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第22話 全てを見通す魔王と試練
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戴冠式まで、あと三日。
魔王城の執務室に、俺は佐伯雄一として、一人で呼び出されていた。
扉の前で、深呼吸する。
中にいるのは、魔王ゼノギアス。
イグニスの父であり、魔界の最高権力者。
これまで、何度か夕食を共にしたが、一対一で話すのは初めてだ。
「失礼します」
重厚な扉を開けると、そこには広い執務室があった。
壁一面の本棚、大きな執務机、そして窓から見える魔界の街並み。
執務机の前に、魔王ゼノギアスが座っている。
白髪、長いひげ、深紅のローブ。
その存在感は、相変わらず圧倒的だ。
「来たか、佐伯雄一」
低く、重い声。
「はい」
俺は、緊張しながら一礼する。
「座れ」
魔王が、向かいの椅子を指す。
俺は、恐る恐る座る。
魔王の視線が、俺を見つめている。
心を読まれるような、鋭い眼差し。
まずい。これは、非常に危ない予感がする。
「緊張しているな」
「は、はい……」
「ふむ。無理もない」
魔王が、少し笑う。
「初めて二人きりで話すのだからな」
その笑顔が、意外と優しい。
「今日は、お前に話したいことがある」
「はい。どういったことでしょうか。」
「まず……礼を言わねばならぬ」
魔王が、深々と頭を下げた。
「え……」
俺は、驚いて固まる。
魔王が、俺に頭を下げている。
「あ、顔を上げてください!」
「いや、これは当然のことだ」
魔王が、顔を上げる。
「お前は、我が息子の代わりに、魔王役を務めてくれた」
「えっ……!」
どう言うことだ。なんで、バレてるんだ。
「それに、イグニスを導いてくれた」
「いえ、そんな……俺は、ただ……」
「謙遜するな」
魔王が、優しく言う。
「お前の働きは、見ていた」
「見ていた……?」
「ああ」
魔王が、窓の外を見る。
「実は、全て知っていたのだ」
「全て……?」
魔王が、ゆっくりと話し始める。
「イグニスが逃げ出したこと」
「四天王たちに言われ、お前が、イグニスの代わりに魔王を演じていたこと」
「四天王たちが、それをわしに隠していたこと」
「全て、最初から知っていたのじゃよ」
俺は、言葉を失う。
「え……でも……」
「どうして止めなかったのか、と思うか?」
「はい……」
「簡単だ。イグニスの成長に繋がると思ったからだ」
魔王が、遠くを見る。
「イグニスは、甘やかされて育った」
「王子だからという理由で、何でも許され、何でも与えられた」
「それが、あいつをダメにしていた」
魔王の声が、少し悲しげになる。
「だから、試したのだ」
「試した……?」
「ああ。一度、全てから逃げさせて、自分で考えさせる」
「そして、失敗させる。挫折させる」
「その先に、本当の成長があると信じてな」
魔王が、俺を見る。
「そして、お前が現れた」
「イグニスの代わりに、魔王を演じるお前」
「最初は、どうなるかと思った。だが……」
魔王が、少し笑う。
「お前は、想像以上だった」
「え……」
「会議での提案、訓示での言葉、昨日のイベントでの演説」
「全て、素晴らしかったぞ」
魔王が、満足そうに頷く。
「正直、イグニスよりも、お前の方が魔王に向いているのではないかと思ったほどだ」
「そんな……」
「いや、本当だ」
魔王が、真剣な顔で言う。
「お前には、人を導く力がある」
「人の話を聞き、協力を得て、共に進む力」
「それは、真の王に必要な資質だ」
俺は、その言葉に戸惑う。
「でも、俺は……ただのバイトで……」
「バイトであろうと、なんであろうと、関係ない」
魔王が、力強く言う。
「大切なのは、心だ。お前の心は、王のそれだ」
その言葉が、俺の胸に響く。
でも、同時に不安が大きくなる。
「あの、それって……俺が魔王になれってことですか?」
魔王が、少し考えてから言った。
「いや、それは違う」
「え?」
「お前には、お前の道がある」
魔王が、優しく言う。
「それを、無理に変える必要はない」
