ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第10話 義妹ちゃんはブラコン……ならぬシスコン

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「お姉様、お会いしたかったですわ!」
私の部屋の扉を勢いよく開けて飛び込んできたのは、十歳の天使――シャルロット王女だ。

彼女は「完璧な王女」という、この国で最もブラックな部署に配属された期待の新人、といった趣である。 その小さな肩には、教育係たちが詰め込んだ過剰なノルマ(期待)がずっしりと乗っかっていた。
(……あー。この、全科目トップを目指して目が血走っている感じ。前世で入社三ヶ月目、トイレの鏡で自分の顔を見て絶望していた新人の子を思い出すわね)

私はソファに深く沈み込みながら、翡翠色の瞳をシャルロットに向けた。
「あら、シャルロット様。……お姉様、とは。まだ私は正式な家族ではございませんわよ?」
(……これ重要。外堀を埋められる前に、適切な距離感(ディスタンス)を保っておかないと)
「だって、お兄様の婚約者様ですもの! それに、お姉様は私の憧れなんです!」

シャルロットは私の隣にちょこんと座り、キラキラした瞳でこちらを見つめてくる。
「お姉様は頭がよくて、美しくて、謙虚で……。私も、お姉様みたいに完璧にならなきゃって、毎日頑張っているんですの」

(……出たわよ、完璧主義。一番効率が悪くて、一番メンタルをやられるやつ。前世で学んだ一番の教訓は『完璧より完了(Done is better than perfect)』なのに)

私は小さく溜息をつき、クッキーを一口かじった。
「シャルロット様。……完璧なんて、目指すだけコストの無駄ですわよ」
「えっ……? でも、王女は完璧でなければならないって、先生たちが……」
「そんなの、他人の勝手な期待値(KPI)ですわ。一〇〇点を目指して疲弊するより、八〇点で安定して継続する方が、長期的なリターンは大きいんです。……私なんて、毎日いかにサボるかしか考えておりませんわよ?」
(……これ、ガチの本音。一日中パジャマで仮想通貨のチャートを見ていたい)
「お姉様が、サボる……?」
「ええ。サボることは、次の仕事を効率化するための『戦略的休息』ですわ。……いいですか? 期待に応えすぎてはいけません。期待値を適度にコントロールして、自分の時間を守る。それが、賢い生き方ですわよ」
(……よし、これで彼女も少しは肩の力が抜けるはず。私の『教育係』としてのタスクも、これで終了ね)



だが、ただダラダラしているだけでは、シャルロットが「暇すぎて勉強に戻りたい」と言い出すリスクがある。 私は一刻も長く、彼女をこちらの「怠惰の沼」に引き留めておかなければならない。

(……何か、頭を使わずに時間を溶かせるコンテンツは……あ、あれがあったわね)
私は机の引き出しから、自作のカード束を取り出した。 もともとは、魔法通信のネットワーク経路(パケット)の優先順位をシミュレーションするために、前世のトレーディングカードゲームの知識を流用して作ったものだ。

「シャルロット様。……息抜きに、カードゲームでもしませんか?」
「カードゲーム? 遊びですの?」
「ええ、遊びですわ。……でも、少しだけ頭を使いますのよ」

私は、カードをテーブルに並べた。 基本ルールはシンプルだ。魔力コストを計算し、相手の出方を読み、確率的に最も期待値の高い一手を打つ。
「お姉様、このカードはどう使うんですか?」
「それは、相手の場に『反撃の罠』がある確率を計算してから出すんです。……いいですか、シャルロット様。勝負とは、一〇〇%の勝利を目指すものではありません。リスクを分散し、五一%以上の勝算がある勝負を淡々と繰り返す。それが、真の勝利へのライン取りですわ」
(……これ、投資の基本。感情を殺して、数字だけを見るのよ)

一時間後。
「……お姉様! 私、勝ちましたわ!」
「……あら、本当。お見事ですわ(手加減するつもりが、普通に負けたわね。流石、王家の血筋か)」
シャルロットは、今まで見たこともないような満面の笑顔で、私の手にしがみついてきた。

「楽しい……! お姉様、勉強よりずっと楽しいですわ! 自分で考えて、リスクを取って、道を開く。……私、初めて『自分の頭で考えている』感じがします!」
(……え、違う。私はただ、時間を潰すための暇つぶしを提供しただけよ。ソーシャルゲームと同じ心理よ)
「私、お姉様のこと……世界で一番尊敬しますわ! お兄様なんかより、ずっとずっと大好きです!」
(……あ、やばい。これ、ブラコンをシスコンに上書き(リライト)しちゃったかしら)



一ヶ月後。
私は自室で、魔法通信のサーバー増強計画を練っていた。 そこへ、ソフィが血相を変えて飛び込んできた。

「お嬢様!! 大変です!!」
「……何? サーバーがダウンしたの?」
「違います! シャルロット様の成績が、全科目で飛躍的に向上したと王宮中で噂になっておりますわ!!」
(……は?)
「数学は九八点、戦略学は九五点、外交学は九二点! 家庭教師の先生たちが、『王女殿下の論理的思考力が覚醒した』と涙を流して喜んでおられます!」

(……え、あのカードゲーム、そんなに効いたの?)

「シャルロット様は仰いました。『全てはお姉様のおかげ。お姉様が、楽しく考えることを教えてくれた』と! 今や王妃様も、『リゼット様は教育者としても天才だわ』と大絶賛です!」
(……なああああああああああにいいいいいいいいいい!!)
私の脳内計算機が、エラーメッセージを吐き出しながらフリーズした。

【解析:リゼットの現状】 
・シャルロット:重度のシスコンへ進化 
・カードゲーム:国家公認の「戦略学教材」へ昇格の予感 
・リゼットへの評価:王国の次代を育てる「教育の聖女」へ神格化

(……なんで! なんでサボらせるための遊びが、英才教育になるのよ!)

「お嬢様! 国王陛下より、『シャルロットの教育方針について詳しく聞きたい。明日、城へ来い』との伝令が!」
(……仕事、増えたあああああああ!!)
私は、ソファに突っ伏して叫んだ。
「〇ね! いや、私が〇にたい! なんで私のエグジット戦略は、一歩進むごとにデッドエンドに向かっていくのよ……!!」

不労所得で隠居したいネットワーカー、リゼット。 義妹をサボり仲間に誘ったつもりが、王国最強の「頭脳」を育成してしまい、自分も教育アドバイザーとして拉致される。
隠居への道は、もはや銀河系の彼方まで遠ざかっていた。
 
次回予告
「シャルロット、おめでとう。全国大会で優勝だね」 
「(……え、あれ学園だけで遊ぶ用だったよね? なんで全国大会とか開かれてるの?)」 
「リゼット様、ぜひこのカードゲームを全土の子供たちに! 著作権料(ロイヤリティ)はたっぷりお支払いします!」 
「(……不労所得は欲しいけど、プロモーションの仕事はしたくないんですのよ!!)」

次回、第11話「義妹育成が大成功(したくなかった)」
私の隠居生活、期待値が再びゼロになりましたわ!
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