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第7話 水宮さんと水族館デート②
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水族館までは、バスに乗って一時間三十分程度。
小鞠がバスの中で俺にちょっかいをかけてきて、小競り合いをしているうちにあっという間に水族館に着いた——
水族館は思いのほか混んでいた。
小鞠 「結構混んでいるね………」
凪 「まぁ、土曜日だからこんなものだろ」
人混みを歩きながら、二人で水族館の入場口まで歩く。
小鞠 「ねぇねぇ、なぎっ、水族館の前で記念写真撮ろうよ!」
凪 「えー、お前女優だってバレるよ?」
小鞠 「大丈夫大丈夫っ、サングラスしてるし」
凪 「まぁ、小鞠が良いならいいけど」
水族館の前には可愛いイルカの看板があった。
小鞠 「なぎ~可愛いから、ここで撮ろうよ~!!」こんなキラキラしている、小鞠見たことないぞ………
(やばい、騙されて好きになりそう……)
「もうちょっと、近くに寄ってよ、なぎっ!」
少しだけ、照れくさいな。小鞠が、俺に腕を絡めて、顔を寄せて来る。
通り過ぎる人たちが、みんなチラチラと見てくる。
凪 「ちょっ……やっぱ無理っ!」
バッと勢いよく小鞠から距離をとり、息を切らせて赤面する。
(やっぱり、いざとなって、人の前で写真を撮るとなるとキツイな)
「あのぉ、もし宜しければ、写真撮りましょうか?」近くに通りかかった、カップルの女性の方が声をかけてくる。
凪 「あっあの……だっ大丈……」
小鞠 「ぜひとも、お願いしますっ!!」
彼氏 「翔子、俺自販機で飲み物買ってくるわぁ~」
彼女 「オッケー、分かった」
彼氏さんの方は俺たちに、気を遣ってか、飲み物を買いに離れた。
それにしても、全く。小鞠ときたら、調子のいい奴だ。しょうがない、こうなったら諦めて撮られてやるか。
「じゃあ撮りますよ~笑って笑って~!!」
(…………)
「なぎ、顔が硬いよ?ほら笑わないと!!」
小鞠が俺のほっぺを横から両手で無理に引っ張って、笑わせようとしてくる。
パシャッ。
「あっごめんなさいっ💦彼氏さんの方がちょっと変な顔に……」「もう一回、撮り直しましょうか?」撮った写真がよっぽど酷かったのか、気を遣って、もう一枚撮り直すか提案してくる。小鞠は撮ってもらった写真を見て爆笑した。
小鞠 「いやっ大丈夫です、こういう写真が撮りたかったんですよっwあと元から彼、変な顔なんでっ(笑)」
(おいっ、しれっと俺の悪口を言うな。泣くぞ)
「そうですか、じゃあ一応彼氏さんにも確認してもらって」俺の方を女性が心配そうに見てくる。小鞠の横からひょいと顔を出して覗いてみると———
写真の中の俺は、無理やりほっぺを引っ張られて、歪んだキモ顔になっていた。
(俺、酷い顔だな……)
凪は昔から写真写りが異常なほど悪いが、小鞠に無理やりほっぺを引っ張られて余計に悪化している。(まぁ、とにかく小鞠が満足したなら、いいだろう)
凪 「ありがとうございます、助かりました」
小鞠 「すみません、お名前だけ教えていただけませんか?何かお礼させてください」
彼女さん
「あら、あら、別にそんなこと気にしなくていいのよ~」
小鞠が悲しそうな顔でじっと見ているので、根負けしたのか。「まぁ、名前くらいなら」と話し始める。
翔子 「さっき聞こえたと思うけど、翔子って言います。お礼はしなくていいわよ~」
その時ちょうど、翔子さんのチャラそうな彼氏さんが戻ってくる。
彼氏 「おーい、みんな!飲み物買ってきたぞぉ~」
手には、四本の缶を抱えており、明らかに俺たちの分も含まれている。
翔子 「そして、私の彼氏の………」
潤一
「初めまして、俺は潤一。一応翔子の彼氏っ!」
翔子 「ちょっと潤一!!一応じゃないでしょ」
潤一
「冗談だよ、冗談っ。今日は女同士で、デートか~楽しめよぉ~!!」
凪 「俺は、男ですっ!!」
