教えながら、若者の新しいアイデアも受け入れていました」
フラーラさんの顔が浮かぶ。
「ある戦士は、仲間を信頼し、共に戦っていました」
田中さんの顔が浮かぶ。
「ある人は、『みんなで力を合わせれば、もっと良いものができる』と言いました」
俺は、拳を握る。
「私は、それを見て思いました。魔国も、そうあるべきだと」
家臣たちが、じっと俺を見ている。
「王が一方的に命令するだけではなく、みんなで考え、みんなで協力する」
俺は、前の会社での失敗を思い出す。
「私自身、昔は人の話を聞かず、自分の意見ばかり押し通していました。そして、失敗しました」
その言葉に、家臣たちがざわつく。
「でも、地球で学びました。人の話を聞き、協力することの大切さを」
俺は、背筋を伸ばす。
「これから、私は皆さんと一緒に、この国をもっと良くしていきたい」
家臣たちが、息を呑む。
「皆さんの意見を聞き、皆さんの力を借りながら、誰もが幸せに暮らせる国を作りたい」
俺は、フラーラさんを見る。
彼女が、目を潤ませながら微笑んでいる。
「だから、お願いします」
俺は、深々と頭を下げた。
「皆さんの力を、貸してください」
一瞬の沈黙。
それから。
パチパチパチパチ!
大きな拍手が響いた。
家臣たちが、笑顔で拍手している。
「素晴らしい!」
「王子様、変わられた!」
「こんな王子様、初めて見た!」
「これが、地球で学ばれたことか!」
歓声が上がる。
メイドたちが泣いている。
騎士たちが、力強く頷いている。
四天王も、驚きながらも笑顔だ。
「……予想外だったが」
カオスが眼鏡を直す。
「悪くない。いや、素晴らしかった」
アイアン・ガーディアンが豪快に笑う。
「ハハハ! これぞ、新しい時代の王だ!」
フォン・マネーゼンも満足そうに頷く。
「士気向上効果、計り知れない。経営的にも最高だ」
ミス・シャドウが、珍しく大きな声で言った。
「……感動しました……」
「おお、シャドウの声が聞こえた!」
みんなが笑う。
そして、俺の視線は、フラーラさんに向いた。
彼女が、涙を拭いながら微笑んでいる。
そして、小さく口を動かした。
「ありがとう」
その言葉が、声にならずとも伝わってきた。
俺は、少し照れくさくなって視線を逸らした。
メリーナが駆け寄ってくる。
「王子様! 素敵なスピーチでした!」
「ありがとう、メリーナさん……」
「私、感動しました! みんなで力を合わせて! 素晴らしいです!」
メリーナが興奮して、俺に駆け寄る。
そして、その拍子に——。
ガシャン!
鎧でバランスを崩し、俺の足を思いっきり踏んだ。
「いたっ!」
「きゃあ! ごめんなさい王子様ぁ!」
メリーナが慌てて謝る。
家臣たちが、温かく笑う。
フラーラさんが呆れたように言う。
「まったくもう……メリーナったら」
でも、その表情は優しかった。
訓示が終わり、俺は控え室に戻った。
四天王が、嬉しそうに入ってくる。
「佐伯くん、予定とは違ったが……素晴らしかった」
カオスが眼鏡を直す。
「私の予想を、良い意味で裏切ってくれた」
「ありがとうございます……」
「あの言葉、心からのものだったな」
アイアン・ガーディアンが肩を叩く。
「だからこそ、家臣たちの心に響いた」
フォン・マネーゼンも満足そうだ。
「家臣たちの士気が、明らかに上がった。生産性向上も期待できる」
ミス・シャドウが、普通の声で言う。
「あの、佐伯さん……」
「おお、シャドウ、声が大きい!」
みんなが驚く。
シャドウが、少し照れながら続ける。
「あなたの言葉を聞いて、私も勇気が出ました。もっと、大きな声で話してみようと思います」
「シャドウさん……」
「ありがとうございます」
シャドウが深々と頭を下げる。
その姿を見て、俺は思った。
俺の言葉が、誰かの勇気になる。