「では……」
「ただ、イグニスの良き相談相手になってやってほしい」
魔王が、俺を見つめる。
「イグニスは、まだ未熟だ。これからも、失敗は多いだろう」
「でも、お前がいれば、あいつは立ち直れる」
「お前があいつを良き王へと導く」
「だから、頼む」
魔王が、再び頭を下げる。
「イグニスを、支えてやってくれ」
「……はい」
俺は、頷く。
「わかりました。できる限り、支えます」
魔王が、顔を上げて微笑む。
「すまぬな」
それから、魔王が話題を変える。
「それと、もう一つ」
「はい?」
「フラーラのことだ」
その名前に、俺の胸がドキッとする。
「フラーラさん……」
「あの娘は、長く生きすぎた」
魔王が、遠い目をする。
「四百年以上。その間、多くの人を見送ってきた」
「勇者も、仲間も、愛した者も」
「だから、あの娘は人を愛することを恐れている」
魔王が、俺を見る。
「だが、お前が現れた」
「お前は、フラーラの心を動かした」
「四百年ぶりに、あの娘は人間を愛した」
「それは、素晴らしいことだ」
魔王が、優しく微笑む。
「だから、聞きたい」
「お前は、フラーラをどう思っている」
その質問に、俺は少し戸惑う。
でも、正直に答える。
「好きです」
「ほう」
「フラーラさんのこと、本当に好きです」
俺は、まっすぐ魔王を見つめる。
「寿命が違うことも、いつか俺が先に死ぬことも、わかっています」
「でも、それでも……一緒にいたいんです」
魔王が、満足そうに頷く。
「うむ、良い答えだ」
「あの娘は、また大切な者を失うことを恐れている」
「しかし、お前がそう言うなら……」
魔王が、立ち上がる。
「わしが、許そう」
「え?」
「お前とフラーラが、共に生きることを」
魔王が、窓の外を見る。
「たとえ、お前が先にいなくなるとしても」
「フラーラにとって、お前との二人の時間は宝物になるだろう」
魔王が、振り返る。
「だからな、お前に頼む。フラーラを、ぜひにも幸せにしてやってくれ」
「……はい」
俺は、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます」
魔王が、また座る。
「それと、もう一つ」
「はい?」
「わしは、明後日、退位する」
「え……明後日?」
「ああ。予定通りだ」
魔王が、少し寂しそうに微笑む。
「そして、イグニスが魔王となる」
「イグニスは、まだ未熟だ。しかしな……」
魔王が、遠くを見る。
「今回の件で、少しは成長したと信じておる」
「お前や、秋月佳奈のおかげでな」
「それに、四天王もいる。フラーラもいる」
「そして、お前もいる」
魔王が、俺を見る。
「だから、安心して退位できる」
「魔界の未来は、明るい」
魔王が、満足そうに頷く。
「人と魔が共に暮らす未来」
「それを、わしは夢に見、試していたのだ」
「試していた……?」
「ああ。異世界ランドは、その実験場だ」
「人族のスタッフと、魔族のスタッフが共に働く」
「来場者は、魔族の存在を知らずに楽しむ」
「それが、うまくいけば……」
魔王が、目を輝かせる。
「いつか、地球と魔界が、公に交流できる日が来るかもしれない」
「そんな……」
「夢物語だと思うか?」
「いえ……でも、とても大変そうです」
「ああ、大変だろうな。何十年もかかるだろう」
魔王が、笑う。
「でも、その第一歩を、わしたちはすでに踏み出した」
「昨日のイベントで、人々を様子を見たじゃろ?」
「はい」
「人々は、魔物と戦い、魔王の演説を聞いて、涙を流した」
「人も魔も、共に生きる世界」
「それを、人々は受け入れ始めている」
魔王が、満足そうに頷く。
「だから、わしは安心して退位できる」
「イグニスと、お前たちに、未来を託す」
その言葉に、俺の胸が熱くなる。
「魔王陛下……」
「呼び方を変えろ」
「え?」
「わしは、もうすぐ元魔王だ。ゼノギアスと呼べ」
「でも……」
「堅苦しいのは嫌いなんだ」
ゼノギアスが、豪快に笑う。
その笑顔が、とても温かい。
「わかりました……ゼノギアスさん」
「うむ、それでよい」
ゼノギアスが、立ち上がる。
