ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第3話 前世スキルが裏目に出る件

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王宮、謁見の間。
重厚な扉が開かれた先には、この国の頂点に立つ面々が揃い踏みしていた。
中央には威厳を湛えた国王。その脇を固めるのは、狸のような目をした宰相と、眉間に深い皺を刻んだ財務大臣だ。

(……うわぁ、圧がすごい。前世で役員会議に呼び出された時と同じ、あの「逃げ場のない」空気感だわ)
私は心の中で盛大に溜息をつきながらも、表面上は一ミリの乱れもない完璧な淑女の礼を捧げた。
翡翠色の瞳を伏せ、儚げに微笑む。

「エルデンバッハ公爵家が長女、リゼットにございます。陛下、お招きいただき光栄の至りに存じますわ」
(はい、定型文。ここまでは期待値通りの動き。さっさと終わらせて、帰りに高級スイーツでも買って帰りたい)

「面を上げよ、リゼット嬢。アルフォンスから聞いたぞ。君は我が国の財政を深く案じているそうだな」
国王の言葉に、隣の財務大臣が鼻を鳴らす。
「陛下、いくら公爵令嬢とはいえ、十七の小娘に何がわかるというのです。財政は遊びではないのですよ」

(よしきた! 大臣、いいぞ! その調子で私を「無知な小娘」扱いして追い出してくれ!)
私は心の中でガッツポーズをしながら、あえて困惑したような顔を作ってみせた。
「財務大臣様のおっしゃる通りですわ。私のような者が口を出すなど……。ただ、噴水の維持費を計算しただけで、陛下のご不興を買うつもりはございませんでした」

(そうだ。私はただの、ちょっと計算が得意なだけの「守銭奴令嬢」だ。さあ、早く帰宅許可証を!)
だが、国王は楽しげに目を細めた。
「いや、遠慮はいらぬ。リゼット嬢。単刀直入に聞こう。我が国の慢性的的な財政赤字、君ならどう見る?」

(……は? 直球すぎるだろ。コンサル料も発生してないのに、国家機密級の相談をするなよ)
私は脳内の計算機を弾いた。

【試算:真面目に答えた場合のリスク】 
・責任の増大:一〇〇% 
・プライベート時間の消失:一〇〇% 
・国王からの寵愛(呪い):一〇〇%

【試算:適当に答えて逃げる場合】 
・無能のレッテル:GET 
・婚約破棄への近道:GET 
・自由な時間:無限大

(結論は出たわね。よし、適当に「教科書のパクリ」でも言って、がっかりさせてやりましょう)
私は「表の顔」で少し考え込むふりをしてから、口を開いた。
「おそれながら……。今の王国の財政は、入り口(税収)を増やすことばかりに執着し、出口(支出)の最適化がなされていないように見受けられますわ」

「出口の最適化……だと?」
「ええ。例えば、輸入品にかける関税を一律五%引き下げてはいかがかしら? そうすれば物価が下がり、民の消費が促進されます。結果として、取引件数が増えて全体の税収は上がるはずですわ(あ、これマクロ経済学の初歩だわ)」

財務大臣が目を見開く。
「関税を……下げるだと!? それでは目先の収入が減るではないか!」

(そうそう、その反応! 反対して! 私を追い出して!)
「加えて、王国の特産品である『魔光絹』。これをただ売るのではなく、王家公認の『ブランド品』として管理し、付加価値をつけて他国に高く売るのですわ。中身は同じでも、パッケージとストーリーを変えれば、価格は一・五倍に跳ね上がります(マーケティング論の基本ね)」

私はわざと、いかにも「夢見がちな少女」らしいふわふわした笑顔を付け加えた。
「あら、私ったら……。前世で読んだ……じゃなくて、本で読んだ空想を語ってしまいましたわ。お恥ずかしい」

(よし。これで『現実味のない理想論を語る痛い令嬢』認定完了。さあ、門まで送ってちょうだい!)
だが、謁見の間を支配したのは、静寂だった。

財務大臣が震える手で資料をめくり、宰相が顎に手を当てて唸っている。
そして国王が、玉座から身を乗り出した。
「……素晴らしい。関税による需要喚起と、付加価値による貿易黒字の拡大……。まさにコロンブスの卵だ」

(えっ?この世界にもコロンブスがって……いやいや私、驚くのはそこじゃない!)
「特にブランド戦略……! 我が国は今まで、質の良さに甘えて『売り方』を疎かにしていた。リゼット嬢、君は天才か!?」

(待って。それ、今の日本の常識だっての。この世界、経済学のレベル低すぎない!?)

「陛下! この案、すぐにでも試験導入すべきです!」
財務大臣が、先ほどまでの態度を一変させて叫んだ。
「リゼット様、ぜひ定期的に財務省へお越しいただきたい! あなたの知見は王国にとって……いや、歴史にとっての至宝です!」

(嫌だ! 行きたくない! 私は都内のマンションでフェラーリのエンジン音を聞きながら、チャートを見ていたいだけなのよ!)
「よし、決まりだ。リゼット嬢。君を『王国経済顧問特別補佐』に任命する。週に一度、城へ来てもらうぞ」
(仕事、増えたあああああああ!!)
私は絶望の淵に立たされた。

「……光栄ですわ(〇ね)」
完璧な淑女の微笑みを浮かべながら、私は心の中で血の涙を流した。



一週間後。
閣議で私の提案が採用され、王国中に号外が配られた。
『若き賢者、王国を救う経済改革を提言!』
(やめろ。目立ちたくない。目立つと責任が降ってくるって、前世で学んだだろ!)

自室のベッドで枕に顔を埋めていると、ソフィが楽しげに入ってきた。
「お嬢様! またまた素晴らしい噂ですよ! 来月、学園に平民出身の転校生が来るそうです!」

「転校生……?」
私は枕から顔を上げた。

「ええ。なんでも、平民でありながら稀有な光魔法を使える少女だとか。国王陛下も注目されているそうですよ」
(……キタ。ついに来たわね)

【分析:ターゲット出現】 
・名称:マリア・ローゼンタール(予定) 
・役割:ゲーム『聖女マリアの恋愛革命』の主人公 
・期待される効果:王子の好感度を根こそぎ奪い、私を婚約破棄(自由)へと導く

私は翡翠色の瞳を爛々と輝かせ、不敵な笑みを浮かべた。
「そう……。マリアちゃん、ね。待っていたわよ」
(よし。この子に王子を押し付けて、私は今度こそ隠居生活を手に入れる。これが私の……最終的なエグジット戦略よ!)
隠居を夢見る不遇の天才(ネットワーカー)、リゼット。
ついに現れる「ゲームの主人公」を前に、彼女の脳内計算機が、勝利へのルートを叩き出し始めた。
 
次回予告
「あ、あなたがマリア様? 素敵ですわ! ぜひ王子と仲良くしてさしあげて!(さあ奪え、この束縛男を!)」 「(……リゼット様、なんでこんなに目が笑ってるの? 罠?)」 「運命を感じますわ(笑)。……お前、SNSのフォロワー増やすノリで王子に近づいてるだろ」
次回、第4話「ヒロイン登場、そして運命の歯車が狂い始める」
計算通りなら、ここで私の自由は確定するはずですわ!
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