それが、こんなに嬉しいことだなんて。
そして、フラーラさんが入ってきた。
「佐伯」
「あ、フラーラさん」
フラーラさんが、俺の前に立つ。
そして、真剣な顔で言った。
「あなた、本当にすごいわ」
「え……?」
「伝統を破って、自分の言葉で話した。そして、みんなの心を掴んだ」
フラーラさんが微笑む。
でも、その目は潤んでいる。
「あなたは、もう昔のあなたじゃないわ。人の話を聞かず、自分勝手だったあなたじゃない」
「フラーラさん……」
「あなたは、変わった。本当に」
フラーラさんが、俺の手を取る。
「今のあなたなら、本当に良い魔王になれる。いえ、なるべきよ」
その言葉に、俺の胸が締め付けられた。
「でも、俺は……」
「わかってる」
フラーラさんが悲しそうに微笑む。
「あなたには、地球での生活がある。家族も、友達も」
「はい……」
「でも……」
フラーラさんが、俺を見つめる。
「もしあなたがここに残ってくれたら……私は、どんなに嬉しいか」
その言葉に、俺は言葉を失う。
フラーラさんの目が、真剣だ。
これは、もう「もしかしたら」じゃない。
彼女は、俺に残って欲しいと思っている。
本気で。
「フラーラさん……俺は……」
何を言おうとしたのか、自分でもわからない。
その時、ノックの音が響いた。
「失礼します!」
カオスが慌てて入ってくる。
「大変だ! イグニス様の目撃情報が!」
「え!?」
その夜、俺は部屋で一人考えていた。
今日の訓示。
みんなが喜んでくれた。
家臣たちも、期待してくれている。
シャドウさんも、勇気を出してくれた。
そして、フラーラさんが……俺に残って欲しいと言ってくれた。
徐々に、この魔王城での生活に充実感を感じている。
朝、家臣たちに訓示を与える。
四天王と会議をする。
フラーラさんと中庭を散歩する。
フィオナとセバスチャンの喧嘩を仲裁する。
メリーナに足を踏まれる。
そんな日々が、悪くない。
いや、むしろ……楽しい。
でも。
俺は首を振る。
「違う。俺が魔王になっちゃダメだ」
魔王になるべきなのは、本物の王子、イグニスだ。
俺は、ただの代役。
仮の存在。
イグニスが見つかったら、俺はここを去る。
それが、正しいことなんだ。
でも……。
窓の外を見る。
少し赤い空、二つの月。美しい景色。
そして、フラーラさんの顔が浮かぶ。
彼女の微笑み。彼女の優しさ。彼女と過ごす時間。
「……このままの生活を、続けたい」
その言葉が、口から漏れた。
俺は、ハッとする。
今、何を考えた?
このままの生活を続けたい?
つまり、魔王になりたい、ということか?
いや、違う。そうじゃない。
俺が続けたいのは……フラーラさんと一緒にいることだ。
「……やばいな、これ」
俺は、ベッドに倒れ込む。
気づいてしまった。
俺は、フラーラさんのことを……。
好きなのかもしれない。
でも、俺は代役だ。
いずれ、イグニスが見つかったら、ここを去る。
フラーラさんとも、離れることになる。
カオスが言っていた。
「イグニス様の目撃情報が」
もうすぐ、見つかるかもしれない。
それは、良いことだ。
本物の王子が戻ってくる。
俺は、地球に帰れる。
でも……。
「……それは、嫌だ」
俺は、正直に認めた。
フラーラさんと離れるのは、嫌だ。
このまま、一緒にいたい。
俺は、深いため息をついた。
一ヶ月後の戴冠式。
それまでに、答えが出るだろうか。
イグニスが見つかるのか。
それとも……。
いや、考えても仕方ない。
俺は、この複雑な気持ちを抱えたまま、目を閉じた。
でも、心のどこかで。
もしイグニスが見つからなかったら。
もし、俺がこのまま魔王になれたら。
フラーラさんと、ずっと一緒にいられる。
その可能性に、少しだけ期待している自分がいた。
