落ちぶれシンデレラは王子様とは付き合えない

鳴宮鶉子

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落ちぶれシンデレラは逃走する

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足腰が立たないわたしは襲われても逃げられない。
さすがに歩けないわたしに対して、理人さんはキス以上の事はしてこなかった。

「真凛、地下のスーパーでつまみを買ってくるから大人しく待ってて」

理人さんにお姫様だっこされてお風呂に入れて貰い、身体を洗って貰った。
そして、バスタブの中に浸かって、出てから髪を乾かして貰い、また彼シャツを着せられ、リビングで酎ハイを渡される。

理人さんが部屋から出て行った後、なんとか1人で立ち上がり、歩いて理人さんに隠された私物を探す。

ダイニングリビングが広すぎる6LDHの間取り。
たまに理人さんが入っていってた部屋が怪しいと中に入る。
そこは仕事部屋で最新のパソコンが6台と印刷機、音響機器まであった。
父の仕事部屋もこんな感じだったと思い出す。

父は部下と協力会社にはめられ、会社を乗っ取られ、それを苦に母を連れて自殺した。
わたしの大学卒業を見届けてから、父と母は感電自殺を図り亡くなった。

卒業旅行から帰ってきてから動かなくなった父と母を見てショックを受け、1番最初に連絡したのが理人さんだった。

すぐに駆けつけてくれて、警察に連絡してくれて、葬儀等の手続きをしてくれ、マスコミからわたしを守ってくれたのが理人さんだった。


*****

父の影響で3歳でパソコンに目覚めたわたし。
父にプログラムを教わり、小学校高学年の時には戦力として父から認められた。

わたしが13歳の時に、18歳の当時大学生だった理人さんが父を慕ってバイトとして雇って欲しいと自作のアプリゲームや手がけたサイトを父に見て弟子入りを志願してきた。
理人さんが作りあげたアプリゲームやシステム、サイトは度肝を抜くほど素晴らしく、父は理人さんの事を気に入り、大学生の理人さんをうちに住まわせ、わたしと一緒に仕事をさせてた。

6年ほど一緒に暮らした。
わたしは当時、理人さんの事を兄として慕ってた。

昔の事を思い出している場合じゃない。
わたしの着ていた服と鞄は紙袋に入って置いてあった。
地下にあるらしい食品スーパーでつまみを買ってくると言っていたからすぐに戻ってきそうで、慌てて着替えて家から飛び出した。

42階の最上階に部屋があり、しかも六本木の一等地のタワーマンションで驚く。
5億円ぐらいしそうなところに住んでた。
そういえば理人さんは大学生時代にデイトレをして効率良く稼いでた。
そして、IT企業として日本で3本の指に入る最大手の社長をしてる。

わたしを探して追いかけてきたら嫌だから、出てすぐにタクシーに乗り込み、品川駅側の1LDKの自宅賃貸マンションへ向かった。

家に戻り、忘れ物がないか鞄の中を確認する。
仕事の後にいったん家に戻って、仕事用のノートパソコンとiPadが入った鞄を置き、シャネルのフラットバッグに財布とiPhoneとハンカチティッシュ、メイクポーチだけ入れて飛び出した。
普段使いではなく小さめのエルメスの財布を入れてとから、免許証と保険証は入ってない。

「……iPhoneが無い!!」

プライペート用のiPhoneを理人さんに抜き取られてしまった。
ロックがかかっていて、解読できないパスワードにしてる。

仕事用のiPhoneがあるから困るとしたら友達と連絡がつかなくなる事だけ。

日曜日に格安simを契約し、古いiPhoneに差し込む。
電話帳は残っていたから友人達に連絡できたけど、新しい電話番号とメールアドレスを伝えなかった。

大学を卒業してから半年間、父と母が残していた家で塞ぎ込んでた。
毎日、理人さんが顔を出してくれたけど、理人さんはのっとられた会社に勤めていて理人さんも父を裏切っていたのではないかと疑ってしまい、心を閉ざすようになり、理人さんの顔を見たくなくて実家から飛び出した。

就職予定だったソミーの人事の方が定期的に電話とメールを下さってた。
わたしの不幸を気にかけて下さり、採用を取り消さずにいてくれて、10月1日からわたしはソミーで働かせて貰う事になった。

品川駅側の1DKの賃貸マンションを契約し、わたしはひたすらソミーでAIプログラムを組む。
AIプログラムは難しい仕事で、仕事が終わってからも勉強で会社に残って勉強をした。
父と母が亡くなった悲しさと、父と作りあげた会社を失った事を考えないよう、ひたすら仕事に打ち込んだ。
両親が残してくれた実家と貯金はそのままにし、自分で稼いだお金で生活をしてるわたし。

今だに、会社を乗っ取られた事と両親を受け入れられていなかった。

だから、理人さんとの再会は昔の事を思い出させ、しばらくの間、気持ちが塞ぎこんだ。



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