ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ

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第22話 成人の儀、決行

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王都、セント・エルデン大聖堂。
今日、この場所は「一人の令嬢の成人祝い」という名目を超え、王国最大の「上場記念セレモニー」と化していた。
見渡す限りの群衆。広場を埋め尽くす市民たちの熱気。 そして、建物の至る所に設置された大型の魔導スクリーンには、私の姿がリアルタイムで投影されている。

(……最悪だわ。……前世のIT企業の上場初日だって、ここまで派手なパブリック・リレーションズ(広報)はしなかったわよ。……私の顔面が、解像度四K(魔法的表現)で全国にストリーミング(放送)されるなんて、公開処刑以外の何物でもないじゃない)

私は、純白のドレスに身を包み、重厚な扉の前に立っていた。 この扉が開けば、私は「リゼット・フォン・エルデンバッハ」という名の優良銘柄として、正式に王家という巨大持ち株会社に組み込まれることになる。

(……だが、甘いわよ、アルフォンス殿下。……そしてこの世界の『シナリオ』とやら。……投資家たるもの、常に『バックアップ・プラン』を用意しておくのは常識よ)
私は、ブーケの中に隠した自作の超小型魔導端末を、指先で密かに操作した。

【実行ファイル:Exit_Project_Alpha.exe】 
・目標:成人の儀の最中に、私の魔力反応を「完全消失(デタッチ)」させる。 
・手法:魔法通信ネットワークのノイズを逆利用し、私の存在をデジタル的な砂嵐(ノイズ)の中に隠蔽。 
・結果:聖女の失踪。……あわよくば『神に召された』的な演出で、戸籍ごと抹消。

(……これこそが、私の究極のエグジット戦略(出口戦略)。……地位も、名誉も、このクソ重いドレスも全部置いて、私は不労所得と共に、隣国の静かな港町へ高飛び(スピンオフ)するのよ!)

「成人の儀、開始! リゼット・フォン・エルデンバッハ嬢、入室!」
重厚な扉が左右に開かれた。 パイプオルガンの荘厳な旋律が、私の鼓膜を震わせる。
私は、完璧な「聖女」の無表情(ポーカーフェイス)を維持しながら、長いバージンロードを歩き出した。

(……一歩歩くごとに、私の時価総額が上がっていくのを感じるわ。……沿道の貴族たちの目が、まるで金の卵を産むガチョウを見るような欲望に満ちている。……いいわよ、今のうちに買い注文を入れておきなさい。……一分後に、この銘柄は『上場廃止』になるんだから!)

最奥の檀上では、アルフォンス王子が、もはや「崇拝」という名の重力に耐えかねたような、熱い眼差しで私を待っていた。
「リゼット……。ついに、この日が来たね」
アルフォンスが、私の手を取る。 その手の熱さは、一生離さないという「終身契約」の重みそのものだった。

「君はこの一年、数々の奇跡を起こし、この国を救ってくれた。……だから、私は父上と相談して、今日この場で、君に相応しい『贈り物』を用意したんだ」

(……贈り物? ……あー、シャルロットちゃんが言ってたサプライズね。……どうせ『リゼット様基金』とか、そんな不採算な公共事業でしょ?)

アルフォンスは、会場全体に響き渡る声で宣言した。
「本日、この成人の儀をもって、リゼット・フォン・エルデンバッハを――我が国の『初代・最高魔導通信総監』に任命する! ……そして、王立学園を改組し、彼女を学長とする『リゼット平和工学大学』を設立する!!」
会場が、割れんばかりの歓声に包まれた。

(……〇ね。……いや、マジで一回〇んで。……なんだそれ、サプライズどころか『全責任の押し付け(丸投げ)』じゃない! ……魔導通信の総監!? ……つまり、この国のネットワークインフラの全責任を私に背負わせる気!?)

【解析:アルフォンスの提案】 
・役職:最高責任者(CEO兼CTO)。 
・労働条件:年中無休、二四時間監視体制。 
・社会的地位:もはや王族以上の権力(という名の足枷)。

(……冗談じゃないわ! ……そんなブラックな役職、私のホワイト隠居プランの対極にあるものよ! ……今よ! 実行ボタン(エンターキー)、押してやるわ!!)