「イグニス、明日の朝の訓示は、お前がやれ」
「え……訓示?」
「ああ。毎朝、家臣たちに訓示を与えるのが王族の務めだ。私の退位後は、お前がやることになる。今から慣れておけ」
その一言で、俺の運命が決まった。
その夜、カオスが俺の部屋に来た。
「佐伯くん、明日の訓示について説明する」
「はい、お願いします」
カオスが資料を広げる。
「魔国の訓示は、伝統的に三つの要素で構成される」
彼が指を折りながら説明する。
「一つ、王の威厳を示すこと。二つ、臣下の忠誠を確認すること。三つ、命令を下すこと」
「命令……」
「ああ。『余の命に従え』『我が意志を遂行せよ』といった、強い口調でな」
カオスが過去の訓示の例文を見せてくれる。
そこには、高圧的な言葉が並んでいた。
「これが、魔国の伝統だ」
俺は、その例文を読んで違和感を覚えた。
高圧的。命令的。一方的。
まるで、前の会社の上司みたいだ。
自分の意見を押し付けて、部下の話を聞かない。
あの上司のせいで、俺は会社を辞めた。
そして、異世界ランドで、色々な人と出会って学んだ。
グンナルさんは、厳しいけど部下の意見を聞いてくれた。
フラーラさんは、俺を対等に扱ってくれた。
田中さんは、みんなで協力することの大切さを教えてくれた。
メリーナさんは、失敗を恐れず頑張る姿を見せてくれた。
「あの、カオスさん」
「なんだ?」
「この訓示……もっと違う言い方じゃダメですか?」
「違う言い方?」
カオスが眉をひそめる。
「例えば、もっと……みんなと一緒に頑張ろう、みたいな」
「……それは、魔国の伝統ではない」
カオスが首を横に振る。
「王は、臣下の上に立つ存在だ。対等ではない」
「でも……」
俺は言葉に詰まる。
でも、それって正しいのか?
カオスが続ける。
「佐伯くん、気持ちはわかる。だが、伝統を無視すれば、家臣たちは混乱する」
「混乱……」
「ああ。急に優しい言葉で話せば、『王子は弱くなった』と思われるかもしれない」
カオスが真剣な顔で言う。
「明日は、この例文通りに話してくれ。頼む」
俺は、渋々頷いた。
翌朝。
俺は、フィオナに起こされた。
「佐伯様! 訓示の時間です!」
「ああ、もう時間か……」
フィオナが慌ただしく俺に礼服を着せる。
セバスチャンも現れて、髪を整え、王冠を被せてくれる。
「ああ、神よ! 王子様の初訓示です! 完璧にしなければ!」
「……緊張するな」
俺は、昨夜もらった例文を握りしめる。
これを読めばいい。
伝統通りに。
でも、心のどこかで、違和感が消えない。
十五分後、俺は魔王城の大広間に立っていた。
広間には、百人近い家臣たちが並んでいる。
メイド、執事、騎士、魔法使い、様々な魔族たち。
みんなが、俺を見ている。
前列には、四天王。カオス、アイアン・ガーディアン、ミス・シャドウ、フォン・マネーゼン。
そして、フラーラとメリーナも。
家臣たちが、一斉に頭を下げる。
「イグニス様!」
その声に、俺の緊張が最高潮に達する。
俺は、一歩前に出た。
深呼吸。
手の中の例文を見る。
「余の命に従え。我が意志を遂行せよ。魔国の栄光のために、全力で働け」
この言葉を読めばいい。
伝統通りに。
でも。
俺は、家臣たちの顔を見る。
期待している顔、不安そうな顔、緊張している顔。
みんな、この魔王城で一生懸命働いている人たちだ。
異世界ランドのスタッフと、何も変わらない。
俺は、例文を握りしめたまま、口を開いた。
「……皆さん、おはようございます」
その瞬間、会場がざわついた。
おはようございます?
家臣たちが、困惑した顔をする。
カオスが、目を見開く。
でも、俺は続けた。
「今日も、朝早くからありがとうございます」
会場が、シーンと静まり返った。
ありがとうございます?
王子が、家臣に感謝?