潤一 「な~んだ、男だったんだ、てっきり顔が綺麗だから、女かと思ったよ」
凪 「………」
潤一 「ごめんな~可愛い兄ちゃんっw」
凪 「可愛くなんか、ありませんっ!!」
潤一 「あと、これっ。お前たちにも、お裾分けっ!」
そう言って、ポカリの缶をぽいっと渡してくる。潤一さんは、ニヤッと笑って、俺の耳元で囁く、
「初めてのデート頑張れよっ!!」
凪 「………!!どうして、知ってるんですか!?」
潤一 「それは、お前たちの反応を見れば大体分かるよ、まぁ俺も、初めての時はドキドキだったからなぁ~」
凪 「潤一さんも?」
潤一 「そりゃあなっ。おっと、翔子には黙っといてくれよ?ちょっとは、カッコつけたいしな」
凪 「分かりました………」
潤一 「そんな可愛い後輩くんに、デートを成功させるとっておきの秘訣を教えてあげよう」
凪 「本当ですかっ!!」
潤一 「あぁ、もちろん。秘訣はなぁ、彼女のほっぺに………ゴニョゴニョ」
ブワッと凪の顔が赤くなっていく。
凪 「そっそんなこと、俺にはできるわけないじゃないですか……」
普通の人が、到底できないような高等テクニックを俺に教えてくるということは、潤一さんは多分相当女性慣れしているのだろう。(すごいな…)
向こう側では、小鞠と翔子さんが楽しそうに会話している。
翔子
「いいわね、彼氏さんかっこいいもんねえ~、いきなり声をかけてごめんなさいね、つい昔の、私たちと似たカップルがいたものだから、口出ししたくなっちゃったわ~水族館デートお互い楽しみましょうね~」
なんて模範的なカップルなんだ。
(世界のカップルはみんな翔子さんたちを見習うべきだと俺は思う)
翔子 「じゃあ、またどこかでね~」
潤一 「またなぁ~坊主たちっ!」
二人は手を振って、水族館の中に消えて行った。凪と小鞠もゆっくりと中に入って行く。
◇ ◇ ◇
小鞠 「わぁ~凄いっ………」
水族館の中は薄暗く、青以外の色は瞳に映らない。俺たちはその美しさに見惚れ、ただ、ただ、口を半開きにするしかなかった。
気がつくと、いつの間にか小鞠は、サングラスを取っていた。小声で小鞠に注意する。
凪
「小鞠っ、サングラスっ、サングラス!取ったらダメだろっ?」
小鞠 「大丈夫だよ…薄暗くてよく見えないし」
(おい、おいおいっ、次問題起こしたら、俺退学なんだけど……俺の事情も知らないで、この女優は随分と呑気なもんだ)
ふと、小鞠の顔を覗き込むと、
シュッとした顔、通った鼻筋、ぱっちりと開いた大きな目。
小鞠の顔に、正面の水槽の水の揺らぎが反射してなんだか、とても……
凪 「綺麗だな……」
小鞠 「そうだよね、すっごく綺麗だよね」
小鞠がこっちを見て返してくる。
(いや、俺が綺麗だと言ったのは………)
小鞠 「どうしたの?急に見つめてきて……?」
「ん~~~?」
ニヤニヤしながら俺の顔を覗いてくる。
凪 「あっ?別に見つめてないけど」
小鞠 「恥ずかしがっちゃってぇ~なぎったら可愛いなぁ~」
(なんで、女子に俺が可愛いって言われなくちゃならないんだろう)
凪 「あぁ、もうっいいから先行くぞっ」
小鞠 「はい、はい…」
先をゆく俺の隣を小鞠が、笑顔で並んで歩く。
緊張で手を大振りに振って歩いていると、小鞠と手と手がぶつかった。
ビクンッ
二人とも同時に肩を揺らす。
手から汗が滲み出してきた。(大丈夫、大丈夫。ただの幼馴染、俺の隣にいるのはただの幼馴染)
自分に何度も何度も言い聞かせる。
俺はあまりにも気恥ずかしくて、知らんぷりをすることにしたのだが———
俺たちの前からカップルがイチャイチャしながら手を繋いで歩いてくるではないか。
(こういう、気まずい時に……)
すぐ隣を、手を繋いでいるカップルが横切る。
小鞠はそのカップルをじーーっと眺め、横目で俺の方をチラチラと赤らんだ顔で伺うように見てくる。
(ちょっと、水宮さん?なんですか?その可愛い顔は?あなた、大女優ですよねっ!?周りはイケメン俳優ばっかりですよねっ!?俺なんてそもそも、眼中にありませんよねっ!?)
