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第4話 ヒロイン登場、そして運命の歯車が狂い始める
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王立ラピス学園、一ーA組の教室。
いつも通りの退屈な朝、クラス中に期待と好奇心の混じったざわめきが広がっていた。
(……ついに、この日が来たわね)
私は窓際の特等席で、プラチナブロンドの髪を指で遊びながら、教室の扉を凝視していた。
乙女ゲーム『聖女マリアの恋愛革命』。その物語が本当の意味で動き出す、ヒロインの転入イベント当日だ。
扉が開き、担任の教師と共に一人の少女が入ってきた。
「今日からこのクラスに加わる、マリア・ローゼンタール嬢だ」
ピンクブロンドのふわふわした髪に、丸い瞳。まさに「守ってあげたい」を体現したような、愛くるしい美少女。
マリアは教壇に立つと、貴族の子弟ばかりが並ぶ教室で、あろうことか満面の笑みで「ピースサイン」を作ってみせた。
「マリアです! 平民出身でわからないことだらけですけど、よろしくお願いしますっ☆」
教室の空気が、一瞬で凍りついた。
貴族令嬢Aが扇子を広げてヒソヒソと囁き、男子生徒たちは呆気にとられている。
(……ピース? 貴族の前でピース? マナーとかいう概念、彼女の辞書には存在しないのかしら)
私は頬杖をつき、脳内の計算機を高速で弾いた。
【分析ターゲット:マリア・ローゼンタール】
・特徴:明るい、社交的、KY(空気読めない)
・推定:転生者。しかも、承認欲求モンスターな「SNS脳」の持ち主。
・資産価値:婚約破棄を加速させる「起爆剤(ブースター)」
(よし、期待値は高いわ。彼女が王子を攻略してくれれば、私のエグジット戦略は九割方成功したも同然よ)
昼休み。学園の大階段にて。
さっそく「お約束」のイベントが発生した。
「きゃっ!」
わざとらしい悲鳴。マリアが階段で足をもつれさせ、スローモーションのように宙に浮く。
「危ない!」
そこへ颯爽と現れたのは、黄金の髪をなびかせた我が婚約者、アルフォンス王子。
彼は完璧なタイミングでマリアを抱きとめ、見つめ合った。
「……大丈夫かい、マリア嬢」
「まあ、王子様……! 私、運命を感じちゃいますわ♡」
(……運命(笑)。お前、BL漫画のヒロインか。それとも一昔前のトレンディドラマのパクリ?)
私は柱の陰から、ポップコーンでも食べたい気分でその様子を観賞していた。
周囲の貴族たちは「下品な」「王子に馴れ馴れしい」と冷ややかな視線を送っているが、私だけは心の中でスタンディングオベーションを送っていた。
(いいぞ、マリア! そのまま王子のハートをバイアウトしてちょうだい! 私は全力でその買収工作を支援(アシスト)するわ!)
放課後。私は一人でいたマリアに接触した。
「マリア様、ご転入おめでとうございます。素晴らしい光魔法をお持ちだとか。お会いできて光栄ですわ」
私は「微笑みの聖女」の仮面を完璧に被り、マリアの手を優しく包み込んだ。
(さあ、まずは友好関係を築いて、王子の情報をリークしてあげましょうか。好みのタイプとか、弱点とか、全部教えてあげるわよ)
マリアは一瞬、警戒するように私を見たが、私の「完璧な笑顔」に絆されたのか、顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます……! リゼット様って、本当に優しいんですね」
(違うわよ、計算よ。情けは人のためならず、巡り巡って私の不労所得になるのよ)
「来週、学園の親睦舞踏会がありますの。ぜひ、アルフォンス殿下のエスコートでお越しになったらいかがかしら? 私、殿下には『彼女にマナーを教えてあげて』と頼んでおきますわ」
(これで舞踏会の主役は彼女。私はフェードアウト。完璧なチャートね)
一方、マリアの内心。
(リゼット……悪役令嬢のくせに、なんでこんなに優しいの!? もしかして、私を油断させてから公開処刑するつもり!?)
(だとしたら、これって……逆転無双イベントのフラグよね!? 許さないわ、悪役令嬢! あなたの「罠」を利用して、私が真のヒロインになってやるんだから!)
マリアの瞳に、謎の対抗心が燃え上がる。
(……なんか、めちゃくちゃ睨まれてるんだけど。私、何か失礼なこと言ったかしら?)
リゼット、計算外。
善意(という名の損切り)が、相手には「宣戦布告」と受け取られたことに、まだ気づいていなかった。
隠居を夢見る不労所得令嬢 vs SNS脳の勘違いヒロイン。
運命の歯車は、リゼットが思ってもみない方向に回り始めていた。
次回予告
「一番地味なドレスを用意して。マリアちゃんを引き立てなきゃ(これで作戦成功ね!)」
「(……リゼット様、あえて地味な服で私の派手さを際立たせるつもり!? なんて巧妙な罠なの!)」
「リゼット、君は……自分を犠牲にしてまで彼女を輝かせようというのか(感涙)」
「……は? 殿下、眼科行きます?」
次回、第5話「善意が完全に裏目に出る舞踏会」
なんで私の株価だけがストップ高(高騰)し続けてるんですの!?