家臣たちが、互いに顔を見合わせる。
四天王も、驚いた顔をしている。
カオスが、小さく首を横に振る。
「やめろ」と言っているようだ。
でも、俺はもう止まれない。
俺は、例文を握りしめたまま、ポケットに入れた。
そして、自分の言葉で話し始めた。
「私は、最近、地球という場所で多くのことを学びました」
俺は、家臣たちを見渡す。
「そこでは、王も臣下もない。みんなが対等で、互いに協力して働いています」
家臣たちが、真剣な顔で聞き始める。
「最初、私はそれが理解できませんでした。魔国では、王が命令し、臣下が従う。それが当たり前だったから」
俺は、自分の過去を思い出す。
「でも、私は気づきました。命令だけでは、人は本当の力を発揮できない」
「地球で出会った人たちは、自分の意志で働き、互いに協力していました」
グンナルさんの顔が浮かぶ。
「ある職人は、若者に技術を教えながら、若者の新しいアイデアも受け入れていました」
フラーラさんの顔が浮かぶ。
「ある戦士は、仲間を信頼し、共に戦っていました」
田中さんの顔が浮かぶ。
「ある人は、『みんなで力を合わせれば、もっと良いものができる』と言いました」
俺は、拳を握る。
「私は、それを見て思いました。魔国も、そうあるべきだと」
家臣たちが、じっと俺を見ている。
「王が一方的に命令するだけではなく、みんなで考え、みんなで協力する」
俺は、前の会社での失敗を思い出す。
「私自身、昔は人の話を聞かず、自分の意見ばかり押し通していました。そして、失敗しました」
その言葉に、家臣たちがざわつく。
「でも、地球で学びました。人の話を聞き、協力することの大切さを」
俺は、背筋を伸ばす。
「これから、私は皆さんと一緒に、この国をもっと良くしていきたい」
家臣たちが、息を呑む。
「皆さんの意見を聞き、皆さんの力を借りながら、誰もが幸せに暮らせる国を作りたい」
俺は、フラーラさんを見る。
彼女が、目を潤ませながら微笑んでいる。
「だから、お願いします」
俺は、深々と頭を下げた。
「皆さんの力を、貸してください」
一瞬の沈黙。
それから。
パチパチパチパチ!
大きな拍手が響いた。
家臣たちが、笑顔で拍手している。
「素晴らしい!」
「王子様、変わられた!」
「こんな王子様、初めて見た!」
「これが、地球で学ばれたことか!」
歓声が上がる。
メイドたちが泣いている。
騎士たちが、力強く頷いている。
四天王も、驚きながらも笑顔だ。
「……予想外だったが」
カオスが眼鏡を直す。
「悪くない。いや、素晴らしかった」
アイアン・ガーディアンが豪快に笑う。
「ハハハ! これぞ、新しい時代の王だ!」
フォン・マネーゼンも満足そうに頷く。
「士気向上効果、計り知れない。経営的にも最高だ」
ミス・シャドウが、珍しく大きな声で言った。
「……感動しました……」
「おお、シャドウの声が聞こえた!」
みんなが笑う。
そして、俺の視線は、フラーラさんに向いた。
彼女が、涙を拭いながら微笑んでいる。
そして、小さく口を動かした。
「ありがとう」
その言葉が、声にならずとも伝わってきた。
俺は、少し照れくさくなって視線を逸らした。
メリーナが駆け寄ってくる。
「王子様! 素敵なスピーチでした!」
「ありがとう、メリーナさん……」
「私、感動しました! みんなで力を合わせて! 素晴らしいです!」
メリーナが興奮して、俺に駆け寄る。
そして、その拍子に——。
ガシャン!
