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第5話 善意が完全に裏目に出る舞踏会
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学園の親睦舞踏会、当日。
私は自室の鏡の前で、完璧な「場違い令嬢」への仕上がりを確認していた。
選んだのは、淡く、どこまでも透き通るような薄い空色のドレス。 装飾も最小限に抑え、まるで見落としてしまいそうなほど控えめな装いだ。
(よし……。今日のトレンド予測によれば、流行は間違いなく『真紅』。会場は真っ赤に染まるはずだわ)
私は内心で、投資の必勝パターンを確信したような笑みを浮かべる。
今回の作戦の要は、三日前にマリアへ流した「本物の情報」だ。 私は彼女に、「今年の流行は真紅のドレスですわ。間違いありません」と教えておいた。
(ヒロインのマリアちゃんがトレンドのド真ん中を射抜いて、主役の座を奪い取る。私は流行を読み違えた、浮いている婚約者としてフェードアウト……)
(これこそが究極のニッチ戦略。あえて逆張りして、王子の好感度を暴落させる。完璧なリスクヘッジだわ!)
◇
舞踏会の会場である大広間に足を踏み入れると、そこは……まさに「地獄の底」のような光景だった。
「……赤い。赤すぎるわね」
会場を見渡せば、右も左も真紅、真紅、真紅。 トレンドを意識しすぎた令嬢たちが、こぞって同じような深紅のドレスに身を包んでいた。
(経済学で言うところの『過当競争(レッドオーシャン)』ね。供給過多で個性が完全に埋没してるわ……)
そこへ、ヒロインのマリアが登場する。
「マリア・ローゼンタール嬢、入室!」
現れたマリアは、確かに美しい真紅のドレスを着こなしていた。 だが、悲しいかな。周囲の令嬢たちも「全く同じ色」なのだ。
「皆様、こんばんはっ☆ 今日の私、トレンド最先端ですよ……え?」
……マリアの顔が引きつる。
彼女は「自分だけがトレンドを先取りした主役」になるつもりだったのだろう。 だが現実は、赤い集団の中の一人に過ぎなかった。
(あちゃー……マリアちゃん、個性が完全に市場に埋もれちゃったわね。これじゃあ、ただの『流行のフォロワー』にしか見えないわ……)
◇
そんな中、一人の男が赤い荒波を掻き分けて、真っ直ぐに私へと歩いてきた。 黄金のオーラを振りまく、我が婚約者アルフォンス王子だ。
彼は、薄い空色のドレスを着た私の前に立ち、深く息を呑んだ。
「……リゼット。君は、どこまで先を読んでいるんだ」
(……はい? 何の収益予測(フォアキャスト)の話?)
「驚いたよ。会場の誰もが流行を追って赤に染まる中、君だけがこの『薄い空色』を纏って現れるなんて!」
(……は? いや、ただの流行遅れを狙っただけなんだけど)
「見てごらん、周囲の視線を。君のドレスは、この赤い海(レッドオーシャン)において、唯一無二の清涼な『ブルーオーシャン』だ。まさに、真の美しさは競い合う場所を必要としない、という証明だね」
アルフォンスの言葉通り、会場の視線はマリアではなく、私に釘付けになっていた。
「リゼット様のあのドレス、なんて洗練されているの……!」
「流行に流されない、真の気高さ。あえて逆を行くことで、誰よりも輝いていらっしゃるわ……!」
(……待って。なんで私がファッションリーダー扱いされてるの? おかしいだろ、私のドレス、布代を節約しただけよ!?)
◇
アルフォンスは熱っぽい瞳で私の手を取った。
「君はあえて流行をマリア嬢に譲り、自分は一歩引いた場所で、高潔な姿を見せた。その知略と、新入生を立てる謙虚さに、私は改めて恋に落ちたよ」
(違う! 全然違うわよ! 私はただ、ダサいと思われたかっただけなんだってば!)
一方、赤い集団に埋もれて屈辱に震えるマリアが、こちらをギロリと睨みつけてくる。
(リゼット……! あの女、私に本物の流行を教えて、あえて自分は正反対の色を着ることで、私を『量産型』に見せたのね!?)
(『真紅が流行』だなんて、私をただのモブに引きずり下ろすための、高度な情報戦だったんだわ! 許さない、あの悪役令嬢……!!)
マリアの背後に、どす黒いオーラが立ち上る。
(……なんか、ヒロインの敵意がストップ高なんだけど。私、正直に教えたわよね? 一文字も嘘は言ってないわよね!?)
隠居を夢見る投資家令嬢 vs 「出し抜かれた」と勘違いするヒロイン。
リゼットの目指す「婚約破棄」の期待値は、皮肉にも彼女の「ブルーオーシャン戦略」が成功したと見なされたことで、奈落へと転落していった。
次回予告
「皆様、聞いてください! 私は予知能力があるんです! 来月、北の領地で反乱が起きますわ!」
「(……マリアちゃん、それゲームのイベント知識をドヤ顔で喋ってるだけだよね?)」
「反乱……? 大変だ、すぐに調査を……!」
「(……めんどくせぇ。反乱とか起きたら株価が下がるじゃん。裏で潰しとくか)」
次回、第6話「SNS脳ヒロインの暴走」
私のポートフォリオ、これ以上乱さないでいただけます!?