「さあ、行け。フラーラが待っているのだろう?」
「はい」
俺も立ち上がり、一礼する。
「今日は、ありがとうございました」
「礼を言うのは、わしの方だ」
俺が扉に向かおうとした時、ゼノギアスが言った。
「佐伯雄一」
「はい?」
「お前は、良い若者だ」
「イグニスが、お前のような兄を持てていたならな……」
ゼノギアスが、少し寂しそうに微笑む。
「いや、今からでも遅くない。お前は、イグニスの兄になってやってくれ」
「……はい」
俺は、深々と頭を下げて、部屋を出た。
廊下を歩きながら、考える。
ゼノギアスさんは、全て知っていた。
そして、全て見守り、許してくれていた。
イグニスの成長のために。
人と魔の未来のために。
そして、フラーラさんの幸せのために。
「全てを見通していたか」
それが、真の王なのだろうが、俺には、まだわからない。
でも、一つだけわかることがある。
ゼノギアスさんは、優しい人だ。
厳格で、強くて、そして、きっと誰よりも優しい。
そんな人が、魔王だったんだ。
中庭に出ると、フラーラさんが待っていた。
「お疲れ様」
「フラーラさん……」
「どうだった? 魔王陛下とのお話」
「……全部、知ってたそうです」
「やっぱり」
フラーラさんが、少し笑う。
「陛下は、何でもお見通しだから」
「そうみたいですね」
俺は、フラーラさんの隣に座る。
「それと……」
「それと?」
「俺たちのこと、許してくれました」
「え……」
「一緒にいることを、許してくれたんです」
俺は、フラーラさんの手を取る。
「だから、これからも……一緒にいてください」
フラーラさんの目が、潤む。
「ありがとう……」
フラーラさんが、涙を流す。
「私も、ずっと一緒にいたい」
二人で、しばらく空を見上げる。
少し赤い空、二つの月。
美しい景色。
「明後日、戴冠式ね」
「はい……」
「イグニスが、魔王になる」
「はい」
「そして、私たちは……」
フラーラさんが、俺を見る。
「新しい未来へ、進むのね」
「はい」
俺は、フラーラさんの手を強く握る。
「一緒に」
「ええ、一緒に」
二人で微笑み合う。
戴冠式まで、あと二日。
全てが、動き始めている。
魔王城の執務室に、俺は佐伯雄一として、一人で呼び出されていた。
扉の前で、深呼吸する。
中にいるのは、魔王ゼノギアス。
イグニスの父であり、魔界の最高権力者。
これまで、何度か夕食を共にしたが、一対一で話すのは初めてだ。
「失礼します」
重厚な扉を開けると、そこには広い執務室があった。
壁一面の本棚、大きな執務机、そして窓から見える魔界の街並み。
執務机の前に、魔王ゼノギアスが座っている。
白髪、長いひげ、深紅のローブ。
その存在感は、相変わらず圧倒的だ。
「来たか、佐伯雄一」
低く、重い声。
「はい」
俺は、緊張しながら一礼する。
「座れ」
魔王が、向かいの椅子を指す。
俺は、恐る恐る座る。
魔王の視線が、俺を見つめている。
心を読まれるような、鋭い眼差し。
まずい。これは、非常に危ない予感がする。
「緊張しているな」
「は、はい……」
「ふむ。無理もない」
魔王が、少し笑う。
「初めて二人きりで話すのだからな」
その笑顔が、意外と優しい。
「今日は、お前に話したいことがある」
「はい。どういったことでしょうか。」
「まず……礼を言わねばならぬ」
魔王が、深々と頭を下げた。
「え……」
俺は、驚いて固まる。
魔王が、俺に頭を下げている。
「あ、顔を上げてください!」
「いや、これは当然のことだ」
魔王が、顔を上げる。
「お前は、我が息子の代わりに、魔王役を務めてくれた」
「えっ……!」
どう言うことだ。なんで、バレてるんだ。
「それに、イグニスを導いてくれた」
「いえ、そんな……俺は、ただ……」
「謙遜するな」
魔王が、優しく言う。
「お前の働きは、見ていた」
「見ていた……?」
「ああ」
魔王が、窓の外を見る。
「実は、全て知っていたのだ」
「全て……?」
魔王が、ゆっくりと話し始める。
「イグニスが逃げ出したこと」
「四天王たちに言われ、お前が、イグニスの代わりに魔王を演じていたこと」
「四天王たちが、それをわしに隠していたこと」