鎧でバランスを崩し、俺の足を思いっきり踏んだ。
「いたっ!」
「きゃあ! ごめんなさい王子様ぁ!」
メリーナが慌てて謝る。
家臣たちが、温かく笑う。
フラーラさんが呆れたように言う。
「まったくもう……メリーナったら」
でも、その表情は優しかった。
訓示が終わり、俺は控え室に戻った。
四天王が、嬉しそうに入ってくる。
「佐伯くん、予定とは違ったが……素晴らしかった」
カオスが眼鏡を直す。
「私の予想を、良い意味で裏切ってくれた」
「ありがとうございます……」
「あの言葉、心からのものだったな」
アイアン・ガーディアンが肩を叩く。
「だからこそ、家臣たちの心に響いた」
フォン・マネーゼンも満足そうだ。
「家臣たちの士気が、明らかに上がった。生産性向上も期待できる」
ミス・シャドウが、普通の声で言う。
「あの、佐伯さん……」
「おお、シャドウ、声が大きい!」
みんなが驚く。
シャドウが、少し照れながら続ける。
「あなたの言葉を聞いて、私も勇気が出ました。もっと、大きな声で話してみようと思います」
「シャドウさん……」
「ありがとうございます」
シャドウが深々と頭を下げる。
その姿を見て、俺は思った。
俺の言葉が、誰かの勇気になる。
それが、こんなに嬉しいことだなんて。
そして、フラーラさんが入ってきた。
「佐伯」
「あ、フラーラさん」
フラーラさんが、俺の前に立つ。
そして、真剣な顔で言った。
「あなた、本当にすごいわ」
「え……?」
「伝統を破って、自分の言葉で話した。そして、みんなの心を掴んだ」
フラーラさんが微笑む。
でも、その目は潤んでいる。
「あなたは、もう昔のあなたじゃないわ。人の話を聞かず、自分勝手だったあなたじゃない」
「フラーラさん……」
「あなたは、変わった。本当に」
フラーラさんが、俺の手を取る。
「今のあなたなら、本当に良い魔王になれる。いえ、なるべきよ」
その言葉に、俺の胸が締め付けられた。
「でも、俺は……」
「わかってる」
フラーラさんが悲しそうに微笑む。
「あなたには、地球での生活がある。家族も、友達も」
「はい……」
「でも……」
フラーラさんが、俺を見つめる。
「もしあなたがここに残ってくれたら……私は、どんなに嬉しいか」
その言葉に、俺は言葉を失う。
フラーラさんの目が、真剣だ。
これは、もう「もしかしたら」じゃない。
彼女は、俺に残って欲しいと思っている。
本気で。
「フラーラさん……俺は……」
何を言おうとしたのか、自分でもわからない。
その時、ノックの音が響いた。
「失礼します!」
カオスが慌てて入ってくる。
「大変だ! イグニス様の目撃情報が!」
「え!?」
その夜、俺は部屋で一人考えていた。
今日の訓示。
みんなが喜んでくれた。
家臣たちも、期待してくれている。
シャドウさんも、勇気を出してくれた。
そして、フラーラさんが……俺に残って欲しいと言ってくれた。
徐々に、この魔王城での生活に充実感を感じている。
朝、家臣たちに訓示を与える。
四天王と会議をする。
フラーラさんと中庭を散歩する。
フィオナとセバスチャンの喧嘩を仲裁する。
メリーナに足を踏まれる。
そんな日々が、悪くない。
いや、むしろ……楽しい。
でも。
俺は首を振る。
「違う。俺が魔王になっちゃダメだ」
魔王になるべきなのは、本物の王子、イグニスだ。
俺は、ただの代役。
仮の存在。
イグニスが見つかったら、俺はここを去る。
それが、正しいことなんだ。
でも……。
窓の外を見る。
少し赤い空、二つの月。美しい景色。
そして、フラーラさんの顔が浮かぶ。
彼女の微笑み。彼女の優しさ。彼女と過ごす時間。
「……このままの生活を、続けたい」
その言葉が、口から漏れた。
俺は、ハッとする。
今、何を考えた?
このままの生活を続けたい?
つまり、魔王になりたい、ということか?
いや、違う。そうじゃない。
俺が続けたいのは……フラーラさんと一緒にいることだ。
「……やばいな、これ」
俺は、ベッドに倒れ込む。
気づいてしまった。
俺は、フラーラさんのことを……。
好きなのかもしれない。
でも、俺は代役だ。
いずれ、イグニスが見つかったら、ここを去る。
フラーラさんとも、離れることになる。
カオスが言っていた。
「イグニス様の目撃情報が」
もうすぐ、見つかるかもしれない。
それは、良いことだ。
本物の王子が戻ってくる。
俺は、地球に帰れる。
でも……。
「……それは、嫌だ」
俺は、正直に認めた。
フラーラさんと離れるのは、嫌だ。
このまま、一緒にいたい。
俺は、深いため息をついた。
一ヶ月後の戴冠式。
それまでに、答えが出るだろうか。
イグニスが見つかるのか。
それとも……。
いや、考えても仕方ない。
俺は、この複雑な気持ちを抱えたまま、目を閉じた。
でも、心のどこかで。
もしイグニスが見つからなかったら。
もし、俺がこのまま魔王になれたら。
フラーラさんと、ずっと一緒にいられる。
その可能性に、少しだけ期待している自分がいた。
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ファンタジー
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その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
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