私は自室の鏡の前で、完璧な「場違い令嬢」への仕上がりを確認していた。
選んだのは、淡く、どこまでも透き通るような薄い空色のドレス。 装飾も最小限に抑え、まるで見落としてしまいそうなほど控えめな装いだ。
(よし……。今日のトレンド予測によれば、流行は間違いなく『真紅』。会場は真っ赤に染まるはずだわ)
私は内心で、投資の必勝パターンを確信したような笑みを浮かべる。
今回の作戦の要は、三日前にマリアへ流した「本物の情報」だ。 私は彼女に、「今年の流行は真紅のドレスですわ。間違いありません」と教えておいた。
(ヒロインのマリアちゃんがトレンドのド真ん中を射抜いて、主役の座を奪い取る。私は流行を読み違えた、浮いている婚約者としてフェードアウト……)
(これこそが究極のニッチ戦略。あえて逆張りして、王子の好感度を暴落させる。完璧なリスクヘッジだわ!)
◇
舞踏会の会場である大広間に足を踏み入れると、そこは……まさに「地獄の底」のような光景だった。
「……赤い。赤すぎるわね」
会場を見渡せば、右も左も真紅、真紅、真紅。 トレンドを意識しすぎた令嬢たちが、こぞって同じような深紅のドレスに身を包んでいた。
(経済学で言うところの『過当競争(レッドオーシャン)』ね。供給過多で個性が完全に埋没してるわ……)
そこへ、ヒロインのマリアが登場する。
「マリア・ローゼンタール嬢、入室!」
現れたマリアは、確かに美しい真紅のドレスを着こなしていた。 だが、悲しいかな。周囲の令嬢たちも「全く同じ色」なのだ。
「皆様、こんばんはっ☆ 今日の私、トレンド最先端ですよ……え?」
……マリアの顔が引きつる。
彼女は「自分だけがトレンドを先取りした主役」になるつもりだったのだろう。 だが現実は、赤い集団の中の一人に過ぎなかった。
(あちゃー……マリアちゃん、個性が完全に市場に埋もれちゃったわね。これじゃあ、ただの『流行のフォロワー』にしか見えないわ……)
◇
そんな中、一人の男が赤い荒波を掻き分けて、真っ直ぐに私へと歩いてきた。 黄金のオーラを振りまく、我が婚約者アルフォンス王子だ。
彼は、薄い空色のドレスを着た私の前に立ち、深く息を呑んだ。
「……リゼット。君は、どこまで先を読んでいるんだ」
(……はい? 何の収益予測(フォアキャスト)の話?)
「驚いたよ。会場の誰もが流行を追って赤に染まる中、君だけがこの『薄い空色』を纏って現れるなんて!」
(……は? いや、ただの流行遅れを狙っただけなんだけど)
「見てごらん、周囲の視線を。君のドレスは、この赤い海(レッドオーシャン)において、唯一無二の清涼な『ブルーオーシャン』だ。まさに、真の美しさは競い合う場所を必要としない、という証明だね」
アルフォンスの言葉通り、会場の視線はマリアではなく、私に釘付けになっていた。
「リゼット様のあのドレス、なんて洗練されているの……!」
「流行に流されない、真の気高さ。あえて逆を行くことで、誰よりも輝いていらっしゃるわ……!」
(……待って。なんで私がファッションリーダー扱いされてるの? おかしいだろ、私のドレス、布代を節約しただけよ!?)
◇
アルフォンスは熱っぽい瞳で私の手を取った。
「君はあえて流行をマリア嬢に譲り、自分は一歩引いた場所で、高潔な姿を見せた。その知略と、新入生を立てる謙虚さに、私は改めて恋に落ちたよ」
(違う! 全然違うわよ! 私はただ、ダサいと思われたかっただけなんだってば!)
一方、赤い集団に埋もれて屈辱に震えるマリアが、こちらをギロリと睨みつけてくる。
(リゼット……! あの女、私に本物の流行を教えて、あえて自分は正反対の色を着ることで、私を『量産型』に見せたのね!?)
(『真紅が流行』だなんて、私をただのモブに引きずり下ろすための、高度な情報戦だったんだわ! 許さない、あの悪役令嬢……!!)
マリアの背後に、どす黒いオーラが立ち上る。
(……なんか、ヒロインの敵意がストップ高なんだけど。私、正直に教えたわよね? 一文字も嘘は言ってないわよね!?)
隠居を夢見る投資家令嬢 vs 「出し抜かれた」と勘違いするヒロイン。
リゼットの目指す「婚約破棄」の期待値は、皮肉にも彼女の「ブルーオーシャン戦略」が成功したと見なされたことで、奈落へと転落していった。
次回予告
「皆様、聞いてください! 私は予知能力があるんです! 来月、北の領地で反乱が起きますわ!」
「(……マリアちゃん、それゲームのイベント知識をドヤ顔で喋ってるだけだよね?)」
「反乱……? 大変だ、すぐに調査を……!」
「(……めんどくせぇ。反乱とか起きたら株価が下がるじゃん。裏で潰しとくか)」
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私のポートフォリオ、これ以上乱さないでいただけます!?
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