「全て、最初から知っていたのじゃよ」
俺は、言葉を失う。
「え……でも……」
「どうして止めなかったのか、と思うか?」
「はい……」
「簡単だ。イグニスの成長に繋がると思ったからだ」
魔王が、遠くを見る。
「イグニスは、甘やかされて育った」
「王子だからという理由で、何でも許され、何でも与えられた」
「それが、あいつをダメにしていた」
魔王の声が、少し悲しげになる。
「だから、試したのだ」
「試した……?」
「ああ。一度、全てから逃げさせて、自分で考えさせる」
「そして、失敗させる。挫折させる」
「その先に、本当の成長があると信じてな」
魔王が、俺を見る。
「そして、お前が現れた」
「イグニスの代わりに、魔王を演じるお前」
「最初は、どうなるかと思った。だが……」
魔王が、少し笑う。
「お前は、想像以上だった」
「え……」
「会議での提案、訓示での言葉、昨日のイベントでの演説」
「全て、素晴らしかったぞ」
魔王が、満足そうに頷く。
「正直、イグニスよりも、お前の方が魔王に向いているのではないかと思ったほどだ」
「そんな……」
「いや、本当だ」
魔王が、真剣な顔で言う。
「お前には、人を導く力がある」
「人の話を聞き、協力を得て、共に進む力」
「それは、真の王に必要な資質だ」
俺は、その言葉に戸惑う。
「でも、俺は……ただのバイトで……」
「バイトであろうと、なんであろうと、関係ない」
魔王が、力強く言う。
「大切なのは、心だ。お前の心は、王のそれだ」
その言葉が、俺の胸に響く。
でも、同時に不安が大きくなる。
「あの、それって……俺が魔王になれってことですか?」
魔王が、少し考えてから言った。
「いや、それは違う」
「え?」
「お前には、お前の道がある」
魔王が、優しく言う。
「それを、無理に変える必要はない」
「では……」
「ただ、イグニスの良き相談相手になってやってほしい」
魔王が、俺を見つめる。
「イグニスは、まだ未熟だ。これからも、失敗は多いだろう」
「でも、お前がいれば、あいつは立ち直れる」
「お前があいつを良き王へと導く」
「だから、頼む」
魔王が、再び頭を下げる。
「イグニスを、支えてやってくれ」
「……はい」
俺は、頷く。
「わかりました。できる限り、支えます」
魔王が、顔を上げて微笑む。
「すまぬな」
それから、魔王が話題を変える。
「それと、もう一つ」
「はい?」
「フラーラのことだ」
その名前に、俺の胸がドキッとする。
「フラーラさん……」
「あの娘は、長く生きすぎた」
魔王が、遠い目をする。
「四百年以上。その間、多くの人を見送ってきた」
「勇者も、仲間も、愛した者も」
「だから、あの娘は人を愛することを恐れている」
魔王が、俺を見る。
「だが、お前が現れた」
「お前は、フラーラの心を動かした」
「四百年ぶりに、あの娘は人間を愛した」
「それは、素晴らしいことだ」
魔王が、優しく微笑む。
「だから、聞きたい」
「お前は、フラーラをどう思っている」
その質問に、俺は少し戸惑う。
でも、正直に答える。
「好きです」
「ほう」
「フラーラさんのこと、本当に好きです」
俺は、まっすぐ魔王を見つめる。
「寿命が違うことも、いつか俺が先に死ぬことも、わかっています」
「でも、それでも……一緒にいたいんです」
魔王が、満足そうに頷く。
「うむ、良い答えだ」
「あの娘は、また大切な者を失うことを恐れている」
「しかし、お前がそう言うなら……」
魔王が、立ち上がる。
「わしが、許そう」
「え?」
「お前とフラーラが、共に生きることを」
魔王が、窓の外を見る。
「たとえ、お前が先にいなくなるとしても」
「フラーラにとって、お前との二人の時間は宝物になるだろう」
魔王が、振り返る。
「だからな、お前に頼む。フラーラを、ぜひにも幸せにしてやってくれ」
「……はい」
俺は、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます」
魔王が、また座る。
「それと、もう一つ」
「はい?」
「わしは、明後日、退位する」
「え……明後日?」