私は、ブーケの中の端末を強く押し込んだ。

(さらば、ブラック王宮! ……私は自由なパケットになって、光の速さで逃げ切って……!)
キュィィィィィィィィン……!!
突如、大聖堂の空気が激しく振動した。 私のドレスから放たれる青白い光が、周囲の魔導スクリーンをジャックし、ノイズを撒き散らす。

(……よし、計画通り(プラン・アズ・インテンデッド)! ……これで私の魔力サインは攪乱され、転送魔法で一気に――)

だが。
画面に映し出されたのは、砂嵐ではなかった。
そこには、私が今まで密かに構築してきた魔法通信ネットワークの「基盤(ソースコード)」が、幾何学的な曼荼羅(まんだら)のような美しさで、王都の夜空に巨大なホログラムとして展開されていたのだ。

「……な、なんだ、あの美しい光は!?」 「見て! リゼット様から、光の翼が広がっているわ!」
(……は? ……翼? ……ちょっと待って、私、そんなエフェクト設定(プログラミング)してないわよ!?)
私の逃走用ノイズ(スクリプト)は、皮肉にも、大聖堂の地下に眠る古代遺跡のサーバーと「同期(シンクロ)」してしまったらしい。

画面には、巨大な文字が浮かび上がる。
『SYSTEM UPDATE: COMPLETE.』 『NEW ADMIN REGISTERED: RISETTE VON ERDENBACH.』 『GLOBAL NETWORK: ONLINE.』
「おお……! 女神様だ……! リゼット様が、この世界に『真の導き』をもたらしてくださった!!」
人々が、一斉にその場に跪き、祈り始めた。

(……違う。……違うのよ。……私はただ、逃げようとしただけなの。……なんで『世界の管理者(管理者権限)』に昇格しちゃってるのよ!!)

アルフォンスが、涙を流しながら私の前に跪いた。
「リゼット……。君は、自分の栄光のためにではなく、世界を繋ぐためにその力を……。……ああ、私は君を、ただの妃として閉じ込めようとしていた自分の矮小さを恥じるよ」

(……え、じゃあ婚約破棄してくれるの!?)

「君はもう、王宮の人間ではない。……この世界の『守護神』だ。……リゼット、君が行く道は、私たちが全力で舗装(サポート)する。……さあ、君の新しい世界(システム)を、私たちに見せてくれ!!」

(……舗装しなくていい。……サポートもいらない。……というか、守護神って何よ、それ。……二四時間三六五日、世界のバグ取りをさせられるってこと!?)

マリアちゃんが、私の足元にすがりついて叫ぶ。
「リゼット様……! 最高のバズり……いえ、最高のご降臨ですわ!! 私、一生あなたという名の『神回』を、語り継いでいきますわ!!」

【解析:リゼットの現状】 
・エグジット戦略:大失敗(むしろ全株式の九九%を強制保有)。 
・社会的地位:人間を辞めて『概念(システム)』へ。 
・隠居への距離:並行世界レベルで不可能に。

(……計算ミス。……人生最大にして、取り返しのつかない……計算ミス……)

私は、天を仰いだ。 そこには、私が作り上げた魔法通信の光の糸が、世界を、人々を、そして私の逃げ場を、一分の隙もなく繋ぎ止めていた。
不労所得で隠居したいネットワーカー、リゼット。 逃走を試みた結果、世界のバックエンド(創造主代行)として固定され、永遠のメンテナンス作業に従事することが確定した瞬間だった。

(……〇ね。……いや、誰でもいいから、この世界を『初期化(リセット)』してえええええええ!!)
 



エピローグ
数年後。
平和な港町の片隅。 そこには、最高級のハンモックに揺られながら、空中ウィンドウで株価と魔法通信のトラフィックを監視する、一人の女性の姿があった。

「お姉様、またサーバーに負荷がかかっていますわ! 隣国のユーザーが増えすぎて……!」 「リゼット様! 魔法SNSで、あなたの新作レシピがまた爆速で拡散されています!」
「……うるさいわね。……今、私は『戦略的サボり』の最中なんだから。……メンテナンスはオートメーション(自動化)しておいたわ。……あ、それと。……そのレシピ、有料化しておいて頂戴。……不労所得(配当金)が足りないと、私の隠居生活が危ういんだから」

不遇の天才、リゼット。 彼女は今も、世界という名の巨大なシステムをデバッグしながら、虎視眈々と「真の休暇」という名のセキュリティホールを探し続けている。

(……見ていなさい。……いつか必ず、私はこの世界を自動化(スクリプト化)して、完全なる『隠居』を手に入れてみせるわ……!)

彼女の戦い(と勘違い)は、これからも続いていく――パケットが途切れない限り。
【完】
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