小鞠は、凪が依然として早足で、顔を全く見ようとしないのでガッカリしたようにため息をついた。その時———
小鞠 「…………っ!!」
《凪が、小鞠の手をがっしりと掴んでいた。》
凪 「迷子になったら、まずいだろ…」
小鞠 「う……うん」
(ごめんな、小鞠っ!!完全に今俺、調子に乗っている。許してくれ……)
心臓の高鳴りが止まらない。さっきも手を繋いだはずなのに、場所が違うだけで、こんなに変わるものなのか……?
一方その頃、小鞠も驚愕していた。
その手はいつもの凪と違い、頼もしく、父親と手を繋いでいるかのような暖かさを感じる。
水族館の中はさっきまで、薄暗かったはずなのに、いきなりキラキラとした照明が凪の上を照らす。凪の顔が、ものすごくよく見える。
小鞠はゴシゴシと目を擦るが、依然としてその光は消えなかった。
小鞠は、バスに乗る前に凪に手を握られた時のことを思い出す。あの時は、何も感じなかったが、今は違う。全く違う高揚感を感じて、胸の高鳴りが止まない。小鞠の視界はもう、完全に凪しか映らなくなっていた。
小鞠の小さな手が、凪の手を弱々しく握り返す。
(あれっ、小鞠……力弱くね?)凪が思っていた小鞠の手の握り方は、掴んだら離さないカブトムシのようなイメージだったが、全く違った。
自分から思い切って手を握ってみたものの、物凄く恥ずかしいし、緊張で吐きそうだ。
二人ともそっぽを向きながら、手を繋いで歩いていると、大きなエイの水槽の前に来る。
突然、小鞠の目が輝いたと思ったら、凪の手をさっきまでとは違う強い力で水槽の前まで、引っ張って行く。まるで、父親に好きなものを買ってもらおうと必死におもちゃコーナーまで引っ張る、子供のような引っ張り具合だった。
小鞠 「見て見て、なぎっ!!エイだよっ!!」
「エイっ!私が一番大好きな魚なんだぁ~!!」
幸せそうな小鞠を見て、凪もとても幸せな気持ちになる。
小鞠 「凪も近くで見てみなよっ!!」
凪 「おうっ!どれどれ、おぉ~エイって下に顔がついているんだなぁ~初めて知った!!」
凪は水槽の裏側にピッタリとくっついて、こっちを見ている可愛い顔の魚に夢中になっていた。
小鞠 「なぎっ、違うよwこれはねぇ~実は、鼻と口なんだよ?」
凪 「おぉ!!そうなのか初めて知った!!」
「小鞠は物知りなんだな?」
小鞠 「でしょっ、でしょっ!!」
「あとねっ、あとねっ、この口でね、カニとかエビとか貝を襲ってバリバリ食べるんだよ~すごいかっこいいでしょぉ~?」
「えっ……」凪は、この可愛い生物が、他の生き物をボリボリと食しているところを想像してゾワっとする。
小鞠 「あっ、ごめんもしかしてイメージ壊しちゃったっ!?」
凪 「大丈夫、大丈夫、まぁ驚いたけど、それでもまだ、可愛いと俺は思うよ……」
小鞠 「だよねぇ~ギャップ萌えだよねっ!!」
凪は、心の中で突っ込む。(いやっ、お前の方がギャップ萌えだよっ!!)