「ああ。予定通りだ」
魔王が、少し寂しそうに微笑む。
「そして、イグニスが魔王となる」
「イグニスは、まだ未熟だ。しかしな……」
魔王が、遠くを見る。
「今回の件で、少しは成長したと信じておる」
「お前や、秋月佳奈のおかげでな」
「それに、四天王もいる。フラーラもいる」
「そして、お前もいる」
魔王が、俺を見る。
「だから、安心して退位できる」
「魔界の未来は、明るい」
魔王が、満足そうに頷く。
「人と魔が共に暮らす未来」
「それを、わしは夢に見、試していたのだ」
「試していた……?」
「ああ。異世界ランドは、その実験場だ」
「人族のスタッフと、魔族のスタッフが共に働く」
「来場者は、魔族の存在を知らずに楽しむ」
「それが、うまくいけば……」
魔王が、目を輝かせる。
「いつか、地球と魔界が、公に交流できる日が来るかもしれない」
「そんな……」
「夢物語だと思うか?」
「いえ……でも、とても大変そうです」
「ああ、大変だろうな。何十年もかかるだろう」
魔王が、笑う。
「でも、その第一歩を、わしたちはすでに踏み出した」
「昨日のイベントで、人々を様子を見たじゃろ?」
「はい」
「人々は、魔物と戦い、魔王の演説を聞いて、涙を流した」
「人も魔も、共に生きる世界」
「それを、人々は受け入れ始めている」
魔王が、満足そうに頷く。
「だから、わしは安心して退位できる」
「イグニスと、お前たちに、未来を託す」
その言葉に、俺の胸が熱くなる。
「魔王陛下……」
「呼び方を変えろ」
「え?」
「わしは、もうすぐ元魔王だ。ゼノギアスと呼べ」
「でも……」
「堅苦しいのは嫌いなんだ」
ゼノギアスが、豪快に笑う。
その笑顔が、とても温かい。
「わかりました……ゼノギアスさん」
「うむ、それでよい」
ゼノギアスが、立ち上がる。
「さあ、行け。フラーラが待っているのだろう?」
「はい」
俺も立ち上がり、一礼する。
「今日は、ありがとうございました」
「礼を言うのは、わしの方だ」
俺が扉に向かおうとした時、ゼノギアスが言った。
「佐伯雄一」
「はい?」
「お前は、良い若者だ」
「イグニスが、お前のような兄を持てていたならな……」
ゼノギアスが、少し寂しそうに微笑む。
「いや、今からでも遅くない。お前は、イグニスの兄になってやってくれ」
「……はい」
俺は、深々と頭を下げて、部屋を出た。
廊下を歩きながら、考える。
ゼノギアスさんは、全て知っていた。
そして、全て見守り、許してくれていた。
イグニスの成長のために。
人と魔の未来のために。
そして、フラーラさんの幸せのために。
「全てを見通していたか」
それが、真の王なのだろうが、俺には、まだわからない。
でも、一つだけわかることがある。
ゼノギアスさんは、優しい人だ。
厳格で、強くて、そして、きっと誰よりも優しい。
そんな人が、魔王だったんだ。
中庭に出ると、フラーラさんが待っていた。
「お疲れ様」
「フラーラさん……」
「どうだった? 魔王陛下とのお話」
「……全部、知ってたそうです」
「やっぱり」
フラーラさんが、少し笑う。
「陛下は、何でもお見通しだから」
「そうみたいですね」
俺は、フラーラさんの隣に座る。
「それと……」
「それと?」
「俺たちのこと、許してくれました」
「え……」
「一緒にいることを、許してくれたんです」
俺は、フラーラさんの手を取る。
「だから、これからも……一緒にいてください」
フラーラさんの目が、潤む。
「ありがとう……」
フラーラさんが、涙を流す。
「私も、ずっと一緒にいたい」
二人で、しばらく空を見上げる。
少し赤い空、二つの月。
美しい景色。
「明後日、戴冠式ね」
「はい……」
「イグニスが、魔王になる」
「はい」
「そして、私たちは……」
フラーラさんが、俺を見る。
「新しい未来へ、進むのね」
「はい」
俺は、フラーラさんの手を強く握る。
「一緒に」
「ええ、一緒に」
二人で微笑み合う。
戴冠式まで、あと二日。
全てが、動き始めている。
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