いつも通りの退屈な朝、クラス中に期待と好奇心の混じったざわめきが広がっていた。
(……ついに、この日が来たわね)
私は窓際の特等席で、プラチナブロンドの髪を指で遊びながら、教室の扉を凝視していた。
乙女ゲーム『聖女マリアの恋愛革命』。その物語が本当の意味で動き出す、ヒロインの転入イベント当日だ。
扉が開き、担任の教師と共に一人の少女が入ってきた。
「今日からこのクラスに加わる、マリア・ローゼンタール嬢だ」
ピンクブロンドのふわふわした髪に、丸い瞳。まさに「守ってあげたい」を体現したような、愛くるしい美少女。
マリアは教壇に立つと、貴族の子弟ばかりが並ぶ教室で、あろうことか満面の笑みで「ピースサイン」を作ってみせた。
「マリアです! 平民出身でわからないことだらけですけど、よろしくお願いしますっ☆」
教室の空気が、一瞬で凍りついた。
貴族令嬢Aが扇子を広げてヒソヒソと囁き、男子生徒たちは呆気にとられている。
(……ピース? 貴族の前でピース? マナーとかいう概念、彼女の辞書には存在しないのかしら)
私は頬杖をつき、脳内の計算機を高速で弾いた。
【分析ターゲット:マリア・ローゼンタール】
・特徴:明るい、社交的、KY(空気読めない)
・推定:転生者。しかも、承認欲求モンスターな「SNS脳」の持ち主。
・資産価値:婚約破棄を加速させる「起爆剤(ブースター)」
(よし、期待値は高いわ。彼女が王子を攻略してくれれば、私のエグジット戦略は九割方成功したも同然よ)
昼休み。学園の大階段にて。
さっそく「お約束」のイベントが発生した。
「きゃっ!」
わざとらしい悲鳴。マリアが階段で足をもつれさせ、スローモーションのように宙に浮く。
「危ない!」
そこへ颯爽と現れたのは、黄金の髪をなびかせた我が婚約者、アルフォンス王子。
彼は完璧なタイミングでマリアを抱きとめ、見つめ合った。
「……大丈夫かい、マリア嬢」
「まあ、王子様……! 私、運命を感じちゃいますわ♡」
(……運命(笑)。お前、BL漫画のヒロインか。それとも一昔前のトレンディドラマのパクリ?)
私は柱の陰から、ポップコーンでも食べたい気分でその様子を観賞していた。
周囲の貴族たちは「下品な」「王子に馴れ馴れしい」と冷ややかな視線を送っているが、私だけは心の中でスタンディングオベーションを送っていた。
(いいぞ、マリア! そのまま王子のハートをバイアウトしてちょうだい! 私は全力でその買収工作を支援(アシスト)するわ!)
放課後。私は一人でいたマリアに接触した。
「マリア様、ご転入おめでとうございます。素晴らしい光魔法をお持ちだとか。お会いできて光栄ですわ」
私は「微笑みの聖女」の仮面を完璧に被り、マリアの手を優しく包み込んだ。
(さあ、まずは友好関係を築いて、王子の情報をリークしてあげましょうか。好みのタイプとか、弱点とか、全部教えてあげるわよ)
マリアは一瞬、警戒するように私を見たが、私の「完璧な笑顔」に絆されたのか、顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます……! リゼット様って、本当に優しいんですね」
(違うわよ、計算よ。情けは人のためならず、巡り巡って私の不労所得になるのよ)
「来週、学園の親睦舞踏会がありますの。ぜひ、アルフォンス殿下のエスコートでお越しになったらいかがかしら? 私、殿下には『彼女にマナーを教えてあげて』と頼んでおきますわ」
(これで舞踏会の主役は彼女。私はフェードアウト。完璧なチャートね)
一方、マリアの内心。
(リゼット……悪役令嬢のくせに、なんでこんなに優しいの!? もしかして、私を油断させてから公開処刑するつもり!?)
(だとしたら、これって……逆転無双イベントのフラグよね!? 許さないわ、悪役令嬢! あなたの「罠」を利用して、私が真のヒロインになってやるんだから!)
マリアの瞳に、謎の対抗心が燃え上がる。
(……なんか、めちゃくちゃ睨まれてるんだけど。私、何か失礼なこと言ったかしら?)
リゼット、計算外。
善意(という名の損切り)が、相手には「宣戦布告」と受け取られたことに、まだ気づいていなかった。
隠居を夢見る不労所得令嬢 vs SNS脳の勘違いヒロイン。
運命の歯車は、リゼットが思ってもみない方向に回り始めていた。
次回予告
「一番地味なドレスを用意して。マリアちゃんを引き立てなきゃ(これで作戦成功ね!)」
「(……リゼット様、あえて地味な服で私の派手さを際立たせるつもり!? なんて巧妙な罠なの!)」
「リゼット、君は……自分を犠牲にしてまで彼女を輝かせようというのか(感涙)」
「……は? 殿下、眼科行きます?」
次回、第5話「善意が完全に裏目に出る舞踏会」
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