小鞠 「なぎっ!他の魚も見にいこっ!!」
小鞠はもう、とっくに緊張が解けたようで、気にせず俺の手をぐいぐいと引っ張っていた。
(全く、この女優ときたら、昔から……)
凪 「まぁ、いっか……」
小鞠がバスの中で俺にちょっかいをかけてきて、小競り合いをしているうちにあっという間に水族館に着いた——
水族館は思いのほか混んでいた。
小鞠 「結構混んでいるね………」
凪 「まぁ、土曜日だからこんなものだろ」
人混みを歩きながら、二人で水族館の入場口まで歩く。
小鞠 「ねぇねぇ、なぎっ、水族館の前で記念写真撮ろうよ!」
凪 「えー、お前女優だってバレるよ?」
小鞠 「大丈夫大丈夫っ、サングラスしてるし」
凪 「まぁ、小鞠が良いならいいけど」
水族館の前には可愛いイルカの看板があった。
小鞠 「なぎ~可愛いから、ここで撮ろうよ~!!」こんなキラキラしている、小鞠見たことないぞ………
(やばい、騙されて好きになりそう……)
「もうちょっと、近くに寄ってよ、なぎっ!」
少しだけ、照れくさいな。小鞠が、俺に腕を絡めて、顔を寄せて来る。
通り過ぎる人たちが、みんなチラチラと見てくる。
凪 「ちょっ……やっぱ無理っ!」
バッと勢いよく小鞠から距離をとり、息を切らせて赤面する。
(やっぱり、いざとなって、人の前で写真を撮るとなるとキツイな)
「あのぉ、もし宜しければ、写真撮りましょうか?」近くに通りかかった、カップルの女性の方が声をかけてくる。
凪 「あっあの……だっ大丈……」
小鞠 「ぜひとも、お願いしますっ!!」
彼氏 「翔子、俺自販機で飲み物買ってくるわぁ~」
彼女 「オッケー、分かった」
彼氏さんの方は俺たちに、気を遣ってか、飲み物を買いに離れた。
それにしても、全く。小鞠ときたら、調子のいい奴だ。しょうがない、こうなったら諦めて撮られてやるか。
「じゃあ撮りますよ~笑って笑って~!!」
(…………)
「なぎ、顔が硬いよ?ほら笑わないと!!」
小鞠が俺のほっぺを横から両手で無理に引っ張って、笑わせようとしてくる。
パシャッ。
「あっごめんなさいっ💦彼氏さんの方がちょっと変な顔に……」「もう一回、撮り直しましょうか?」撮った写真がよっぽど酷かったのか、気を遣って、もう一枚撮り直すか提案してくる。小鞠は撮ってもらった写真を見て爆笑した。
小鞠 「いやっ大丈夫です、こういう写真が撮りたかったんですよっwあと元から彼、変な顔なんでっ(笑)」
(おいっ、しれっと俺の悪口を言うな。泣くぞ)
「そうですか、じゃあ一応彼氏さんにも確認してもらって」俺の方を女性が心配そうに見てくる。小鞠の横からひょいと顔を出して覗いてみると———
写真の中の俺は、無理やりほっぺを引っ張られて、歪んだキモ顔になっていた。
(俺、酷い顔だな……)
凪は昔から写真写りが異常なほど悪いが、小鞠に無理やりほっぺを引っ張られて余計に悪化している。(まぁ、とにかく小鞠が満足したなら、いいだろう)
凪 「ありがとうございます、助かりました」
小鞠 「すみません、お名前だけ教えていただけませんか?何かお礼させてください」
彼女さん
「あら、あら、別にそんなこと気にしなくていいのよ~」
小鞠が悲しそうな顔でじっと見ているので、根負けしたのか。「まぁ、名前くらいなら」と話し始める。
翔子 「さっき聞こえたと思うけど、翔子って言います。お礼はしなくていいわよ~」
その時ちょうど、翔子さんのチャラそうな彼氏さんが戻ってくる。
彼氏 「おーい、みんな!飲み物買ってきたぞぉ~」
手には、四本の缶を抱えており、明らかに俺たちの分も含まれている。
翔子 「そして、私の彼氏の………」
潤一
「初めまして、俺は潤一。一応翔子の彼氏っ!」
翔子 「ちょっと潤一!!一応じゃないでしょ」
潤一
「冗談だよ、冗談っ。今日は女同士で、デートか~楽しめよぉ~!!」
凪 「俺は、男ですっ!!」
潤一 「な~んだ、男だったんだ、てっきり顔が綺麗だから、女かと思ったよ」
