ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第6話 SNS脳ヒロインの暴走

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舞踏会から一週間。学園の中庭は、またしても一人の少女を中心に騒がしくなっていた。

「皆様、聞いてください! 私、実は女神様から『予知能力』を授かったんです!」
中央で声を張り上げているのは、ピンクブロンドの髪を揺らすマリアちゃんだ。
周囲の生徒たちは半信半疑ながらも、彼女の「平民出身の聖女」という肩書きに惹かれて集まっている。

(……予知能力(笑)。お前、前世でやり込んだゲームのイベント知識をドヤ顔で喋ってるだけだろ)
私は回廊の影で、冷めた紅茶を啜りながらその様子を観察していた。

マリアの瞳は、「注目を浴びたい」という承認欲求でギラギラと輝いている。 前世でフォロワー数に命をかけていた、自称インフルエンサーの成れの果てね。
「来月、北の領地で大きな反乱が起きます! 民衆の怒りが爆発して、王国は危機に陥るわ!」

「な、なんだって!?」「そんな馬鹿な、北の領地は安定しているはずだぞ」
生徒たちがざわめく中、マリアは悲劇のヒロインのような表情で胸に手を当てた。
「信じてください! 私には見えるんです、燃える街並みが……!」

(……あー、あったわね。第四章の『北方の動乱』イベント)
私は脳内で、前世の記憶という名の「攻略本」を高速で検索する。

【イベント分析:北方の動乱】 
・原因:領主の重税と冬の不作による食糧難。 
・結果:本来は王子たちが鎮圧に向かい、マリアが癒やしの力で民を鎮める「好感度イベント」。 
・経済的影響:エルデンバッハ公爵家が北方に持つ利権の消失。物価高騰による株価の暴落。

(ちょっと待って。反乱が起きたら、私のポートフォリオの二〇%を占める『北方商事』の株が紙屑になるじゃない……!)
私はティーカップを置き、翡翠色の瞳を鋭く光らせた。
(冗談じゃないわ。マリアの『バズりたい』という私欲のために、私の配当生活を脅かされてたまるもんですか)



その日の夜、私は公爵邸の自室で、父であるエルデンバッハ公爵へ宛てた手紙を書いていた。
「ソフィ。これを今すぐお父様に届けてちょうだい。至急よ」
「お嬢様? マリア様の予言を信じて、対策を講じるのですか?」
ソフィが不思議そうに首を傾げる。

「信じるも何も、これは『リスクマネジメント』よ。反乱が起きてからでは遅いの。損害を最小限に抑える(ロスカットする)ために、先手を打つのよ」
手紙の内容は、極めて事務的かつ合理的な提案だ。

1.北の領主へ、王家からの一時的な減税措置を公爵家が肩代わりする形で提案。 2.エルデンバッハ商会の在庫から、余剰食糧を「慈善事業」として北へ緊急輸送。 3.民衆の不満を吸収するための、炊き出し施設の設置。

(これで反乱の火種(期待損失)は消える。食糧を送るコストなんて、株価暴落の損失に比べれば微々たるもの(必要経費)だわ)

「お嬢様……。予言を信じて、自らの資産を削ってまで民を救おうとするなんて。なんてお優しい……!」
ソフィが涙を流して感動しているが、私は無視した。
(優しいんじゃないわ。資産価値を維持するための『防衛投資』よ。さっさと出しなさい、クソが)



一ヶ月後。
学園ではマリアの「予言の日」を迎え、緊張が走っていた。 マリア本人は「そろそろ反乱の報せが届くはず!」と、期待に満ちた顔で広場に立っている。
だが、届いたのは全く別の報告だった。

「陛下! 北の領地より急報です! 例年以上の豊作……とまではいきませんが、公爵家からの食糧支援により、民衆の生活は極めて安定! 過去最高に治安が良いとのことです!」
「なに……!? 反乱の兆候は……?」
「全くございません! それどころか、リゼット様への感謝の歌が流行っているとか!」

広場に沈黙が流れる。
マリアの顔は、幽霊のように真っ白になっていた。
「な……なんで!? ゲーム……じゃなくて、予知では絶対に起きるはずだったのに!」
「マリア嬢、嘘だったのか?」「注目されたくて、不吉な嘘をついたのかよ」
生徒たちの冷ややかな視線が、マリアに突き刺さる。

(ふぅ……。これで私の株価は守られたわ。あー、めんどくさかった。慈善事業なんて二度とごめんだわ)
安堵して立ち去ろうとした私の背中に、重厚な声がかけられた。

「リゼット嬢、待ちなさい」
振り返ると、そこには国王陛下と、感極まった表情の宰相が立っていた。
「君は……。マリア嬢の根拠なき予言を鵜呑みにせず、独自に危機を察知し、自らの資産を投じて未然に防いだのだな」
「……は?」
「なんという慧眼。なんという無私の精神。君は、王国の危機を救った『沈黙の賢者』だ!」

(……はああああ!? なんでそうなるのよ!)
「陛下、私はただ、自分の資産を……」
「分かっている。君は謙虚だな。功績を誇らず、ただ静かに民を救う。アルフォンスの婚約者が君で、本当によかった」
国王にがっしりと肩を掴まれ、私は引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。

(違う! 私はただ、インサイダー情報を利用して市場を安定させただけよ! 聖女でも賢者でもないわよ!)

【解析:リゼットの現状】 
・マリアへの不信感:ストップ安(信用失墜) 
・リゼットへの評価:青天井(もはや神格化) 
・自由な時間:絶望的(国王からの信頼獲得により公務激増)

(計算ミス……。史上最大の、致命的な計算ミスですわ……!)
隠居を夢見る不労所得令嬢、リゼット。 ヒロインの自爆を援護したはずが、国家の守護神として確定申告されてしまう。

「お嬢様、王妃様からお茶会の招待状が。……『我が国の誇りであるあなたと、ゆっくりお話ししたい』そうです」
「……もう、〇ね。私が〇にたいわ……」
 
次回予告
「リゼット様、私と一緒に、社交界デビューのお手伝いをしてくださる?」 
「(……きた。王妃様直々の『強制労働』要請。これ、断れる空気じゃないやつだわ)」 
「お姉様! 私にも勉強を教えてください!」 
「(……義妹(王女)まで!? 勘弁して、私は前の会社の新人の教育担当でもう懲りてるの!)」

次回、第7話「王妃の罠(という名の好意)」
ホワイトな隠居生活、どこに落ちてますの!?
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