凪 「………」
潤一 「ごめんな~可愛い兄ちゃんっw」
凪 「可愛くなんか、ありませんっ!!」
潤一 「あと、これっ。お前たちにも、お裾分けっ!」
そう言って、ポカリの缶をぽいっと渡してくる。潤一さんは、ニヤッと笑って、俺の耳元で囁く、
「初めてのデート頑張れよっ!!」
凪 「………!!どうして、知ってるんですか!?」
潤一 「それは、お前たちの反応を見れば大体分かるよ、まぁ俺も、初めての時はドキドキだったからなぁ~」
凪 「潤一さんも?」
潤一 「そりゃあなっ。おっと、翔子には黙っといてくれよ?ちょっとは、カッコつけたいしな」
凪 「分かりました………」
潤一 「そんな可愛い後輩くんに、デートを成功させるとっておきの秘訣を教えてあげよう」
凪 「本当ですかっ!!」
潤一 「あぁ、もちろん。秘訣はなぁ、彼女のほっぺに………ゴニョゴニョ」
ブワッと凪の顔が赤くなっていく。
凪 「そっそんなこと、俺にはできるわけないじゃないですか……」
普通の人が、到底できないような高等テクニックを俺に教えてくるということは、潤一さんは多分相当女性慣れしているのだろう。(すごいな…)
向こう側では、小鞠と翔子さんが楽しそうに会話している。
翔子
「いいわね、彼氏さんかっこいいもんねえ~、いきなり声をかけてごめんなさいね、つい昔の、私たちと似たカップルがいたものだから、口出ししたくなっちゃったわ~水族館デートお互い楽しみましょうね~」
なんて模範的なカップルなんだ。
(世界のカップルはみんな翔子さんたちを見習うべきだと俺は思う)
翔子 「じゃあ、またどこかでね~」
潤一 「またなぁ~坊主たちっ!」
二人は手を振って、水族館の中に消えて行った。凪と小鞠もゆっくりと中に入って行く。
◇ ◇ ◇
小鞠 「わぁ~凄いっ………」
水族館の中は薄暗く、青以外の色は瞳に映らない。俺たちはその美しさに見惚れ、ただ、ただ、口を半開きにするしかなかった。
気がつくと、いつの間にか小鞠は、サングラスを取っていた。小声で小鞠に注意する。
凪
「小鞠っ、サングラスっ、サングラス!取ったらダメだろっ?」
小鞠 「大丈夫だよ…薄暗くてよく見えないし」
(おい、おいおいっ、次問題起こしたら、俺退学なんだけど……俺の事情も知らないで、この女優は随分と呑気なもんだ)
ふと、小鞠の顔を覗き込むと、
シュッとした顔、通った鼻筋、ぱっちりと開いた大きな目。
小鞠の顔に、正面の水槽の水の揺らぎが反射してなんだか、とても……
凪 「綺麗だな……」
小鞠 「そうだよね、すっごく綺麗だよね」
小鞠がこっちを見て返してくる。
(いや、俺が綺麗だと言ったのは………)
小鞠 「どうしたの?急に見つめてきて……?」
「ん~~~?」
ニヤニヤしながら俺の顔を覗いてくる。
凪 「あっ?別に見つめてないけど」
小鞠 「恥ずかしがっちゃってぇ~なぎったら可愛いなぁ~」
(なんで、女子に俺が可愛いって言われなくちゃならないんだろう)
凪 「あぁ、もうっいいから先行くぞっ」
小鞠 「はい、はい…」
先をゆく俺の隣を小鞠が、笑顔で並んで歩く。
緊張で手を大振りに振って歩いていると、小鞠と手と手がぶつかった。
ビクンッ
二人とも同時に肩を揺らす。
手から汗が滲み出してきた。(大丈夫、大丈夫。ただの幼馴染、俺の隣にいるのはただの幼馴染)
自分に何度も何度も言い聞かせる。
俺はあまりにも気恥ずかしくて、知らんぷりをすることにしたのだが———
俺たちの前からカップルがイチャイチャしながら手を繋いで歩いてくるではないか。
(こういう、気まずい時に……)
すぐ隣を、手を繋いでいるカップルが横切る。
小鞠はそのカップルをじーーっと眺め、横目で俺の方をチラチラと赤らんだ顔で伺うように見てくる。
(ちょっと、水宮さん?なんですか?その可愛い顔は?あなた、大女優ですよねっ!?周りはイケメン俳優ばっかりですよねっ!?俺なんてそもそも、眼中にありませんよねっ!?)
小鞠は、凪が依然として早足で、顔を全く見ようとしないのでガッカリしたようにため息をついた。その時———
小鞠 「…………っ!!」
《凪が、小鞠の手をがっしりと掴んでいた。》
凪 「迷子になったら、まずいだろ…」
小鞠 「う……うん」
(ごめんな、小鞠っ!!完全に今俺、調子に乗っている。許してくれ……)
心臓の高鳴りが止まらない。さっきも手を繋いだはずなのに、場所が違うだけで、こんなに変わるものなのか……?
一方その頃、小鞠も驚愕していた。
その手はいつもの凪と違い、頼もしく、父親と手を繋いでいるかのような暖かさを感じる。
水族館の中はさっきまで、薄暗かったはずなのに、いきなりキラキラとした照明が凪の上を照らす。凪の顔が、ものすごくよく見える。
小鞠はゴシゴシと目を擦るが、依然としてその光は消えなかった。
小鞠は、バスに乗る前に凪に手を握られた時のことを思い出す。あの時は、何も感じなかったが、今は違う。全く違う高揚感を感じて、胸の高鳴りが止まない。小鞠の視界はもう、完全に凪しか映らなくなっていた。
小鞠の小さな手が、凪の手を弱々しく握り返す。
(あれっ、小鞠……力弱くね?)凪が思っていた小鞠の手の握り方は、掴んだら離さないカブトムシのようなイメージだったが、全く違った。
自分から思い切って手を握ってみたものの、物凄く恥ずかしいし、緊張で吐きそうだ。
二人ともそっぽを向きながら、手を繋いで歩いていると、大きなエイの水槽の前に来る。
突然、小鞠の目が輝いたと思ったら、凪の手をさっきまでとは違う強い力で水槽の前まで、引っ張って行く。まるで、父親に好きなものを買ってもらおうと必死におもちゃコーナーまで引っ張る、子供のような引っ張り具合だった。
小鞠 「見て見て、なぎっ!!エイだよっ!!」
「エイっ!私が一番大好きな魚なんだぁ~!!」
幸せそうな小鞠を見て、凪もとても幸せな気持ちになる。
小鞠 「凪も近くで見てみなよっ!!」
凪 「おうっ!どれどれ、おぉ~エイって下に顔がついているんだなぁ~初めて知った!!」
凪は水槽の裏側にピッタリとくっついて、こっちを見ている可愛い顔の魚に夢中になっていた。
小鞠 「なぎっ、違うよwこれはねぇ~実は、鼻と口なんだよ?」
凪 「おぉ!!そうなのか初めて知った!!」
「小鞠は物知りなんだな?」
小鞠 「でしょっ、でしょっ!!」
「あとねっ、あとねっ、この口でね、カニとかエビとか貝を襲ってバリバリ食べるんだよ~すごいかっこいいでしょぉ~?」
「えっ……」凪は、この可愛い生物が、他の生き物をボリボリと食しているところを想像してゾワっとする。
小鞠 「あっ、ごめんもしかしてイメージ壊しちゃったっ!?」
凪 「大丈夫、大丈夫、まぁ驚いたけど、それでもまだ、可愛いと俺は思うよ……」
小鞠 「だよねぇ~ギャップ萌えだよねっ!!」
凪は、心の中で突っ込む。(いやっ、お前の方がギャップ萌えだよっ!!)
小鞠 「なぎっ!他の魚も見にいこっ!!」
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